TB ジョン・マドン タンパベイ・レイズ

2014年11月2日、ジョン・マドンのカブス監督電撃就任をタンパベイ側が「タンパリング」と考えているという話は、思ったより広範囲で報道されていた。
2014年9月29日、岩村明憲の 「左中間」。
2013年8月1日、タンパベイ投手陣の共通した持ち球である「チェンジアップ」に狙いを絞って、ジェレミー・ヘリクソンを打ち崩したアリゾナ。粘りこめばストライク勝負してくれるタンパベイ投手陣。
2013年7月29日、かつてColumbus ClippersのピッチングコーチだったNeil Allenが支えるタンパベイ投手陣と、ヤンキースのマイナーとの差。イチローが投手の宝庫タンパベイ・レイズから打った4安打。
2013年4月23日、9回表2死満塁から、イチロー得意の「クローザーの初球打ち」。フェルナンド・ロドニーから決勝2点タイムリーで、ヤンキース連敗ストップ。
2011年6月3日、打者のスカウティングを全く頭に入れてなさそうに見えるタンパベイのJames Shields。

November 03, 2014

オクタゴンのアラン・ニーロが代理人をつとめるジョン・マドンの電撃的なカブス監督就任に浮上している「タンパリング疑惑」について、MLBの内部動向に地球上で最も詳しいはずのFoxケン・ローゼンタールはたくさんの皮肉と溜息とともに、こんなことを書いている。彼のこういう落胆したトーンをみるのは、ライアン・ブラウンのドーピング記事以来だ。
Yeah, it’s a little dirty. Baseball is a little dirty. Life is a little dirty.(中略)
The Rays probably are right. The people bothered by Maddon’s conduct definitely are right. But while I have sympathy for both the Rays and Renteria, this is the way baseball operates. Actually, it’s the way most large businesses operate. The end justifies the means, however unseemly those means might be.
野球には少しだけ汚れた部分があり、それは人生にもあるが、これはちょっとダーティーだ。(中略)
レイズはたぶん正しい。マドンの契約で迷惑こうむった人々も、当然正しい。しかしながら、レイズと(カブスを首になった)レンテリアに同情を禁じえない一方で、これが野球の仕事というものだ、とも思う。実際それは大半のビッグビジネスのやり方でもある。達成した結果がその手段を正当化するとはいうものの、その手段とやらの見苦しさときたら。
So, does this Joe Maddon-to-Cubs deal feel icky? Deal with it | FOX Sports

奥歯にモノがはさまったような遠回しなコメントだ(苦笑)結局のところ、ローゼンタールが「アラン・ニーロのいつものやり方」を批判しているのか、ビジネスではよくある話と追認しているのか、はっきりしない。たぶん彼自身にもわからないのだろう。

だが、それより門外漢にとって大事なことは、MLB最大の事情通の彼が、この件の存在を認め、おおやけに記事にした、という事実だ。
例えば彼は「城島問題」についても、日本ではその存在すら「ないもの」とまだフタされていた時点でも、それを確証させるだけの取材も加えた上で批判記事を書いた。また、2011年にチーム内で苦しい立場に置かれて移籍すべきかどうか悩むマイケル・ヤングの本音を引き出す記事を書いたのも、ローゼンタールだ。他の記者とは情報の精度が違う。
参考記事:2008年6月17日、FOXローゼンタールは城島をオーナーだけのご贔屓捕手と皮肉った。 | Damejima's HARDBALL
参考記事:2011年2月25日、エイドリアン・ベルトレの怪我で、ますますこじれるマイケル・ヤングの移籍問題。 | Damejima's HARDBALL

つまり、ローゼンタールの日頃の情報の正確さ、速さから判断する限り、
カブス監督就任におけるジョン・マドンのタンパリングは「ほぼ存在する」、「クロと推定される」ということだ。

この件、報道しているのはなにもローゼンタールだけではない。他にも、CBS、Hardball Talk、スポーツイラストレイテッド、ESPNといった、MLBに関わるナショナル・メディアの大半がこの件について記事やツイートを書いていて、報道レンジは思ったよりはるかに広く、単なるゴシップという域を越えている。このことも、この件が「クロ」であるという推定に確かさを与える根拠だ。
Joe Maddon's agent denies tampering charges in jump from Rays to Cubs - CBSSports.com
Rays considering filing tampering charges against Cubs for Joe Maddon situation | HardballTalk
Joe Maddon hired as Chicago Cubs manager, Tampa Bay Rays may file tampering charges - MLB - SI.com
追記:MLBがカブスのタンパリング疑惑を調査 via NY Post MLB probing Cubs for tampering with Maddon | New York Post

代理人アラン・ニーロ、タンパリングとくれば、当然、2009年のダメ捕手城島と阪神の契約を思い出さないわけにはいかない。

当時オリックス監督だった元阪神監督の岡田彰布氏が、移籍先がまだ誰にも見当がつかなかった時点でいきなり「行き先を知っている」とコメントしたのには、びっくりしたものだ。
彼は「何日から話し合いになるという話じゃない。その前に話しとったんやろ!何年か前に、そんな話を聞いている。(オレも)阪神におったわけやから」と語ったが、城島の移籍先はその後「岡田発言どおりの阪神」に決まり、移籍交渉の「タイミング」自体が、タンパリングそのもの、つまり、城島の自主的なマリナーズ退団以前から交渉が行われていたことは決定的になった。
参考記事:2009年10月27日(日本時間)、まさにスポニチ「事前」報道と岡田氏の指摘どおり、城島、阪神入団決定。 | Damejima's HARDBALL

