OAK ビリー・ビーン ボブ・メルビン

2017年8月2日、「投打の軸となる主力選手を放出し、ドラフトで有力新人を調達するというチーム再建方式の終焉という観点」から、ソニー・グレイを手放したオークランド、ダルビッシュを手放したテキサスを眺める。
2014年12月11日、ビリー・ビーンの手下たちのGM遍歴を眺めながら、「経営者と経営コンサルタントの違い」を考える。
2014年12月4日、オークランドGMビリー・ビーンが重視する「野手の打撃能力の具体的な種類とレンジ」。打撃能力と「プラトーンシステム」との深い因果関係。
2014年12月3日、地区優勝できるチーム作りに疾走するトロントへ移籍するマイケル・ソーンダース。トロントGMアンソポロスの「目のつけどころ」。
2013年10月13日、ボブ・メルビンのALDSにおける自滅。相反する「カオス的世界」と「リニアな個人」。
2013年5月8日、インスタントリプレイを見たにもかかわらず、誤審を修正しないどころか、むしろ「誤審の上塗り」を行ったAngel Hernandez。もうこのアンパイアを持ち上げるようなことは、二度としない。
2013年5月3日、イチロー得意の「魔法」で「フェンス直撃のあわやホームラン」をシングルヒットに変え、続いて、ランナー2人の進塁を同時阻止するクレバーなファインプレー。

August 02, 2017

トレード期限寸前でダルビッシュを放出したテキサスだが、3000安打を達成したばかりのエイドリアン・ベルトレに言わせれば「なにやってんだよ、おまえらっ。俺はトレードを喜んでなんか、ないぜ?」ということらしい。

ブログ主としては、もし「ベルトレが言いたいこと」が、「優勝をあきらめているばかりか、チーム再建の方法について間違ったことをやりだしたチームにいなければならないのだとしたら、もっとマシで、マトモなチームに行きたい」ということなら、彼の意見に賛成だ。それは、無能なシアトルがやって大失敗した紋切り型の若手路線と、瓜二つだからだ。(もっとも、シアトルの場合はフェリックス・ヘルナンデスの能力低下を見抜いて、さっさと放出すべきだった)



いまやナ・リーグ東地区の常勝球団となったワシントン・ナショナルズだが、この球団が再建に成功した理由のひとつは、「MLB最低勝率を故意に記録することで、全米ドラフト1位選手を獲得するというチーム再建方式」が、スティーブン・ストラスバーグ(2009年全米1位)、ブライス・ハーパー(2010年全米1位)と、2年連続で「バカ当たり」したことで、投打の軸がしっかりしたからだ。(なお、2011年ドラフト1位のアンソニー・レンドンは全米6位で、1位ではない)

では、この旧来の再建方式は2010年代も通用するか。

ブログ主の考える答えは
No だ。


2012年にこんな記事を書いて、当時ドラフト1位が予想されたスタンフォード大学のマーク・アペルをこきおろしつつ、「アメリカ国内の大卒選手がMLBに占める相対的な比重は、ますます軽くなっていくと読んでいる」という意味のことを書いたことがある。(2017年現在、アペルはトリプルAでERA5点台のさえないピッチャーで、芽が出そうな気配はまったくない)
2012年6月4日、恒例の全米ドラフトは高校生が主役。 | Damejima's HARDBALL


ドラフトに限らず、2010年代以降のMLBは、それ以前のMLBと質的にまったく違うことがハッキリしてきた。

このことは、すでにバッターについて「三振の世紀」というテーマで既に書いた。2017年2月4日、「三振の世紀」到来か。2010年代MLBの意味するもの。 | Damejima's HARDBALL
この記事は後日「三振とホームランの2010年代」とテーマを広げて、続きを書く。

ピッチャーについていえば、2010年以降に1位指名されたピッチャーで「長く活躍できそうだったピッチャー」といえば、コカインで死んだホセ・フェルナンデス(キューバ出身の彼の最終学歴はフロリダ州タンパのBraulio Alonso High Schoolで、大卒ではない)、ソニー・グレイクリス・セールの3人が抜けていて、他にゲリット・コール、マーカス・ストローマン、マイケル・ワッカくらいがいるくらいで、勝ち数より負け数のほうが多いボルチモアのケビン・ゴーズマンでさえ、2011年以降の1位指名ピッチャーの中では「まだマシなほう」であることからわかるとおり、2010年代以降のドラフト1位指名ピッチャーの層はまるで薄い


2010年代のドラフトの選手層の「薄さ」は、「2000年代の1位指名ピッチャー」と比べてみれば、すぐにわかる。

2000年代に1位指名だったピッチャーは、アダム・ウエインライト、マット・ケイン、ジェレミー・ギャスリー、コール・ハメルズ、スコット・カズミアー、ザック・グレインキー、ジョン・ダンクス、ヒューストン・ストリート、ジオ・ゴンザレス、フィル・ヒューズ、ジャスティン・バーランダー、クレイ・バックホルツ、マット・ガーザ、イアン・ケネディ、マックス・シャーザーティム・リンスカムクレイトン・カーショーリック・ポーセロ、マディソン・バムガーナー、デビッド・プライスなどなど。(指名年代順)
太字がサイ・ヤング賞投手だが、「なぜかサイ・ヤングを受賞してないバーランダー(笑)」を含め、2000年代ドラフト1位指名組は先発投手の層が分厚い。まさにキラ星のごとくのメンバーだ。(もちろん2位指名以下の選手層も厚い)


この単純な比較からもわかるのは、全米ドラフトに依存するようなチーム再建手法は、2010年代以降、通用しなくなるということだ。ドラフトはもはや「最も優れた才能の供給源」ではない。

例えば、つい最近まで「若手育成の上手さ」で知られてきたボストンが、2014年、2015年の低迷から「長期低迷期」を経験せず、スピーディーに復活しているわけだが、その手法は「ドラフト依存」や「生え抜きの若手育成」といった、無能なシアトル・マリナーズが大失敗した「あとさき考えない若手路線」ではなかった。
いまのボストンは「生え抜きをズラリと揃えた時代」とは違う。2011年以降のドラフトからモノになったのはムーキー・ベッツくらいで、投手陣などは、デビッド・プライス、クリス・セール、リック・ポーセロ、クレイグ・キンブレルと、FAのプライスを除く全員が「若手との交換で他球団から得た投手」ばかりだ。つまり、ボストンは「チームを完全解体してドラフトに依存して若手主体の球団に変える」という再建手法をとらなかったばかりか、むしろ「若手を放出してチームを再建した」ということだ。


