ドラフト制度の変化

2018年7月10日、1992年ドラフトでヒューストンが全米1位指名して物議を醸したフィル・ネビンの「その後」。
2017年8月2日、「投打の軸となる主力選手を放出し、ドラフトで有力新人を調達するというチーム再建方式の終焉という観点」から、ソニー・グレイを手放したオークランド、ダルビッシュを手放したテキサスを眺める。
2013年10月14日、10年前の2003年に119敗したチームを3年連続ALCSに進出できる有力チームに変えたデトロイトGMデーブ・ドンブロウスキーの「この10年間のトレードリスト」。
2013年10月7日、本当にSouthEastern ConferenceやAtlantic Coast Conference出身選手のドラフト1位指名は全てがお買い得だったか? 近年のドラフト活躍選手で検証してみた。
2013年9月19日、「2000年代中期までのドラフト上位指名の成果」と、「2010年代の選手層の厚み」との関係。「もともと育ちの悪かった植物」に、突然、大量の肥料を与えだしたヤンキース。
2012年6月21日、Baseball Americaの2012ドラフト資料でわかった、「MLBで買い物が最も下手な球団」、シアトル・マリナーズ。やがて来るペナルティも考えず、ドラフトで30球団最高の大散財。
2012年6月18日、代理人業として大卒選手の優秀さを声高に叫ばざるをえないスコット・ボラスですらオブラートに包みつつも認めざるをえない「他のスポーツへの流出」の具体的な意味。
2012年6月11日、MLBにおけるアフリカ系アメリカ人プレーヤーの減少について書かれたテキサス大学ロースクールの記事を訳出してみた
2012年6月4日、恒例の全米ドラフトは高校生が主役。

July 10, 2018

以下の記事によると、アリゾナで自分の進むべき道に迷った中後悠平に「マイナーの指導者」が贈ったアドバイスが、彼の人生観を変えるきっかけになったらしいが、もったいないことに、「アドバイスした人物の名前」が明かされていない。
中後悠平、DeNAは日本復帰にベスト。米国で変化した野球観、“プライド捨てた”左腕と球団繋ぐキーワード(ベースボールチャンネル) - Yahoo!ニュース

もし「中後にアドバイスしたマイナー指導者」が、アリゾナの3A、Reno Acesの監督という意味なら、今はヤンキースのサードベースコーチになっているPhil Nevinということになる。

そう。1992年ドラフトで、ヒューストンが1位指名して問題になった、あのフィル・ネビンだ。
2016 Arizona Diamondbacks Minor League Affiliates | Baseball-Reference.com


1992ドラフトでネビンが全米1位指名を受けたことで、当時スカウトだった殿堂入り投手ハル・ニューハウザーとヒューストンとの間に生じた「確執」は、多くのブログで触れられているMLBファンに馴染みのエピソードのひとつだが、この件、触れられてないことも多々ある。

Hal Newhouser左:コメリカパークの銅像
右:実際のニューハウザーの奇想天外な投球フォーム
Hal Newhouser Stats | Baseball-Reference.com


コトの顛末自体はだいたいこんな話だ。

1991シーズンにナ・リーグ中地区最下位だったヒューストンは、1992年ドラフトで全米1位指名権を持っていたが、スカウトのニューハウザーは「デレク・ジーターの1位指名」を非常に強く進言していた。

ところが、チーム側は契約金が高額になるのを嫌がって、ニューハウザーのアドバイスをあえて無視して、カレッジのスターだったフィル・ネビン指名に走ったのである。ひどく落胆したニューハウザーは野球界から去り、故郷ミシガンに引きこもってしまった。
ハル・ニューハウザーは、同じ1992年にヴェテランズ・コミッティ選出で殿堂入りしたため、彼は「殿堂入りの栄光」と「スカウトとしての巨大な失意」の両方を、1992年に同時に経験することになった。


この件を取り上げている日本のサイトは、多くが妄信的ヤンキースファンのブログとかだから、ヒューストンが一方的に悪者扱いというか、「マヌケ」扱いになっている印象が強いが、それは短絡的な見解というものだ。

単純に言っても、そもそもジーターの全米指名順位は「6位」なのであって、「ジーターを指名しようと思えばできたのに、実行しなかったチーム」は、ヒューストン以外にも他に「4つ」もある。だから、なにもヒューストンだけマヌケ扱いされる理由はどこにもない。


Phil Nevin若い頃のPhil Nevin
あまりにも「お坊ちゃん顔」すぎて、それが原因でヤジられたのかもしれないネビン(笑)

ああいう見当違いの記事ばかりがまかり通る原因は、「大学時代のフィル・ネビンの華々しい実績」に触れないまま記事を書いていることにある。

ネビンは、カリフォルニア大学フラートン校時代、野球とフットボールの両方に優れた成績を残した、典型的なアメリカのスポーツスターだった。フットボールのプレースキッカーとして驚異的な成績を残す一方、野球でも3年間に打率.364、ホームラン39本、184打点と高い数字を残し、特に「チャンスに強いバッティング」で知られていた。
1992年にはカレッジワールドシリーズ決勝までチームを押し上げ、決勝で敗れたにもかかわらず、Most Outstanding Player(=いわゆる日本でいうMVP)にも選出、ゴールデンスパイク賞も受賞している。
Golden Spikes Award - Wikipedia

つまり、「MLBに入るまでのフィル・ネビン」は「押しも押されぬスター」であり、アメリカのアマチュアプレーヤーの頂点に立っていたのである。

だから「1992年ドラフトにおけるフィル・ネビン」は、いってみれば、「1980年代のロビン・ベンチュラ」、「1990年代のチッパー・ジョーンズ」、「2010年代のクリス・ブライアント」ともいうべき、「超有望な三塁手」だったわけで、前年に地区最下位で、チーム改造を急ぎたいヒューストンが全米1位に指名したとしても、無理はない。
(ただ、思いおこせば、誰もがクリス・ブライアントを1位指名するだろうと思っていた2013年ドラフトで、その年のカレッジワールドシリーズで活躍したマーク・アペルを、635万ドルも払って指名して大失敗(その後鳴かず飛ばずで引退)したのも、同じヒューストンだ。「カレッジ・ワールドシリーズを過大評価するヒューストンの悪癖」がまた出て、同じ轍を踏んだといえなくもない)


さて、
このネビンのヒューストン入団にまつわるドラマには、まだ「続き」がある。そして、ネビンがプロの野球選手になって以降に起こした騒動、経験した紆余曲折の数々については、日本にはほとんど記事がない。

オマハでカレッジワールドシリーズを戦っていたフィル・ネビンに、ドラフト1位指名の印象についてインタビューした当時の新聞記事がある。
The Victoria Advocate 1992年6月2日記事 - Google News Archive Search

ネビンはこの記事で、「ヒューストンは、オークランド・アスレティックスでも、ニューヨーク・ヤンキースでも、トロント・ブルージェイズでもない」などと、「もってまわった、ルーキーらしからぬ、エラそうな受け答え」をしている。
というのは、前年1991年のドラフトで、ヤンキースの1位指名選手が100万ドルを超える「高額ボーナス」をもらって入団しているからで、ネビンに言わせれば「自分が全米1位指名されたヒューストンはカネがない。だから、自分が受け取れるボーナスが少ないのはしかたない」という意味で「上から目線の受け答え」をしたのである。

実際、彼の受託ボーナスは「70万ドル」で、100万ドルに遠く届かなかったわけだが、こういう発言ぶりでは、嫌われるのもしかたない。実際、この「上から目線コメント」にもみられた「ネビンのルーキーらしからぬ態度」は、その後次第にMLBファンの「怒り」を買うことになった。


その後ネビンが経験する「MLBでの扱い」は、いくつかのエピソードの断片から推し量るかぎり、「かなり大変なもの」だったようだ。

1992年ドラフトでヒューストンがネビンを1位指名したとき、指名当事者であるヒューストンGMビル・ウッドは、「ネビンは限りなくメジャーレベルの選手だから、育成期間はきっと極端に短い」などと、全力でネビンを持ち上げた。

だが、実際には、「全米で最も有名な、若手三塁手のスター」を全米1位指名しておきながら、ヒューストンは「ネビンをどう育成するか」で迷走することになった
というのも、1992年当時ヒューストンには、「生え抜き三塁手」のケン・カミニティがいて、おまけに彼は「新たに契約した3年契約の1年目」だったから、メジャーのスタメンで使わざるを得ない状況だったのである。(ちなみに、ステロイダーで、ドラッグ中毒患者でもあったケン・カミニティは、2004年にニューヨークでドラッグのやりすぎによる心臓麻痺で死亡している)

チーム内部、特にマイナー指導者は、「あれだけ打撃のいい選手だから、シーズン最初からメジャーでプレーさせるべきだ」と考えていたようだが、ヒューストンは結局ネビンを「マイナーで」スタートを切らせた。


マイナーでMLBデビューしたネビンだが、その後の「苦境」を物語る記事がいくつかある。

マイナー初年度の彼の打撃成績は、打率.247という数字からもわかるように、大学時代の素晴らしい活躍を知っているファンの期待に沿うものではけしてなかった。責任感の強いネビン自身も、自分の成績について「物足りない」と考えていた。

だが、打撃の中身は、3割を越えていた得点圏打率でわかるとおり、「チャンスに強い」、「RISPに強い」という大学時代の彼の特徴を発揮したものではあり、マイナーの指導者はそのことをきちんと認識していて、メジャーに送り出す日をひたすら待っていた。


しかしながら、メジャーに正三塁手がいて、天井がつかえているヒューストンは、この「スター選手の処遇」に困り、本来ならメジャー三塁手になっている可能性があった若者を、「外野手」にコンバートしてしまう。

だが、外野手ネビンは外野手でデビューゲームからエラーを犯してしまい、その後も問題になる「守備の下手さ」を露呈してしまうことになった。

そうした中、あるマイナーのゲームで心無いファンが、この「エリート出身のマイナー選手」をターゲットに限りなく酷いヤジ、親とか兄弟をネタにしたヤジを浴びせ続けたため、怒ったネビンは、フェンスを乗り越え、ファンに詰め寄ろうとした。
幸い同僚選手がネビンを引き止めたために、暴力沙汰にこそならなかったものの、この騒動は新聞記事になって広く世間の知るところとなった。(ちなみに、ヤジったファンは逮捕された)

このヤジの件以外にも、当時のスポーツ・イラストレイテッドが「ネビンと周囲との軋轢」を記事にしていて、「マイナー選手のクセに、メジャーリーガーぶって、オークリーのサングラスをかけている」などと批判記事を載せている。
Diamond Daddy Phil Nevin`s Biggest Hit Didn`t Even Come At The Ballpark. It Was The Birth Of His Daughter. - tribunedigital-sunsentinel

Phil Nevinの似合ってないサングラスPhil Nevinの似合ってないサングラス(これはメジャー昇格後の写真)。たしかに、こんな似合わないサングラスをかけた選手がマイナーにいて、しかも成績が悪かったら、自分もヤジりたくなるかもしれない(苦笑)


こうしてネビンは、「ファンやメディアから非常に嫌われている野球選手のひとり」になってしまい、後年ネビン自身マイナー時代を振り返って、「どこにいっても酷いヤジに悩まされた」と述懐する酷い状況になった。
Just One Step Away : Phil Nevin Is Doing Well at Triple-A Tucson; His Move Up to Houston Seems Right on Schedule - latimes


その後、1995年シーズン前になってヒューストンは(後にステロイダーであることがわかる)三塁手ケン・カミニティをトレードした。

ところが、である。

チームは三塁手復帰を熱望していたネビンをメジャーに上げなかったのである。怒ったネビンは、マイナー選手であるにもかかわらずメジャーのクアーズ・フィールドにやってきて、当時のヒューストン監督テリー・コリンズ(後に日本でオリックス、MLBメッツの監督などを歴任)の部屋で、監督を罵倒し、さらにそこらにあったものを蹴り倒すという「蛮行」を働いた。
Record-Journal - Google News Archive Search

当然ながら、ネビンはヒューストンで居場所がなくなってしまい、同年ヒューストンでメジャー昇格を果たしたものの、8月にはトレードに出されてしまい、デトロイトで外野手、アナハイムでキャッチャーになり、1999年にはサンディエゴに流れ着いた。

彼の人生の流れが大きく変わったのは、サンディエゴで、当時の監督ブルース・ボウチーがネビンを三塁手に抜擢したことがきっかけだった。
2000年は開幕から「正三塁手」として出場し、なんと、打率.303、31HR、107RBIと、「3割・30本塁打・100打点」を達成。翌2001年も、打率.306、41HR、126RBIで、2年連続で3割・30本塁打・100打点を達成し、オールスターにも初出場した。


とはいえ、ネビンの現役時代の通算成績が「全米1位指名選手への期待」に沿うほどのものだったかというと、残念ながら、そうではない。「元エリート」フィル・ネビンは、今はアリゾナの3Aの監督から、ヤンキースのサードベースコーチになっている。
Phil Nevin Stats | Baseball-Reference.com


ネビンの波乱の人生を振り返ってみると、たくさんの「if」がある。

もし、三塁手に困っていなかったヒューストンが、ニューハウザーの進言に従ってデレク・ジーターを1位指名していたら、どうなっていたか。もし、プライドが高すぎて扱いづらいネビンを、若手育成に長けた、三塁手のいない他チームが指名していれば、どうなっていたか。
ハル・ニューハウザーがヒューストンを去る必要はなく、もっと長く野球界で活躍できたかもしれない。他方で、ヒューストンのマイナーがジーターを潰したかもしれない。ネビンが本物のスターに育っていたかもしれない。