この件がタンパリングとして事件化しなかったのは、マリナーズ自身が城島退団を望んでいたためMLB機構に提訴しなかったからに過ぎない。タンパリングはルール上、元の所属球団が提訴しないかぎり、事件化に至らない。(タンパリングについての野球協約は、2008年以前と2009年以降で大きく異なる。下記のリンク先記事での解説を参照のこと)
参考記事:2009年10月27日、元阪神監督岡田氏の指摘する「城島事前交渉契約疑惑」簡単まとめ(結果:まさにスポニチの「事前」報道と岡田氏の指摘どおり、城島、阪神に入団決定) | Damejima's HARDBALL


アラン・ニーロの所属するオクタゴン(彼がベースボール部門の責任者)は、2000年代以降シアトル・マリナーズに数多くの契約選手を送りこんできた。
代表格はフェリックス・ヘルナンデスで、他に、ランディ・ジョンソンのトレードでシアトルに入団したカルロス・ギーエン (1998-2003)、城島(2006-2009)、現ヤクルトのバレンティン (2007-2009)、ズレンシックのお気に入りのフランクリン・グティエレス(2008〜)、ダグ・フィスターの安売りトレードでデトロイトに行ったデビッド・ポーリー(2010-2011)、城島の後釜捕手のひとりジョシュ・バード(2010-2011)などがいる。(近年ではハンベルト・キンテーロもオクタゴン。彼も捕手)
日本人にも契約選手が多い。「阪神関連」だけでも、城島以外に、元カブスで現阪神の福留、カブス藤川球児の後釜クローザーとして阪神に入団した小林宏之。他に現カブスの和田毅もオクタゴン。福盛、田口、建山など多数。

アラン・ニーロの、シアトル、カブス、阪神をつなぐ「不可思議なライン」には、なにやらよくわからない「繋がり」がありそうにはみえる。(そういう意味でいうと、和田毅も日本復帰後は阪神入団が「暗黙の規定路線」かもしれない)
かつてボストンのジャスティン・ペドロイア、ジョン・レスター(現在はオークランド)もかつてはオクタゴンを代理人にしていたが、理由はまったくわからないが、テオ・エプスタインがカブスに電撃的に去った後、代理人はACESに変更されている。
そういうところから、ニーロの「商売のやり方」は、代理人とチームというパブリックなものより、言いたいことはわかると思うが、ニーロとGM個人との「濃密な関係」からくるものかもしれないのだ。


いずれにせよ、タンパベイ・レイズがジョン・マドンの件をMLB機構に提訴して訴えが認められた場合、カブス側が人的補償をすることになる公算が高い。ジョン・マドンの損失にみあった「タイプAの選手」がひとり、カブスからレイズに移籍することになるだろう。

damejima at 08:45

September 30, 2014

2013年2月沖縄、ヤクルト春季キャンプ。愛弟子復活を願う元ヤクルト監督若松勉岩村明憲にこう言った。
「フリー打撃では左中間に打て」
師からみた彼の長所は「左中間への強い打球」だった。師として、そして、彼らしいバッティングの状態になんとか戻してやりたいと願う親心からのアドバイスだった。



2008年10月3日、タンパベイ時代、トロピカーナ・フィールドでのALDS(ア・リーグ地区シリーズ)第2戦。カウント1-1からのストレート系を左中間へ運んだ値千金の逆転2ラン。5回裏に1-2と負けていたタンパベイが、この2ランで逆転してそのまま逃げ切り、対戦成績を2勝0敗としてALDS勝ち抜けに王手をかけたという、価値ある一発。
ピッチャーは、当時ホワイトソックス(現在はトロント)のエースだったオールスター5回出場の名左腕、マーク・バーリー
Game data:October 3, 2008 American League Division Series (ALDS) Game 2, White Sox at Rays - Baseball-Reference.com



2009年8月30日、これもタンパベイ時代、コメリカパーク。初球の92マイルのストレート系を打ったソロホームラン。ピッチャーはデトロイトの不動のエース、オールスター6回出場の剛腕右腕ジャスティン・バーランダー
バーランダーはこのゲームに勝って15勝目。19勝9敗という素晴らしい成績でシーズンを終え、同年のサイ・ヤング賞はザック・グレインキーに譲ったものの、サイ・ヤング賞投票3位に入った。
Game data:August 30, 2009 Tampa Bay Rays at Detroit Tigers Box Score and Play by Play | Baseball-Reference.com



2010年4月13日、ピッツバーグ時代のAT&Tパークでのホームラン。カウント2-1からの4球目、ストレート系。ピッチャーは、サンフランシスコの2002年ドラフト1位、オールスター3回出場の好投手、右腕マット・ケイン
Game data:April 13, 2010 Pittsburgh Pirates at San Francisco Giants Play by Play and Box Score | Baseball-Reference.com

岩村のMLB時代の動画リスト:Search Results | MLB.com Multimedia | MLB.com


2010年ピッツバーグに移籍した岩村は、同年4月付けの記事でこんなことを言っている。
ツーシーム対策のために、グリップ位置を変えた」
出典:岩村明憲語る「弱いチームは小差で負ける」 [メジャーリーグ] All About
このインタビュー、正直にいうなら、前向きな印象よりむしろ、「MLB投手の2シームに手を焼いている」という「動く球に対する岩村の苦手意識」のほうが伝わってくる。