無能なビリー・ビーンジョシュ・ドナルドソンをトロントに無駄に放出したオークランドが、こんどは先発のソニー・グレイを放出したわけだが、信じられないことをするものだ。
予算の潤沢なチームならともかく、この予算の少ない球団が、上に書いておいたように、「ドラフトでこういうレベルの投手が獲得できる確率」はいまや非常に下がっているというのに、ソニー・グレイ同等レベルの先発投手を、どこから調達できるというのか。

テキサスは、オークランドのような貧乏球団ではないが、今の「やたらと打たれるダルビッシュ」がどのくらいの好投手かの判断はともかく、ローテーションの軸となる先発を手放したことで、3000安打の名誉を既に手にし、あとはワールドシリーズを味わいたいと考えている38歳ベルトレに「この球団じゃあ、ワールドシリーズはないな・・・」と思わせたとしたら、テキサスの住民だって同じことを考える。当然のことだ。
ダルビッシュ放出とベルトレ移籍で投打の軸を失って観客動員が下がり、収入が減ることくらいは、テキサスGMのジョン・ダニエルズも「アタマで」予想はして対策を練っているだろうが、彼はその「痛さ」が、アタマではわかっても、「カラダ」ではまるでわかっていない。
そしてベルトレはまさに、「アタマ」で考えるのではなく、「カラダ」がまっさきに反応するタイプそのものだ。


MLBのジェネラル・マネージャーには「MBA持ちの有名大学卒業生」とか「データマニア」とかが多くなっているわけだが、彼らは総じて、アタマはよくない。なぜって、「ドラフトという『仕入れ環境』の変化すら計算にいれられない」のだから、商売が上手いわけがない。ヴェテランから「若造、なにしやがる」と言われて殴られるのもしかたがない。

damejima at 18:22

December 12, 2014

ビリー・ビーンとその関連の人物たち、サンディ・アルダーソンポール・デポテスタJ.P.リッチアーディーファハーン・ザイディの「GM遍歴図」を作ってみた。

黄色のセルは「そのチームがポストシーズンに進出できた年」を示している。1990年代末以降、ビリー・ビーンから次々と独立し、さまざまなチームのGMに就任した「ビーンの手下たち」が、今はメッツでサンディ・アルダーソンのもとにふきだまっていることが、よくわかるように図にしたつもりだ(笑)
よくは知らないが、「野球の秀才たち」が大集結したのだ、きっとメッツはこの数年、ポストシーズンに出まくってきたどころか、何度もワールドシリーズを制覇して黄金時代を過ごしているに違いない。

さすがビリー・ビーン。人を見る目も天才級だ。

ビリー・ビーン一派のGM遍歴

これを作りながらつくづく考えさせられたことは、彼らはつまるところ、
「経営コンサルタント」であって、「経営者」そのものではない
ということだ。


では、「経営者と経営コンサルタントの違い」とは何だろう。

「この問いに『言葉』で答えられないのが経営者というものであり、スラスラ即答しやがるのが、経営コンサルタントだ」とも思うが(笑)、それはさておき、少なくとも言えることは、「もしも美容師の仕事がボサボサに伸びきった髪を無造作にカットするだけなら、それは『誰でもできる仕事をしている』に過ぎない」ということだ。


投資ファンドであれ、経営コンサルタントであれ、経営に行き詰まった企業に入り込んだ人間なら誰でもまず手をつけるのは、「不採算部門の整理」だ。

それくらいのことは、誰でも思いつく。
では、その「誰でも思いつくようなこと」を、なぜ「既存の組織や、既存の管理者」には「できない」のか。問題はそこにある。
硬直した組織の場合、組織の構成と管理者の脳が「硬直化」していて身動きがとれない。組織の立て直しが最初の目標なら、従来のしがらみにとらわれた人間には改善できないのだ。だから「外部」から人を呼ぶ。

「外から人を入れる意味」は案外、再建のための商売上のアイデアにあるのではなくて、単純に「しがらみのない外部の人間だからこそ、大胆な手術がやりやすい」という、たったそれだけの点にある。だから、経営コンサルタントが言う提言の多くが、実は「内部の誰もが、いつかやらなきゃな、と思っていたことばかり」だったりすることがある。
「やらなきゃとわかっていても、できない」ことは、オトナにもある。それを実行に移させるためには、外部から言ったほうが、効果があるのだ。「江戸幕府と黒船の関係」と同じ理屈だ。


外部の経営コンサルタントが最初にやることは、「雑草が伸び放題のまま、ほったらかしになっていた森」で、「無駄な枝葉や雑草を刈りまくる」ことだ。この「草刈りの時期」は、コンサルタント導入の「成果」が視覚的に見えやすい。伸び放題だった背の高い雑草を刈り取っていればいいのだから、成果が見えやすくて当然なのだ。
一般企業でいう「不採算部門のカット」は、野球チームの場合、そのほとんどが「不要な選手の削減」を意味するわけだが、新しいGMがそれに着手したからといって、それを別に「経営の天才」と呼ぶ必要もなければ、「褒めちぎるような手並みの良さ」でもない。やって当たり前のことをやっている、ただそれだけのことだ。


だが、しばらくすると、チームの改良は目にみえて止まる。
なぜなら、「雑草を刈りとる時期」なんてものはすぐに終わるからだ。

すぐにやってくるのは、「チームをつくる時期」だ。
何を目指して、どこを、どうやって成長させ、その結果、何を、誰に売って食っていくのか。何に再投資していくのか。それは、「その組織が何を新しく目指すのか、そのビジョンと方法を、社会と投資家に示す行為」である。
そして「草刈りがうまいだけの人間が失敗を犯す」のは、決まって、この「チームづくりの時期」だ


