シアトル時代の投手・野手

2012年6月7日、「手でタイミングをとるスイング」にフォームを変え、さまざまな球種に対応できるようになってきたマイケル・ソーンダースの進歩に目を細める。
2012年4月13日、左バッターに頼って得点を挙げてこそいるが、打線には決定的な穴があり、右バッターはほぼ全滅、監督の「左右病」には意味がなく、結局勝率につながらないシアトル。
2011年9月4日、シアトルの若手打者の打撃傾向と打席サンプル集 (3)キャスパー・ウェルズ
2011年9月4日、シアトルの若手打者の打撃傾向と打席サンプル集 (2)カイル・シーガー
2011年9月4日、シアトルの若手打者の打撃傾向と打席サンプル集 (1)マイク・カープ
2011年8月31日、得意不得意がわかりきっているシアトルの打者にすらヒットを許すダン・ヘイレンの不用意さ。
2011年8月30日、エンゼルス第2戦でひきつづきシアトル打者の検証。あまりにも予想どおりなので、検証終わり。
2011年8月29日、高橋尚投手の「打たれるべくして打たれた」決勝2ラン。
2011年8月27日、キャスパー・ウェルズがデトロイト時代に頻繁に対戦していたア・リーグ中地区の投手たちが、ウェルズをどう凡退させるのか、観察してみた。
2011年8月1日、「ダグ・フィスターはやたらとランナーを出していた」というのはウソ。最もランナーを出さず、ホームランと四球も出さないア・リーグ屈指のピッチャーが、ダグ・フィスター。
2011年7月31日、もはやストレートで押せるピッチャーでも、グラウンドボール・ピッチャーでもない、フェリックス・ヘルナンデス。ちなみに、ダグ・フィスターのストレートは、MLB全体11位の価値。
2011年6月30日、今年上半期の先発投手5人の通知表。「6回2失点」の投手と、「7回3失点」の投手の違い。
2011年6月29日、興奮しやすい性格を抑えこむことでサイ・ヤング賞投手になった選手を、なぜ黄色い酔っ払い軍団を作ってまでして奪三振を煽り立てる必要があるのか。
2011年6月28日、サウスカロライナ大学、カレッジ・ワールドシリーズ2連覇。先発Michael Roth、父親の応援に報いる。
2011年6月24日、体調の悪いダニー・ハルツェンを3イニングしか使えなかったヴァージニアが敗れ、CWS決勝カードはフロリダ対サウスカロライナに。ちょっとユニークなピッチング・スタイルのMichael Rothと、彼の父親との絆。
2011年6月17日、「そういえばダスティン・アックリーのメジャーデビューの日はイチローが3安打してフィリーに完勝したんだよな」と、一生言えるわけで。「Carolina Double カロライナ・ダブル」もビューティフル。
2011年5月31日、ジャスティン・スモークの逆転3ランで逆転勝ち!ひゃっほおううううううう!!!!
2011年5月30日、言語学的意味論から考える「しぼむ風船」ショーン・フィギンズ。
2011年5月23日、600号目前のトーミに2本食らって、どうみても負けそうなミネソタ戦を、全員野球で延長10回逆転。 6連勝! ひゃっほうううう!!
2011年5月20日、インターリーグで2年ぶりにシアトルの投手が打ったヒットで、2009年当時のジェイソン・バルガスの苦境を思い出す。
2011年5月13日、「打者を追い込むところまで」で終わりの投球術と、「打者を最終的にうちとる」投球術の落差 (2)「ストレートを投げる恐怖」と「外の変化球への逃げ」が修正できないヘルナンデスの弱さ。
2011年5月13日、「打者を追い込むところまで」で終わりの投球術と、「打者を最終的にうちとる」投球術の落差  (1)打者を追い込んだ後のヘルナンデスの不可思議な「逆追い込まれ現象」
2011年4月27日、5打点スモークの2試合連続ホームランの凄い打球。ベダード、無四球で2009年6月7日以来の勝利!
2011年4月25日、「2月のサウスカロライナ、父と息子のキャッチボール」。February in South Carolina, a father and his son played catch.
2011年4月19日、ジャスティン・スモーク選手のご尊父のご逝去を悼み心からお悔やみ申しあげます。My Thoughts and prayers are with Justin and his family.
2011年4月11日、ひゃっほー My Oh My! 逆転サヨナラ勝ち! 最高!!! ミラクル!!!!!!!!
2010年10月3日、かつて2008年に城島が選ばれた「ESPN上半期LVP」と「年間LVP」をほぼ同時受賞したといえるショーン・フィギンズ。そして、「シーズン最悪の非貢献者」と名指しされたも同然のズレンシック。
2010年9月12日、元シアトルの右腕クリス・ティルマンがデトロイトを1安打に抑えて好投中。なんとミゲル・カブレラを2三振。
2010年8月27日、8月初めにスポーツ・イラストレイテッドのジョン・ヘイマンは「8月末までにトレードされるかもしれない選手31人」のトップに、「ショーン・フィギンズ」を挙げた。(ウェーバー・トレードの解説など)
2010年8月17日、「フィギンズのセカンドコンバートと打順2番固定が大失敗に終わった」ことが、攻守両面、さらには規律の崩壊を招き、いまやシアトルは「ア・リーグで最もエラーの多いチームのひとつ」。
2010年7月29日、ようやくローランドスミスがDL入り、だそうだ。どうしてこのチームはいつもいつもこうなんだろう。
故郷へ旅するスポーツ。 Tribute to Mark Lowe
2010年7月9日、テキサス州ヒューストン出身のマーク・ロウは「シアトルが僕の野球の故郷。テキサスの砂漠をできるだけ早く抜け出したい」と語った。
2010年6月25日、ストレートに球威もコントロールも無いのに、要所で突然ストレートを投げたがる「脳内剛速球投手」ローランドスミスのワンパターンな「ストレート病」。ホームラン2発で、試合は壊れた。
2010年6月19日、移籍後にストレートを投げる割合が83.1%から55.7%に突然下がり、シカゴ・カブスで別人になったカルロス・シルバの不可思議な変身。
2010年6月13日、「バランスの鬼」ヘルナンデス、8回2/3を2失点に抑え4勝目。輝きを取り戻しはじめたヘルナンデスの個性を、クリフ・リーとの「ストライク率の違い」から考える。ロブ・ジョンソン3安打。(2010年ヘルナンデス ストライク率表つき)
2010年6月1日、コロメ、テシェイラ、不調だった2人のブルペン投手がDFAになって、さっそく好ゲーム。バルガス好投で4勝目、打線もつながりまくりだが、本当の意味のチーム改善にはまだまだ。(「MLBのDFA(戦力外通告)の仕組み」解説つき)
2010年4月30日、「ストレートを投げたくてしかたない病」にかかったローランドスミス。
2010年4月21日、ヘルナンデス8イニングを無四球自責点ゼロの完投2勝目で、17連続QSのクラブレコード達成、シアトル同率首位!ロブ・ジョンソン、4回裏2死満塁の同点タイムリーと好走塁でヘルナンデスを強力バックアップ。
2010年4月16日、開幕8試合で31打数10安打と、予想通りバッティングが開花しつつある、移籍後のロニー・セデーニョ。
2010年4月5日、今年のシーズンを占うヘルナンデス、ロブ・ジョンソンのバッテリーの2010年版配球パターンを読む。
2010年4月5日、移籍先でついにレギュラーポジションを掴んで開幕を迎えることのできたジェフ・クレメントを祝福する。
2009年12月14日、ESPNのRob Neyerが選んだ 「この10年のMLBプレーヤー トップ100」
2009年12月8日、ショーン・フィギンズはどうやら2番を打ち、守備位置はシーズン当初サードではなく、セカンドらしい。
2009年12月4日、快足スイッチヒッター、ショーン・フィギンズ獲得。らしい。これもコネ捕手に払うサラリーが不要になった「シアトル正常化」のおかげ。
2009年11月18日、フェリックス・ヘルナンデス、ルイス・アパリシオ賞受賞。
2009年11月17日、残念ながらヘルナンデスのア・リーグ サイ・ヤング賞はならず。しかしシアトル公式サイトは2009シーズンのヘルナンデス、ロブ・ジョンソンのバッテリーを、winning combination、「勝てるやつら」と、ほめたたえた。
2009年11月2日、ワールドシリーズ終了後にFAになるウオッシュバーン、「移籍希望先のトップは、シアトル」と語る。
2009年10月29日、コヨーテの森のベースボール。
2009年10月6日、ヘルナンデスと松坂の近似曲線の違いから見た、ヘルナンデスの2009シーズンの抜群の安定感にみる「ロブ・ジョンソン効果」。(ヘルナンデスと松坂の2009ストライク率グラフつき)

June 08, 2012

マイケル・ソーンダースのバッティングが今シーズン非常に良化していることに、誰もが驚いている。

彼の最大の弱点が、カウントを追い込まれてからのインコース低めの変化球であることは、誰もがわかりすぎるほどわかっていたことだが(いまのジャスティン・スモークにも同じ欠点がある)、今年はなんと、そのインローの変化球をカットできるようにすらなってきている
また、昔から長打できるのはインコースの高めのストレート系だけであり、MLBの左バッターが誰でも苦労するアウトコースの2シームを長打できるほどのパワーをバットに伝達する技術などなかったわけだが、今年は外の球でもホームランできている。
かつてのソーンダースの欠点は、2009年のメジャーデビュー以来、これまで何シーズンも進歩が見られなかっただけに、たいていのファンは彼のキャリアも今年で終わりかと諦めかけていたわけだが、変われば変わるものだ。