そこでFangraphのデータをみてみる。案の定、ピッツバーグ移籍後の岩村に対してピッチャーが投げた球種は、タンパベイ時代に多かったシンプルな速球が大きく減り、かわりに、シンカー2シームが急増している。
Akinori Iwamura » Statistics » Batting | FanGraphs Baseball


彼の出場ゲームを年間100試合とか見た上での判断ならともかく、彼の試合をちゃんと見ていないブログ主が偉そうにモノを言うわけにはいかないのだが、上の3つの動画がどれも「ストレート系を打ったホームラン」であることからも推察できるように、各種データから普通に判断するなら、MLB時代の彼の「狙い」は、「得意な4シーム」、特にアウトコースに狙いを絞っていたこと、「外にボールを呼び込んで、柄の長い鎌で遠くの雑草を刈りとるようなイメージで、バットでボールを強烈にひっぱたいて、強い打球をレフト方向に打つ」という彼独特の狙いがあったこと、そのために「スイングスピードの速さ」や「強いスイング」に非常にこだわっていたこと、などがうかがえるように思える。

ただ、カーティス・グランダーソンやプリンス・フィルダーなどについて何度も書いてきたように、スカウティングの発達している近年のMLBでは、「打席に入る前に狙いを絞り切っているタイプの打者の意図」は、遠からず投手側にバレる。
おそらく岩村明憲も、MLBを経験して数シーズンたってから、「ストレートに滅法強い」という彼のバッティングの長所がスカウティングされ、それ以降、急速に増えた2シームや高速シンカーなどの「球速があって、ストレートに見えるが、最後に鋭く動く球種」に悩まされるようになり、強いライナー性のフライを打ちたい彼自身の意図に反して、数多くのゴロを打って悪戦苦闘する日々があったに違いない。


しかし、だ。

そんな細かいこと、どうでもいい。
なぜなら、こんな個性ある選手を嫌いになんかなれないからだ。

「左中間」にこだわりぬいた打者人生。
それが岩村という個性だ。ヤクルトが彼と再契約しないと発表したからには、彼の今後がどうなるか、たしかに予断を許さない。だが、来シーズン、彼がどこでプレーしようと、彼らしい野球人生の成功と成就を願っている。

2009年3月23日、ドジャースタジアムでの第2回WBC決勝、延長10回表の1死2塁の場面で、この試合8番にいた岩村が放ったレフト前ヒット(次打者イチローが決勝の2点タイムリー)が忘れられない。
あれがライト前でなく、『レフト前』だったのは、ずっと『左中間』にこだわりぬいてきた彼独特のスイングの賜物だったのさ。偶然なんかじゃないんだぜ?」と、遠い将来、岩村のことを知らない若い野球ファンが増えた時代になったら教えてやりたいと思っている。

damejima at 12:49

August 02, 2013

イチローが7月29日タンパベイ戦で打った4安打に関連して、投手力によって首位争いに浮上したタンパベイでは、マイナーであるDurham Bullsで集中的に育て上げてきたピッチャーたちが「共通して、ストレートとチェンジアップを持ち球にしている」こと、そして「配球面でも、ストレートとチェンジアップ(またはカーブ)による緩急という、共通した特徴をもっている」ことを書いた。
Damejima's HARDBALL:2013年7月29日、タンパベイとヤンキースのマイナーの差。イチローが投手の宝庫タンパベイ・レイズから打った4安打。


トロピカーナで行われた7月31日のゲームで、アリゾナが、そのDurham Bulls育ちのジェレミー・ヘリクソン先発のタンパベイを、7-0という一方的スコアであっさり退治してみせたので、そのゲームの中身をちょっと確かめておきたくなった。
Arizona Diamondbacks at Tampa Bay Rays - July 31, 2013 | MLB.com Classic

以下に、このゲームで登板したタンパベイ投手のうち、Durham Bullsで育て上げられてきた生え抜き投手(または他チームでドラフトされたが、タンパベイでメジャーデビューした投手)がアリゾナに打たれたヒットの球種を箇条書きにしてみた。
投手:ジェレミー・ヘリクソン
チェンジアップ(二塁打)
カーブ
カットボール(タイムリー)
チェンジアップ(2ランHR)
チェンジアップ
4シーム
チェンジアップ

投手:アレックス・トーレス
チェンジアップ

投手:ジェイク・マギー
4シーム(タイムリー)


ヘリクソンが「チェンジアップ」を打たれた2本の長打から生まれた序盤の失点が、このゲームの流れを決定づけているのが、なかなか面白い。(ジェイク・マギーは4シームで押すタイプ)
イチローは「チェンジアップをカットしながら粘り、最終的にタンパベイ投手陣が低めの4シームに頼るのを待って、4安打した」わけだが、アリゾナ打線はちょっと方針が違っていて、タンパベイ投手の特徴である「チェンジアップ」に焦点を絞って(特にジェレミー・ヘリクソンを)打ち崩しているわけだ。