人生、先のことは、わからない。

それを地でいくフィル・ネビンならば、道に迷った若い選手からアドバイスを求められたとき、「おまえな、野球ってものはだな、自分が楽しめなくなったら終わりなんだ」などと、ちょっと暗い笑顔でニヤリと言ってくれそうなのである。
(以下に、3A監督としての苦労についてフィル・ネビンに聞いたインタビューがある。上に書いた彼の経歴を知ってから読むと、なかなか面白い。 Phil Nevin | Jeff Pearlman
ちなみに、2018年ヤンキースには3人の「カリフォルニア大学フラートン出身のコーチ」がいる。ブルペン・ピッチングコーチ Mike Harkey、アシスタント・ヒッティングコーチ P.J. Pilittere、そしてサードコーチ Phil Nevinである)

damejima at 21:06

August 02, 2017

トレード期限寸前でダルビッシュを放出したテキサスだが、3000安打を達成したばかりのエイドリアン・ベルトレに言わせれば「なにやってんだよ、おまえらっ。俺はトレードを喜んでなんか、ないぜ?」ということらしい。

ブログ主としては、もし「ベルトレが言いたいこと」が、「優勝をあきらめているばかりか、チーム再建の方法について間違ったことをやりだしたチームにいなければならないのだとしたら、もっとマシで、マトモなチームに行きたい」ということなら、彼の意見に賛成だ。それは、無能なシアトルがやって大失敗した紋切り型の若手路線と、瓜二つだからだ。(もっとも、シアトルの場合はフェリックス・ヘルナンデスの能力低下を見抜いて、さっさと放出すべきだった)



いまやナ・リーグ東地区の常勝球団となったワシントン・ナショナルズだが、この球団が再建に成功した理由のひとつは、「MLB最低勝率を故意に記録することで、全米ドラフト1位選手を獲得するというチーム再建方式」が、スティーブン・ストラスバーグ(2009年全米1位)、ブライス・ハーパー(2010年全米1位)と、2年連続で「バカ当たり」したことで、投打の軸がしっかりしたからだ。(なお、2011年ドラフト1位のアンソニー・レンドンは全米6位で、1位ではない)

では、この旧来の再建方式は2010年代も通用するか。

ブログ主の考える答えは
No だ。


2012年にこんな記事を書いて、当時ドラフト1位が予想されたスタンフォード大学のマーク・アペルをこきおろしつつ、「アメリカ国内の大卒選手がMLBに占める相対的な比重は、ますます軽くなっていくと読んでいる」という意味のことを書いたことがある。(2017年現在、アペルはトリプルAでERA5点台のさえないピッチャーで、芽が出そうな気配はまったくない)
2012年6月4日、恒例の全米ドラフトは高校生が主役。 | Damejima's HARDBALL


ドラフトに限らず、2010年代以降のMLBは、それ以前のMLBと質的にまったく違うことがハッキリしてきた。

このことは、すでにバッターについて「三振の世紀」というテーマで既に書いた。2017年2月4日、「三振の世紀」到来か。2010年代MLBの意味するもの。 | Damejima's HARDBALL
この記事は後日「三振とホームランの2010年代」とテーマを広げて、続きを書く。

ピッチャーについていえば、2010年以降に1位指名されたピッチャーで「長く活躍できそうだったピッチャー」といえば、コカインで死んだホセ・フェルナンデス(キューバ出身の彼の最終学歴はフロリダ州タンパのBraulio Alonso High Schoolで、大卒ではない)、ソニー・グレイクリス・セールの3人が抜けていて、他にゲリット・コール、マーカス・ストローマン、マイケル・ワッカくらいがいるくらいで、勝ち数より負け数のほうが多いボルチモアのケビン・ゴーズマンでさえ、2011年以降の1位指名ピッチャーの中では「まだマシなほう」であることからわかるとおり、2010年代以降のドラフト1位指名ピッチャーの層はまるで薄い


2010年代のドラフトの選手層の「薄さ」は、「2000年代の1位指名ピッチャー」と比べてみれば、すぐにわかる。

2000年代に1位指名だったピッチャーは、アダム・ウエインライト、マット・ケイン、ジェレミー・ギャスリー、コール・ハメルズ、スコット・カズミアー、ザック・グレインキー、ジョン・ダンクス、ヒューストン・ストリート、ジオ・ゴンザレス、フィル・ヒューズ、ジャスティン・バーランダー、クレイ・バックホルツ、マット・ガーザ、イアン・ケネディ、マックス・シャーザーティム・リンスカムクレイトン・カーショーリック・ポーセロ、マディソン・バムガーナー、デビッド・プライスなどなど。(指名年代順)
太字がサイ・ヤング賞投手だが、「なぜかサイ・ヤングを受賞してないバーランダー(笑)」を含め、2000年代ドラフト1位指名組は先発投手の層が分厚い。まさにキラ星のごとくのメンバーだ。(もちろん2位指名以下の選手層も厚い)


この単純な比較からもわかるのは、全米ドラフトに依存するようなチーム再建手法は、2010年代以降、通用しなくなるということだ。ドラフトはもはや「最も優れた才能の供給源」ではない。

例えば、つい最近まで「若手育成の上手さ」で知られてきたボストンが、2014年、2015年の低迷から「長期低迷期」を経験せず、スピーディーに復活しているわけだが、その手法は「ドラフト依存」や「生え抜きの若手育成」といった、無能なシアトル・マリナーズが大失敗した「あとさき考えない若手路線」ではなかった。
いまのボストンは「生え抜きをズラリと揃えた時代」とは違う。2011年以降のドラフトからモノになったのはムーキー・ベッツくらいで、投手陣などは、デビッド・プライス、クリス・セール、リック・ポーセロ、クレイグ・キンブレルと、FAのプライスを除く全員が「若手との交換で他球団から得た投手」ばかりだ。つまり、ボストンは「チームを完全解体してドラフトに依存して若手主体の球団に変える」という再建手法をとらなかったばかりか、むしろ「若手を放出してチームを再建した」ということだ。


無能なビリー・ビーンジョシュ・ドナルドソンをトロントに無駄に放出したオークランドが、こんどは先発のソニー・グレイを放出したわけだが、信じられないことをするものだ。
予算の潤沢なチームならともかく、この予算の少ない球団が、上に書いておいたように、「ドラフトでこういうレベルの投手が獲得できる確率」はいまや非常に下がっているというのに、ソニー・グレイ同等レベルの先発投手を、どこから調達できるというのか。

テキサスは、オークランドのような貧乏球団ではないが、今の「やたらと打たれるダルビッシュ」がどのくらいの好投手かの判断はともかく、ローテーションの軸となる先発を手放したことで、3000安打の名誉を既に手にし、あとはワールドシリーズを味わいたいと考えている38歳ベルトレに「この球団じゃあ、ワールドシリーズはないな・・・」と思わせたとしたら、テキサスの住民だって同じことを考える。当然のことだ。
ダルビッシュ放出とベルトレ移籍で投打の軸を失って観客動員が下がり、収入が減ることくらいは、テキサスGMのジョン・ダニエルズも「アタマで」予想はして対策を練っているだろうが、彼はその「痛さ」が、アタマではわかっても、「カラダ」ではまるでわかっていない。
そしてベルトレはまさに、「アタマ」で考えるのではなく、「カラダ」がまっさきに反応するタイプそのものだ。


MLBのジェネラル・マネージャーには「MBA持ちの有名大学卒業生」とか「データマニア」とかが多くなっているわけだが、彼らは総じて、アタマはよくない。なぜって、「ドラフトという『仕入れ環境』の変化すら計算にいれられない」のだから、商売が上手いわけがない。ヴェテランから「若造、なにしやがる」と言われて殴られるのもしかたがない。

damejima at 18:22

October 16, 2013

Dave DombrowskiDave Dombrowski

Yahoo SportsのJeff Passanが書いたデトロイト・タイガースの社長兼GMデーブ・ドンブロウスキーの手腕に関する記事を面白く読んだ。
「あのヒューストンがこの3年間で最も多く負けたシーズンですら111敗だというのに、2003年に119敗もしているデトロイトを3年連続でALCSに進出できるチームに変えた」とJeff Passanが書いた「かつてのデトロイトがどれほど弱いチームだったかを示すためのたとえ話」が、ヒューストンのファンにはたいへん申し訳ないのだが、なんともリアリティがあって笑ってしまった(笑) まぁ、興味があれば読んでみてもらいたい。
From a 119-loss team to a perennial power, Dave Dombrowski has spun magic for Tigers - Yahoo Sports


この記事の基本的な主旨のひとつは、このブログの以下の記事で、デトロイトについて書いた部分とまったく同じだ。
Damejima's HARDBALL:2013年9月19日、「2000年代中期までのドラフト上位指名の成果」と、「2010年代の選手層の厚み」との関係。「もともと育ちの悪かった植物」に、突然、大量の肥料を与えだしたヤンキース。
エッセンスだけもういちど書くと、ア・リーグ東地区の有力チームは2000年代中期までのドラフトをベースに現在の基本戦力を整えたが、デトロイトはそれらのチームとは手法が違っていて、「2000年代のドラフト上位指名選手を容赦なくトレードの駒にするというやり方で、現在の戦力を整えた、というのが主旨である。


ただ、Jeff Passanの記事を読むときに気をつけるべき点はある。

上っ面だけ読むと、まるで「2003年に119敗という最悪なシーズンを経験したデトロイトに、救世主ドンブロウスキーが2003年以降にGMとしてやってきて、見事なテコ入れに成功した」とか、勝手に思い込んでしまう人がいるかもしれない。
だが、ドンブロウスキーがデトロイトGMになったのが「2001年」であることを忘れてはいけない。
デトロイトが、MLBワースト記録(120敗 1962年メッツ)寸前の「119敗」を喫したのは2003年だが、これは2006年にジム・リーランドが監督就任する前の「アラン・トランメル監督時代」(2003年就任、2005年10月3日解任)で、その最悪シーズンだった2003年時点のGMだって、やはりドンブロウスキーだったのだ。
(注:トランメルは1980年代を中心に活躍したデトロイト生え抜きのショートストッパーで、フランチャイズプレーヤー。現在はアリゾナのベンチコーチ)

要するに、ドンブロウスキーのトレード手腕がどれほど素晴らしいにせよ、その有能な選手たちを上手に使いこなせる手腕をもった「監督」をみつけてこないことには、どうにもならないのが、野球というものだぜ、ということだ。

近年のデトロイトの栄光を、監督リーランドの統率力をまったく抜きにして、「GMドンブロウスキーだけの功績」と讃えてしまうなら、それはあまりに問題がありすぎる。
トランメルはデトロイト生え抜きのスタープレーヤーのひとりだったが、監督としては能無しで、かたや、リーランドは選手としては同じデトロイトの2Aモントゴメリーのキャッチャーで終わった程度だが、監督としてはとても優秀だったのだ。



さて、話を元に戻して、Jeff Passanの記事にある「ドンブロウスキーのこの10年のトレードリスト」を挙げてみよう。

ちなみに、元記事にはそれぞれの選手のドラフトイヤーが書かれていないので、こちらで付け加えておいた
照らし合わせれば、このブログで「デトロイトは、ア・リーグ東地区の各チームと違って、2000年代のドラフト上位指名選手を容赦なくトレードの駒にするというやり方で、現在の戦力を整えた」と書いたことの意味が、どれほどリアリティのある話かがわかるはずだ。

放出した選手

Curtis Granderson  2002年 ドラフト3位
Cameron Maybin  2005年 1位
Andrew Miller  2006年 1位
Avisail Garcia  2007年 アマチュアFA
Jacob Turner  2009年 1位
Rob Brantly  2010年 3位
Charlie Furbush  2007年 4位
Chance Ruffin  2010年 1位
Casper Wells  2005年 14位
Burke Badenhop  2005年 19位
Eulogio de la Cruz  2001年 アマチュアFA
Mike Rabelo  2001年 4位
Brian Flynn  2011年 7位
Francisco Martinez
Giovanni Soto  2009年 21位
Dallas Trahern  2004年 34位
Danry Vasquez


獲得した選手
(カッコ内は元の所属チーム)

Miguel Cabrera  4番打者 サード(FLA)
Max Scherzer  ローテーション投手(ARI)
Anibal Sanchez  ローテーション投手(MIA)
Doug Fister  ローテーション投手(SEA)
Austin Jackson  1番打者 センター(NYY)
Jhonny Peralta  ショート、レフト(CLE)
Jose Iglesias  ショート(BOS)
Omar Infante  セカンド(FLA)
Jose Veras  リリーフ(クローザーも可能 HOU)
Phil Coke  リリーフ(NYY)


「デーブ・ドンブロウスキーのこの10年間のトレードリスト」が驚嘆に値するのは、「獲得した選手」に三冠王ミゲル・カブレラはもちろんのこと、他チームが涎を垂らして欲しがるレベルのローテーション・ピッチャーがなんと3人もいることもさることながら、その一方で、「デトロイトが放出した若手」で、移籍先で大成した選手がひとりもいないことだ(笑)(いうまでもなくグランダーソンはNYY移籍前にすでに30ホームラン打った29歳の選手だし、ドラフトされたばかりの若手とはいえない)