デビュー当時と今とで、彼のバッティングで最も変わった点は、なんといってもタイミングのとりかただ。

昔のソーンダースのバッティングフォームは、ピッチャーが動作を開始するタイミングや、投げる球種とまったく無関係に、自分のタイミングでバットを引き、来る球をスイングする、たったそれだけの「ワンタイミングのスイング」でしかなかった。(これだとバットを引いて待っている間に、せっかくバットにためこんだ加速度は、まるっきり失われてしまう)
だから、結局のところ昔のソーンダースが用意できていたのは、「ストレート系に合わせた、たった1種類のタイミングだけ」だったわけで、これでは投手に少しでもタイミングをズレされる、つまり、チェンジアップや高速シンカーような変化球を投げられると、もう手も足も出なかった。


それにくらべて今シーズンのソーンダースのスイングは、下の動画の比較でわかるように、バットを持った手を細かく動かしながらピッチャーの投球動作の開始を待ち、動作開始にピタリと照準をあわせてバットを引き、スイングを始動できるようになっている。
この「手を細かく動かしつつ、スイング開始タイミングを、球種や投手のクセにアジャストする工夫」を導入したおかげで、ストレート系であれ、変化球であれ、スイングするタイミングや始動のきっかけの異なるさまざまな球種に細かく対応することが可能になってきたわけだ。


彼がメジャーデビューしたのは、2009年7月25日のクリーブランド戦だが、当時のソーンダースと今のソーンダースの打撃フォームを動画で比べてもらうとよくわかるはず。

2009年
8月5日 投手 ケイル・デイビス(KC)
Baseball Video Highlights & Clips | SEA@KC: Saunders' first extra-base hit has Seattle up - Video | MLB.com: Multimedia

2012年
6月5日 投手 ギャレット・リチャーズ(LAA)
Baseball Video Highlights & Clips | SEA@LAA: Saunders skies a solo homer to center - Video | MLB.com: Multimedia

マイケル・ソーンダースの動画(MLB公式)
Multimedia Search | MLB.com: Multimedia


と、まぁ、書くと、
「なーんだ。タイミングかえただけの話かよ」と思われてしまいがちだ(笑)
そうでもない。下の画像を見てもらうとわかる。タイミングの取り方を変えただけで打てるようになるものでもない。

マイケル・ソーンダースの2012年版打撃フォーム

これは今年のソーンダースで、6月5日のLAA戦でホームランを打った打席のソーンダースの「構え」だ。打ったのは、カウント3-1からの96マイルの4シーム。


バットの角度に注目してもらいたい。

このときの投手ギャレット・リチャーズは、常に95マイル以上のストレートが投げられる速球派だが、今シーズンのソーンダースは、こういう速球派との対戦においても、バットをまだ少し寝かせたままにしておき、いつでも打てる態勢になってしまうのを「我慢」できる

この「待ち時間」が、パワーを生む。

もし「ピッチャーの投球動作にもっと早くから合わせていた昔のソーンダース」なら、「ピッチャーの投球動作の早い段階で、すでにバットの角度が立ってしまい、いつでもスイングできる態勢に入っていただろう」と思う。


テニスでは、野球でいう「振り遅れ」を避ける意味で、「できるだけ速くラケットを後方に引いて、構えていなさい」と、テニスでいう「構え遅れ」を避ける指導をすると聞く。
だが、「素材のしなり」を含み、なおかつ「先端が重くて、長い」木製バットを一連の動作で振り回す野球のバッターの場合、バットをあまりにも早く引きすぎて、つまり、必要以上に早いタイミングでしっかり構えきってしまうと、バットのヘッドに蓄積できるはずのパワーがスッと抜けてしまい、力感の無いスイングになってしまう。


マイケル・ソーンダースのスイングは、たとえて言えば、ルアー釣りでルアーを遠くにキャストする動作にちょっと似ている。
ロッドをふりかぶっても、すぐにキャスト(投げる)わけではなく、ルアーの重みや、ロッドのしなりから生まれる遠心力が、ロッド先端にしっかりと「のって」、ロッドが最大にたわむ瞬間を一瞬だけ待って、それから一気にスイングする。
この「待ち時間の長さ」は、そのとき使うルアーの重さや、ロッドのしなり具合などの条件によって、さまざまに変化する。そして重いルアーより、ロッドのしなりを利用して軽いルアーを遠くに飛ばすほうが、遥かに難しい。そして上手いアングラーは細くて「しなる」ロッドを使いこなせる。

基本的なルアー・キャスティング

フライフィッシングのHatch Cast

バットの重さに振り回されるのではなく、バットの「重み」や「たわみ」、遠心力で振りぬこうと思うと、この「待機時間」は必要以上に長すぎては困る。
ルアーのキャストにたとえると、ロッドをあまりにも早く後ろに構えて、あまりにも待ち過ぎると、ロッドから「たわみ」が抜け、真っ直ぐになってしまうから、もうルアーを遠くに投げる遠心力は生まれてこない。


かつてのマイケル・ソーンダースのスイング動作は、ロッドのたわみを利用してキャストできない下手くそなアングラーそのもので、あまりにも律儀に早くからバットを引きすぎていて、力感がなかったが、今のソーンダースは、どこでもルアーを飛ばせる、上手なアングラーだ。

ルアー


damejima at 09:45

April 14, 2012

去年の貧打ぶりを知っていれば、4月12日時点で、ア・リーグで最もヒット数の多いチームがシアトルである、と言われても、誰もピンとはこないだろう。(以下、数値は全て4月12日時点)
だが実際、ヒット数に関してだけ言えば、今シーズン圧倒的な戦力を擁しているデトロイト、テキサスより、シアトルののほうが多いのだから、事実は小説よりも奇なりだ(笑)
かといって、シアトルのチーム打率が高いわけでもないのだから、世界の7不思議といってもいい(笑)
(というか、単に特定の左バッターだけがヒットを打っているだけのことだ。ヒット数の多い順にいえば、イチロー、アックリー、左打席のフィギンズ、シーガー、モンテーロ)

SEA ヒット数 71 チーム打率.252
DET 63 .304
TEX 58 .257
LAA 56 .272
NYY 54 .249
2012 American League PH/HR/Situ Hitting - Baseball-Reference.com


だが、これをwOBAで見てみると、話は全然違ってくる。
ベスト5からシアトルが消え、かわりにボルチモアとタンパベイ、要するに、東地区のチームの名前が上がってくる。この理由はもちろん、シアトルのヒット数に占める長打の割合が低いから。
他方デトロイトは、何度も書いているように、もともとチーム打率の高いチームで、しかも今年から長打力向上のためにプリンス・フィルダーを獲り、他の打者も好調。今年のデトロイトは、ヒット数も長打力も東地区のチームを圧倒しており、ア・リーグ断トツの打撃力を誇るチームといえば、デトロイトだ。

DET .360
NYY .334
BAL .333
TEX .330
TBR .329
American League Team Stats » 2012 » Batters » Dashboard | FanGraphs Baseball


こういうことを書くと、すぐに「やっぱり野球は長打だよな」なんて馬鹿なことを言いたがる人間がいるものだ(笑)。
まぁ、論より証拠、ア・リーグ各チームの得点数を見てもらおう。長打をバカスカ打って得点しまくっている「はず」の東地区のチームの名前が、再び消え失せる。東地区の野球が、いかに「塁打数がムダに多いが、実は得点に結びつかない、大味な野球」になっているかが、よくわかる。

DET 40
TEX 31
SEA 31
LAA 30
NYY 29


あの極限的貧打だったシアトルの得点数が、今の時点だけならア・リーグトップクラスというのにも驚かされるが、もっと驚かされるのは、その得点の多さがチーム勝率にほとんど反映されない点だ(笑) (まぁ、まだホームでゲームしてないという点は差し引いてもいいが)
野球というものは、常識的なチーム運営をやっているだけなら、投手力と打撃力が両立することはない。予算というものは無限ではないのであって、よほど一方的に勝つトレードでもできない限り、オフェンスに注力すればディフェンスが低下する、またはその逆の現象が起きるだけのこと。
シアトルが先発投手を犠牲にしてバッティングの充実を図るような偏った補強ばかりしていれば、あの素晴らしかった投手力が急降下して打撃にチームカラーがシフトするくらいのことは想定内。しかも、その内容は効率的なものではない。


今シーズンのア・リーグで、そのバッターが打席に入ったときにいたランナーの人数の合計(Baserunners, BR)、ランナーが得点した点数(Baserunners who Scored, BRS)、ランナーの人数に対する得点の割合(BRS%)を見てみる。(ランナーといっても、ここでは「得点圏走者」という意味ではないし、BRS=RBIとは限らない。それにしても、「ランナーを多く背負う打順」というのが、チームにもよるが、実は4番より、3番や5番6番だったりするデータなのが面白い)