2013年7月31日 ARI vs TB ロス二塁打 投手ヘリクソン1回表
プラド 二塁打
投手ヘリクソン
球種:チェンジアップ


2013年7月31日 ARI vs TB チャベス2ラン 投手ヘリクソン3回表
チャベス 2ランHR
投手:ヘリクソン
球種:チェンジアップ


それにしても、興味深いのは、ヘリクソンがバッターに粘られても、粘られても、「徹底してストライクゾーン内で勝負しようとしていて、明らかなボール球を投げていないこと」だ。
これだけ様々な球種を、あらゆるカウントでストライクゾーンに投げられるできる能力は、タンパベイの誇る投手陣に共通する「コントロールの良さ」「基本性能の高さ」を示しているわけだが、これは同時に、彼らのある種の「融通の無さ」と、「ある種の弱点」を示してもいる。

イチローの4安打の記事でも、こんなことを書いた。
ヤンキースのブルペン投手は「やたらとボール球のスライダーを振らせたがる」わけだが、どうやらタンパベイのピッチャーは「あくまでストライクを積極的にとりにいくピッチング」が信条のようだ。


まぁ、これはあくまで想像でしかないが、ロジカルなデータ分析野球の大好きなタンパベイ監督ジョー・マドンとしては、ピッチャーの出す四球に代表されるような、「無意味なランナーを出して、自らピンチを招く行為」がとことん許せないのではないか、と思うのだ。
だからこそ、タンパベイでは、自軍のバッターには「たとえ低打率になっても構わないから、長打と四球を推奨するようなOPS的バッティング」を強要するのだろうし(その結果、貧打に陥っているわけだ)、逆に自軍の育てる投手陣に対しては「シングルヒットは構わない。だが、ホームランと四球だけは、なにがなんでも絶対に阻止しろ」というような「教育」を、マイナーで若い投手たちに徹底して教え込んでいるのではないか、と思うのだ。


だからこそ、アリゾナ戦もそうだが、対戦するバッターにしてみると、ある意味で「タンパベイ投手との対戦は楽だ」、といえる面が出てくる。
なぜって、ジョー・マドンの発明したロボットともいえるような「どこを切っても金太郎的な共通性」をもつ若いタンパベイ投手陣は、どんなカウントであっても、彼らがマイナーで鍛え上げられたコントロールの良さも手伝って、「打者に対して絶対に逃げ腰にならず、必ずストライクゾーン内で勝負してくれる」からだ。
これは、(能力のないバッターでは凡退の山を築いてしまうだろうが)才能あるバッターにしてみれば、ありがたいことだ。苦手な球種、打てそうになるコースをカットする技術さえあれば、「タンパベイの投手との対戦では、粘りこみさえすれば、ピッチャーはストライクを投げてくれるので、安心してバットを出せる」という面があるからだ。


野球という「駆け引きのスポーツ」では、投手はコントロールが良ければそれでいい、とか、ストライクゾーンで勝負していればそれで万能とか、いえるわけではない。いくらタンパベイにいい投手が揃っていても、対応策は必ずある。

damejima at 01:32

July 30, 2013

タンパベイ投手陣のメジャーデビューは、大半が2011年に集中している。このことはタンパベイ・レイズが生え抜きの若い投手たちの才能を、意図的かつ集中的に開花させ続けてきたことを示している。
2011新人王ジェレミー・ヘリクソンマット・ムーアアレックス・コブジェイク・マギー。すべて2005年以降の数シーズンのドラフトで獲得した選手たちばかりだ。他にクリス・アーチャーアレックス・トーレスにしても、ドラフトこそ他チームだが、メジャーデビューはタンパベイなので、まぁ、タンパベイ育ちといっていい。
若い才能をいっこうに開花させることができないで安物買いばかりしているヤンキースと比べると、正直な話、2つのチームの選手育成能力には既に雲泥の差がついている。


いまのタンパベイは、デビッド・プライスの影が薄くなるほどの投手王国ぶりで地区首位を争っているわけだが、これが誰の功績なのかは、このチームに詳しくないので、よくは知らない。
投手王国ができあがる原動力は、たいていの場合、ピッチングコーチに有能な人材がいる場合が多いわけだが(あるいは投手コーチ出身の監督)、今のタンパベイのピッチングコーチは、とりあえずヒューストン・アストロズが2005年にワールドシリーズ進出したときのピッチングコーチであるJim Hickeyだ。
2005年当時のアストロズの先発3本柱は、ロイ・オズワルト、ロジャー・クレメンス、アンディ・ペティットだが、うち2人がステロイダーなだけに、「ジム・ヒッキーが投手コーチとして有能だから、ヒューストンが投手王国だった」と断言するわけにはいかない気がする。


むしろ気になるのは、タンパベイのマイナー、Durham Bullsの育成能力の高さと、そこでピッチングコーチをやっているNeil Allenの存在だ。


簡単にいってしまうと、「今のタンパベイにとってのDurham Bulls」は、「かつてのヤンキースにとってのColumbus Clippers」なのだ。

ヤンキースという「老朽化しつつあるビルディング」で、長期間にわたってチームの屋台骨を支える「構造材」になってきたのは、バーニー・ウィリアムズのほか、リベラ、ジーター、ポサダ、カノー、ペティット、王建民などの「1990年代の末から頭角を現した、当時の若い才能」なわけだが、彼らを育ててメジャーに送り出し続けたのは、2006年までヤンキースの傘下だったColumbus Clippersだ。
ジーターが最も数多くClippersのゲームに出たのは1995年の123試合だが、当時のヤンキース監督はバック・ショーウォルター。この年が彼のヤンキース監督としての最終年で、ショーウォルター時代のマイナーの若手が、「ショーウォルター後」のヤンキース黄金時代を作った。(ちなみにジョー・トーリ時代の1999年から2001年までClippers監督だったのは、元・日本ハム監督で、現ドジャースのベンチコーチ、トレイ・ヒルマンだったりする。どうりで、マッティングリーがベンチコーチに据えるわけだ)
資料:List of Columbus Clippers managers - Wikipedia, the free encyclopedia