前にも書いたことだが、ドンブロウスキーは、誰彼かまわず若手を手当たり次第に放り出してきたわけではない。ジャスティン・バーランダー(2004年ドラフト1位 全体2位)とリック・ポーセロ(2007年ドラフト1位 全体27位)のように、手元に置いておくと決めた若手選手もいて、それらの有望選手たちはデトロイト内部で成長を遂げさせることに成功しているのである。


だから、もしもデーブ・ドンブロウスキーにインタビューするチャンスがあったら聞いてみたいと思う質問は、「来年のデトロイトに欲しいのは、どの有名選手か?」などという、ありきたりのわかりきった話ではない。

聞いてみたい質問は、2つ。
ひとつは、それぞれの勝ちトレードにおいて、「なぜこのチームのジェネラル・マネージャーなら、普通なら放出しそうもない有力選手を放出してくれそうだ、と思えたのか?」という点。そして2つ目に、「放出する若手を選ぶにあたって、なぜこの選手はいらないとわかったのか?」という点だ(笑)

もちろん、その質問の回答はきちんとプリントアウトして、マーリンズやマリナーズのジェネラル・マネージャーのデスクパッドの真ん中にそっと置いて帰りたいと思う(笑)

参考記事:
Fister returns to haunt Mariners again - SweetSpot Blog - ESPN

Curveball key to Fister's recent success | tigers.com: News

damejima at 03:02

October 08, 2013

今年のポストシーズンで、SouthEastern Conference (SEC) のヴァンダービルド大学出身で、同校を初のカレッジ・ワールドシリーズ進出に導き、2011年ドラフトでオークランドに1位指名されたソニー・グレイがデトロイト相手に好投して名を上げたばかりだが、そういえば、最近のアメリカの大学野球のトレンドであり、ドラフトでたくさんの選手が指名され続けているSECACCなどの「大西洋岸の野球ブランド大学」の出身選手たちは、いまどんな状態にあるのだろう。

ちょっと気になって調べてみることにした。
2011 Vanderbilt University Commodores Statistics and Team Info - The Baseball Cube


最初に、これは何度も書いてきたことだが、近年のアメリカの大学野球の「勢力図の変化」を簡単におさえておこう。
(詳しくは以下の関連記事群を一読されたし。 Damejima's HARDBALL:カレッジ・ベースボール

全米大学選手権である「カレッジ・ワールドシリーズ」では長きに渡って、西海岸カリフォルニア州の有力大学を軸に、アリゾナ州、テキサス州、フロリダ州の有力校に、LSU(ルイジアナ州立)などの優勝経験校を加えた「常連校同士による優勝争い」が繰り広げられてきた。
だが、2000年代に入って状況が一変する。SECのサウスカロライナ、ACCのノースカロライナが急激に力をつけてCWS決勝の常連校になったのを筆頭に、ヴァージニア(2009年、2011年本戦出場)、ヴァンダービルド(2011年初出場)など、大西洋岸エリアに多くの有力校が誕生したことで、アメリカの大学野球の地図は「西の太平洋岸から、東の大西洋岸へ」と軸が大きくシフトした。

そのため、MLBのスカウトの関心も、自然とSECやACCに所属する大学のプレーヤーに注がれるようになった。

例えばシアトルの無能GMジャック・ズレンシックが、近年のドラフトで執拗に大西洋岸の大学生ばかり指名しているのも(アックリー、ハルツェン、ミラー、ズニーノ)、理由は単純だ(笑)選手を見る目がない彼は他人が注目する「大西洋岸の大学」というトレンドにのっかって、めぼしい選手を盲目的にかっさらってきた、ただそれだけの話だ。だが、シアトルのマイナーに選手を育てる能力など最初から全く無い。際限なく次から次へ選手をつぶしているのには、笑うしかない(笑)


ちなみに、2013年カレッジ・ワールドシリーズで初優勝を達成したUCLAのコーチ、John Savageは、「SECの選手たちのフィジカル」について次のようなコメントを残している。いかにフィジカル面で飛び抜けて優れた若いプレーヤーが大西洋岸に集結するようになったかが、よくわかる。(だが、野球はフィジカルが全てではない)
"We just don't have the physicalness, as I look at it, as the Southeastern Conference."
「サウスイースタン・カンファレンスのチームについて見た限り、彼らのような身体的優位性は、我々(=UCLAの選手)にはまったく無い」
UCLA formula a perfect fit for this era


だが、このところ、2012年アリゾナ、2013年UCLAと、2年続けて「SECでも、ACCでもないカンファレンスの大学」のカレッジ・ワールドシリーズ優勝が続いている。わずか2年の変化だが、アメリカの大学野球の風向きはふたたび変わりつつあるように感じる。

こうした最近のアメリカの大学野球のトレンドの「再変化」を、近年のドラフトにおける活躍選手のリストから確かめてみよう、という主旨で挙げたのが、下のリストだ。
リストにのせている選手の選考基準は、「カレッジ・ワールドシリーズでSEC所属大学が3連覇した2009年以降のMLBドラフトにおける1位指名選手」のうち、「現在MLBの40人ロスター入り」していて、「既にメジャーデビューし、優れた数字を挙げた選手」だ。参考までに、それぞれの年にシアトルの指名選手も横線入りで加えてみた(笑)

以下、太字で示したのが、SECまたはACCの所属大学の出身選手。名前の前の数字は、ドラフト全体での指名順位。

2009
1. Stephen Strasburg (WAS) 投手
2. Dustin Ackley (SEA) North Carolina, ACC
7. Mike Minor (ATL) 投手 13勝9敗 Vanderbilt, SEC
8. Mike Leake (CIN) 投手 14勝7敗
12. Aaron Crow (KC) 投手 7勝5敗
25. Mike Trout (LAA) 高卒
27. Nick Franklin (SEA) 高卒

2010
1. Bryce Harper (WAS)
3. Manny Machado (BAL) 高卒 怪我→手術
7. Matt Harvey (NYM) 投手 9勝5敗 North Carolina, ACC
13. Chris Sale (CHW) 投手 11勝14敗
23. Christian Yelich (FLA) 高卒
参考:2巡目 Drew Smyly (DET) 投手 Arkansas, SEC

2011
1. Gerrit Cole (PIT) 投手 10勝7敗
2. Danny Hultzen (SEA) Virginia, ACC
6. Anthony Rendon (WAS)
18. Sonny Gray (OAK) 投手 Vanderbilt, SEC

2012
3. Mike Zunino (SEA) Florida, SEC
4. Kevin Gausman 投手 (BAL) LSU, SEC
19. Michael Wacha (STL) 投手
参考:Damejima's HARDBALL:2012年6月4日、恒例の全米ドラフトは高校生が主役。


マイク・マイナー、マット・ハービー、
ソニー・グレイ、ケビン・ガウスマン。

もう、おわかりだろう。
近年活躍しているSECとACCの出身選手は、投手ばかりなのである。そして、かつて記事にしたように、2012年ドラフトにいたっては、1位指名選手のかなりの数が「高校生」になってしまって、もはや「大学生」ですらないから、SECやACCの選手の出る幕そのものがない。
参考記事:Damejima's HARDBALL:2012年6月4日、恒例の全米ドラフトは高校生が主役。


なぜ近年のSECやACC出身の活躍選手が、「投手ばかり」だったのか。理由は簡単には特定できないが、自分なりの推論のひとつとして挙げておきたいと思うのは、アメリカの大学野球において「バットの規定」が近年変更されたことだ。


日本ではあまり知られていないが、2013年6月の以下の記事で書いたように、アメリカの大学野球では2011年以降にバットの規定が変わり、「従来より反発係数の低いBBCORバット」を使いだしている
Damejima's HARDBALL:2013年6月26日、UCLAカレッジ・ワールドシリーズ初優勝の意味。2011年に始まったBBCORバット規定の下のカレッジベースボール新時代。
このことは、逆に言えば「2010年までのカレッジベースボール」においては、「いまよりずっと反発係数の高いバットが使われていた」という意味になる。

「反発係数の高いバットを使いまくる環境」で育てられてきた「2010年前後までの大学野球のスラッガーたち」が、MLBに来て、「ただでさえ折れやすい材質の木製バット」を使い出せば、打撃成績が上がるか、下がるか、どちらの可能性が高いかは、言うまでもない。
参考記事:Damejima's HARDBALL:2011年11月25日、 どうやら、新しく結ばれたMLBの労使協定に、「低比重のメープルバットの使用禁止が盛り込まれている」らしい。

規定の変わった2011年以降も、さまざまな材料を組み合わせた優秀なコンポジットバットが出現しているから、「あらゆるバットで、昔と比べてまるで打球が飛ばなくなった」と断言するのは危険だが、それにしたって、「フィジカルの強さを最大の武器にして、カレッジ・ベースボールの地図と、MLBルーキーの出身地の地図を大きく塗り替えてきたSECやACCの大学」が、バットの規定変更による打撃力ダウンという影響をより強く受けたと考えるのは自然な話だろう。
SECの大学がカレッジ・ワールドシリーズを3連覇したのが「2009年以降の3年間」で、一方、バットの規定が変更になったのがちょうど「2011年」だから、「バットの反発係数が下げられた直後の2012年以降」から「SEC所属大学の優勝が急になくなった」と関連づけてみると、それなりに辻褄があうわけだ。

また、逆にいえば、「反発係数の高いバットを使う環境」で野球をやってきて、それでも優れた数字を残すことができた投手は、強打者揃いのMLBでも実力をそのまま発揮できる、という可能性もある。(また、この点は、いまだに金属バットを使っている日本の高校野球からプロになる日本の野球選手にも同じことがいえる可能性がある。つまり、日本からMLBに行って活躍できる選手に「やたらと投手が多い理由」の元をたどると、「高校野球の金属バット」に行き着く可能性があるわけだ)


こうして広い視野から眺めてみると、カレッジベースボールで優れた成績を残した選手のうち、「大西洋岸のバッター」にチームの虎の子である貴重なドラフトの1位指名権を投げ捨て続けてきたシアトルGMジャック・ズレンシックの行動がいかに浅はかものだったか、わかろうというものだ。

意味もなく試合に出して、ただ潰すだけなら、誰だってできる。
さきほど終わったSTL対PITでも、STLの新鋭Michael Wachaがあわやノーヒットノーランかという好投をみせたばかりだが、このポストシーズンに進出した各チームで、ほんのこの数年の間にドラフトされたばかりの若手がいったい何人、躍動しはじめているか。育成能力もないくせに選手をゲームで潰しまくってきたシアトルの関係者は、よく見ておくといい。




damejima at 04:21

September 20, 2013

2013年秋、ヤンキースで「やたらと起用されだしている若手選手」には、共通の特徴がある。

2004 フィル・ヒューズ
2005 ブレット・ガードナー
2006 チェンバレン、ロバートソン
2007 オースティン・ロマイン
2008 デビッド・アダムス、デビッド・フェルプス
2009 J.R.マーフィー、アダム・ウォーレン
2010 プレストン・クレイボーン



そう。キーワードは、「ドラフト」だ。
全員が全員、ヤンキースがドラフトで獲得してきた生え抜き選手たちばかりなのだ。この中に「トレードのおまけ」とかでヤンキースに来た選手はひとりもいない。

つまりは、だ。
ヤンキースは、いまさらながら、「自前の若い選手」を前面に押し立ててみようとしているらしいのだ。(そういう意味では、2013年のポストシーズン進出をヤンキースはかなり早い段階から本気で考えてはいなかった、といえる)

最初にハッキリ言っておく。
「植物を種とか苗から育てあげた経験がない人間」には、たぶんわからないだろうが、「もともと育ちの悪かった植物」に、突然、大量の肥料を与えるなんてことをすれば、最悪の結果を招くだけだ。育ちが改善されたりはしないし、まして立派な作物が実ったりはしない。枯れるだけだ


こうした「実験の秋」を過ごしているヤンキースに、「いまさらながら」と、わざわざ皮肉めいた前置きをあえて付け加えさせてもらったのには、もちろん、ハッキリした理由がある。(そもそもハッキリ把握してないものを書こうとは思わない)
それは、最初に名前を並べた生え抜き選手たちのなかに、「ドラフト1巡目の、それも、上位30位以内での指名」というような、「まさにドラフト1位指名選手。まさに金の卵」といえる選手は、せいぜいフィル・ヒューズくらいしかいないからだ。
つまり、いくらヤンキースが慌てて「若手という畑」を必死にたがやすことにしたからって、その「畑」とやらの実態は、実は、将来性がまったく見当がつかないような「ドラフト下位指名選手ばかりでできた畑」なのだ。
育ちの悪い畑にヒョロヒョロ生えている植物の芽の群れが果たして、素材として良質なのか、将来の伸びしろは本当にあるのか。それを見極めもしないで、「全部の芽が育てよ」とばかりに、突如として「出場機会という肥料」を大量に与え続けたとしても、全部の芽が育つわけがない。

明らかにこれは、「猫の額ほどの家庭菜園をやり始めたばかりの素人」が「最初によくやる失敗」のひとつだ。

「今までほったらかしだった将来性のわからない畑を、いまさら掘り返し、肥料を撒きまくること」に、ヤンキースが「いまさら」必死になったりするから、ついつい、「いまさらながら」と揶揄したくなる。当然の話だ。

もっとハッキリ言わないとわからない人もいるだろうから、もっとハッキリ書いておこう。
この10年、ヤンキースは、いつかはジーターなどヴェテランたちの後継者として、若手を育てるプロセスに注力しておかなければならなかったはずだが、それをずっと怠ってきた。
そして、なお悪いことに、ヤンキースはこの10年というもの、ドラフト1位指名において将来のチームの骨格となる選手を、誰ひとり育てあげてこれなかった
つまり、2013年秋になってヤンキースが、「いまさらながら」に、耕し、肥料を撒きはじめた「畑」の中身は、実は、過去10年の間、ずっと失敗ばかり続けてきたドラフトの結果、チーム内に溜まりに溜まってしまっている「賞味期限のあやしい、ドラフト下位指名の選手たち」を、一斉にゲームに出しっぱなしにして鍛え直そうとするような、そういう「ドタバタな若手育成の三文芝居」でしかないということだ。

------------------------------------------------

では、
そもそもこの10年でヤンキースがドラフト1位指名した、
「ヒューズ以外の選手たち」は、
いったいどこに行ってしまったのか?