あらためて、
「経営者と経営コンサルタントの違い」とは何だろう。

「草刈りがうまいだけ」なら、経営コンサルタントにすぎない。

だが「経営者」は、海に出て巨大マグロをとってくるとか、畑で何か作るとか、森を育てるとか、少なくとも「なにかを生産し、利益を生み出す立場」でいなくてはならない。欲をいうなら、消費者(ファン)に愛される立場にまで到達できたなら、もっといい。


バーノン・ウェルズ、アレックス・リオスはじめ、さんざん大型契約に失敗した挙句に、トロントGMを2009年に首になったJ.P.リッチアーディがこんなことを言っている。彼がいわんとしたことは「トロントには予算がない。だから、常に予算を潤沢に持っているヤンキース、レッドソックスがいるア・リーグ東地区で優勝しようだなんて、どだい無理なことだ。誰がGMやったって、俺と同じ問題に直面するだけの話さ」ということだった。
But until those two factors change, the next guy sitting in this role, whether that’s five years from now or 10 years from now, is going to be faced with the same problem: How do you get by the Red Sox and the Yankees?”
Ricciardi Says His Successors Will Face Same Challenges He Has In AL East | CityNews

後になってこんなこと言うくらいなら、最初から引き受けるべきじゃない。リッチアーディは「金がないから勝てない」なんてことを言い出せばマネーボールの名が泣くとは思わなかったのか。
そもそもトロントは、「たとえボストンやヤンキースのような額の予算がとれないチームであっても、ビリー・ビーンの手下ならなんとかしてくれるに違いない」という期待感からリッチアーディーにGMを任せたというのに、当の本人は失敗した後になってわけのわからない言い訳に終始したのだから、無責任きわまりない。


ビリー・ビーン自身とその手下のGM経験者たちが、お得意の数字とやらをあやつって得点力を上昇させて得失点差を改善し、「強いチーム」をつくりあげ、さらには「地域のファンに愛されるチーム」になったとでもいうのならともかく、強いチームになるでもなく、まして、地域のファンにも愛されないなら、彼らの仕事は、雑草が伸びて始末におえないときにだけオーダーするのが適任の「草刈り業者」でしかない。

damejima at 19:32

December 04, 2014

以下の記事では、誰にでもわかる簡単な数字を使って「オークランドGMビリー・ビーンは、なぜジョシュ・ドナルドソンを放出しても構わないと考える」のかについて考える。
単にこのトレードの是非を問うのではなく、もっと深く、「ビリー・ビーンが、彼独自の野球セオリーにおいて重視する野手の打撃能力の具体的な種類とレンジ」、さらには可能なら「彼のオフェンス編成に関する思考パターンと、その問題点」まで指摘してみるつもりだ。

あらかじめ断っておきたいのは、「ブログ主は、ビリー・ビーンの方法論に同調するつもりなど、まったくない」ということだ。彼の『どこを切っても金太郎飴』的なチーム構成のやり方は、心底つまらない。選手は「素人の理科実験の道具」じゃない。


ビリー・ビーンが、自軍でメジャーデビューし(注:ドラフトはCHC)、トップスターのひとりにまで成長したオールスタープレーヤーを唐突にトレードしたことは、メディアのみならずMLBファンの間でも多くの議論を呼び、多くが懐疑的な見方を抱いた。ファンにとって最も理解できないのが、「いったいどんな根拠があって、ビリー・ビーンは期待度の高い29歳の三塁手をトレードしても大丈夫だと思えるのか?」という点だ。

給料が問題?
ドナルドソンの給料が高騰するのには、まだ時間がある。
言い訳にならない。

だが、この際だから「カネの話」は置いといて話を進めてみよう。以下では純粋に「野球選手としての能力比較」から話をする。
ドナルドソンの打撃成績:Josh Donaldson Statistics and History | Baseball-Reference.com

この疑問について即答したのは、Fangraph主宰デイブ・キャメロンくらいなのだが、ブログ主はトレード直後、こう書いておいた。

明らかにドナルドソンとブレット・ロウリーの打撃成績には「大きな差」がある。では、どういう「理屈」で考えると「2人は同じくらいの価値だ」なんてことがいえるのか?

まず、これを見てもらいたい。
上段は、トロントから獲得したブレット・ロウリーの2014年の「リアル打撃スタッツ」(70ゲーム)下段は、キャリア全体の打撃成績を「162ゲームあたりの数値に補正したシーズン平均値」だ。この「補正」ってやつをよく覚えておいて以下を読んでもらいたい。
Brett Lawrie Statistics and History | Baseball-Reference.com
ブレット・ロウリー 補正前後の打撃成績比較

補正の「前後」をしっかり比べてみてもらいたい。
何がわかるか。ブレット・ロウリーの次のような「潜在能力」だ。

ビリー・ビーンの目に映る」ブレット・ロウリー

もしも「長期にわたる故障やスランプがまったくない」ならば、本来のロウリーはもっと多くの、ヒット、二塁打、ホームランが打てる選手だし、必要なら盗塁もできる。ただ、三振数はかなり増えるし、打率や出塁率は、多少マシになる程度で、ほとんど改善しない。

この「脳内補正」が、ドナルドソン放出の謎を解く「鍵」だ。
(注意してもらいたい。ブログ主が「ロウリーの潜在能力」とやらを信じているわけでも、「実在」すると言っているわけでもない)

おいおいっ! ブレット・ロウリーは「故障のない選手」なのか? 長期のスランプを経験するタイプじゃないのか? だが、そういう「正しい疑問」は今は置いといてもらって(笑)、ひたすら読み続けてもらいたい。

ちょっと考えればこのブレット・ロウリーのサンプルから「類推」するだけで、ビリー・ビーンがこれまで選手採用の基準としてどの点を「重視」し、何を「完全に無視」してきたのか、ハッキリとわかるはずだ。(ただし、それは「ブレット・ロウリーには高い潜在能力があるから、能力が既に開花していて給料高騰も予想されるドナルドソンと交換してもいい」なんて単細胞な話でもない。話を続けよう)


ここまできたのだからオークランドの他の野手の打撃成績もみてみる。
たぶん「ビリー・ビーンの謎」の核心に、より迫れるはずだ。

ドナルドソン放出や、ビリー・バトラー、アイク・デービス獲得といった「個別の話」だけで終わってもつまらない。どうせやるなら、「ビーンが選手に求める打撃能力の具体的レンジ」や「彼がプラトーン・システムにこだわる理由」、果ては、彼の思考方法の「根本パターン」までも明らかにすることに挑戦したい。