打席でランナーの多いバッター ベスト20
Nick Swisher     31人 4点 13%
Derek Jeter      24 2 8%
Justin Smoak   22 1 5%
Brennan Boesch   21 5 24%
Ben Zobrist      21 3 14%
イチロー        21 3 14%
Torii Hunter      21 3 14%
Jose Bautista     21 1 5%
Robinson Cano    21 0 0%
Michael Young    20 6 30%
Adrian Gonzalez   20 5 25%
Mark Teixeira     20 1 5%
Jeff Keppinger    20 0 0%
Carlos Pena      19 6 32%
Edwin Encarnacion 19 5 26%
Nelson Cruz      19 4 21%
Kurt Suzuki       19 3 16%
Matthew Joyce    19 3 16%
Vernon Wells      19 2 11%
Michael Saunders 19 1 5%

打席でランナーがいるシチュエーションの多いバッターのランキングには、ヤンキースはじめ、東地区のバッターの名前がやたらゾロゾロ挙がってくるわけだが、彼らの「ランナーをホームに帰す率」が総じて低い。いくら長打があるとはいえ、彼らの得点効率(ひいては、彼らの高額なサラリー対する得点効率)は、けして良くはないことがわかる。もし彼らがホームランを打てなければ、いくら長打が打てても無駄が多いバッターが多いだけに、チームの得点力は急激に下降線になる。

またシアトルは、たとえ長打は少ないにしても、ヒット数は多いのだから、得点につながる野球ができているか、というと、そんなことはない。いくらランナーを数多く出そうと、例えば4番スモークにランナーを帰すバッティングができないのだから、得点には天井が決まってしまう。
(というか、今年のローテ投手の防御率悪化は目に見えているのだから、投手を犠牲にして獲得した打者たちがチームの得点数を大きく伸ばす日でも来ない限り、得失点差は永遠に改善されず、得失点差に影響される勝率は改善されない
シアトルで、ヒット数が多い割に得点につながらないのには、ちゃんと理由があって、それはよくいわれるような「長打が無いから、得点できない」わけではない。スモークを4番に使わなければならない理由は、今のところ、どこにもない

ランナーの多さが得点につながらないバッター ベスト5
Robinson Cano (NYY) 21人 0点 0%
Jeff Keppinger (TBR 6番打者) 20 0 0%
Justin Smoak (SEA) 22 1 5%
Jose Bautista (TOR) 21 1 5%
Mark Teixeira (NYY) 20 1 5%
Michael Saunders (SEA) 19 1 5%

逆に、ランナーをムダにしないバッターのランキングをみると、東地区のバッターの名前が消え、デトロイトのバッターが浮上する。これが今年のデトロイトの強さ。
3番ミゲル・カブレラは、ランナーを背負って打席に立っている打者ベスト20に入っていないが、それでも44%のランナーをホームに帰してしまうというのだから、驚異的。誰だって、そんなバッターと勝負したくはない。

ミゲル・カブレラの打席にランナーが思ったほど多くない理由は、2番バッター、ブレナン・ボーシュの打点の多さを見れば、なんとなく理由が想像できる。
デトロイトと対戦する投手にしてみれば、3番ミゲル・カブレラと勝負するくらいなら、2番ボーシュとの勝負を選ぶわけだが、実は打率こそ低いものの勝負には強いボーシュにタイムリーを打たれて涙目、なんていうケースが増えつつある。(3番に座ったイチローの前の、2番バッターに打点が増えつつあるのにも、似たような理由がある。かつては1番イチローの前の9番ベタンコートにもそういう打点恩恵があった)
デトロイトのリードオフマンといえば、かつてはカーティス・グランダーソンだったが、グランダーソンのサラリーが高騰する前にヤンキースにトレードして、かわりに獲得した1番・センターオースティン・ジャクソンが絶好調で、グランダーソンの穴を完全に埋めて余りある活躍をみせつつあるのも大きい。
グランダーソンに払うはずだった高いサラリーを考えると、グランダーソンが毎年ホームランを40本打ち続けるとはとても思えない以上、オースティン・ジャクソンとダグ・フィスターの2人は、「給料は安く、戦力は高い選手」を獲得できた、理想的な勝ちトレードだ。こういう選手獲得によってペイロールを節約しながら戦力補強できるからこそ、デトロイトはプリンス・フィルダーに食指を伸ばせた。

ランナーが得点につながるバッター ベスト5
(Miguel Cabrera 16人 7点 44%)
Michael Young 20 6 30%
Carlos Pena 19 6 32%
Edwin Encarnacion 19 5 26%
Adrian Gonzalez 20 5 25%
Brennan Boesch 21 5 24%


ちなみに、Ptn%(Percentage of PA with the platoon advantage)というデータで見ると、シアトルが72%で、ア・リーグトップ。(2位はOAK71%、3位CLE65%。最下位はTEXの45%。デトロイトは53%。強力打線のチームは打線をそれほどいじっていない)
この数値は、相手ピッチャーが左なら右打者を並べ、右なら左バッターを多くぶつけるという風に、「相手投手の左右に対して、打者の左右が逆になっているパーセンテージ」のこと。
シアトルは、上位打線にフィギンズ、スモークと、2人のスイッチヒッターがいるわけだから、もともと相手投手の左右にあわせやすい打線ではあるが、この2人だけでPtn%が「72%」もの高さになるわけがないわけで、あくまで高いPtn%の元凶は、監督エリック・ウェッジが相手投手に合わせて打線をいじりたおす「深刻な左右病」にある。

だが、以下の数値を見なくとも、シアトルのゲームを常に見ていればわかるように、ヒットにしても、ホームランや長打にしても、シアトル打線のヒットの大半は「投手の左右を気にしない左バッターの活躍」によるものであり、ウェッジが相手投手によって打線をコロコロ入れ替える戦略が、ヒット数の多さにつながっているわけではない。
事実、ブレンダン・ライアン、ミゲル・オリーボ、キャスパー・ウェルズなどと、休養しているグティエレスも含めて、シアトルの右バッターの大半はまるで機能を果たしていない。また、スイッチヒッター、スモークの右打席も機能していないし、ヘスス・モンテーロのスイングは明らかにスラッガーのスイングではない。
エリック・ウェッジの「左右病」がシアトル打線の好調さにつながっているわけではないのだから、本来なら、好調な打者をどんどん上位に移して、不調のスモークをさっさと4番からはずすべきだ。
だが、シアトルというチームは、いつもそうだが、「どうせそのうち、そうせざるを得なくなること」を、すぐには実行せず、しばらく様子を見て症状を重くして失敗する。
弱いチームの「弱さ」とは、一瞬のチャンスをモノにできない「引きの弱さ」であり、また、予想できるピンチを回避できない「逃げ足の遅さ」である
長くは続かないチャンスをモノにしないうちに、左バッターの好調期間が終わってしまえば、また元の貧打に戻るのは目に見えている。

vs RHP as RHB 打率.230 ヒット数14
vs RHP as LHB .260 45
vs LHP as RHB .156 5
vs LHP as LHB .438 7
RHP=右投手、LHP=左投手
RHB=右バッター LHB=左バッター
2012 Seattle Mariners Batting Splits - Baseball-Reference.com

damejima at 05:04

September 05, 2011

キャスパー・ウェルズ


典型的ローボールヒッター
マトモな選手なら全員が持っているべき、「腕をたたんでインコースをスイングする技術」そのものがない。よくこんな選手を獲得してくるものだ。
当然のことながらインコースが苦手。メジャーのバッターがシーズン通してプレーできる選手になるには、「ひと目でわかる欠点があること自体が致命的だ。この選手はメジャーのバッターにはなれない。断言できる
ヒッティング・カウントについては、典型的なMLBの早打ちタイプ。2球目、3球目に勝負をかけてくる。0-2、1-2、2-2、フルカウントと、2ストライクをとられたあらゆるカウントでのバッティングで、スタッツがガクンと下がる。
P/PAは4.04なのに、BB/PAが去年より悪化していることからわかるように、基本的には3球目までに勝負が決着する典型的早打ち打者。四球を選ぶタイプではない。

高めが苦手。速球に強いカイル・シーガーと違って、高めの早い球についていけなさそうだ。マイク・カープと違って、チェンジアップは得意。
投手は、インコース、高めが苦手なこと、早いカウントから打ってくること、きわどいコーナーの球でも器用に打てる打者だが同時にボール球でも振ってくる打者でもあることなどを頭に入れて対戦すればいい。

得意球種はチェンジアップ、カットボール、苦手球種はシンカー、スライダー、カーブ。
持ち球の関係で、どうしてもウェルズの得意なカットボールを投げたいのなら、苦手なのが明白なインコースに投げるべきだし、同じように、ウェルズの得意なチェンジアップを投げたいなら、ストライクにせず、ボールにする球として投げることで、安全性が高まる。
ローボールヒッターのウェルズへのフィニッシュとして、苦手な高めにストレートで押して三振でもさせるか、ボールになる外の変化球を空振りか凡退させるか、迷うところだが、無理せず、低めの、それもボールになる変化球を投げて凡打させておけばすむ。
ただ、8月末のホワイトソックス戦のデータから、苦手意識があるのは球種よりも「コース」らしいので、球種はそれほど気にしなくていいかもしれない。

ローボールヒッター
2ストライクをとられると、打てない
インコース、高めが苦手
シンカーがまったく打てない
たとえ得意球種でもインコースに投げられると打てない
追い込まれると、ボール球に手を出すクセ