------------------------------------------------

2012年に『父親とベースボール』のシリーズなどで書いてきたように、近年のMLBでは、アフリカ系アメリカ人が減少する一方で、ドミニカ、ベネズエラ出身選手が大幅に増加し、多国籍化が日増しに進み、優秀な選手の「供給源」も、非常に多様化してきた。今年などは新しいトレンドとして、セスペデス(OAK)、プイグ(LAD)、ホセ・フェルナンデス(MIA)などのキューバ出身選手が注目を集めた。

Damejima's HARDBALL:「父親とベースボール」 MLBの人種構成の変化

Damejima's HARDBALL:2012年4月5日、MLBのロスターの3.5人にひとりは、メインランド(アメリカ大陸の50州)以外の出身選手、というESPNの記事を読む。(出身国別ロスター数リスト付)

Damejima's HARDBALL:2012年6月4日、恒例の全米ドラフトは高校生が主役。

Damejima's HARDBALL:2012年6月11日、MLBにおけるアフリカ系アメリカ人プレーヤーの減少について書かれたテキサス大学ロースクールの記事を訳出してみた


だから、2000年代中期までのように、「ドラフト」、つまり、ドラフトという名の、「大学生中心のアメリカ人プレーヤーのマーケット」こそが、「MLBで最も優れた選手を獲得できる、最高にして最大の市場である」とは、必ずしも言い切れなくなりつつあるわけだ。

例えば、かつては、空前のドラフト豊作イヤーだった2005年ドラフトや(Jアップトン、ジマーマン、トゥロウィツキー、マッカチェン、ステロイダーのライアン・ブラウン、エルズベリーなど)、投手の素晴らしい当たり年だった2006年ドラフト(カーショー、シャーザー、リンスカム、モローなど)のように、すぐにチームのコア・プレーヤーになれるほどの才能を備えた選手が同じ年度に10人前後も集結するような「爆発的なドラフト豊作年」があった。
だが、2008年以降になると、そうした豊作年ほとんどない。たしかにポージー(2008)、トラウト(2009)、ハーパー(2010)と、それぞれの年の目玉選手はいる。だが、全体の豊作度としては「小粒」であり、2005年や2006年の豊作ぶりには比べようもない。

だから、ぶっちゃけ、いまのドラフトで「大当たり」を引くことができるのは、全体1位からせいぜい全体4位くらいまでの「優先くじ」を持っているチームか、よほど運のいいチームだけということになってしまっている可能性が高い。

------------------------------------------------

さて、2013シーズンのいま、ア・リーグ東地区をみると、チーム間にこれまで存在しなかった「選手層の厚みの格差」ができつつある
その理由のひとつに、以下にみるような2000年代中期までのドラフトでの巧拙の影響がある。つまり、ア・リーグ東地区(それと参考までにデトロイトを加えた)では、ドラフトによる選手獲得の成否がまだチームの将来を左右していた「2000年代中期までのドラフトにおける巧拙」が、2010年代における選手層の「厚み」というか、選手層の骨格の「太さ」を左右した、ということだ。(言い換えると、ドラフトに最も優秀な選手が集まらなくなってきた2000年代終盤のドラフトでの巧拙は、ほとんど選手層の厚みに関係してない)

もう少し具体的にいうと、「2000年代中期までのドラフト」でうまく立ち回ったチームでは、ドラフト豊作年の2005年や2006年に、確実に「大当たり」を引いていることが多い。ここで獲得できた将来性豊かな才能ある選手たちは、「2000年代中期までに大当たりを引けたチームと、引けなかったチームとの間の、選手層格差」を産む「最初のきっかけ」となった。
また「2000年代中期までのドラフト」で成功したチームでは、たとえ豊作年でない年でも、下位指名選手から「当たり」を「発掘」することに成功していることが多い。
さらには、デトロイトのように、「ドラフト1位指名選手を、FA選手獲得のためのトレードの駒にする」という思い切った手法によって、他チームの有名プレーヤーを「釣り上げる」ことに成功し、選手層の骨格を太くすることに成功したチームもある。

こうして、「2000年代中期までのドラフトの巧拙」は、まだアメリカ国内の選手層が十分豊かだった2000年代が終わらないうちに、若くて分厚い選手層を十分に築き終え、次世代である「2010年代」に備えることができたチームと、そうでないチームの間に、「選手層格差」を産んだ。
それは必ずしも「地区優勝したチームは、翌年のドラフトで成功できっこない」ということを意味しない。例えば、ボストンは2004年にバンビーノの呪いを解いてワールドシリーズを制覇したが、それでも2005年ドラフトにおいてきちんと戦力補強に成功している。

では、チーム別にみていこう。

------------------------------------------------

この10年、ドラフトでの成功例がないヤンキース

リストを見ると一目瞭然だが、ヤンキースの2000年代のドラフト1位指名選手は、ほとんどリーグを代表するような選手に育っていない。ほとんどの年度で、メジャーにさえ上がれなかったり、契約そのものができなかったりしている。
例えば、実はヤンキースは豊作年の2005年にダグ・フィスターをドラフトで指名しているのだが、サインに至らなかった。また、今年ついにひさびさの地区優勝しそうなピッツバーグで中心投手になったゲリット・コールも、2008年に指名しているが、サインできなかった。2006年にドラフト1位指名してサインしたイアン・ケネディを放出してまでして獲得した選手たちが結局活躍しなかったことといい、この10年、ヤンキースのドラフト1位指名は成功したためしがない
今年、かろうじて戦力になっているのは、ヒューズ(2003)、チェンバレン(2006)、ロマイン(2007)くらいだが、スタッツなどみなくても、彼らがリーグを代表するプレーヤーに育ちつつあるわけではないことは誰でもわかる。

前にも一度書いたが、ヤンキースは2006年に、それまで長い間保持してきて、ジーター、リベラ、ペティットなどの有望新人を数多く輩出してきたマイナーチーム、「Columbus Clippers」を手放してしまっている。こうした育成組織の軽視が、ヤンキースのドラフトが10年ほど成果を産んでいないことと無関係なはずがない。
Damejima's HARDBALL:2013年8月5日、「生え抜きの成長、黄金期、ステロイド、そして衰退」 正しいヤンキース30年史。
だからこそ、2013年秋にヤンキースが必死に出場機会を与えている若い選手たちは、こうしたヤンキースの「失敗続きのドラフト10年史」の、いわば「残り物」だというのだ。

ヤンキース関連のフロガーやニューヨークメディアは、よく若い選手への過剰な偏愛をクチにしたがる。それをヤンキース愛だとかいえば、聞こえはいい。
だが、「もともと育ちの悪い植物」に突然、大量の肥料を与えたりしても、畑はよくならないし、立派な作物は実らない。むしろ枯れてしまう。ヒョロヒョロとはえた芽の段階で肥料をやりすぎて枯らしてしまうのは、家庭菜園で非常によくある間違いだ。そんな田舎くさい、素人くさいことをやっていて、ヤンキースが強くなれたりはしない。

ダメな苗は見切る、間引く。強い苗だけを育てる。それが本気の農業というものであり、それが「プロ」だ。

2003年以降の
ヤンキースのドラフト1位指名選手リスト


2003 全体27位で3B指名。モノにならず
2004 全体23位でフィル・ヒューズ指名
     全体37位でC指名、モノにならず
2005 全体17位でSS、全体29位でRHP指名
     いずれもモノにならず
2006 全体21位でイアン・ケネディ指名。
     後にピッツバーグへトレード。獲得選手は活躍せず
     全体41位でジョバ・チェンバレン指名
2007 全体30位でRHPを指名。モノにならず
     全体94位でオースティン・ロマイン指名
2008 全体28位でGerrit Cole指名。サインできず
     (2011年にピッツバーグに入団、活躍)
     全体44位でLHP指名、モノにならず
2009 全体29位でCF指名、モノにならず
2010 全体32位でRHP指名、2巡目全体82位SS指名。
     いずれもマイナー 


------------------------------------------------

選手層の太い骨格をドラフトで作ったボストン

ボストンがドラフト1位指名で成果があったのは、2000年代中期までだ。2000年代後期には、トレードではいろいろと成果があったにしても、ドラフトでは成功例がない。
今のボストンの強さを支えている「生え抜きの選手層の厚み」が形成されたのは、「2000年代中期までのドラフト」で獲得したペドロイアバックホルツなど、「選手層の太い骨格」を形成している選手層が常に盤石なことからきている。
そのためボストンは、2012年シーズン終了後のように、チーム再編の必要性に直面したとしても、「選手層の基本骨格」を全くいじらなくても、トレードによる小手先の修正でチームを簡単に「再起動」できる。実際、2000年代終盤以降、このチームは、トレードによる主軸打者の入れ替えやクローザーの入れ替えのような部分修正で、チームを再起動してきた。

2003 全体17位でデビッド・マーフィー指名(後にエリック・ガニエとトレード)全体32位でマット・マートン指名(後に4チームのからむトレードでカブスへ)4巡目全体114位でジョナサン・パペルボン指名
2004 1位指名なし
     (2巡目全体65位でダスティン・ペドロイア指名)
2005 全体23位でジャコビー・エルズベリー指名
     全体42位でクレイ・バックホルツ指名
     全体45位でジェド・ラウリー指名
2006 全体27位でOF指名。モノにならず
(2巡目全体71位でジャスティン・マスターソン指名。後にビクター・マルチネスとトレード。17巡目全体523位でジョシュ・レディック指名。後にアンドリュー・ベイリーなどとトレード)
2007 全体55位でLHP、全体62位でSSを指名。モノにならず (5巡目全体174位でミドルブルックス指名)
2008 全体30位でSS指名
2009 全体28位でCF指名
2010 全体20位で2B、全体36位でLF、全体39位でRHP指名



攻守に才能ある野手を得たボルチモア

2000年代、まだ弱かったボルチモアは、常にドラフトの上位指名権をもっていた。だが、2005年と2006年のドラフト豊作年、何の成果を得ていないことでわかるように、必ずしもドラフトの上手いチームだったとはいえない。
だがそれでも、この10年のうちにマーケイキスウィータースマチャドと、攻守に優れた野手をドラフトで獲得できたことで、近年のこのチームにはじめて「選手層の骨格」と呼べるものが形成された。
こうした「打てて守備もできる野手の連続的な獲得」は、かつてエラーだらけのザル守備で有名で、打撃にしか取り柄のない大雑把なチームを大きく変貌させた。
ただ、このチームにアダム・ジョーンズがいるといないとでは、全く意味が違ってくる。もちろん、2011年夏に思い切って上原を放出して、クリス・デービスを獲得したことも大きいとしても、それよりなにより、シアトルが育てきれなかったアダム・ジョーンズを獲得したトレードは、ボルチモアの「未来」を一変させる重要な出来事だった。エリック・ベダードのトレードがボルチモアの一方的な勝ちであることは、いうまでもない。

2003 全体7位でニック・マーケイキス指名
2004 全体8位指名でRHP指名。モノにならず
2005 全体13位でC、全体48位でLHP指名 いずれもモノにならず (2巡目全体61位でノーラン・ライモールド指名)
2006 全体9位で3B、全体32位でRHP指名。いずれもモノにならず (3巡目全体85位でザック・ブリットン指名)
2007 全体5位でマット・ウィータース指名
2008 全体4位でブライアン・マットゥース指名
     (同年2月トレードでアダム・ジョーンズ、クリス・ティルマンをSEAからトレードで獲得)
2009 全体5位でRHP指名
2010 全体3位でマニー・マチャド指名



最低限の主力をキープしたタンパベイ

タンパベイも必ずしもドラフトが上手いとはいえない。
だが、それでも、2006年のロンゴリア、2007年のプライスの獲得があまりに存在として大きいために、それだけで十分な成果だったとさえいえる。
特に、投手におけるドラフト豊作年だった2006年に、クレイトン・カーショーやティム・リンスカムでなく、あえて野手のロンゴリアに白羽の矢を立てたのは慧眼だった。
2003 全体1位でデルモン・ヤング指名
2004 全体4位でジェフ・ニーマン指名
2005 全体8位でRHP指名。モノにならず
2006 全体3位でエヴァン・ロンゴリア指名
2007 全体1位でデビッド・プライス指名
2008 全体1位でSS指名
2009 全体30位で2B指名
2010 全体17位でRF、全体31位でC、全体42位でRF指名