表は、2014年のオークランド野手の「リアル」打撃スタッツだ。

補正前
チーム内で「特に良い数字」を赤の太字、「悪い数字」を黒の太字で示した。
2014年オークランド野手・打撃成績(補正前)
俊足のトップバッター。
三振と四球と打点とホームランの多いクリンアップ。
守備専門の、打撃のよくない二塁手。
意外性のある打撃をするキャッチャー。

なんともまぁ、平凡きわまりないラインアップだ。
出塁率が特別優れた選手を並べているわけでもない。もしジョシュ・ドナルドソンとブランドン・モスがいなかったら、全く機能しない打線だろう。
当然、この程度の打線では飛びぬけた打撃スコアをたたき出したジョシュ・ドナルドソンが「打線のコア」であって、トレードによる放出などまったく考えられない


ところが、だ。
補正後の表をみてもらうと、話がまったく違ってくる
続きを読む

damejima at 19:05
今シーズン、いいところまで行きながら、最後に惜しくも失速して地区3位に終わってしまったトロントだが、やり手GMアレックス・アンソポロスがいまストーブリーグの先頭を切って疾走している。
ラッセル・マーティン、ジョシュ・ドナルドソン、マルコ・エストラーダ、マイケル・ソーンダースはじめ、ウィンター・ミーティングを前にした他チームGMがうかうかしている間に、あれよあれよという間に必要な選手を揃えつつあるのである。

他のGMを出しぬくほどの猛スピードでチームづくりを進めたかったとみえるアンソポロスだが、彼が目をつけた補強ポイントのひとつは、どうやら「チームと不和を起こしている選手たち」だったようだ。


例えば、オークランドから獲得したオールスタープレーヤー、ジョシュ・ドナルドソンは、2014シーズンにちょっとした怪我をしたのだが、そのときDL入りするかしないかについて、オークランドGMビリー・ビーンとかなり揉めたようだ。
ソース例:A’s trade of Josh Donaldson is hard to figure out - SFGate
ソース例:Scott Miller's Starting 9: With Nelson Cruz, Mariners Can Win Now―and Later | Bleacher Report
トラブルがどの程度ヒートアップしたものだったかは正確にはわかっていないが、少なくとも「話し合いの場を持った」ことは両者が認めているから、少なくとも「意見の相違」があったことは間違いない。また、トロントへのトレードが決まった後にドナルドソンがTwitter上でいろいろと発言していたところをみるかぎり、簡単に解決できる軽いトラブルではなかったことも、たぶん間違いない。
MLBでのトレードで「移籍していく選手が元の所属チームを批判的にコメントすること」はほとんどない。それだけに、かつてブランドン・モローがシアトルからトロントに移籍したときに、 "I was never really allowed to develop as a starter." と言ってシアトルを痛烈に批判したことがまさにそうだった(→参考記事)ように、もし元の所属チームを批判するコメントを残すときは「よほどのことがあった」と判断できるのである。
参考記事:2009年12月22日、「投手コーチ・アデアとの打ち合わせを無視し、モローにカーブのサインを一切出さなかった城島」に関する記録。投手たち自身の「維新」による城島追放劇の舞台裏。 | Damejima's HARDBALL
参考記事:2010年6月19日、意味なくダメ捕手城島が阻害していた「カーブ」を自由に使えるようになってピッチングの幅を広げ始めたブランドン・モロー。 | Damejima's HARDBALL

ある説では、両者の話し合いの場でビリー・ビーンに激怒したドナルドソンがビーンを "Billy Boy!" と怒鳴りつけた、ともいわれているが、残念ながらこの話の真偽は定かではない。
("Billy Boy" は、なかなか母親のもとを離れられない男の子のことを歌った古いアメリカのフォークソング。転じて、おそらく「このマザコン野郎っ!」という意味の罵声として使ったと思われる)
記事例:“Billy Boy”: The Josh Donaldson trade was reportedly sparked by an argument with Billy Beane | HardballTalk



マイケル・ソーンダースはシアトルから獲得したが、こちらはGMとの間で「明らかなトラブル」を抱えていた。
Michael Saunders, agent unhappy with criticism from Jack Zduriencik | HardballTalk

今シーズンのソーンダースは出場ゲーム数が78にとどまったことでわかるように怪我がちなシーズンだったわけだが、そのことをオフになってシアトルGMジャック・ズレンシックが記者会見の場で「おまえのフィジカルの管理がなってないからダメなんだ」と、名指しで批判したことで、両者の関係はこじれた。
トロント移籍が明らかになる前、ソーンダースは代理人を変えている。これを「ズレンシックとの関係修復のきざし」と甘ったるい見方をしたアメリカメディアもあったが、ブログ主は「移籍に備えた準備」としか思っていなかった。

ソーンダースのケースについて言うと、たとえ選手が怪我をして休もうと「GMがそれを批判する」などという馬鹿げた行為が行われることは、MLBではありえない。選手は怪我したくて怪我するわけではない。言うまでもない。

ちなみに、かつてシアトルにいたGMズレンシックのお気に入りの遊撃手ジャック・ウィルソンが「風呂場でこけて怪我して、シーズンを棒にふった」という馬鹿すぎる事件を起こしたことがある。そのときズレンシックは公式の場で馬鹿すぎる怪我をした選手をなじるようなことはしなかった。
「ズレンシックが獲ってきた選手たち」は、過去に例えば「試合中なのに、自分の判断で自宅に帰ってしまう」とか、「バントを命じられたのに、意図的に拒否した」とか、「あまりにも成績が悪くてベンチに下げられて、監督を怒鳴つけた」とか、常識外れな事件を多々起こしてきているが、そのことをチームが公式に批判したという話を聞いたことがない。