得意カウント 1-0、0-1、1-1、2-1(特に1-1)
苦手カウント 0-2、1-2、2-2、3-2
得意球種 チェンジアップ、カットボール
苦手球種 スライダー、カーブ、(8/27追記 シンカー
得意コース アウトロー、インロー
苦手コース 高め、インコース
得意チーム BOS,MIN,OAK.TEX
苦手チーム LAA,CLE
Casper Wells Hot Zone | Seattle Mariners | Player Hot Zone | MLB Baseball | FOX Sports on MSN

クリーブランド戦でのデータ
第1戦
第1打席 インコース シンカー 死球
第2打席 アウトロー ストレート シングルヒット
第3打席 アウトロー ボール球シンカー ライトフライ
第4打席 アウトコース ハーフハイト ボール球のストレート セカンドゴロ
Seattle Mariners at Cleveland Indians - August 22, 2011 | MLB.com Classic

第2戦
第1打席 インコース高め シンカー サードゴロ
第2打席 ど真ん中 シンカー ファーストゴロ
第3打席 インコース真ん中 ボール球シンカー 空振り三振
第4打席 真ん中高めのストレート 空振り三振
Seattle Mariners at Cleveland Indians - August 23, 2011 | MLB.com Classic

第4戦
第1打席 アウトロー ボール球のカットボール 空振り三振
第2打席 ややインコースより ど真ん中のシンカー ファーストフライ
第3打席 アウトコース ボール球のカットボール セカンドフライ
第4打席 アウトロー スライダー サードフライ
第5打席 インコース カーブ 見逃し三振
Seattle Mariners at Cleveland Indians - August 24, 2011 | MLB.com Classic

対ホワイトソックス ジョン・ダンクス
第2戦
第1打席 外のチェンジアップ 空振り三振
第2打席 インコース低め ボール球のカットボール 空振り三振
第3打席 インコース低め ストライクになるカットボール 空振り三振
Chicago White Sox at Seattle Mariners - August 27, 2011 | MLB.com Classic

クリーブランドの「シンカー」パターン
インコースのカットボールで追い込み、
高めからシンカーを落として空振りさせる

配球の細かい部分は省略させてもらったが、クリーブランドの投手たちは、インコースのカットボールで追い込んでおいてから、シンカーを投げて凡退させるパターンを多用している。持ち球にスプリッターのある投手なら、シンカーのところをスプリッターでも代用できるだろう。
カットボール自体はウェルズの得意球種のはずだが、苦手なインコースに投げられると、とたんにミートできなくなる。ウェルズは球種の得意不得意よりも、よほどインコースに苦手意識があるとみた。
逆にいうと、「苦手なコースのあるバッターとの対戦」においては、球種がたとえそのバッターの得意な球であっても、苦手コースにさえ投げられるなら、なにも怖がる必要はなく、むしろ、凡退させるのに絶好な切り札にできるということ。勉強になる(笑)

ホワイトソックス ジョン・ダンクスの
「カットボール」パターン

高めの球で追い込み
インローのボールになるカットボールで三振

ウェルズを3打席3三振させたホワイトソックスのジョン・ダンクスも、ウェルズの弱点である「高め」「インコース」といった「コースの弱点」を徹底的に突いている。最初に高めを多投して追い込んでおき、最後はインコース低めの完全にボールになるカットボールを振らせるのが、ダンクスのパターン。クリーブランドも使っていた「インコースのカットボール」がここでも使われている。


打席例

2011年8月30日 エンゼルス戦 5回裏
三振
インコースのストレート。彼がインコースが苦手らしいのは、もう、よーくわかっているが、0-2、1-2、2-2、3-2、あらゆる2ストライク後のバッティングが苦手なバッターでもある。
1-2と追い込んだ後は、何も考えず漫然とピッチングしている投手なら、よくありがちな「追い込んだら、アウトコースの低め」とかいう知恵のない、紋切型の配球をしてしまう典型的なシチュエーションなわけだが、きっちりインコースに厳しい配球をしてくるところに、今日のソーシアの「絶対に勝つんだ」という「やる気」を感じた。
2011年8月30日 5回裏 ウェルズ三振


2011年9月9日 カンザスシティ戦 2回裏
三振
アウトコースのシンカーで3球三振。「シンカーがまるっきり打てない」というスカウティング通りで、驚くにはあたらない。
むしろ、見てもらいたいのは2球目アウトローのチェンジアップ。キャスパー・ウェルズの得意な球種とコースであり、ストライクをとろうと思っていたらヒットになっていた球だ。空振りをとれたのは、たまたま低めに外れたため。投手はジェフ・フランシス。シアトル打線に痛打されまくって自責点5で3回もたなかったが、この2球目の不用意さから、ピッチングの幼さがよくわかる。
2011年9月9日 ロイヤルズ戦 2回表 キャスパー・ウェルズ 三振



damejima at 01:52
カイル・シーガー

典型的なストレート系ヒッター
けして、カープのようなローボールヒッターではないにもかかわらず、なぜかカープと並んでシアトルで最もフライアウト率が高い打者でもある。たぶんスイングそのものにフライになる原因があるのだろう。

スライダーへの苦手意識
いかんせん低めが苦手なのが、メジャーのプレーヤーとしてやっていく上で致命的なのは明らか。ハーフハイトの甘い球を仕留めるのは得意。スライダーへの苦手意識は相当なものがありそうだが、その元をたどると「低めの球への苦手意識」に辿り着く。
対戦する投手は、球が浮かないようにコントロールに気をつけつつ、低めの変化球で勝負しておけばいいだけ。このことが、対戦チーム全体に浸透するのに、そう時間はかからないはず。
同地区のライバルとしてこれから数多く対戦しなければならないア・リーグ同地区のエンゼルス、テキサスには、既に低スタッツが既に残されている。同地区だけに、新人といえども既にある程度スカウティングされてしまった、とみなければならない。

得意カウント 初球、1-1、2-0、2-1、3-1、0-2、
苦手カウント 1-2、2-2
得意球種 カットボール、ストレート
苦手球種 スライダー
得意コース インロー、ハーフハイト、
苦手コース アウトロー、真ん中低め
苦手投手 しいて言えばフライボール・ピッチャー
苦手チーム LAA,TEX
Kyle Seager Hot Zone | Seattle Mariners | Player Hot Zone | MLB Baseball | FOX Sports on MSN


打席例

2011年8月26日 ホワイトソックス戦 第1打席
センターフライ
外低めのチェンジアップ。
2011年8月26日 カイル・シーガー 第1打席


2011年8月26日 ホワイトソックス戦 第2打席
二塁打
真ん中のストレート。ストレートの強いバッターに、ストレート3連投、しかもど真ん中では打たれて当然
2011年8月26日 カイル・シーガー 第2打席


2011年8月26日 ホワイトソックス戦 第3打席
センターフライ
真ん中低めのカーブ。スカウティングどおり。
2011年8月26日 カイル・シーガー 第3打席


2011年8月26日 ホワイトソックス戦 第4打席
空振り三振
外低めにはずれるチェンジアップ。初球、2球目と、得意なはずのインコース、ハーフハイトの球を連続して見逃しているあたり、やはり、スライダーによほどの苦手意識があるのだろう。早いカウントでは得意なストレート系に絞って待っていることが、よくわかる。
2011年8月26日 カイル・シーガー 第4打席


2011年8月29日 エンゼルス戦 8回裏
三振
アウトコースのスライダー。オリーボにヒットを許し、ソーシアは次のキャスパーを敬遠させて、1死1、2塁にしてまでキャスパーと勝負し、ダブルプレーをとりにきた。つまり、それだけ「打ちとる自信があった」ことになる。
この場面で高橋尚は「ストレート系ヒッター」カイル・シーガーに、ストレートを初球、3球目と投げているのだが、これはちょっと危ない。3球目のストレートは少し浮いていて、タイムリーを打たれても不思議ではなかった。
この打席、最後は、このブログのスカウティングどおり、シーガーが大の苦手にしている「アウトローのスライダー」で三振させているのだが、どうも高橋尚投手は、きちんと相手打者のスカウティングをきちんと反映して投げていると思えない投球をする。
2011年8月29日 8回裏 シーガー三振 投手 高橋尚


2011年8月30日 エンゼルス戦 4回裏
ダブルプレー
初球のアウトローのストレート。ストレートは得意球種のはずだが、「いくら好きな球種でも、それが苦手なアウトローに来たときには、凡退する」、それくらい、シーガーのアウトローへの苦手意識は強い。あえて打者の好きな球種を、その打者の苦手なコースに投げることは、コントロールさえ気をつければ非常に効果がある。
2011年8月30日 4回裏 シーガー ダブルプレー