1位指名選手をトレードの駒にするデトロイト

ドラフトで獲得した生え抜き選手を育て上げるのが上手いボストンのようなチームと違って、デトロイトでは、2004年のバーランダー、2007年のポーセロを除いて、ドラフト1位指名選手を惜しげもなくトレード要員にする手法によって、「選手層の太い骨格」を形成してきた。
ミゲル・カブレラはじめ、マックス・シャーザーダグ・フィスターオースティン・ジャクソンのような選手はすべてドラフト1位指名選手を放出して成立させたトレードによる獲得だ。特に、ミゲル・カブレラ獲得は、ドラフト豊作年である2005年、2006年のドラフト1位指名選手を思い切って同時に放出することで実現させた。
ドラフトで「他チームにとって魅力的な選手」を1位指名していなければ、こうしたトレード戦略はとれないわけで、デトロイトはある種のドラフト巧者だといえる。

かつての「生え抜きのカーティス・グランダーソン放出」という事件も、当時いろいろ議論があったわけだが、長い歳月を隔てて眺めてみると、長い目でみてデトロイトが「生え抜きにそれほどこだわらない体質のチーム」なのだとわかると、それはそれで自然な成り行きだったのかもしれないと思えてくる。

2003 全体1位でRHP指名 モノにならず
2004 全体2位でジャスティン・バーランダー指名
2005 全体10位でOF指名
     (=ミゲル・カブレラ獲得の際のトレード要員)
2006 全体6位でLHP指名
     (=ミゲル・カブレラ獲得の際のトレード要員)
2007 全体27位でリック・ポーセロ指名
     全体60位でRHP指名
2008 全体21位でRHP指名
     (5巡目全体163位でアレックス・アビラ指名)
2009 全体9位でRHPジェイコブ・ターナー指名
(同年12月、三角トレードでグランダーソンを放出し、マックス・シャーザーオースティン・ジャクソンを獲得)
2010 全体44位で3B、全体48位でRHP指名(=ダグ・フィスター獲得のトレード要員)2巡目全体68位でドリュー・スマイリー指名


damejima at 18:19

June 22, 2012

このバカでかい画像は、何かというと、2012年のMLB各チームのドラフト収支だ(6月21日現在)。
「上手な買い物によって、予算枠以下でドラフト指名選手と契約できているチーム」ほど、上にチーム名が書かれている。まぁ、いってみれば、買い物上手ランキングみたいなものだと思えばいい。

この表の項目の見方は、次のような感じ。
Bonus Pool 「予算枠」 新労使協定下でチームが使うことを許されるドラフト予算総額の上限注1
Pool Spending 「確定された支出」 既に契約の終わった選手に支払う支出額。
Signed in Top 10 最も予算がかかる10巡目までの上位指名選手のうち、契約済みの人数
Signed Total 契約の終わった選手の総数
--------------------------------------------
+/− 「予算枠収支」。今シーズンのドラフト予算枠から、「既に契約した選手へ払う確定した支出」と、「まだ未契約の選手に予定している契約ボーナスなど、今後予定している支出」の、2つをまとめて引いた、そのチームの収支。

注1:新労使協定下では、10巡目までの指名選手に支払う「契約ボーナス」の金額の上限額が、それぞれの指名順位に応じて「推奨される契約金額」として非常に細かく決められている(スロット額)。
それら全ての「指名順位で決まるスロット額」を総合計した金額は、その球団が、その年のドラフトで使うことのできる予算総額の上限、すなわちBonus Poolとなる。
もし球団が実際に使った金の総額が、ドラフト予算の上限であるBonus Poolを超過(overage)すれば、超過額のBonus Poolに対する%によって、MLB機構から「課徴金」や「翌年以降の指名権剥奪」など、重いペナルティが課せられる

このリストで、上のほうに書かれているチーム=「黒字」=予算枠より実際の契約を安くあげることに成功した黒字チーム、下のほうに書かれているチーム=「赤字」=推奨される契約ボーナス額より割高な契約を行ったことによって、予算枠に超過が発生している赤字チーム、これが基本的な表の見方である。

未契約の指名選手がそれぞれのチームに少しずつ残っているから、ランキングはこれからも少しくらいの変動はありうるが、ドラフト指名選手との契約が大筋では終わりに近づきつつあることから、6月21日現在、この表の下のほうにチーム名のある球団、つまり、「あらかじめわかっていた予算枠を、割高な契約を連発したせいで既に使い果たしてしまって、超過が発生し、ペナルティ発生が予想される球団」は、ほぼ確定しつつある

Baseball Americaによる2012ドラフト収支ランキング(6月21日現在)
出典BaseballAmerica.com: Draft: Draft Database


試しに、Seattle Marinersという項目を探してみる。
すると、一番下にある。

もう一度言おうか?
一番下
つまり割高な買い物によって、与えられた予算枠を既に使い果たしているMLB最大の赤字チームだ。わかりやすくていいだろう?(笑)
MLB全30球団のうち、こうした予算枠以上にドラフトで金を散財している超過チーム自体、たった「4チーム」しかない。(サンフランシスコ、セントルイス、ボストン、シアトル)
そして、
割高な買い物をして100万ドル以上もの予算枠超過を背負いこんでいる「ドラフト下手なチーム」は、MLB全30球団で、シアトル・マリナーズ、たった1チームだけ、しかない


チーム名をクリックすると、チーム別の契約の明細が出てくる。シアトル・マリナーズのドラフト収支は、6月21日現在、以下のようになっている。

 予算枠      $8,223,400
 既に使った支出 $3,820,200
--------------------------
 差し引き     $4,403,200


なんだよ! まだ予算枠440万ドルも残ってるじゃないか!
Baseball America、嘘つきやがって。

などと思っては、バカにされるだけだ(笑)
以下の表をじっくり見たまえ。大事な部分が抜けているのが、わかるはずだ。

マリナーズ2012ドラフト収支(Baseball America 6月21日現在)

出典BaseballAmerica.com: Draft: Draft Database


そう。
1巡目指名のマイク・ズニーノの名前が太字になっていない。
つまり、最も金のかかる1巡目指名選手と、まだ契約できていない、のである。肝心の1巡目指名選手と契約できてもいないうちに、このチームは、既に予算枠820万ドルのうち、約半分にもあたる380万ドル以上の予算枠を使いこんでしまったのである。

仮にマイク・ズニーノとの契約を、スロット額どおり、520万ドルで終えるとして、さきほどの計算を、再度やり直そう。

 予算枠              $8,223,400
 既に使った支出         $3,820,200
 ズニーノ契約に必要な支出 $5,200,000
-----------------------------------------
 差し引き        マイナス $796,800


仮にマイク・ズニーノとの契約を、推奨額の520万ドルで終えるとしても、約80万ドルの超過が発生することがわかる。(もちろん、ズニーノとの契約にもっと金がかかれば、それだけシアトル・マリナーズの超過額は増える)

だが、もちろん、必要な費用は、ズニーノとの520万ドルの巨額契約ボーナス以外にも、こまごまと存在している。10位以下の指名選手に10万ドル以上払うかもしれない。
だから、もろもろの支出を加味した上で、Baseball Americaは、現在のシアトル・マリナーズのドラフト予算の収支を、「マイナス 1,422,300ドル」、つまり、140万ドル以上のBonus Pool超過が発生している、と踏んでいるわけだ。

この大赤字ドラフトの原因は、どうやら、
1位指名を除く、契約の決まった10位まであたりの指名選手に対して支払う契約ボーナスが、選手ひとりあたり「数10万ドル」、日本円にして数千万単位と、指名順位に応じて細かく決まる推奨契約金額(スロット額)からして、あまりにも over slot、つまり、推奨契約金額よりあまりにも高い金額で契約し過ぎていること にある。
つまり、
最も重要で金のかかる買い物である1巡目指名選手との契約をまだできてもいないのに、2巡目から10巡目あたりの選手で割高な買い物ばかりしていたら、いつのまにか財布に既に金が無くなって、それどころか、予算枠をかなりオーバーして大赤字になっていた わけだ。

シアトル・マリナーズ、ペナルティ必至の情勢である(笑)
予算枠820万ドルに対する142万ドルの超過というのは、なんと17%以上もの超過にあたるから、このままズニーノと500万ドル超の契約をするだけでも、シアトル・マリナーズは最高レベルのペナルティを与えられ、課徴金100%に加え、2013年と2014年の2年間の1巡目指名権を連続して剥奪されることになる

また、当然の話だが、
Bonus Pool超過の重いペナルティを避けるために、マイク・ズニーノに安すぎる契約金を提示したことで、ズニーノとの契約が御破算になれば、ズレンシックが、新労使協定を知らないかのようなバカ馬鹿しい割高契約を連発したおかげで、今年の貴重な1巡目指名権をゴミ箱に捨てることになる

逆に、
もし、なにかにつけて自分のミスを認めたがらないズレンシックが、Bonus Pool超過の重いペナルティを覚悟した上で、マイク・ズニーノに520万ドル以上の契約を提示して無理矢理契約すると、チームには課徴金100%が来るのに加えて、来年、再来年、2つの1巡目指名権をゴミ箱に捨てることになる

新労使協定下でのドラフトのペナルティ

5%以内の超過 超過額の75%の課徴金
5-10% 課徴金75%、翌年の1巡目指名権剥奪
10-15% 課徴金100%、翌年の1巡目+2巡目指名権剥奪
15%以上 課徴金100%、翌2年の1巡目指名権剥奪

0-5% 75% tax on overage
5-10% 75% tax on overage and loss of 1st round pick
10-15% 100% tax on overage and loss of 1st and 2nd round picks
15%+ 100% tax on overage and loss of 1st round picks in next two drafts
MLB, MLBPA reach new five-year labor agreement | MLB.com: News


やり手のGMがシアトルにいるって?
は? だれのこと? (笑)
再建?(笑)

damejima at 14:04

June 19, 2012

6月17日のギリシャ再選挙を前に、ユーロ圏脱退に反対する人たちはこんなキャッチフレーズのテレビコマーシャルを流していたらしい。
「子供たちの未来をオモチャにしてはいけない。」
どこかの誰かさんに、是非見てもらいたいCMではある(笑)


まぁ、それはともかくとして。
MLBの超高額契約プレーヤーの契約に必ずといっていいほど登場してくる辣腕代理人スコット・ボラスが、今年初めロサンゼルスのアナハイムで行われた全米の大学野球コーチのミーティングで、アメリカの大学野球チームが受け取る奨学金の額が少なすぎる問題をテーマに講演をやったらしい。

Anaheim Convention CenterAnaheim Convention Center

肝心の「奨学金をどうしたらもっと増やせるかについてのスコット・ボラスからの提案」は非公開なので、おいておくしかないが、よく読んでもらうとわかるが、講演内容の大半が「大学を卒業してドラフトされる選手が、高卒選手に比べていかに有能で、将来性に満ちているか」に終始しているのが、ちょっと笑ってしまう(笑)

つまりボラスの話の大半は、自分の扱う「商品」である「大学生」を褒め倒しているだけなわけである。ある意味の「自画自賛」である。そりゃ自分の商品をけなす人間はいないが、それにしても身びいきが過ぎる。
彼が暗に(というか、あからさまに)言っているのは、
「大卒選手は、いまでもダイヤモンドの原石なんですよ」 「私が、その価値ある原石をMLBに高額で売りつけてあげますから、あなたがたコーチは私についてくればいいんですよ」 「だからあなたがたは、せいぜい良い選手を必死に育てて、私のところに連れて来てください」
ということだ(笑) 講演に見せかけたボラスの営業活動のようなものであるにもかかわらず、営業トークを聞かせている大学関係者のほうが頭(こうべ)を垂れて、あまつさえ講演料まで財布に入れてくれるのだから、こんなありがたい話もない(笑)

ところが、だ。
ボラスが今年初めにこんな「大卒ドラフト指名選手を絶賛しまくる講演」をしたにもかかわらず、実際の2012年MLBドラフトでは、「高校生への1位指名の嵐」だったわけだから、「大学生の優位性」をいくらボラスが強調しようと、実際のMLBが彼の思惑どおり動いているわけではないことが、かえって明確になった。
資料ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2012年6月4日、恒例の全米ドラフトは高校生が主役。


ただ、参考になる話も2つほどある。
(ある意味それを読んでもらうためだけに、この文章を訳した)

最も重要なポイントは、
大卒の有望プレーヤーの契約をまとめることで、とんでもない大金を稼ぎ続けてきた代理人スコット・ボラスですら、将来性の高い大学アスリートの、それも逸材レベルが、野球以外のスポーツに流れている現状が存在していることを、公の場で認めざるをえない
ということだ。

ボラスは具体的に特定して発言していないが、ここでいわれている「アメリカの大学の逸材の、野球以外のスポーツへの流出」を、もっと具体的に言えば、前記事のテキサス大学ロースクールの記事の翻訳で書いたように、「近年のアフリカ系アメリカ人の大学アスリートが、MLBではなく、NBAやNFLを目指すことが増加していること」を指しているのは、いうまでもない。
資料ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2012年6月11日、MLBにおけるアフリカ系アメリカ人プレーヤーの減少について書かれたテキサス大学ロースクールの記事を訳出してみた