一方、タンパベイは、マイナーであるDurham Bullsで、ゾブリスト、ロンゴリア、ジェニングス、ロバトンなどの野手、ムーア、ヘリクソン、コブ、トーレスなどの投手と、現在のタンパベイの主力となる選手の大半を自前で育て上げてきた。
つまり、いってみれば、かつてのヤンキースがColumbus Clippersの輩出した若い選手によって黄金期を形成したように、今のタンパベイは若手の登竜門であるDurham Bullsによって強化が図られているわけだ。

なぜヤンキースが1979年から2006年まで、約30年間の長きに渡って傘下に置いてきたColumbus Clippersを手放してしまったのか、理由は知らないが、「1990年代代末のColumbus Clippersにあったような育成能力」は、いまでは「Durham Bullsに、お株を奪われている」といっても過言ではない。
近年ヤンキースとタンパベイの地区順位が急速に逆転しつつある原因も、近視眼的なトレードの成功不成功などという単純な話ばかりではなくて、マイナーの育成能力の差が原因になって起こる「生え抜き選手の実力差」がそのまま「チームの実力差」になって表われてしまっている部分が大いにあると考えないわけにはいかない。
資料:New York Yankees Minor League Affiliations - Baseball-Reference.com


Durham BullsでピッチングコーチをやっているNeil Allenは、かつてヤンキース傘下だった時代のColumbus Clippersのピッチングコーチだった人で、王健民に彼のトレードマークとなったシンカーを教えたのも、この人だ。また彼は、2000年にStaten Island Yankeesのコーチ、2005年にはヤンキースのブルペン投手コーチをつとめている。
つまり、ヤンキースのマイナーの投手コーチが、今はタンパベイのマイナーの投手コーチ、というわけだが、単なる偶然とも思えない。かつてヤンキースの若い才能あるピッチャーを育てたのがNeil Allenだとすれば、彼に投手育成能力があるのはもとより、ことヤンキース投手陣に関しては「配球のクセからなにから、あらゆることを知り尽くしている」彼が、「情報源」として機能していると考えないわけにはいかない。こんな人物がライバルチームにいたんでは、ヤンキース投手陣の「手の内」がタンパベイ・レイズの内側でデータ的に丸裸にされているとしても、まったく驚かない。
資料:Chien-Ming Wang Has A Secret (cont.) - Albert Chen - SI.com


まぁ、余談はさておき、所用で見られなかった7月28日のイチローの4安打を、Durham Bulls育ちのタンパベイのピッチャーたちの配球パターンと照らし合わせながら、データで振り返ってみたい。




まず大前提として抑えておかなくてはいけないのは、「タンパベイ投手陣の持ち球と配球パターンには、ひとつの共通性がある」ことだ。
彼らの大半は、「速度と重みのあるストレート系」と「チェンジアップ(あるいはカーブ)」というコントラストのある持ち球で、アクセントの強い緩急を使ってくる
あくまで想像だが、彼らが同じ持ち球と配球パターンをもつのは、おそらくタンパベイの若い投手がDurham Bullsという「同じ場所」で育てられていることと関係があるだろう。
それはともかく、基本的にどの投手も「ストレートとチェンジアップによる緩急」を使いたがることは、タンパベイと対戦するときに必ず頭に入れておかなくてはならない基本事項だ。


イチローの4安打は、面白いことに、以下の打席データでわかる通り、まったく共通したストライクを打っている。どれもこれも全部『真ん中低めのストレート系』を打っているのである(第4打席はアウトローだが)。
データで見るかぎり、ピッチャーたちは「自分で意図してそこに投げた」というより、「ファウルでチェンジアップをカットし続けながら、自分の打ちたいストレートをジッと待つイチローに、まるで誘導されるかのように、真ん中低めのストライクを投げさせられた」というほうが正確だろう。これだから、野球は面白い。

2013/07/28 イチロー4安打第1打席(マット・ムーア)第1打席
投手:ムーア
2死2塁
イチロー第1打席で先発ムーアは、アウトコースに、1球おきに4シームとチェンジアップを投げ分けている。この球種の使い方は、「典型的なタンパベイの投手の配球パターン」だ。
2013年版のムーアの球種をみると、前年までと比べ、カーブ、チェンジアップの量が増えて、むしろストレート系が減りつつある。ムーアの「生命線」は、徐々にだが、「変化球」のほうにシフトしつつあるかもしれない。もしかすると、ムーアはチェンジアップでイチローをうちとりたいと考えていたかもしれない。

生でゲームを見ていないのが、かえすがえすも残念だが、第1打席のイチローが4球目のチェンジアップを空振りするのを見て、なぜムーアが「変化球をもう1球続けてみよう」と考えなかったか、そこが不思議だ。マイク・ソーシアならチェンジアップの後に、ボールになるインローのカーブを、たとえワンバウンドしてもいいから投げさせそうな気がする。