2011年8月31日 エンゼルス戦 2回裏
二塁打
インコースのカットボール。
このバッターが最も苦手にする「アウトコースのスライダー」に翻弄され続ける様子は、既に一度書いた。この打席でも、2球目のど真ん中のカーブを見逃している理由は、非常によくわかる。このバッターはゆっくり大きな動きをする変化球についていけないので、こういうボールを最初から諦めているからだ。
このバッターは、ストレートかカットボールが自分の得意コースのインローやハーフハイトに来るのだけをひたすら待ち受けているような、「定置網の漁師」みたいな打者なのだから、「インコースのストレート系」はもちろんタブーだ。
このヒットを打たれたのは2回裏だが、試合終盤になって集中力が切れてきたときに、結局ダン・ヘイレンのピッチングはどんどん緩んでしまい、打者のスカウティングを無視して、自分の好きな球を漫然と投げ込んでしまうことになって失点した。
2011年8月31日 カイル・シーガー 二塁打 SEAvs.LAA





damejima at 01:37
若手打者の打撃傾向についてあれこれ書いているうちに、複数の記事に書き散らして内容が散逸してしまっているので、「打者ごと」にまとめなおして保存しておくことにした。過去の記事と内容がダブるのだが、ご容赦願いたい。

まずは、マイク・カープから。


マイク・カープ

典型的なローボールヒッター、それも「インコースのローボール」に限られる。この打者が典型的なフライボールヒッターなのは、そのためだ。
スタッツを稼ぐのは、大半が「得意コースであるインコースの低い球を打ったフライかライナー」によるもの。ゴロさえ打たせておけば、まったくノーチャンスだ。
三振させる配球パターンが非常にハッキリしている打者でもあり、三振は非常にとりやすい。追い込んでおいて、外の高めのストレート、アウトローの変化球、インローのボールになる変化球、3つのうちどれかを投げておけばいいだけだ。逆にいうと、こんなわかりやすいバッターに長打を打たれてしまうような投手は、スカウティングに関心がない知恵の足りない投手だ。
メジャーに上がった直後に数字を残したが、BABIPの異常に高い打者であることからわかるように、「まだスカウティングされていなかった」のに加えて、単に「運がよかっただけ」

フライボール・ピッチャー(それもスカウティングに関心の低い投手)にとっては非常に嫌なバッターだが、グラウンドボール・ピッチャーにしてみれば、これほどダブルプレーをとりやすいバッターはいない。ランナーが1塁にいるケースでは、アウトコースの変化球でゴロを打たせてダブルプレーに仕留めるのを狙うべき典型的なバッターだ。

ランナーズ・オンでの初球打ち
ランナーズ・オンと、そうでないときでスイングするカウントを変えるという、独特のカウント感覚を持っている。
なんとなくだが、「投手の油断やスキの出るカウントで強振してくる変則的な傾向」をもっていると思われる。「ここはスイングしてこない」と投手が油断しがちなカウントで、不意打ちをくらわせるように強振してスタッツを稼ぐバッターだ。
ランナーが得点圏にいるケースでの初球打ちが、異常に得意。チャンスの場面でけして待球せず、初球から思い切って打ちに出る奇襲策でタイムリーを稼いできた。8月末のエンゼルス戦までの「初球打率」は、なんと6割を超え、OPSが1.455もあった。(AVE.636 OBP.636 SLG.818 OPS1.455)
投手は、ランナーが二塁にいるは、ストライクをとりたいだけのために、初球に低めのスライダーやカットボールを不用意に投げないことだ。
ランナーが出たからといって、マリアーノ・リベラがよくやる手を使って、カットボール、あるいはインコースのボールを詰まらせてセカンドゴロを打たせ、ダブルプレーに仕留めよう、などとカッコつけると、むしろ投手のほうが墓穴を掘ることになる。それはカープの最も得意な球種とコースなのだ。結構な数の投手がこの「ランナーを出した直後の初球に、インロー」のパターンで失敗している。
ここはむしろ、例えばランナーを十分に牽制しておいて、盗塁される危険性も覚悟で、カープの苦手なチェンジアップやカーブを勇気をもって投げることで、ダブルプレーという最良の結果を手にすべき。もし、ゴロでなく、空振り三振に仕留めたい満塁のようなケースでは、外の球で追い込んでおいて、カープの得意コースであるインローに、苦手球種のカーブかチェンジアップを「ボールになるように」投げるのが最適。
ちなみに、ア・リーグ東地区の投手との相性がいいのは、カープの得意なカットボールを多用したがる投手が多いためではないか。

ランナーのいないケースでは、逆にボール先行カウントになるまで待つ傾向もあるので、必ずしも早打ち打者というわけではない。あくまで、ヒッティングするカウントは、ランナーの有無によって変わる。
また、初球打ちが大得意な反面で、早打ち打者の多いMLBにあって誰もがヒッティングカウントにしている「カウント0-1」を苦手にしているのは、非常に珍しい。投手側の計算としては、初球さえファウルを打たせることに成功したら、2球目を振ってこないカープが見逃すような変化球で追い込んでおけば、あとは投手の勝ちだろう。
カイル・シーガーと非常に対照的なバッティング傾向をもつため、この2人の打席が連続するスタメンでは、どちらかが打ち、どちらかが凡退する光景が非常によくみられる。

得意カウント 初球、2-0、1-1、3-1、3-2
特に初球打ち AVE.636 OBP.636 SLG.818 OPS1.455 BABIP.636
苦手カウント 0-1、1-2、2-2
得意球種 スライダー、カットボール
苦手球種 チェンジアップ(特にアウトロー)、外高めのストレート
得意コース インロー(典型的なローボールヒッター)
苦手コース 高め
苦手投手 グラウンドボール・ピッチャー
得意チーム NYY,BOS,TOR
Mike Carp Hot Zone | Seattle Mariners | Player Hot Zone | MLB Baseball | FOX Sports on MSN


打席例

2011年8月26日 ホワイトソックス戦 1回表
ダブルプレー
苦手球種のチェンジアップ。下に挙げた9月2日 オークランド戦のキャッチャーフライと同じボール。典型的なローボールヒッターだが、アウトローのチェンジアップは、低めでも打てていない。たぶん球種が問題なのだろう。
2011年8月26日 ホワイトソックス戦 1回表 カープ ダブルプレー 


2011年8月29日 エンゼルス戦 8回裏
2ランホームラン
得点圏にランナーがいるケースのカープに「初球、インコース、スライダー」だけは、絶対に投げてはならない球だ。そのコースだけ、その球種だけを待ち受けているところに、指定どおりのコース、球種を投げれば、飛んで火にいる夏の虫、そりゃ打たれるに決まってる。
2011年8月29日 8回裏 カープ 2ラン 投手 高橋尚


2011年8月31日 エンゼルス戦 7回裏
シングルヒット
インローのカットボール」は、カープの最も得意な球のひとつ。スカウティングにピッタリあてはまる。
投手はダン・ヘイレンだが、初球、2球目と、カープの得意な「インローのカットボール」を連投してヒットを打たれているのだから、どうみても「不用意な配球」としかいいようがない。
2011年8月31日 マイク・カープ シングル


2011年9月2日 オークランド戦 3回表
キャッチャーフライ
苦手球種のチェンジアップ。。典型的なローボールヒッターで、インローのスライダーやカットボールは非常に得意だが、チェンジアップは、いくら低めでも打てていない。
2011年9月2日 SEAvsOAK カープ キャッチャーフライ


2011年9月3日 オークランド戦 4回表
空振り三振
苦手な高めのボール球を振って、三振。このゲームでは3三振しているが、三振した球は全部が「高めのストレート」。
2011年9月3日 ホワイトソックス戦 4回表 カープ 三振


2011年9月3日 オークランド戦 7回表
空振り三振
高めを苦手とするカープが高めのストレートについていけず、空振り三振すること自体は、別に驚くようなことでもない。だが、初球の「インローのスライダー」を見送ったのには、ビックリした。「初球、インロー、スライダー」とくれば、このローボール・ヒッターの黄金パターンのはず。だが、カープはスイングしなかった。
と、なれば、考えられる理由はひとつしかない。「ランナーがいないイニングの先頭打者だったから」だ。得点圏にランナーがいるときのカープなら、間違いなくこの球をフルスイングしていたはず。
やはりこのバッターは「ランナーの有無によって、スイングするカウントと、待つ球種が変わるバッター」なのは、たぶん間違いない。
2011年9月3日 ホワイトソックス戦 7回表 カープ 三振


2011年9月3日 オークランド戦 9回表
見逃し三振
やはり「高めのストレート」はは苦手なのだろう。この打席では全球ストレートを投げられて、2球のストライクを見逃して三振している。
2011年9月3日 ホワイトソックス戦 9回表 カープ 三振


2011年9月4日 オークランド戦 3回表
ダブルプレー
1死1塁の場面。インローのシンカーでダブルプレー。本来はインローの得意なバッターだが、チェンジアップが苦手なのと同様、シンカーも苦手らしい。3球目のカーブも空振りしている。
2011年9月4日 アスレチックス戦3回表 カープ ダブルプレー


2011年9月4日 オークランド戦 5回表
2死1,2塁 ピッチャーゴロ
アウトローのシンカー得点圏にランナーがいる打席だから、カープが初球をスイングしてくる典型的なパターンだ。ピッチャーは、シンカー投手のトレバー・ケイヒル
もしここで不用意に「インローのスライダー」なんかを投げてしまうと、確実にタイムリーを食らうわけだが、投手ケーヒルのチョイスは「アウトロー」。ゴロを打ったら、典型的なフライボールヒッターのカープはノーチャンスだ。
2011年9月4日 オークランド戦 5回表 カープ 投ゴロ