アフリカ系を含めた有望アスリートが他のスポーツに流出しているからといって、代理人業を営むボラスの立場としては、「商品である大卒プレーヤー」の「仕入先である大学野球の監督たち」に向かって、「MLBにアフリカ系アメリカ人が減っている現状があるのはたしかだが、だからといって、白人選手にしても、安く獲得できて才能も高いドミニカやベネズエラなどのラテンアメリカ系選手に押されつつある現状も生まれつつあって、アメリカ人選手の未来はけして楽観視できない」などと、軽々しく発言することはできない。
ボラスは講演で、「野球以外のスポーツへの流出」と、オブラートに包んだ発言のしかたをしているわけだが、実際には、ボラスのいう「野球以外のスポーツへの流出」が、「MLBにおけるアフリカ系アメリカ人プレーヤーの減少」を指している(あるいは深く関係している)ことに、かわりない。

スコット・ボラスのような代理人にしてみると、こうした大学卒プレーヤーの将来性の現状を「先細り」と受け取られることは、「大卒プレーヤーの質的低下や量的減少、特に、白人系選手の長期的な価格低下」も意味するわけだから、ボラスとしては放置しておくことはできない。
だから、ボラスはいま躍起になって大学のコーチたちのケツを叩き、「逸材の他のスポーツへの流出に警鐘を鳴らす」わけだ。「有望な大学アスリートのNFL、NBAへの流出」は、ボラスの収入に直接関係してくるから、当然だろう。


また、問題としては小さいが、アメリカの大学野球に、資金不足もあって、トレーナー、コーチ、ドクターといった「野球専門の専門スタッフ」が不足している(あるいは養成できない)現状があることで、(おそらく多くの人数が養成されている)フットボールに特化した専門家を野球に流用せざるをえない現実があることも、この文章からわかる有益な情報のひとつだ。
最近のMLBプレーヤーの怪我がちな点は、こうしたスタッフ不足も背景のひとつなのかもしれない。


-------------------------------------------------

Scott Boras Presents Plan For 25 Scholarships

By LOU PAVLOVICH, JR.
Editor/Collegiate Baseball
(From Jan. 27, 2012 Edition)
Scott Boras Presents Plan For 25 Scholarships


Scott Boras, the most powerful agent in sports, gave a riveting presentation at the American Baseball Coaches Association Convention in Anaheim on how every NCAA Division I baseball program can fund 25 full scholarships for athletes.
スポーツ界で最もパワフルな代理人、スコット・ボラスは、どうしたらNCAA1部のすべての野球部に、(ロスター枠全員をまかなえる)25の十分な奨学金を提供できるのかについて、アナハイムで行われたアメリカ野球コーチ連盟(ABCA)年次総会で魅力的な提言を行った。
ブログ注:
アメリカ野球コーチ連盟(ABCA)
http://www.abca.org/
2012 ABCA Anaheim Convention (2012年1月5日-8日)
January 5-8, 2012 ABCA Anaheim Convention - ABCA

He firmly believes that Major League baseball would be interested in listening to a plan to pump money into these programs for additional scholarships since revenue on the professional level has shot up from $400 million in 1980 to over $8 billion during the past year.
彼は、プロレベルでの収益が、1980年の4億ドルから昨年2011年には80億ドル以上に急上昇していることから、もし奨学金追加事業に資金を注ぎ込むプランが策定されれば、MLBは興味を持ち、耳を貸すだろうと、堅い信念を持っている。

Currently NCAA Division I baseball programs can give a maximum of 11.7 scholarships.
今日、NCAAディヴィジョン1の野球競技は、最大で11.7の奨学金しか得ていない。

Boras also feels that college baseball coaches must govern baseball at a more pro-active level to keep young baseball players in the game instead of turning to other sports. He also delved into a serious problem in college baseball regarding a lack of certified baseball trainers, strength and conditioning people, doctors and surgeons and how they can be found instead of being forced to use football specific professionals.
さらにボラスは、野球でないスポーツに関心が向いてしまわないよう、野球界が若い野球選手をキープするためには、大学の野球コーチが先々をもっと見越した目線から野球を管理していかなければならないと感じている。
また彼は、資格をもった野球トレーナー、強化やコンディショニングの専門家、医者や外科医の不足からくる大学野球の深刻な問題と、どうしたらアメリカンフットボールに特化した専門家を使うことを強いられるのを避け、そうした専門家を見つけることができるのかについて、徹底した調査を行ってもいる。

"You may think that professional baseball in effect runs baseball," said Boras in front several thousand coaches at the Anaheim Convention Center. "But in my opinion, I believe that we must begin a legacy of college coaches governing baseball. When you think about this, I want to tell you about your role in professional baseball and what you mean to the Major Leagues.
ボラスはアナハイム・コンベンションセンターに集まったたくさんのコーチの前で語った。
「みなさんは、野球を実質的に運営しているのはプロの野球であると、お考えになっているかもしれません。しかしながら、私には、『まず話を始めるべきは、大学のコーチのみなさんによって運営されてきた野球だ』という確信があります。このことについて関心をお持ちのみなさんに、私は、大学のコーチがプロの野球においてどんな役割を果たすべきか、みなさんの存在がMLBにおいてどんな意味をもつのか、話したいと思います。

"In 1980, Major League baseball was a sport that had roughly $400 million in revenue. In 1990, that figure went up to $1 billion. In 2000, it was $3 billion. And today, that figure is $8 billion. A lot of people think that scouting and high school baseball has a great role in this.
「1980年、MLBはおおまかにいって4億ドルの収入をもつスポーツでした。それが1990年には10億ドルに、そして2000年には30億ドルに上昇しました。今日、その額は、80億ドルに上っています。たくさんの人々が、スカウト活動と高校の野球が、この成長に大きな役割を果たしたと考えています。」

"But when you look at the numbers, there are 827 Major League players. Overall, 52 percent of all Major League players were former college baseball players while only 26 percent were signed out of high school. Another 22 percent are international players.
「しかし、数字を見てください。 メジャーには827人の選手がいます。メジャーリーガー全体の52パーセントは、大学野球出身の選手であり、他方、高校出身は26%に過ぎず、あとは海外の選手が22%です。」

"This illustrates what a college coach does in grooming an athlete because there are nearly double the number of college baseball players in Major League baseball compared to high school players. When you bring out the fact that college coaches don’t bring in the top athletes that are available for their programs in the draft, the numbers are even more telling.
「このことで明らかなのは、大学のコーチがアスリート育成においていかなる貢献をしてきたか、ということです。大学出身の野球選手の数は、高校出身の選手に比べ、およそ2倍です。大学野球のコーチが将来ドラフトで指名されるようなトップアスリートを連れてこれていない、などといわれることがあるかもしれませんが、数字はより雄弁に真実を語っています。」

"We found that 79 percent of college first round picks reach the Major Leagues for at least a day.That compared to 62 percent of high school first rounders who reach the Major Leagues for a day which is a 17 percent difference.
「大学出身の1巡目指名選手が、最低1日でもメジャーリーガーになった割合は、79%であることがわかっています。高校出身の1巡目指名選手のメジャーリーガーになる率が62%であるのと比べると、17%の開きがあります。」

"When you look at those players who achieve six years in the Major Leagues and become free agents, you are talking about 42 percent of college first rounders who become six year Major League players. In the draft as a whole, less than one percent of drafted players ever become six year Major Leaguers.The figure for high school first round players is 32 percent who become six year Major League players. There is a 10 percent difference compared to college first rounders.
「またメジャーで6年プレーし、フリーエージェントになった選手でみてみると、メジャーリーガーになった大学出身の1巡目指名選手の42%がフリーエージェントになっています。ドラフト全体で見ると、6年間メジャーでプレーできる選手は、1%以下しかいません。高校出身の1巡目指名選手でみると、6年メジャーでプレーできる選手になれる割合は32%で、大学の1巡目指名選手との間には10パーセントの開きがあります。」
ブログ注:
ボラスは、「FAになれる選手の率において、大卒と高卒では、10%の差がある」と、大卒選手の優位性を強調するわけだが、統計的な多くの観点から見るなら、この主張の根拠はかなり怪しいとしかいいようがない。
例えば、この「10%の差」が、ほぼ毎シーズン決まって生じる有意な差なのかどうか? 年度によって生じる誤差の範囲におさまってしまう「単なる偶然」ではないのか? そして、「10%の差」が生じる原因が、本当に大卒選手が高卒選手より優秀であることにあるのかどうか?
あらゆる点が、何も検証されないまま、断定されている。

問題は他にもある。
「10%の差」とボラスは言うが、メジャーで6年プレーできるのがドラフト指名選手全体の1%以下であるのなら、大卒と高卒の「10%の差」は、選手全体からみると、1%×0.1=「0.1%の差」と、ほんのわずかな差にすぎない。
球団数の多いMLBにおいてはドラフト全体で指名される選手数は、毎年数百人単位に及ぶわけだが、「0.1%の差」というのは、実数としては「指で数えられる程度の人数の差」という意味に過ぎない。


"So when you are recruiting athletes and talking about their choices, college baseball is clearly the best way and highest percentage for an athlete to achieve success in the Major Leagues.
「したがって、アスリートのリクルーティングに携わってアスリートのとるべき選択肢について議論する上において、アスリートがメジャーで成功を収めるための、最良かつ最も確率の高い方法が、大学野球なのは明らかです。」

"If you want to look at it monetarily, elite high school players receive welcome bonuses. But for those athletes who aspire to be the best in the Major Leagues and receive the highest bonuses, it is astounding what players have received right out of college when looking at $6 million signing bonuses.
「お金の面での話をするなら、高校出身のエリートプレーヤーはウェルカムボーナスを受け取りますが、メジャーで最高の選手になって、最も高い契約金を手にするのを熱望する彼らにしてみれば、大学出身選手が600万ドルもの契約金を受け取っていることは、気の遠くなるような驚きです。」

"Gerrit Cole was a first round pick out of high school and then became the first player chosen in the 2011 draft (UCLA). He received nearly double the bonus he was offered out of high school. Anthony Rendon (Rice) was a 27th round pick in high school and became a first rounder out of college. Stephen Strasburg (San Diego St.) and Dustin Ackley (North Carolina) were not drafted out of high school. These athletes received some of the highest signing bonuses in the game out of college.
「ゲリット・コールは、高校生での1巡目指名選手でしたが、2011年にUCLAで全米1位指名選手になり、高校卒業時に提示されていた契約金の、ほぼ2倍を受けとりました。ライス大学のアンソニー・レンドンは、高校では27巡目の指名でしたが、大学では1巡目指名選手になりました。サンディエゴ州立大学のステファン・ストラスバーグはと、ノースカロライナ大学のダスティン・アックリーは、高校ではドラフトされませんでした。これらの選手は、大学を出て野球界でほぼ最高の契約金を得ています。」
ブログ注:
このパラグラフで名前を挙げられている選手は、すべていわゆる「ボラス物件」と通称される、スコット・ボラスが代理人をつとめる選手たち。つまり「自画自賛」である。また
だが、予算削減を目指す昨今のMLBにあって、2012年6月のドラフトでは、契約金の高い大学生を敬遠する傾向も出てきたことに、同年4月にこの講演を行ったときのボラスはまだ気づいていない。
ゲリット・コールは2008年のドラフト1巡目(全体28位)でヤンキースから指名されたが、UCLAに進学。高校生が1巡目指名を蹴って大学に進学するのは、2002年にシアトル・マリナーズからの全体28位指名を断ってスタンフォード大学に進学したジョン・メイベリー・ジュニア以来。

"If you look at $5 million players in the Major Leagues, they must be pretty special players. Not many reach this status. To achieve this level, you must be a very accomplished player. When you look at the numbers, there are 30 college players in the Major Leagues who are making $5 million or more who weren’t drafted until after the 10th round. Mind you, there are only 84 $5 million college players and 64 $5 million high school players in the Big Leagues."
「メジャーで 『500万ドルプレーヤー』 になれたとすれば、非常に特別なプレーヤーにちがいありません。このステイタスに到達できる選手は多くはありません。このレベルに達するには、非常に完成したプレーヤーでなければならないのです。
数字からみると、メジャーリーグには、ドラフトで10巡目までに指名されなかった下位指名の選手で、500万ドル以上稼ぐプレーヤーになれた大学出身選手が、30人もいます。500万ドルプレーヤーは、MLBの大学出身プレーヤーで84人、高卒選手では64人しかいません。」

ブログ注:
全米のアマチュアコーチを聴衆にした講演で、大学卒業選手、特に1巡目指名選手の将来性の高さを印象づけたくてしかたがないボラスは、「大卒の1巡目指名選手が、最低1日でもメジャーリーガーになれる割合は、高卒選手より17%も高い」と指摘している。
つまり、彼は「1巡目指名選手は、モノになる割合が高い」という印象を与えたがっているわけだ。

ところが、その一方でボラスは平行して、「500万ドルプレーヤーになれた選手は、ドラフト下位指名の大卒選手に30人いる」と、ニュアンスの違う指摘をしている。

この2つの平行した指摘は、ちょっと都合がよすぎる。
というのも、ボラスの2つの指摘を、ボラスとは違う観点からまとめるなら、「大卒の1巡目指名選手がメジャーリーガーになれる割合は、高卒よりほんのちょっと高い。だが、だからといって、1巡目指名だから500万ドルプレーヤー、つまり 『長く活躍できる選手になれる』 とは限らない」ということになる。
そして実際、ドラフト1位指名選手で、殿堂入りした選手はいない、というデータもある。