そのくせ、ソーンダースのDL入りにはケチをつけた挙句に放出するのだから、意味がわからない。

ズレンシックが就任以来、イチローも含めて、「自分の就任前からチームにいた選手」をそれこそ片っ端から放出し続けてきたことは、シアトルにちょっと関心のあるMLBファンなら誰でも知っている事実だ。
そしてもちろん、2004年ドラフトでシアトルに入団しているソーンダースは、その「2009年のズレンシックGM就任前からシアトルにいた選手」である。
だから、いつかソーンダースが放出される日が来ることは、かなり前からわかっていた。たぶん、ズレンシックは無理に理由をつけてでも、ソーンダースをチームから放り出せる日を待っていたに違いない。
だが、「怪我を口実に関係をこじれさせて放出」などという歪んだ行為は、マトモな野球人のすべきことではない。


まぁともかく、シアトル脱出おめでとう、ソーンダース。カナダ出身の彼ならトロントでスタンディング・オベーションで迎えられることだろう。

選手が主役になるのが本来の「野球」というものだ。
勘違いしている人間が非常に増えているようだが、
ファンが見たいのは、「チーム」や「選手」が勝つ姿であって、
「GMが勝つ」のを見たいわけではない。

damejima at 09:29

October 14, 2013

2年連続地区優勝を果たし、レギュラーシーズンでは十分に最優秀監督賞に値する働きを示したボブ・メルビンだが、ALDSでは投打のタレントの揃ったデトロイトを2勝1敗と追い詰めておきながら、メルビンの投手交代ミスでシリーズの流れを明け渡してしまい、あえなく敗退することになった。勝ちぬけるチャンスが十分あっただけに、もったいない。
(日本のプロ野球セ・リーグCSで、阪神の和田監督が、広島戦の先発投手として「藤浪」を選択する一方で、ヴェテランの能見投手をとうとう使わないまま敗退したばかりだが、メルビンと和田、2つの敗退が意味的に似ているのは確かだ)


敗退の直接の原因は、ハッキリしている。
ボブ・メルビンの投手起用が的確でなかったこと」だ。

そして、遠因(というか、たぶんこちらが真の原因だと思うのだが)は、野球における才能や経験の有無ではなく、「メルビンの性格が、よくいえば慎重で論理的、悪く言えばスピードに欠け、後手に回りやすく、どこか弱気で、決定的な選択を回避しがちで、農耕的。全部をまとめていえば、『リニア』であること」にあると思う。


たとえでいうなら、レギュラーシーズンが、春の田植えから秋の稲刈りまで連綿と作業が続く稲作のような、定住農耕民的な世界だとするなら、他方、ポストシーズンでの戦いは、いわば「血なまぐさい狩り」だ。

狩り」は、定住して畑を耕すような「必然性や因果律、約束事に縛られたリニアな世界」と違い、運やミスなど「偶然性にまみれたカオス的世界」だ。(注:カオスにおける偶然性には一定の「法則性」があり、それは無原則でもランダムでもない 参照:Damejima's HARDBALL:2012年11月9日、2012オクトーバー・ブック WS Game 4でフィル・コークが打たれた決勝タイムリーを準備した、イチローの『球速測定後ホームラン』 による『バルベルデ潰し』。

そして「狩り」は、どこか血なまぐさい。ライオンが獲物のクビをへし折って確実に絶命させておいてからおもむろに食らうように、「獲物を仕留めるべきところ」では必ずトドメを刺す必要がある。


ALDS Game 4
OAK 1 0 0 0 2 0 1 0 2  6
DET 0 0 0 0 3 0 2 3 x  8
Oakland Athletics at Detroit Tigers - October 8, 2013 | MLB.com Classic

ALDS第4戦は、まさにオークランドにとって、「トドメを刺しそこなった狩り」だ。チェスや囲碁将棋に限らず、どんな勝負事でもそうだが、トドメを刺しそこなったら、流れは簡単には戻ってこない。
オークランドはこのゲームで一時は3点リードしている。だが、ゲーム終盤に死にかけたデトロイトに自らのミスで勢いを与えてしまい、息を吹き返したデトロイトに、この重要なゲームを与えてしまった。

終盤まで追いつ追われつの展開だったが、このポストシーズンでのデトロイトのキーマンのひとりになっているビクター・マルチネスの技ありのソロホームランを浴びて、5-4と1点リードを許した7回裏までの展開は、やむをえないし、それほど心配する必要もない。
なぜなら、「常に『クローザーというアキレス腱』を抱えるデトロイトという対戦相手は、1点差くらいなら、取り返しがつくチーム」だからだ。
去年までのクローザー、ホセ・バルベルデのセーブ失敗にもさんざん泣かされ続けたデトロイトだが、今のクローザーのベノワにしても、けして安定してはいない。だから、1点差くらいなら、たとえ9回裏でもなんとかなる。


だが、メルビンが8回裏に、2013レギュラーシーズンでERA6.04とまったく結果を残せていないブレット・アンダーソンを登板させたことは、致命傷だ。なぜならこれが「取り返しのつかないミス」だからだ。

7回表、デトロイト監督リーランドは思い切って2013サイ・ヤング賞最有力候補のマックス・シャーザーをリリーフ起用した。だが、この試合のシャーザーはコントロールが最悪で、1失点した上に、8回表には無死満塁のピンチを招き、このときデトロイトは一度死にかけた。
だが、無死満塁でのジョシュ・レディックの不用意な三振がきっかけで、死にかけのシャーザーは息を吹き返してしまい、その後の気迫のピッチングで失点を防ぎきってしまう。オークランドはトドメを刺しそこなった。




問題のメルビンの「アンダーソン起用」は、その「トドメを刺しそこなった」直後の重要な采配だった。
このとき、メルビンがなぜこういう「弱気な投手起用」をチョイスしたのかが、わからない。なぜなら、あの時点でマウンドに上がるオークランドの投手が対峙するのは、シャーザーが珍しく見せた「火を噴くような気迫」が野手に乗り移った「火の玉 デトロイト打線」だからだ。レギュラーシーズンですら実績を残せなかったアンダーソンでは、明らかに、この場面を乗り切るのに必要な経験も実績も足りなかった。

その後、点差が4点に広がってゲームが決まってしまった後で、オークランドはホワキン・ベノワを予定通り攻めてようやく2点返したが、結局、デトロイトの逃げ切りを許した。つまり、9回の攻撃がいくら「惜しい攻撃」のようにみえたとしても、結局それは4点差では「後手に回ったことの証」にしかならないのだ。