2011年9月11日 カンザスシティ戦 7回裏
先頭打者 三振
アウトローのチェンジアップは、最もカープを三振させやすい球(他には、外高めのストレートも有効)。スカウティングに熱心でないエンゼルスと違って、カンザスシティはもともと分析好きの土地柄なせいか、カープにインコースの球をほとんど投げない。この打席も、苦手なアウトコース、そしてチェンジアップと、スカウティングどおりの攻めで3球三振。
2011年9月11日 ロイヤルズ戦 7回表 カープ 三振


2011年9月12日 ヤンキース戦 8回裏
無死1塁 ダブルプレー
カープがダブルプレー打を打つときのお約束の「アウトロー」。ランナーが1塁にいるときに、カープにアウトローに投げない投手は、スカウティングしてないと思うくらい、当たり前の配球。そろそろアウトローを苦手コースに加えてもいいかもしれない。
2011年9月12日 ヤンキース戦 8回裏 カープ ダブルプレー





damejima at 01:23

September 02, 2011

夏になって西地区首位のテキサスを猛追していたはずの8月のエンゼルスだが、もうひとつ追い上げムードの波に乗り切れていない理由が、なんとなくシアトルの4連戦でみえてきた。どうも、こう、鉄壁の緻密さでゲームに臨んでいるはずのマイク・ソーシアらしからぬ「雑さ」が、特に投手に見えるのである。
4連戦初戦に決勝2ランを許した高橋尚といい、自責点2ながら若いバッターに不用意なヒットを許してしまうダン・ヘイレンといい、マイク・カープにシンカーを4連投して決勝2点タイムリーを打たれたスコット・ダウンズといい、こう言ってはなんだが、エンゼルスの野球も大雑把というか、緩くなったものだと思う。
さしもの闘将マイク・ソーシアも、ちょっと年をとったのかもしれない。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年8月29日、高橋尚投手の「打たれるべくして打たれた」決勝2ラン。

Los Angeles Angels at Seattle Mariners - August 31, 2011 | MLB.com Classic


7回裏 マイク・カープ
シングル
打ったのは「インローのカットボール」。マイク・カープは何度も書いたように、典型的ローボールヒッターだ。得意球種はスライダーカットボール。苦手球種はチェンジアップ。特に得点圏シチュエーションでの初球打ちなどにも強い特徴がある。
「インローのカットボール」はスカウティングにピッタリあてはまるカープの最も得意な球のひとつだ。投手はダン・ヘイレンだが、初球、2球目と、同じ「インローのカットボール」を続けて投げて打たれたヒットだから、不用意な配球としかいいようがない。

2011年8月31日 マイク・カープ シングル


左打者へのインコースのカットボールといえば、ヤンキースのマリアーノ・リベラがすぐに思い出されるが、前にも書いたことを引用すると、同じ左打者のインコースのカットボールによる配球でも、マリアーノ・リベラなら、こういうふうには攻めない。

リベラの典型的な「カットボール・パターン」は、カットボールを2球連投したりしない。まずカットボールをインコースに投げてえぐっておいたなら、次のボールに選択するのは、カットボールではなくて、「ストレート」だ。
この配球を打者側からみると、インコースをえぐるカットボールで腰を引いた直後に、同じようなコースに同じような球速のボールが来るわけだから、自分では十分に踏み込んで打っているつもりなのに、実際には無意識に腰を引きながらスイングしてしまっている、とか、自分ではストレートをスイングしているつもりなのに、無意識にカットボールにあわせるスイングをしてしまって、ひっかけるようなバッティングになったりしてしまう。
リベラの配球の妙は、100マイル近い豪速球を投げておいてからスプリットで空振りさせるような「大げさな変化」ではなくて、カットボールとストレートの「ほんのわずかな違い」を使って、プロの打者の「素人にはない反射神経」や、「動くカットボールにさえ反射的に対応ができてしまう、プロのバットコントロール」を逆に利用している点だ。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年5月28日、アダム・ケネディのサヨナラタイムリーを生んだマリアーノ・リベラ特有の「リベラ・左打者パターン」配球を読み解きつつ、イチローが初球サヨナラホームランできた理由に至る。


カイル・シーガー
2回裏 二塁打
打ったのは、上のカープと同じ「インコースのカットボール」。ストレート系ヒッター、シーガーが最も得意とする球種であり、コースだ。得意球種がストレート、カットボール、苦手がスライダー。得意コースは、インローとハーフハイト、苦手が、真ん中低めとアウトロー。
このバッターが最も苦手にする「アウトコースのスライダー」に翻弄され続ける様子は、既に一度書いた。
この打席でも、2球目のど真ん中のカーブを見逃している理由は、非常によくわかる。このバッターはゆっくり大きな動きをする変化球についていけないので、こういうボールを最初から諦めているからだ。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年8月27日、予想通り1ヶ月で燃え尽きたズレンシックとエリック・ウェッジ演出による8月の線香花火大会。1ヶ月で擦り切れるのがわかっているドアマットの取り換えみたいな「マンスリー・リサイクル」の馬鹿馬鹿しさ。

このバッターは、ストレートかカットボールが自分の得意コースのインローやハーフハイトに来るのだけをひたすら待ち受けているような、「定置網の漁師」みたいな打者なのだから、「インコースのストレート系」はもちろんタブーだ。
このヒットを打たれたのは2回裏だが、試合終盤になって集中力が切れてきたときに、結局ダン・ヘイレンのピッチングはどんどん緩んでしまい、打者のスカウティングを無視して、自分の好きな球を漫然と投げ込んでしまうことになって失点した。

2011年8月31日 カイル・シーガー 二塁打 SEAvs.LAA


ダン・ヘイレンについてこうして書いていると、スカウティング関係なくピッチングしているように見えるタンパベイのジェームズ・シールズを思い出した。
いいピッチャーなんだけどな。ジェームズ・シールズ、ダン・ヘイレン。彼らには、クリフ・リーロイ・ハラデイを見ているときに感じる「ピッチング芸術」を感じない。

だから彼らのファンになるところまでいかない。
残念だ。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年6月3日、打者のスカウティングを全く頭に入れてなさそうに見えるタンパベイのJames Shields。



damejima at 08:25

August 31, 2011

今日は、気のゆるみがみられた29日の初戦とは一転してマイク・ソーシアらしいソツのないゲーム。徹底して足を使って容赦ない攻撃をしかけ、投げては、打者のウィークポイントを徹底してついてきている。

欠点やミスは誰にでもある。
問題なのは、「みつかった穴が、修理・修正できるものであれば即座に修正を促していく修正のスピード、修正できない欠陥かどうかを判断する見極めのスピード、修正できない欠陥を部品ごと交換する踏ん切りのスピード、これらのスピードの速さ」だ。
シアトルの仕事ぶりは常に、日本のお役所仕事の「のろまさ」に似ている。この10年、「城島問題」へのカタツムリが這うような極端にノロい対応ぶりだけでなく、大きな判断ミスを繰り返し犯し続けたGMの交代の遅さ、意味も目的もわからないトレードによる戦力ダウン、修正できない欠点が既にスカウティングされているプレーヤーでも起用しつづける無能な選手起用による勝率ダウン、チーム運営のあらゆる点について、「スピーディーな対応」というものを、「かけら」すら見たことがない



カイル・シーガーの「球種」と「コース」(=ストレート系が得意。スライダー、アウトローが苦手)、キャスパー・ウェルズの「コース」(=インコース、縦の変化が苦手)、マイク・カープの「カウント」(=スライダー、インローが得意。得点圏走者での初球打ちなど)などのスカウティングポイントを引き続き検証してみた。
元記事:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年8月27日、予想通り1ヶ月で燃え尽きたズレンシックとエリック・ウェッジ演出による8月の線香花火大会。1ヶ月で擦り切れるのがわかっているドアマットの取り換えみたいな「マンスリー・リサイクル」の馬鹿馬鹿しさ。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年8月27日、キャスパー・ウェルズがデトロイト時代に頻繁に対戦していたア・リーグ中地区の投手たちが、ウェルズをどう凡退させるのか、観察してみた。

まだゲームは終わってないのだが、当初の判断が正しいことがよーくわかった。わかってしまえば、もうつまらない。カープのタイムリーにしても、「え? なぜそこでこの打者の大好きなインローの変化球、投げちゃうわけ?」という感想しかない。
インディアンス、ホワイトソックス、エンゼルスと3カード続けてきたシアトルの若手打者の検証はこれで終わりにする。
Los Angeles Angels at Seattle Mariners - August 30, 2011 | MLB.com Classic


4回裏。カイル・シーガー
初球のアウトローのストレート。ダブルプレー。
ストレート、カットボールを得意にし、スライダー、アウトコースを苦手にするバッターだが、「好きな球種が苦手コースに来たとき」はこんな風に凡退するものだ。あえて打者の好きな球種を、その打者の苦手なコースに投げることは、コントロールさえ気をつければ非常に効果がある。
2011年8月30日 4回裏 シーガー ダブルプレー