だが、ボラスから選手を買う立場のMLB球団側からすれば、1巡目指名選手に大金を払うのは、「長く高いレベルの活躍をしてくれる高い才能」に対してであって、なにも「メジャーリーガーになれたら、ただそれだけで嬉しい」、とかいうちっぽけな夢に大金を払うわけではない。

大学卒業選手なら10巡目以降の下位指名選手であっても500万ドルプレーヤーになれる、というボラスの主張にしても、下位指名選手であって有力プレーヤーになれる可能性がある理由は、なにも「大卒選手が高卒選手より優秀な素質を持っていることが多いから」とは限らない。
単に「その選手が遅咲きタイプの選手だった」とか、「MLBでの育成が、大学の育成より上手いから」かもしれないのである。

いずれにしても、ボラスの「大卒選手は高卒選手よりも優位である」という主張は、根拠にしているデータや数字に統計的な裏付けが乏しく、また、論理にも矛盾がある。けして高卒選手に対する大卒選手の優位性が明確に示されてなどいない。


-------------------------------------------------


この文章全体からわかるのは、1巡目指名の大卒選手が大金を稼ぐ現状をなんとか維持しようと必死なスコット・ボラスの姿だ。

そもそも、大卒の1巡目指名選手がメジャーリーガーになることができる割合が高いのは、その選手の活躍ぶりと、無関係とまでは言わないが、けして直結してはいない。

たいていの球団では、高卒より高い年齢でMLBに来る大卒選手を1巡目で指名して大金を支払って契約したら、その選手がメジャーで本当に通用するかどうかを試す意味で、また、1巡目選手に払った多額の契約金をムダにしたくないという意味で、ほとんどの場合、一度くらいは必ずメジャーに上げて試すことが多いものだ。

契約金の高いドラフト1巡目指名選手がメジャーリーガーになれるのがほぼ当たり前な理由は、イコール、その選手が才能を発揮してメジャーで大活躍した、という意味とは限らないのである。

だから1巡目指名選手のメジャーリーガーになる率を引き合いを根拠に、「だから大卒選手は、高卒選手よりもメジャーで活躍できる割合が高いのだ」と結論づけるのは、あまりに都合がよすぎる。

繰り返して言うが、
過去、ドラフト1位指名選手に、殿堂入りした選手はいないのである。そして球団がドラフトに期待しているのは、ボラスが主張しているような、統計的にあやしい、矛盾したリクツではない。

damejima at 07:47

June 12, 2012

このところMLBの人種構成と球団の強化やプロモーションの手法をめぐって、参考になるデータを紹介する記事を書いてきている。
基本としてわかっていることは、MLBで、アフリカ系アメリカ人が減少しつつある一方で、ラテンアメリカ系の増加が定着しているという、よく知られた話だが、同じ問題を別の角度から見ると、ドラフトで獲得される白人プレーヤーの質の低下や、ストロイド問題も含まれてくると思っている。
MLBにおけるアフリカ系アメリカ人の減少傾向
元データ:上記グラフは、以下のサイトにあるグラフを、縦軸の示すインデックスがわかりづらいために手直しして流用している。もちろん縦軸の意味は同じ。
What Caused the Decline of African-Americans in Baseball?


MLBにおけるアフリカ系アメリカ人選手の減少の原因について、テキサス大学のロースクール(=法科大学院)、The University of Texas at Austin School of Law(UT Law)で2011年11月に書かれた記事がみつかったので訳出してみる。
UT Lawの発行する定期刊行物は12種類あり、Texas Review of Entertainment & Sports Law(TRESL)はそのひとつ。ロースクールの教授陣が監修しながら、学生たちも積極的に執筆する。

言うまでもないことだが、以下の文章はあくまで、マーケティングの現場にいるわけではない大学のロースクールの執筆者の「個人的見解」であって、いくらテキサス大学が全米有数の大学のひとつだからといっても、この見解がアメリカの代表的意見だと決めつける必要はない。
読む人は自分の蓄積してきた見識に照らしつつ読み、なにがしか参考になればそれでいいし、もちろん批判的に読んでもかまわない。

ブログ主がこの記事を読んで思うことや、付け加えたいことは、下記に示した注釈以外にもいくつかあるが、まずはとりあえず原文を読んで自分なりの感想をもってもらうほうが先決だろう。ブログ側からの注釈は必要最低限に留め、ブログ主の感想や付け加えは、別の記事としてまとめる予定だ。(なお以下の訳文で、太字部分は固有名詞をわかりやすくするためブログ側で添付している。また内容をわかりやすくするため、必要に応じて原文に無い改行を加えた)
とはいえ、元記事には、今の時点であらかじめ指摘しておかざるをえないような、首を傾げる記述がないわけではない。
例えばデトロイト・タイガースについての記述には、いくつかの偏見というか知識不足がみられるし、ステロイドを使った選手が冷遇されることと人種問題とを混同している記述などもみられるから、元記事の全てを鵜呑みにしないよう注意して読んでもらいたい。

だが、全体としてはアフリカ系アメリカ人選手の減少の原因の分析について要領よくまとまっている。
なにより、マイノリティ比率の非常に高い州のひとつであるテキサス州にあるMLB球団が、どういう方向性で球団をディレクションし、どういうコンセプトで選手を獲得し、ファンの支持をどう集め、どう勝者になっているか、という点をわかりやすく書いていることが、今の時代には非常に参考になる。特にscholarship、奨学金についての記述は、日本のスポーツ新聞やブログを読んでいるだけではわからない視点だと思う。

州別・乳児に占めるマイノリティ率州別・乳児に占めるマイノリティ率


------------------------------------------------
The Decline of African-American Players in Baseball
野球におけるアフリカ系アメリカ人プレーヤーの減少


Posted by Joel Eckhardt
TRESL Staff on November 20, 2011
The Decline of African-American Players in Baseball | TEXAS REVIEW OF ENTERTAINMENT & SPORTS LAW
------------------------------------------------
University of Texas School of LawのエンブレムIn 2010 and 2011, the Texas Rangers won the first two AL pennants of their otherwise mediocre existence. In both cases, they clinched the pennant with a roster littered with a roughly equal mixture of white and Latino players, with one African-American: 41-year old journeyman relief pitcher Darren Oliver. However, the Rangers do have an African-American manager who America is falling in love with ? the always enthusiastic, hyperactive Ron Washington. While the roster itself has only one African-American contributor, the team leader is a New Orleans-bred African-American baseball lifer who still makes his home in that city’s Ninth Ward.
2010年と2011年、テキサス・レンジャーズはア・リーグを初制覇、そして連覇を果たした。どちらのケースでもレンジャーズは、白人とラテン系プレーヤーがだいたい半々に混成されたロスターで優勝を決めている。アフリカ系アメリカ人といえば、唯一、41歳のジャーニーマンのリリーバー、ダレン・オリバーだけだった。しかし、レンジャーズには、アメリカ中で愛されているアフリカ系アメリカ人監督がいる。常に情熱的で、過剰なまでに活発なロン・ワシントンだ。ロスター自体にアフリカ系アメリカ人の功労者はたったひとりしかいない一方で、ニューオリンズ育ちのアフリカ系アメリカ人で野球に生涯を捧げているチームリーダー(=ロン・ワシントン)は、いまだにニューオリンズの9区に自宅を構えている。

ブログ注:
ダレン・オリバーは、2011年12月30日にFAでトロント・ブルージェイズと契約し、現在はテキサス・レンジャーズの一員ではない。


This construction of an MLB team is less surprising than it probably should be. The MLB Racial and Gender Report Card, issued annually by The University of Central Florida’s Institute for Diversity and Ethics in Sports, has given MLB an “A” grade for its racial hiring practices in each of the last three years. MLB has steadily increased its number of minority managers, coaches, and front office employees. The overall number of minority players is also increasing, largely due to the increase of Latino players from 13% in 1990 to around 27% today. However, this progress comes while the number of African-American players in the game has decreased from 17% in 1990 to a paltry 8.5% in 2011. What has caused this decline?
MLB球団のこうした人種構成が、想像と異なるものであることは特に驚くことではない。セントラルフロリダ大学のInstitute for Diversity and Ethics in Sportsが発行している「MLBの人種とジェンダーに関するレポート」によれば、MLBは過去3年間において、どのシーズンにおいても人種的な雇用慣習において、グレードAの評価を受けている。MLBは、マイノリティの監督、コーチ、フロントスタッフを、着実に増加させ続けてきているし、またマイノリティの選手の総数も、ラテンアメリカ系プレーヤーの増加により、1990年の13%から、今日では27%に大きく増加しているのである。
しかしながら、こうした進歩の一方で、アフリカ系アメリカ人プレーヤー数は、1990年の17%から、2011年の8.5%へと減少している。なにがこの現象をもたらしたのだろうか。

Expense. Baseball is inherently more expensive to play than other sports, because of the cost of equipment and of joining a league. A good bat can cost between $300 and $600, and on top of that, a player needs gloves, batting gloves, and uniforms. Furthermore, traveling teams dominate elite youth baseball (pre-high school), and playing with these teams costs a significant amount in both fees and traveling expenses. Finally, at the collegiate level, NCAA Division I schools only award 11.7 baseball scholarships a year, reduced from 20 in 1981. These costs push young African-Americans towards sports such as basketball and football, which are relatively cheaper to play. This disparity in the costs of playing the respective sports has contributed to the NBA and the NFL being made up of roughly 80% and 70% African-American athletes, respectively, while MLB lags far behind.
費用
野球は、本質的に他のスポーツより費用がかかる。用具やリーグへの加盟費があり、例えば、良質なバットは300ドルから600ドルはする。トップクラスの選手ともなれば、バッティング専用の手袋だって必要だし、ユニフォームも要る。おまけに、チームの遠征は、高校入学前のエリートユースにとってはとても重要で、こうしたエリートチーム同士の試合には、双方に謝礼や遠征費の大きな負担が必要となる。大学レベルでは、NCAA1部に属す大学でも、野球奨学金は、1981年に20から引き下げられために、年に11.7しかもらっていない。
これらのコストの高さは、若いアフリカ系アメリカ人が、相対的にプレー費用の安いバスケットとかフットボールのようなスポーツに向かう要因になっている。こうしたスポーツごとの「コスト格差」は、NBAやNFLのプレーヤーのおよそ70%から80%が、アフリカ系アメリカ人で構成され、他方MLBでは相対的にアフリカ系が少ない、という状況を生む一因になっている。

ブログ注:
NCAA Division 1に属するのは、Vanderbilt, Virginia, South Carolina, Florida, Arizona State, Texas A&M, Oklahoma, Texas, Florida State, North Carolina, TCU, Georgia Tech, Arkansas, Cal State Fullerton, Fresno State, LSU, Clemson, Arizona, Stanford, UCLA, UC Irvine。
Baseball Scholarshipについての記述で、「NCAA Division 1で11.7の奨学金」というのは、D1のチームあたり、年ごとに11.7人分の奨学金の給付がある、というような意味。Division 2では、9である。
アメリカの奨学金は返済の義務がない。それだけに奨学金の給付には、たとえアマチュアスポーツとはいえども、厳しい条件がつく。投手の給付条件には、身長体重の他に、右投手85-95MPH、左投手80-95MPHという「球速制限」が存在しており、右投手は最低でも85マイル以上のスピードボールを持っていないと、奨学金を受けられない。同様に、野手では60ヤード走(=約54.864メートル。日本でいう50メートル走のようなもの)に「6.5-6.9秒」というスピード制限があり、足の遅い野手は奨学金を受けられない
ちなみにFootball Scholarshipは、なんと年に1チームあたり85もあり、野球とフットボールの処遇に非常に大きな格差があるが、それをそのまま2つのスポーツの人気の差ととらえるのは間違っている。


Marketing. Another factor causing the decline of African-American baseball players is the way the game markets itself. Curtis Granderson, an African-American, All-Star center fielder for the Yankees, says that when he played with Detroit, the team displayed white players on all of their billboards around town, despite the presence of black stars like Granderson, Gary Sheffield and Jacque Jones. Other All-Star-caliber African-American players like Ryan Howard and Carl Crawford cannot break into the household name category. Furthermore, Barry Bonds, arguably the biggest African-American baseball star of his generation, is mostly vilified rather than celebrated as a result of his suspected steroid use. As a result, baseball has chosen to mostly disassociate itself from Bonds since his retirement from the game. Young black athletes need star players that are both adequately marketed and look like them in order to retain their interest in baseball, and there simply are not enough of those players today.
マーケティング
アフリカ系アメリカ人の野球選手が減少するもうひとつの要因は、マーケッティング手法そのものにもある。
カーティス・グランダーソンは、ヤンキースのセンターを守るオールスタープレーヤーだが、彼がいうには、彼のデトロイト時代には、チームにグランダーソンや、ゲイリー・シェフィールドジャック・ジョーンズのような黒人スターがいたにもかかわらず、チームが街中の広告看板にディスプレーするのは、すべて白人プレーヤーだった。
他にもライアン・ハワードカール・クロフォードのようなオールスターレベルの能力をもつアフリカ系アメリカ人プレーヤーがいるが、彼らはいわゆる「有名人」カテゴリーに入ることができていない。
さらにバリー・ボンズは、彼の世代では最大のアフリカ系アメリカ人スターだが、ステロイド使用疑惑の結果、彼は祝福を受けるより、けなされることがほとんどだ。結果としてボンズがゲームから遠ざかったとき、野球界は、彼との関係の大半を断絶することを選んだ。
若い黒人アスリートの野球に対する関心を維持するためには、市場価値があり、また彼ら自身との共通性を感じさせる黒人スタープレーヤーを必要としているわけだが、今の時代、そうした黒人スターは不足する傾向にある。