「2球目のチェンジアップ」がワイルドピッチになってしまったことで、
おそらくムーアは、立ち上がりの変化球のコントロールに自信がなくなったのだろう。加えて、得点圏にランナーが進んでしまったことで、ムーアのマインドに「変化球勝負への気後れ」が生じていたのは、たぶん間違いない。
「何を言ってるんだ。4球目にもチェンジアップを投げているじゃないか」という人がいるかもしれないが、それはむしろ逆で、「4球目のチェンジアップは、本来はボールにして空振り三振させるつもりだったのが、意図に反してストライクゾーンに行ってしまい、イチローに強振されて、ビビッた」と考えるほうが、辻褄が合う。
タンパベイのピッチャーの大半に「ストレートか、チェンジアップか、という球種選択をするクセ」があることを考えると、ここでは打者は「ストレート」に球種を絞ることができる。

2013/07/28 イチロー4安打第2打席(マット・ムーア)第2打席
投手:ムーア
2死ランナーなし
第1打席でアウトコースを攻めてイチローにタイムリーを浴びてしまったムーアは、第2打席ではインコース攻めに方針を変えた。
3球目がファウルで、「カウント1-2」。このカウントは、以前書いたことがあるように、イチローのカウント別打率では最も数字が悪い。
ここで4球目、ムーアはインハイに、彼の持ち球としては珍しく「スライダー」を投げている。この球の「意味」が問題だ。おそらく、3球目のスライダーをストライクにするつもりは最初からなく、一度インコースでのけぞらせておいて、次の球をアウトローにでも投げる布石と考えるのが普通だろう。
「ストレートか、チェンジアップか」というタンパベイ投手の「配球グセ」からして、5球目には、低めのストレートかチェンジアップが来るのは、ほぼ間違いない。

2013/07/28 イチロー4安打第3打席(アレックス・トーレス)第3打席
投手:トーレス(交代直後)
先頭打者
タンパベイの監督ジョー・マドンは、このイニングの頭から有能なセットアッパー、アレックス・トーレスをリリーフさせた。
彼も、ムーアやヘリクソンと持ち球はまったく変わらない。配球の基本パターンは「ストレートか、チェンジアップか」だ。トーレスはインコースを続けて、あっさりイチローの苦手な「カウント1-2」に追い込んだ。
Durham Bullsでコントロールを改善してもらったトーレスは、ここから真ん中低め、アウトロー、インロー、アウトハイと、丁寧にコーナーに投げ分けた。だが、イチローは徹底して「チェンジアップをカット」して、「ストレートの見極め」にかかっている。
タンパベイの投手の基本的な配球方針が「ストレートか、チェンジアップか」であるなら、「チェンジアップを徹底的にカットして、ストレートに絞るバッティング」は非常に的確な対応だ。やがてトーレスは投げる球のなくなってしまい、判で押したように、ムーアが既に2本のヒットを打たれている「真ん中低めのストレート」を投げてしまうことになる。

2013/07/28 イチロー4安打第4打席(ジェイク・マギー)第4打席
投手:マギー(交代直後)
先頭打者
ジョー・マドンは、またしてもイチローの打席の前にピッチャーを変えてきた。こんどの投手は、球威のあるスピードボールを投げるジェイク・マギーだ。
彼はムーアやトーレスと持ち球が少し違っていて、4シームを主体に、今シーズンからは2シームを多く混ぜるようになってきている。だが、イチロー第4打席でのマギーは、その2シームを使わず、4シームだけで押してきた。

ひとつ、よくわからないのは、イチローが第4打席で「初球のほぼ真ん中の4シーム」をあっさり見逃していることだ。
まぁ、イチローが初球を見逃すこと自体はよくある光景ではあるわけだが、この打席では最初の3球を振らず、またしてもイチローの苦手な「カウント1-2」に追い込まれている。5球目にしても、アンパイアによってはストライクコールされても不思議ではない球だが、これも振ってない。
ピッチャー側からすると、追い込んでおいてボールになるスライダーや2シームを振らせるという、よくある配球パターンを使ってもよさそうなものだが、ジェイク・マギーがそういう気分にならなかった理由はよくわからない。ヤンキースのブルペン投手は「やたらとボール球のスライダーを振らせたがる」わけだが、どうやらタンパベイのピッチャーは「あくまでストライクを積極的にとりにいくピッチング」が信条のようだ。
イチローはアウトローのストライクを、ヘッドをきかせて、ものの見事にセンターに弾き返した。


こうして4つの打席を並べてみると、ジョー・マドンとタンパベイ・バッテリーが、イチローに対して、タンパベイ投手陣の得意な緩急を使った配球、2度の投手交代、ストライクで押していくピッチングで、必死にイチローの苦手な「カウント1-2」を作り続けて、力ずくで抑え込みにかかっていたことが、よくわかる。

まぁ、ジョー・マドンもこれで、ちょっとは懲りただろう(笑)次回の対戦では少しはマイク・ソーシア風にボール球を振らせにかかってくるかもしれない。楽しみだ。

damejima at 02:00

April 24, 2013



フロリダでのタンパベイ第2戦、2-2で迎えた同点の9回表、2死満塁のチャンスに、イチローが、タンパベイの右腕クローザー、フェルナンド・ロドニーの初球、アウトコースの99マイルの2シームを、センター前にライナーで弾き返し、決勝点となる2点タイムリー。
今シーズン、ヤンキースは3連敗を一度も喫していないわけだが、このゲームを前に2連敗してしまい、このゲームも、1-2と、1点リードされて、タンパベイ先発デビッド・プライスが8回表になってもまだ投げているという劣勢にあった。
ちなみに8回表に同点にした場面も、1死ランナー無しからイチローがライト前ヒットで出塁し、次のニックスとのエンドランで、当たりの弱いレフト前ヒットで思い切ってサードに進塁したイチローの好走塁からきている。(ガードナーのクレバーな内野ゴロで生還)