5回裏。キャスパー・ウェルズ
4球目のインコースのストレート。三振。
彼がインコースが苦手らしいのは、もう、よーくわかっているが、0-2、1-2、2-2、3-2、あらゆる2ストライク後のバッティングが苦手なバッターでもある。
1-2と追い込んだ後は、何も考えず漫然とピッチングしている投手なら、よくありがちな「追い込んだら、アウトコースの低め」とかいう知恵のない、紋切型の配球をしてしまう典型的なシチュエーションなわけだが、きっちりインコースに厳しい配球をしてくるところに、今日のソーシアの「絶対に勝つんだ」という「やる気」を感じた。
2011年8月30日 5回裏 ウェルズ三振




damejima at 13:27
雑なプレーを見るのが死ぬほど大嫌いだ。
敵も味方も、そんなの関係ない。


首位テキサスを猛追するエンゼルスだが、シアトルとの初戦の試合ぶりを見る限り、戦略の緻密さで知られてきたマイク・ソーシアにしてはどこか雑なゲームぶりだったように思えた。本気でテキサスを追い落とす気があるのかどうか、エンゼルスらしさが、どうも伝わってこない。
Los Angeles Angels at Seattle Mariners - August 29, 2011 | MLB.com Classic

カイル・シーガーが「球種」と「コース」(=スライダー、アウトローが苦手)、キャスパー・ウェルズは「コース」(=インコース、縦の変化が苦手)にバッティングの苦手ポイントのひとつがあるように、マイク・カープの場合、「カウント」が重要ポイントのひとつで、とりわけ「カープは初球打ちが得意で、得点圏にランナーがいるケースでは特に初球を強振してくる」ということを書いたばかりだ。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年8月27日、予想通り1ヶ月で燃え尽きたズレンシックとエリック・ウェッジ演出による8月の線香花火大会。1ヶ月で擦り切れるのがわかっているドアマットの取り換えみたいな「マンスリー・リサイクル」の馬鹿馬鹿しさ。


彼のファンの方々にはたいへん申し訳ない言い方だが、高橋尚投手は自分にとって関心のある選手ではないのと、二段モーションに見えてしかたがないのもあって、いままで記事に一度も名前を出したことすらないのだが、この日のピッチングをみるかぎり、正直、雑すぎる
とてもじゃないが、緻密なベースボールで知られたソーシアのエンゼルスが、優勝を狙って負けられないゲームの同点で迎えた終盤に登板させる投手のテンションとは思えない。


8回裏の先頭打者ダスティン・アックリーに、カウント2-2から、雑な4球目を投げた後、5球目に、90マイルの力の無いストレートをど真ん中に投げてツーベースを打たれたのも情けない話だが、マイク・カープへ、よりによって「初球に、インコースの、スライダー」を投げたのは、優勝のために負けられないチームのブルペン投手として正気の沙汰ではない。

どうだ、このブログのカープに対するスカウティングが正しいだろ、とか言いたいから、言うわけではない。カープが「初球打ちの化け物」であることくらい、誰だって数字を見ればわかる。打率がなんと6割を超え、OPSが1.455もあるのだ(AVE.636 OBP.636 SLG.818 OPS1.455 エンゼルス戦前の数値)。そして、インコースと、スライダーが得意。

つまり、だ。
得点圏にランナーがいるケースのカープに「初球、インコース、スライダー」だけは、絶対に投げてはならない球なのだ。そのコースだけ、その球種だけを待ち受けているところに不用意に投げれば、飛んで火にいる夏の虫、そりゃ打たれるに決まってる。

2011年8月29日 8回裏 カープ 2ラン 投手 高橋尚



ホームランを打つまでのカープは、3打席あって、投手は元マリナーズのピニェイロ
ピニェイロのGO/AOは、ビジターでは1.43。つまり8月26日の記事で書いたとおり、ピニェイロは、カープが最も苦手にしているグラウンドボール・ピッチャーなのだ。実際、ピニェイロはカープを3打席で2度ゴロアウトにうちとって、問題なくうちとっている。
ピニェイロはカープに、初球に一度もインコースを投げていないし、スライダーも投げていない。きちんとスカウティングを守っている。
ピニェイロのカープの初球の球種とコース
1回2死  アウトコースのシンカー 外野ライナー アウト
3回2死1塁 アウトコース低めのカーブ ボール
5回2死3塁 真ん中低めのシンカー ファウル

5回の2死3塁、つまり得点圏にランナーのいるシチュエーションでは、カープは予想どおりピニェイロの初球をスイングしている(ファウル)。やはり、カープは初球を執拗に狙っている打者のは間違いない


ついでにいうと、カープに2ランを浴びた後の高橋尚のピッチングもよくない。
オリーボにヒットを許し、ソーシアは次のキャスパーを敬遠させ、1死1、2塁にしてダブルプレーをとりにいった。
この場面で高橋尚は「ストレート系ヒッター」カイル・シーガーに、ストレートを初球、3球目と投げている。3球目のストレートは少し浮いていて、タイムリーを打たれても不思議ではなかった。カープへの「初球、インコース、スライダー」といい、なんでこう配球に厳しさがないのだろう。
この打席、最後は、このブログのスカウティングどおり、シーガーが大の苦手にしている「アウトローのスライダー」で三振させているのだが、どうも高橋尚投手は、きちんと相手打者のスカウティングをきちんと反映して投げているとは思えない。

2011年8月29日 8回裏 シーガー三振 投手 高橋尚


追記: 2011.8.30
これはおまけ。翌日30日のゲームから、カイル・シーガーの4回裏のダブルプレー打。やはりシーガーは「アウトロー」が苦手。

2011年8月30日 4回裏 シーガー ダブルプレー


こういう形でスカウティングが当たっても、ちっともうれしくない。スタメンがだいぶ入れ替わってエンゼルスの野球も変質してきてしまっているのわかるが、それでもやはり、エンゼルスらしくないエンゼルスは、できることなら見たくない。
どうせならキャッチャー出身のソーシアがベンチからすべての配球のサインを出してでも、グウの音も出ないスカウティングで、得意不得意のハッキリしているシアトルの実力不足の若手くらい、ビシッとうちとってもらいたいものだ。


追記 2011.9.2
エンゼルスは上に書いたシアトル4連戦の後、アナハイムに戻って、ミネソタとの連戦を戦っているのだが、初戦を5-12で落としている。
高橋尚は、このゲームの8回無死満塁のピンチで登場したのだが、1死をとった後、ミネソタの9番打者ドリュー・ビュテラという新人キャッチャーに2点タイムリーを浴び、記録上は自責点1だが、実際には3点の失点をしている。
ビュテラという打者は、打率.168という超低打率の「打たれてはいけない」打者。データでみるかぎり、ビュテラのホットゾーンは「真ん中低め」だけしかない。
だが、高橋尚は、その「真ん中低めだけしか打てない打者」に、カウント2-2からわざわざ「最も得意な真ん中低め」を投げ、2点タイムリーを打たれてしまうのだから、いくらデータが少ない新人打者とはいえ、軽率だったと言われても言い訳のしようがない。
真ん中低めに投げてしまったのが、意図的なのか、コントロールミスだったのかどうかはわからないが、この打者のスタッツを見るかぎり、他に簡単に打ちとれる球があったはずだ。
Drew Butera Hot Zone | Minnesota Twins | Player Hot Zone | MLB Baseball | FOX Sports on MSN

Minnesota Twins at Los Angeles Angels - September 2, 2011 | MLB.com Classic

ドリュー・ビュテラのホットゾーン

2011年9月2日 LAA対MIN 投手高橋尚 打者ビュテラ



damejima at 08:42

August 28, 2011

キャスパー・ウェルズは、スタメン試合数が少ない選手だが、デトロイトから来た選手だから、ア・リーグ中地区のチームとの対戦経験は10ゲーム前後ある(シアトル移籍後の対戦を含む)。
シアトルはいまクリーブランドに続いて、ホワイトソックスとの3連戦中で、ちょうどア・リーグ中地区との7連戦だから、西地区の投手よりは多少なりともウェルズの特徴をある程度スカウティングしていると思われる中地区のピッチャーたちが、どうウェルズを凡退させるのか、観察してみた。

ウェルズのシアトル移籍後のデータだけからみた基本的特徴のうち、最もハッキリしている特徴は、以下のとおり。得意球種はチェンジアップ、カットボール、苦手球種はスライダー、カーブだが、下に書いたとおり、問題なのは球種より「コース」らしいので、あまり気にしなくていい。
ローボールヒッター
2ストライクをとられると、打てない
インコース、高めが苦手

結論から先にいうと、
新たにわかったことが、3つほどある。
シンカーがまったく打てない
たとえ得意球種でもインコースに投げられると打てない
追い込まれると、ボール球に手を出すクセ


対クリーブランド
第1戦
第1打席 インコース シンカー 死球
第2打席 アウトロー ストレート シングルヒット
第3打席 アウトロー ボール球シンカー ライトフライ
第4打席 アウトコース ハーフハイト ボール球のストレート セカンドゴロ
Seattle Mariners at Cleveland Indians - August 22, 2011 | MLB.com Classic

第2戦
第1打席 インコース高め シンカー サードゴロ
第2打席 ど真ん中 シンカー ファーストゴロ
第3打席 インコース真ん中 ボール球シンカー 空振り三振
第4打席 真ん中高めのストレート 空振り三振
Seattle Mariners at Cleveland Indians - August 23, 2011 | MLB.com Classic