ブログ注:
どうもこのチャプターは、元記事の著者が誤解している部分が多い。
バリー・ボンズのようなステロイド使用選手が冷遇されるのは、薬物使用がアンフェアだからであって、彼がアフリカ系だからではなく、人種問題とは関係ない。言うまでもないことだが、2つの異なる問題を混同してはいけない。
またデトロイト・タイガースについて一部書かれたこのチャプターを読んで、あらぬ偏見が生まれることを望まない。
「マーケティング手法上の問題」を人種問題にすりかえる必要は全くないし、また、原著者は、シェフィールドやジャック・ジョーンズについて、ステロイド問題や期待外れに終わった成績など、「書き漏らしている点」が多々あり、デトロイト・タイガースがこれらのプレーヤーの顔写真を街中に張り出さなさなかったからといって、シェフィールドやジャック・ジョーンズを人種的な理由で冷遇したと断ずることはできない。
たしかにタイガースという球団の性格は、ジャッキー・ロビンソンがアフリカ系アメリカ人として初めてMLB入りして以降、MLBのプレーの質が向上していく中でも、アフリカ系アメリカ人選手の入団を拒み、長期低迷を招いたといわれる球団ではあるが、以前データを挙げたように、人種構成には、州によって大きな差異があるため、必要とされるマーケティングの方向性は、州ごとに異なる。
「州別の1歳以下の乳児に占めるマイノリティ率」をみてもわかるとおり、アメリカ西部に比べ、アメリカ東部はマイノリティ比率が相対的に低い。そうした西部と異なる人種構成をもつ東部にあっても、グランダーソンの現在の所属球団ヤンキースのあるニューヨークは、多様な人種から構成される都市、東部でも特殊な州であり、タイガースのフランチャイズ、ミシガン州とは、マーケティングの前提条件が異なる。
名前の挙っているゲイリー・シェフィールドは、バリー・ボンズと同じステロイダーで、バルコ・スキャンダルで名前が挙がり、2007年12月に発表されたミッチェル報告書にも名前が載っている。また成績も、期待されてヤンキースから移籍してきたが、デトロイトでの2シーズンは怪我がちで、期待外れに終わっている。そういう選手を、球団がマーケティングの中心に据えるわけにはいかない。
またジャック・ジョーンズは、デトロイトが生え抜きのベネズエラ人ユーティリティ、オマー・インファンテを放出してまで獲得したスラッガーだが、打率.165というあまりに酷い成績のせいで、2か月もたずに戦力外になってしまった期待外れのバッターで、同じ年の6月にはマーリンズでも戦力外になるほどであり、なにもジョーンズはアフリカ系アメリカ人だからという理由で冷遇されたわけではない。


Economics. An under-discussed factor is the evolution of the economics of the game. A black athlete who grows up in America may not enter into the MLB draft until he’s 18. A player picked in the first round of the draft (the only round where a player picked has better than a 50-50 chance of playing in an MLB game at some point) receives an average signing bonus of over $2 million. Meanwhile, most Latin American players sign with a major league team at age 16 for a six-figure contract. Only recently did the elite-level Latino players begin receiving seven-figure deals. As a result of both the age restriction and higher signing bonuses in America, teams sign three to four Latin American players for every young African-American athlete. These are simply “very pragmatic business decisions” according to Jimmie Lee Solomon, the MLB executive vice president for baseball operations.
球団経営
あまり議論されない要因として、球団経営上の進化という要因もある。アメリカで育った黒人アスリートは、18歳になるまでMLBドラフトにはかからない。ドラフト1巡目(=50%以上の確率で、どこかの時点でメジャーでプレーするチャンスのある唯一の指名順位)で指名された選手は、平均200万ドルの契約ボーナスを得る。他方、ラテンアメリカの選手は16歳で、6ケタ(six-figure contract)、つまり10万ドル単位の専属選手契約にサインする。近年では、エリートレベルのラテンアメリカプレーヤーに限っては、7ケタ、100万ドル単位の契約を結ぶ。アメリカ国内での年齢制限と高い契約金、その両方の要因の結果として、球団側は若いアフリカ系アメリカ人アスリートと契約するかわりに、3人か4人のラテンアメリカ系選手と契約することになる。これらは、MLBの運営部門の副責任者であるジミー・リー・ソロモンによれば、単に「非常に実利的なビジネス上の判断」だ。
ブログ注:Jimmie Lee Solomon
Jimmie Lee Solomonは、MLBで、人材発掘組織であるベースボールアカデミーをラテンアメリカに設置するプロジェクトを起こしたやり手の人物。ジミー・ソロモンは2010年6月に既にアメリカおよびプエルトリコのベースアカデミーの総括副責任者に転じているが、元記事を書いた人物はそれを認識せず記述している。現在MLBのExecutive Vice President of Baseball Operationsという職にあるのは、元ヤンキース、ドジャース監督のジョー・トーリ
Jimmie Lee Solomon - Wikipedia, the free encyclopedia
Solomon's biggest project is the construction of baseball academies in urban areas.Currently there are academies in Venezuela, Puerto Rico, Dominican Republic and throughout Latin America.


This brings us back to the Rangers, who were well-known to be in dire financial straits in the years leading up to their first pennant in 2010. While the Latin-American players on Texas’ current roster are mainly the product of shrewd trades, the team’s commitment to signing and developing young Latin players is shown in the makeup of the team’s prospects: in both 2010 and 2011, 50% of the Rangers’ top 10 prospects were Latin-born players. Half were white. None were African-American. The Rangers are now generally considered to be among the smartest teams in baseball, and one reason is their harvesting of cheap talent in Latin America while passing over young black players who cost more and are subject to more stringent labor restrictions. As long as this model proves a winner, one can expect it to be mirrored by other organizations, and the number of African-Americans in the game may further decline as a result.
最初のリーグ優勝を遂げた2010年に、非常に切迫した財政難にあったことで有名だったレンジャースについて、あらためて考えてみよう。
テキサスの現在のロスターにいるラテンアメリカ系プレーヤーは、主に賢明なるトレードの成果だが、チームが若いラテンアメリカ系プレーヤーとの契約と育成に力を注いでいることは、2010年と2011年、両方の年度においてチームのトップ10プロスペクトの半分以上が、ラテンアメリカ系プレーヤーで占められていることに、如実に表れている。アフリカ系アメリカ人はひとりもいない。
レンジャーズはいまや、野球界における最も賢い球団と広く考えられているが、その理由のひとつは、ラテンアメリカでコストの安い才能を集める一方で、コストがより高く、また、労働制約条件もより厳格な若い黒人プレーヤーをスルーしていることにある。こうしたチームづくりモデルが勝者であり続ける間は、他球団も真似をするだろうから、野球におけるアフリカ系アメリカ人の減少は、結果的に今後さらに加速するかもしれない。

damejima at 20:42

June 05, 2012

恒例の全米ドラフトが始まった。
13巡目指名のホワイトソックスまでに、既に約半数の6球団 18巡目のドジャースまでに、半数以上の10球団が、高校生を指名今年の大学生のかなり極端な不作ぶりが決定的になった。この不作の年に大学生を1位指名した球団のうち、どこかは確実に泣きを見ることになりそうだ。

ちなみに、最近このブログ一押しのGMダン・デュケットは、1巡目で、復活しつつある古豪ルイジアナの右腕Kevin Gausmanを指名。選手を集める手腕の高さに定評のあるデュケットの指名だけに、不作の年の大学生指名とはいえ、気になるところ。
Draft Day 1: Pick-by-pick selections | MLB.com: News

このMLBの「大学生に対する無関心ぶり」には、今年から始まるドーピングの血液検査も、もちろん関係してるんだろう、と想像している。
ブログ主は、いくらなんでも大学なんだからステロイドが蔓延してないなんて、アメリカ野球について思ったことは、一度たりともない。
近年流行した「大西洋岸エリアの大学生に期待する時代」が永遠に続くなんて思ってる人がいるとしたら、それは非常に笑える(笑)

ハッキリ言わせてもらえば、今後ともアメリカ国内でのステロイド蔓延が続くようなら、アメリカ国内のステロイダーは使いづらくなるだろうし、その一方で、アメリカ国内でステロイド使用が自粛されれば、されたで、アメリカ国内の選手に対する期待は下がっていく、という意味で、どちらにしても、国内の選手がMLBに占める相対的な比重は、ますます軽くなっていくと読んでいる。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2012年4月5日、MLBのロスターの3.5人にひとりは、メインランド(アメリカ大陸の50州)以外の出身選手、というESPNの記事を読む。(出身国別ロスター数リスト付)

シアトル・マリナーズ? さぁね。どうでもいいよ(笑)
マイケル・ピネダと交換に若いヘスス・モンテーロ獲ったのに、わざわざ大学生の、それもキャッチャー指名してるんだから、開いたクチがふさがらないね(笑) 最近のルイジアナやオクラホマの復活ぶりにも、まるで目配りしてないみたいだし、ホント、こんなメディアの評判ばかり気にしてるミーハー球団、どうでもいい(笑)
かつての全米1位ジェフ・クレメントの例でもわかるように、どんな有能な人材だろうと無意味なトレーニングで潰すだけしか能がないロジャー・ハンセンを懲りもせずスタッフに抱え続けてるチームに、キャッチャーをマトモに育てられるわけがない。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:ロジャー・ハンセン



スタンフォードのMark Appelについては2か月も前にツイートしたが、予想通りになった。全米1位と噂され続けたにもかかわらず、結局全米8位でピッツバーグ。いかに若手マニア君たちとメディアの予想がアテにならないかが、よくわかる(笑)
そりゃそうだ。ピッツバーグには申し訳ないが、彼のもともとのコントロールの悪さ、最近のスタンフォードの戦績の低下ぶり、カレッジ・ワールドシリーズ直前のスタンフォードのもたつきぶりと、ランキングのガタ落ちぶり。どこを見ても、好材料なんてなかった。


以下、太字は高校生
1. Houston Astros: SS Carlos Correa, Puerto Rico Baseball Academy

2. Minnesota Twins: OF Byron Buxton, Appling County HS (Ga.)

3. Seattle Mariners: C Mike Zunino, Florida

4. Baltimore Orioles: RHP Kevin Gausman, LSU

5. Kansas City Royals: RHP Kyle Zimmer, San Francisco

6. Chicago Cubs: OF Albert Almora, Mater Academy (Fla.)

7. San Diego Padres: LHP Max Fried, Harvard-Westlake HS (Calif.)

8. Pittsburgh Pirates: RHP Mark Appel, Stanford

9. Miami Marlins: LHP Andrew Heaney, Oklahoma St.

10. Colorado Rockies: OF David Dahl, Oak Mountain HS (Ala.)

11. Oakland Athletics: SS Addison Russell, Pace HS (Fla.)

12. New York Mets: SS Gavin Cecchini, Barbe HS (La.)

13. Chicago White Sox: OF Courtney Hawkins, Carroll HS (Texas)

14. Cincinnati Reds: RHP Nick Travieso, Archbishop McCarthy HS (Fla.)

15. Cleveland Indians: OF Tyler Naquin, Texas A&M

16. Washington Nationals: RHP Lucas Giolito, Harvard-Westlake HS (Calif.)

17. Toronto Blue Jays: OF D.J. Davis, Stone County HS (Miss.)

18. Los Angeles Dodgers: SS Corey Seager, Northwest Cabarrus HS (N.C.)

19. St. Louis Cardinals: RHP Michael Wacha, Texas A&M (Compensation for A. Pujols - LAA)


20. San Francisco Giants: RHP Chris Stratton, Mississippi St.

21. Atlanta Braves: RHP Lucas Sims, Brookwood HS (Ga.)

22. Toronto Blue Jays: RHP Marcus Stroman, Duke (Compensation for T. Beede - unsigned)

damejima at 09:52

Play Clean
日付表記はすべて
アメリカ現地時間です

Twitterボタン

アドレス短縮 http://bit.ly/
2020TOKYO
think different
 
  • 2014年10月31日、PARADE !
  • 2013年11月28日、『父親とベースボール』 (9)1920年代における古参の白人移民と新参の白人移民との間の軋轢 ヘンリー・フォード所有のThe Dearborn Independent紙によるレッドソックスオーナーHarry Frazeeへの攻撃の新解釈
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年6月1日、あまりにも不活性で地味な旧ヤンキースタジアム跡地利用。「スタジアム周辺の駐車場の採算悪化」は、駐車場の供給過剰と料金の高さの問題であり、観客動員の問題ではない。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年6月29日、『父親とベースボール』 (1)星一徹とケン・バーンズに学ぶ 『ベースボールにおける父親の重み』。
Categories
ブログ内検索 by Google
ブログ内検索 by livedoor
記事検索
Thank you for visiting
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

free counters

by Month