今日の活躍は、イチローの動向にやきもきしているファンの胸をスカッとさせたことだろう。(もちろん、このブログは何も心配してない(笑) たぶんイチローはいま「右足のつきかた」を変えようとフォームをいじっている最中(あるいは不調でフォームがバラついている最中)だろうと思うからだ。数年前なら、スイングを始動するとき、投手にイチローの背番号がハッキリ見えていた。つまり、当時は右足を今よりずっと「クローズ」というか、サード側に向けたまま踏み出していた。今は、昔よりずっと「オープン」というか、セカンド方向に向けて踏み出している。2点タイムリーのシーンで、右足の爪先がマウンド方向を向いているのが、その証拠)
New York Yankees at Tampa Bay Rays - April 23, 2013 | MLB.com Gameday


8回表のヒットは、左腕デビッド・プライスから。左投手からのヒットだから余計に意味がある。
また、9回の2点タイムリーは、ドミニカをWBC初優勝に導いたMLB屈指のクローザーのひとり、フェルナンド・ロドニーの「典型的なクローザー配球」を打ったタイムリーだから、これも価値がある。


クローザーと対戦するイチローが早いカウントから打って出るときは、たいてい相手投手の配球の読みに自信のあるときだ。
いつぞやマリアーノ・リベラから打ったサヨナラ2ランも、「初球」を打った。あのときのリベラの初球カットボールは、2球目に全く同じコースに4シームを投げて、イチローに内野ポップフライでも打たせようとする布石だったはず。
マリアーノ・リベラの場合は、いままで何度も書いたことだが、打者に打球を外野に飛ばされたくないケースで、きわどいコース(例えば左打者のインコース)に、カットボールと4シーム(あるいはその逆、4シーム、カットボールの順に)続けて投げることで、打ち損じを誘ってくる。
参考記事:Damejima's HARDBALL:2011年5月28日、アダム・ケネディのサヨナラタイムリーを生んだマリアーノ・リベラ特有の「リベラ・左打者パターン」配球を読み解きつつ、イチローが初球サヨナラホームランできた理由に至る。

ロドニーは、イチローの前で1死満塁で打席に入ったクリス・スチュアートに、「初球インハイの2シーム」に続けて「同じコースの4シーム」を投げることで、ファーストへの小飛球と言う「満塁のケースでの理想的な凡打のひとつ」を打たせることに成功している。

そもそもクローザーの配球パターンは多くない
例えばパペルボンやバルベルデ、藤川球児なら、ストレートで追い込んでスプリットか高めの釣り球。リベラならカットボールとストレート。ロドニーなら2シームと4シームだ。

そして、一度打者をうちとることに成功したクローザーは、次打者でも同じ配球を使ってくることも少なくない。


「同じコースに、カットボールのような、ほんの少し変化する速球系と、4シームを続けて投げることで、バッターに『打ち損じ』させる配球」というのは「クローザー特有の典型的な配球パターン」のひとつだが、こうした「クローザー特有の配球パターン」を早いカウントで打ちのめすのは、昔からイチローの得意技だ。
たぶん、イチローは、自分の前に打席に入ったスチュアートにロドニーが投げた球がどれもシュート回転していることを脳裏に焼き付けて打席に入ったことだろう。

damejima at 20:26

June 04, 2011

ちょっと書いていて気が重くなるような記事を書いたばかりなので、ちょっと気ばらしに、昨日のタンパベイの先発、James Shieldsのことでも書いてみる(笑)

ボルチモアのジェレミー・ガスリーが、好投手なのに、やたらホームランを打たれるタイプの投手なことを書いたばかり(http://blog.livedoor.jp/damejima/archives/1599392.html)だが、タンパベイのJames Shieldsも、防御率2.77で、ア・リーグ防御率ランキング8位、WHIIPも1.04でランキング10位というのに、その一方ではガスリーと並んで、ア・リーグで最もホームランを打たれている投手3人のひとりでもある。(ほかの2人は、カンザスシティのルーク・ホッチェバー、テキサスのコルビー・ルイス
Major League Baseball Stats: Sortable Statistics | MLB.com: Stats

また、今年29歳の彼は、20代の現役投手の中で最もホームランを打たれている投手3人のうちのひとりでもある。(他の2人は、ナショナルズのマイナーにいる元メッツのオリバー・ペレス、LAAのアーヴィン・サンタナ。ペレスも元・奪三振王)
現役投手の被ホームラン・ランキング
Active Leaders & Records for Home Runs - Baseball-Reference.com

James Shieldsのこうした「三振か、ホームランか」という傾向はなにも今年だけのものではなくて、過去何年か見ても、彼は、被ホームラン・ランキングは「自分の庭」とばかりに(笑)毎年のように顔を出している「被ホームラン・キング」なのだ。

2007 AL 28 (3rd)
2009 AL 29 (2nd)
2010 AL 34 (1st)
2011 AL 12 (3rd) 2011年6月2日現在
James Shields Statistics and History - Baseball-Reference.com