シャーザーをリリーフに使うという「老将ならではの気迫」を采配に見せたリーランド。勢いのないアンダーソンを使うことで、「この試合は負けてもいい、あと1試合あるさ」とでもいうような「農耕民的な緩み」をみせたメルビン。2人の指導者の選択の差が、試合結果に出た。


ALDS Game 5
DET 0 0 0 2 0 1 0 0 0  3
OAK 0 0 0 0 0 0 0 0 0  0
BrooksBaseball.net: PITCHf/x Tool | Strikezone Maps
第4戦で「狩り」に失敗したメルビンは、第5戦先発に、どういう意図からかはわからないが、ヴェテランのバートロ・コロンではなく、ALDSで2度目の先発となる若いソニー・グレイを抜擢した(もちろん、この先発投手の選択の是非が後にファンの議論を巻き起こすことになった)
結果的には、若いグレイは、シリーズを決めるゲームのプレッシャーに押しつぶされてしまったようで、コントロールがまるで定まらなかった。またメルビンは、リーランドがあのシャーザーにリリーフ登板を命じたように、グレイやコロンにリリーフをやらせるような臨戦態勢も選択しなかった。

だが、第5戦での最大の失敗は、メルビンがグレイを先発させたことより、むしろ、メルビンが、グレイの調子がよろしくないことがハッキリした時点で、「今日ですべてが決まるというゲームだから、グレイに長いイニングをまかせるのは諦め、早めに投手を替えることにしよう」と、「先を読む」こと、「敗退を予防する」ことをせず、むしろかえって、グレイをとことん引っ張ってしまったことにある。
この選択ミスにより、「オークランドだけが守勢に回らされ続けてしまう苦しい展開」が長く続いてしまい、「攻撃のターンが、オークランドに変わる」のを妨げた。


このゲームのBox Scoreを見ただけではわからないことだが、ボブ・メルビンは、先発ソニー・グレイが4回から6回まで、3イニング続けてピンチを招くそのたびに、ブルペンでダン・オテロに肩を作らせ続けた。(そして結果的にいえば、オテロはマウンドに上げてもらいさえすれば、いつでも好投が可能な状態だった)
だが、メルビンには、調子の悪いグレイを諦め、継投に入ることによって「無駄な失点を防ぐのと同時に、攻撃のターンをたぐり寄せるチャンス」が何度も何度もあったにもかかわらず、グレイを引っ張り続けたために、ようやくオテロがマウンドに上がったときには、6回表にグレイがノーアウトで2人のランナーを出し、にっちもさっちもいかないシチュエーションだった。

そしてさらに問題だったのは、このとき既にオークランドの野手があまりにも長時間に及んだ守備による消耗で、エネルギー切れを起こしていたことだ。
リリーフのダン・オテロは、3度も肩をつくったにもかかわらず、6回の無死1、2塁のピンチで、2人のバッターに続けて内野ゴロを打たせることに成功している。だが、既に消耗している内野手のミスが2度続き、オークランドはダブルプレーに2度も続けて失敗して、シリーズ敗退を決定づける3失点目を喫した。

明らかにこれは、メルビンがソニー・グレイを早めに諦めることを決断することによって、ゲームを落ち着かせ、さらにゲームのテンポをオークランド寄りに修正し、オークランドの野手が守備ではなく「バッティングに集中できる時間帯をつくる」のを怠ったのが原因だ。
(よくバレーボールの試合で、ピンチになると監督がタイムアウトをかけて得点リズムを変えるが、あれと似た話だ)


こうして、2つの試合でゲームの流れを完全にデトロイト側にもっていかれることになった「2つの継投ミス」によって、オークランドはデトロイトをあと一歩のところまで追い詰めながら、逆にトドメを刺される結果になった。
レギュラーシーズンをあれほど上手に乗り切ったメルビンだが、「カオス的世界であるポストシーズンで求められるリスク嗅覚」や「偶然性に左右される狩りにおける戦いの感覚」は、どこかで根本的に不足しているのかもしれない。もちろん、農耕には向いているのに、血なまぐさい狩りには全く向いていない人がいても、それはそれでしかたがない。


2013ALDS第5戦での継投でメルビンのやったことは、たとえとしていうなら、「複数のことを同時に考えて結論を出したり、複数のことを並行して処理するのが非常に苦手な、リニアな性格の人がとりやすい行動や手法」であるようにみえる。

メルビンが先発ソニー・グレイを替えることによって、「試合の流れを変えられるチャンス」は何度もあった。
だが、メルビン自身の関心は、先発グレイが「もっと多くのイニングをいけるのか、いけないのか」にしかなく、ゲーム全体を俯瞰してはいなかった。その結果、リリーフの肩をつくらせるタイミングが遅れ、グレイを替えるタイミングもをつかみそこない、あらゆる皺寄せは野手にいってしまい、失点に直結する野手の守備ミスの連発を招いた。


こうした、ノンリニアな判断ができないこと、全体を俯瞰できないことによる失敗は、ちょっと、「動きのトロい日本の公務員」とか、「決断の遅いデイ・トレーダー」に近いところがある。
「病気が実際に発症するまで治療しようとしない医者」、「相場が動いたのを見て確認してから大金をつぎこんでしまう個人投資家」、「ストーカー犯罪が実際に起きるまで捜査しない警察」、「津波が実際に起きるまで防波堤を高くしない自治体」、「いじめ自殺が起きるまで対策を始めない教育委員会」、「原発の電源が全て喪失したとわかるまで何もしない東京電力」、「利用者が激減するまでiPhoneを売らないNTTドコモ」、こうした例にことかかないどころか、あらゆる事故、損害、リセッション、衰退が、リニアにしか思考できず、リニアにしか自分のカラダと所属組織を動かせない人たち特有の「遅れ」や「迷い」から発生するのが、現代社会というやつだ。

病気でいうなら、症状が現れはじめたのを、視覚とデータでハッキリ確認して、それから「よっこらしょ」とばかりに重い腰を上げ、「治療」を開始しているようでは、手遅れになる。自覚症状が出た時点で、すでに病状が救いようのないレベルに達している可能性だってあるからだ。

ALDSにおけるメルビンは、「予兆」や「気配」に敏感ではなかったし、そもそも「予防」に熱心ではなかった。対応すべきピンチが目の前で発生しつつあっても、彼は「被害の出る確率がまだ低い、と思えるうち」は動かず、さらには、失点という実害が確率的に70%以上の確率で起きてしまうような危機的状態になっても、まだ「我慢」し、さらに実害が出はじめたのを視覚的に確認するに至って、ようやく「対策」を用意させるような、そういう「後手後手なところ」がある。


こうした「判断の遅れ」が起きるのは、野球上の指導の巧拙によるものというより、ボブ・メルビンが、「直線上に因果を並べて思考をすすめるリニアなタイプ」なのか、それとも「カオス的に思考するノンリニアなタイプ」なのかという、そういう人間的な性質の違いから発生しているような気がしてならない。
メルビンが、「話し言葉」より「書き言葉」が重視されるようになって以降に成立した、リニアな視覚重視の世界で起きる問題に対処するのが得意な、典型的なリニア人間だとすると、そういうタイプの人は、カオス的な環境(たとえばMLBのポストシーズンのゲーム)において、リニアな世界でのふるまいと同じように自由闊達にふるまえるとは限らないのである。

そして、これは常々不思議に思ってきたことなのだが、近年の書き言葉の衰えとネットの発達とともに、現代社会が再びどんどん「カオス的」になりつつあるというのに、どうしてそうなるのかわからないが、そこに暮らしているわれわれ人間のほうは、むしろ、どんどん、どんどん「リニア」になりつつあるように思えてならないのだ。

Like everyone else you were born into bondage. Into a prison that you cannot taste or see or touch. A prison for your mind.
他の誰もがそうであるように、君は束縛の中に生まれた。味わうことも、見ることも、触ることもできない牢獄の中に。それは「君自身の心」という名の牢獄なのだ。

You have to let it all go, Neo. Fear, doubt, and disbelief. Free your mind.
すべて忘れるんだ、ネオ。怖れ、疑い、猜疑心。心を解き放て。

by Morpheus
quoted from The Matrix(1999)


Lorenz AttractorThe Lorenz Attractor


Matrix imageMatrix

damejima at 10:15

May 09, 2013

プログレッシブ・フィールドで行われていた2013年5月8日のオークランド対クリーブランド戦で、クルーチーフAngel Hernandezの酷い「誤審の誤審」が行われた。

Angel Hernandezには、心底落胆させられた。もうこの審判を持ち上げるようなことは二度としない。

理由は、説明などしなくとも、ビデオを見てもらえばわかる。(MLB.comのウェブサイトのビデオ編集担当者も、この判定が「誤審」であることはわかっていたため、手すりに跳ね返るシーンが繰り返し繰り返しレビューされている)

Baseball Video Highlights & Clips | OAK@CLE: Rosales' fly ball reviewed, ruled a double - Video | MLB.com: Multimedia

MLB Ejection 030: Angel Hernandez (1; Bob Melvin) | Close Call Sports and the Umpire Ejection Fantasy League



9回表、3-4と1点ビハインドで迎えたオークランドの8番バッター、アダム・ロサレスは、クリーブランドのクローザー、クリス・ぺレス(2012年5月に「なんでファンは見に来ないんだ」と発言して問題になったピッチャー)のストレートを強振。
打球は、左中間スタンドにスタンドインし、「ファンが落下するのを防止する金属製の手すりに当たって」から、跳ね返って外野のフィールドに落ちてきた。

だが、この打球は最初2塁打と判定され、オークランド監督ボブ・メルビンが抗議。インスタントリプレーによる判定(いわゆるビデオ判定)が行われることになり、審判団がビデオルームに消えた。
その間、メルビンは、よほど確信があったのだろう、(というか、ビデオを見れば、確信があって当たり前の打球の跳ね方だが)、落ち着いた様子で判定結果を待った。

だが、なんと、ビデオルームから戻ってきたクルーチーフ(日本でいう責任審判)のAngel Hernandezは、「自分の目で事実を見ている」にもかかわらず、二塁打を宣言したため、ボブ・メルビンが猛抗議。その結果、メルビンは退場になった。

ボブ・メルビンを退場させるエンジェル・ヘルナンデス(20130508)

もちろん、アダム・ロサレスの「9回2アウトからの起死回生の同点ホームラン」も「無かったこと」にさせられた。オークランドはこの後満塁にまで詰め寄ったが、あと1本が出ず敗れた。


この件は、「審判それぞれにストライクゾーンには癖があるから、最も大事なことは、判定傾向をコロコロ変えないことだ」とか、「審判も人間なのだから、間違うこともある」とか、そういう話は一切通用しない。

悪質なことに、これは単なる誤審ではない。度重なるアンパイアの誤審を修正し、判定精度を上げるために導入されたインスタントリプレーだというのに、Angel Hernandezは、その修正そのものを拒否してみせた。


なんのためのビデオ判定だ。これではインスタントリプレーが存在する意味自体がないがしろになる。MLB機構は、Angel Hernandezをなんらかの形で謝罪させるべきだ。

当ブログは今後、このアンパイアを持ち上げるような馬鹿な真似は、もう二度としない。

Umpires help Indians beat Athletics - SweetSpot Blog - ESPN

MLB says umpires made wrong call in game between Oakland Athletics, Cleveland Indians - ESPN

MLB admits Angel Hernandez blew call, ruling Adam Rosales’ home run a double  - NY Daily News

damejima at 15:39

May 04, 2013

MLBでWizard(魔法使い)とのニックネームをもつイチローが、オークランド戦で得意の「魔法」を使った。
動画(MLB公式):Baseball Video Highlights & Clips | OAK@NYY: Donaldson's single gets reviewed, stands - Video | MLB.com: Multimedia

Oakland Athletics at New York Yankees - May 3, 2013 | MLB.com Gameday

6回表、オークランド先頭の4番セスペデスが四球で歩いた後、5番ジョシュ・ドナルドソンのシャープな当たりは、今日MLBで初めて5番に入ったイチローの頭上を軽々と越えていく強烈なライナーで、あっというまにフェンスを直撃した。
なにせ、この打球、外野手に捕れるような打球でないどころか、プレーが終わってから、オークランド監督ボブ・メルビンが「ホームランかどうか確認してくれ」と、ビデオリプレーでの確認を審判団に要求したほど大きな当たりだった。