ちなみに、こっちは「被ホームラン・ランキングのもうひとりの王様」ジェレミー・ガスリーのランキング。2009年の王様がガスリー、2010年はJames Shields、というわけ。
2009 AL 35 (1st)
2010 AL 25 (7th)
2011 AL 10 (7th)  2011年6月2日現在
Jeremy Guthrie Statistics and History - Baseball-Reference.com


James Shieldsは2010年被ホームラン・キングでもあると同時に、奪三振187、9イニングあたりの奪三振率8.277と、奪三振ランキングの上位でもある。どうしてまたこういうことになるのか?
それはたぶん、「打者の打撃傾向をほとんど考えずに、自分の投げたい球を、自分のピッチングスタイルに沿って投げている」という点にあるのだろう、と思う。

昨日のゲームでShieldsが浴びたホームランは4本だが、そのうち2本を打ったのはカーロス・ペゲーロセーフコのカーロス・コールにならって、あえてカルロスとは書かない 笑)。
ペゲーロは、シアトルのゲームをよく見ている日本のファンなら誰でも知っているが、典型的なローボールヒッターだ。
ペゲーロが特に好むのは、真ん中低めの、それもストライクからボールになるチェンジアップのような球だ。
ある種、どんな悪球でもヒットにしてしまうボルチモアの悪球王ウラジミール・ゲレーロのようなタイプだが、まだまだ名前だけ似ているだけでゲレーロよりずっと格は落ちる。ペゲーロは高めのストレートがウイークポイントで、間違いなく空振りしてしまい、ほとんど打てない。(要は、高めストレートの得意なジャック・カストと真逆のタイプ)

なのに、Shieldsは、2回裏にそのペゲーロ(ゲレーロではない。ややこしいな 笑)に、彼の一番の大好物の「真ん中低めのチェンジアップ」を、それもご丁寧に、初球と3球目、2球も投げてくれて、3ランを打たれてしまう。
そして、3ランだけでプレゼントは足りず、4回裏ペゲーロの次の打席でも、低めのカーブを初球、2球目、4球目と投げてくれて、この日2本目のホームランまでプレゼントしてくれる。
これはまさに文字通り、献上だ(笑)。ビッグなプレゼントくれるのはありがたいけど、ホームランを打たれた次の打席の初球に、また「低めの変化球」を投げてきたときには、かえってビックリした。「まだホームランを打たれ足りないのか?」と、即座に思ったら、思った通りの結果になったわけだ(笑)


Shieldsはどうも、「打者のスカウティングを、まったく気にせず投げている」ように見える。

と、いうのも、2回裏にジャック・カストにソロ・ホームランを打たれた場面でも、カストの大好きな「やや高めのストレート」を3連投、4回裏にジャスティン・スモークにソロ・ホームランを打たれたときも、彼の大好きな低めに落ちていく変化球を2球投げているからだ。
そもそもカストは、体を寝かせながら打つ独特のアッパーカットのフルスイングで高めの速い球を打ち上げるのが得意な打者で、逆に、低めの変化球は苦手だ。
またスモークも、高めの速いストレートにはいつも振り遅れるなど、得意な球だけを打てる打者で、苦手な球はほとんど打てない。

ペゲーロ含め、3人が3人とも、得意不得意が非常にハッキリしている打者なのに、Shieldsは彼らの得意な球ばかりを投げているのだ。
先日マイナーに落ちてしまったマイケル・ソーンダースも、高めには滅法強いが、インコース低めに落ちていく変化球が苦手だったが、Shieldsのピッチングは、いわば「ソーンダースに高めのストレートを連投するピッチングをしているようなもの」だ。

さらに言えば、彼は「このイニングは、低めのチェンジアップでいく」と決めたら、そのイニングの最初の3人のバッターに、低めの好きな打者がいようと、チェンジアップが好きな打者がいようと、おかまいなしに低めのチェンジアップを投げるし、それで低めのチェンジアップが打たれてしまった後はというと、「チェンジアップはダメか。よし、こんどはアウトコースいっぱいを攻めるゾ!」と方針を変え、こんどは誰彼かまわず「アウトコースばかり」攻めるような、一本調子なピッチングを実際にやっている。

うちとれているうちはいいが、ほんのちょっとでもツボにはまれば、間違いなくスタンドに放り込まれてしまう、Shieldsはそういう「こわれやすいガラスのエース」である。


だが、まぁそうは言っても、Shieldsの「三振か、ホームランか」という、「イチかバチか感のピッチング」は、たぶん毎日見ていれば、日頃投球術がどうのこうのと、11三振とるようなフェリックス・ヘルナンデスにもうるさく言っている投球術フェチ(笑)のブログ主も、おそらくファンになってしまうような、「アブない魅力」を兼ね備えているのも事実だ(笑)

タンパベイの監督ジョー・マドンは、マイク・ソーシアのベンチコーチをつとめられるような頭のいい人なのだから、「打者のことも、ちょっとは頭に入れて投げろ」とアドバイスするくらいのことは考えたはずだが、たぶんJames Shieldsの荒削りの魅力が削がれるくらいなら、欠点を直すのはあえて止めておこう、と、思ったのかもしれない。
MLBに入ったばかりの頃のベーブ・ルースだって、グリップが上下逆だった。だから、20本や30本のホームランくらい許してやるから、三振を200くらい獲ってこい!、というのが、粋、というものかもしれない。






damejima at 06:46

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