2013年5月3日6回表ドナルドソンの打球位置

しかし、この強烈なフェンス直撃のライナーを待ち受けていたのは、「シングルヒット」、しかも、打者自身はセカンドでアウトという過酷な運命だった(笑)


というのも、イチローが「あたかも自分が
『打球の落下地点に入っていて、いまにも捕球しようとするところだ』、という『フリ』をするというトリックプレー
」をやってのけたからだ。

この「魔法」のせいで、1塁走者セスペデスと打者走者ドナルドソン、2人のスタートが遅れ、打球がフェンスを直撃するのを目視してからのダッシュになったために、1塁走者のセスペデスはサードを蹴ることができず、打者走者ドナルドソンに至っては、ライト・イチローからの好返球でセカンドかなり手前で楽々アウト。まさにふんだりけったり。

2013年5月3日6回表打者走者をセカンドで刺すイチロー

本来なら、1塁走者が一挙に生還して無死2塁、あるいは、無死2、3塁だった場面が、1死3塁になったのだから、スタンドが拍手喝采だったのはいうまでもない。

まぁイチローが時折この「魔法」を使ってきた事実を知らないままMLBを見ている人には、なんのことやらチンプンカンプンかもしれない。なんせ、MLBライターたちのTwitterですら、素晴らしいトリックが成立したというのに沈黙を続け、まして、このプレーを即座に解説してみせたライターは誰ひとりいなかったのだから(笑)



しかし、本当のことを言うと、この「最初の魔法」もさることながら、技術的な見せ場、『野球の面白さを教えてくれる2つ目の魔法』は、同じイニングの直後にあった。


イチローの「最初の魔法」の後、サバシアが追加点となるタイムリーを許してしまい、2死2塁(セカンドランナー:デレク・ノリス)と場面が変わって、7番ネイト・フリーマンがライト前ヒットを打った。(ちなみに、この人の奥さんはLPGAツアーのプロ・ゴルファー、Amanda Blumenherst(アマンダ・ブルーメンハースト)。2人はノースカロライナにあるデューク大学同窓生)
二塁走者ノリスは、サードを猛然と回りかけたが、そこでストップ。いわゆる「イチローの抑止力」というやつだ。
オークランドのスタッフはア・リーグ西地区時代に嫌というほどイチローの「肩」を味わっているだけに、この接戦のゲームであえてサードランナーをホームに突っ込ませる勇気はなかった。


この場面、ライトのイチローはホームを守るクリス・スチュアートに2バウンドくらいで届く低い弾道のストライク返球をしているのだが、このホーム返球がなぜ、ホームへのダイレクト返球でなく、「バウンドするような低い送球」である必要があったか。


ホームでランナーを刺すこと「だけ」が目的なら、外野手は何も考えずにホームにできるだけ強い返球をして(理想的にはダイレクト返球だと思うかもしれないが、強肩外野手でないと、かえって山なりの送球でホーム到達が遅くなる)、サードを蹴ったセカンドランナーの足と勝負するだけでいい。

しかし、野球は単純じゃない。

もし二塁走者がサードを蹴り、そのランナーをホームでのタッチプレーでアウトにできなかった場合、あるいは、二塁走者が自重してサードを蹴らなかったが、外野手がホームにダイレクトに送球したボールが横にそれたりした場合、どうなるか。

その場合、打者走者フリーマンは送球間にセカンドに進塁してしまい、得点圏にランナーが残ってしまう
そうなれば、ただでさえスタミナの切れるゲーム終盤にヒットを連打されはじめたヤンキース先発CCサバシアに、さらに負担がかかる。もし追加点でも許せば、オークランド先発グリフィンの調子が最高だっただけに、ヤンキースの逆転の可能性はなくなる。


では、
打者走者フリーマンのセカンド進塁を阻止するために
外野手はどうしたらいいか。


ライトのイチローから捕手スチュアートへの返球の間には、ヤンキースの一塁手ライル・オーバーベイがいる。カットマンの彼は、もし「イチローからの返球が、二塁ランナーのホームインに明らかに間に合わない」と判断すれば、途中で送球をカットして、セカンド送球に備える。また、「イチローの返球で、二塁ランナーをホームでアウトにできる」と判断すれば、カットせず、返球をスルーすることを選択する(実際のゲームでオーバーベイは「スルー」を選択したが、打者走者はイチローのホーム送球が強かったため、セカンド進塁を自重した)

もし、この場合、イチローがオーバーベイの頭上をはるかに越え、捕手スチュアートに直接届くような「軌道の高い返球」をしていれば、どういうことが起きるか。
ヤンキースの一塁手オーバーベイは、「カット」を選択する余地がなくなるから、打者走者フリーマンは「本塁がアウトになるかどうか」に関係なく、躊躇なくセカンドに進塁できる可能性が高くなる。
その場合、もしイチローの返球がそれたり、ホームでのクロスプレーでホームに突入してきた二塁走者をアウトにできなければ、チームは1失点した上に、降板が近いサバシアが再び2塁に走者を背負って投げなければならないから、さらなる失点の可能性すら出てくる。


だからイチローは、「ホームでのクロスプレーになるような強い返球」であり、なおかつ、「ファーストのオーバーベイがカット可能な低い返球」を瞬時に選択して、二塁走者にサードを蹴らせず釘づけにすると同時に、打者走者をもファーストに釘づけにしてみせたのである。


Sabathia was helped in the sixth twice by the arm of Ichiro Suzuki, who picked up an outfield assist on a Josh Donaldson single off the top of the right-field wall and also made a strong throw home that pinned Norris at third on a Nate Freiman single.
Oakland Athletics at New York Yankees - May 3, 2013 | MLB.com OAK Recap

この2つの「魔法」で、イチローは最低でも2点の失点(ひょっとすると3点かもしれない)を防いでみせた。もしWPAだの、選手の働きを数値で判定したがるやつらが、こういう野球独特のプレーの意味すらわからない野球音痴のアホウでも、そんなことは知ったこっちゃない。

damejima at 16:23

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