第4戦
第1打席 アウトロー ボール球のカットボール 空振り三振
第2打席 ややインコースより ど真ん中のシンカー ファーストフライ
第3打席 アウトコース ボール球のカットボール セカンドフライ
第4打席 アウトロー スライダー サードフライ
第5打席 インコース カーブ 見逃し三振
Seattle Mariners at Cleveland Indians - August 24, 2011 | MLB.com Classic

対ホワイトソックス ジョン・ダンクス
第2戦
第1打席 外のチェンジアップ 空振り三振
第2打席 インコース低め ボール球のカットボール 空振り三振
第3打席 インコース低め ストライクになるカットボール 空振り三振
Chicago White Sox at Seattle Mariners - August 27, 2011 | MLB.com Classic

クリーブランドの「シンカー」パターン
インコースのカットボールで追い込み、
高めからシンカーを落として空振りさせる

配球の細かい部分は省略させてもらったが、クリーブランドの投手たちは、インコースのカットボールで追い込んでおいてから、シンカーを投げて凡退させるパターンを多用している。持ち球にスプリッターのある投手なら、シンカーのところをスプリッターでも代用できるだろう。
カットボール自体はウェルズの得意球種のはずだが、苦手なインコースに投げられると、とたんにミートできなくなる。ウェルズは球種の得意不得意よりも、よほどインコースに苦手意識があるとみた。
逆にいうと、「苦手なコースのあるバッターとの対戦」においては、球種がたとえそのバッターの得意な球であっても、苦手コースにさえ投げられるなら、なにも怖がる必要はなく、むしろ、凡退させるのに絶好な切り札にできるということ。勉強になる(笑)

ホワイトソックス ジョン・ダンクスの
「カットボール」パターン

高めの球で追い込み
インローのボールになるカットボールで三振

ウェルズを3打席3三振させたホワイトソックスのジョン・ダンクスも、ウェルズの弱点である「高め」「インコース」といった「コースの弱点」を徹底的に突いている。最初に高めを多投して追い込んでおき、最後はインコース低めの完全にボールになるカットボールを振らせるのが、ダンクスのパターン。クリーブランドも使っていた「インコースのカットボール」がここでも使われている。



damejima at 18:23

August 02, 2011

ダグ・フィスターの話をすると、よく 「あんなに毎回毎回ランナー出すピッチャーが、いいピッチャーなわけがない」とか、「フィスター? たいしたことないだろ、あんなの」とか、知ったかぶりしたがる馬鹿がいる。

基礎的なデータすらロクに見ないで印象だけで喋るから、馬鹿はすぐに恥をかく。

WHIPランキングだけ見ても、一目瞭然だ。
ダグ・フィスターはランナーをやたらと出すどころか、むしろ「ア・リーグで最もランナーを出さないピッチャーのひとり」であり、シアトルにおいては「誰よりも優れた内容のピッチングをしていたピッチャーであり、エースともてはやされるフェリックス・ヘルナンデスより、WHIPの数値は優れている」、というのが事実だ。
また、BB/9(9イニングあたりの四球数)においても、ダグ・フィスターは「ア・リーグで最も四球を出さないピッチャーのひとり」であり、シアトルにおいては「ダグ・フィスターは、フェリックス・ヘルナンデスよりも四球を出さないピッチャー」である。

ア・リーグWHIPランキング
(2011年6月1日現在 以下同じ)
2011 American League Standard Pitching - Baseball-Reference.com

Justin Verlander 0.867
Josh Beckett 0.917
Jered Weaver 0.942
Dan Haren 0.990
Josh Tomlin 1.025
Alexi Ogando 1.040
James Shields 1.073
Michael Pineda 1.077
Philip Humber 1.105
David Price 1.112
---------------------
ダグ・フィスター 1.171 15位
ヘルナンデス 1.206 20位


ア・リーグBB/9ランキング
Josh Tomlin 1.1
Dan Haren 1.3
Jeff Francis 1.7
Justin Verlander 1.8
Carl Pavano 1.9
ダグ・フィスター 2.0
Jered Weaver 2.0
David Price 2.0
Mark Buehrle 2.1
Gavin Floyd 2.1
--------------------
ヘルナンデス 2.8(30位)


ついこの間、ダグ・フィスターがグラウンドボール・ピッチャーに変身した、という趣旨の記事を書いた。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年7月31日、「広い球場は、投手有利」というのは、ただの固定観念にすぎない。だからこそ、せっかくグラウンドボール・ピッチャーに変身を遂げたダグ・フィスターを売り払ってまでして外野手を補強してしまうシアトルは、どうしようもない馬鹿である。

ダグ・フィスターがグラウンドボール・ピッチャーに変身したことの効果は、ア・リーグのHR/9(98イニングあたりの被ホームラン率)ランキングを見るとわかる。
今年のダグ・フィスターは「ア・リーグで最もホームランを打たれにくいピッチャーのひとり」だからだ。
このHR/9の数値においても、フィスターはヘルナンデスを大きく引き離している。

ア・リーグHR/9ランキング
Justin Masterson 0.2
CC Sabathia 0.3
Jered Weaver 0.4
ダグ・フィスター 0.4
Tyler Chatwood 0.6
Brandon Morrow 0.6
C.J. Wilson 0.6
Edwin Jackson 0.6
Josh Beckett 0.6
Philip Humber 0.6
Dan Haren 0.6
-----------------------
ヘルナンデス 0.7


「グラウンドボール・ピッチャー」
「ランナーを出さない」
「ホームランが少ない」
「四球が少ない」
「ストレートのピッチバリューが高い」

これらが今年のダグ・フィスターのピッチングの特徴だが、もちろんこれらは相互に関連している。ゴロが多く、フライを打たれないなら、当然、ホームランは打たれない。四球が少ないから、ランナーが貯まらず、大量失点しない。
そして、「ストレートが使える投手」というのは、ピッチングにおいて、非常に大きなウエイトをもつ。


フィスターのいいデータばかりでなく悪いデータのほうを見てみると、フィスターの成長ぶりがもっとよくわかる。

今シーズンにフィスター打たれたヒット数は139本で、これはア・リーグ14位にもあたる多さ。H/9(9イニングあたりのヒット数)でみても8.6と非常に多く、ほめられたものではない(それでもシアトルで最も多くヒットを打たれている先発投手のは、フィスターではなく、ヘルナンデスの147本だ)
普通これだけヒットを打たれたら、防御率は酷いことになる。実際、H/9が9を越えている、つまり、毎回のようにヒットを打たれるような投手は、マイク・バーリーのような例外を除けば、ほぼ全員が防御率4点台、5点台の投手ばかりだ。

だが、そこまでヒットを打たれているフィスターのERAは3.33で、これはシアトルで最も優れている。
説明しなくてもわかると思うが、これは、彼が打たれた139本のヒットのうち、100本がシングルヒットで、無駄に四球を出してランナーを貯めたり、ホームランを打たれたりすることが少ないためだ。


もしブログ主がGMなら、2000万ドルと40万ドルの似たような成績のピッチャーがいたら、40万ドルのピッチャーのほうをチームに残し、2000万ドルのピッチャーはトレードに出して、課題のバッティングを強化するのに予算を使う。

当然のことだ。

もし逆の行動をとるとしたら、そのGMにはチームを強化するつもりが本当は無いのだ。

Doug Fister 2011 Pitching Splits - Baseball-Reference.com

Felix Hernandez 2011 Pitching Splits - Baseball-Reference.com






damejima at 18:27

August 01, 2011

フェリックス・ヘルナンデスのGB/FB/LDデータ


フェリックス・ヘルナンデスは、ピッチャーとしての質が大きく変わりつつある。
上のグラフは、ヘルナンデスの打たれた打球を、ゴロ(緑)フライ(赤)ライナー(青)の3つに分け、それを年次で並べたものだ。
Felix Hernandez » Statistics » Pitching | FanGraphs Baseball
デビュー当初、ヘルナンデスは極端なまでのグラウンドボール・ピッチャーだったのは有名な話だが、今は年を追うごとにフライボール・ピッチャーになりつつある。
今年のGB%(ゴロ率)は、49.1 %と、キャリアで初めて50%を切っている。


今のヘルナンデスは、ストレートと変化球をだいたい半々に投げ分けるとピッチングスタイルで、カウントを稼ぐのがストレート、追い込んだらチェンジアップ、シンカーといった、変化球を投げる、というのが基本であることくらい、もうほとんどのチームが知っている。
と、いうより、今のヘルナンデスのピッチングスタイルは、ストレートを痛打されては、アウトコースの変化球で逃げ回りながら、どうにか打者を討ち取っている状態、というのが本当のところだ。


いまMLBで最もストレートを投げる率が高いのは、ヤンキースの元サイ・ヤング賞投手、バートロ・コロンの83.4%だが、今のヘルナンデスのストレート率はいまや、わずか54.9%しかない。ストレートで勝負はしていないし、勝負できもしない。
MLB全体で、ストレートのピッチ・バリューが高いベスト10の投手を挙げてみた。今のヘルナンデスのストレートのピッチ・バリューはわずか-2.8しかなく、マイナスの数値だ。いかにヘルナンデスのストレートに信頼が失われたかがわかる。

ストレートのピッチ・バリューが高い投手ベスト10
Justin Verlander 26.4 
Jered Weaver 25.2
Ian Kennedy 19.5
CC Sabathia 19.5
C.J. Wilson 18.3
Scott Baker 18.3
Josh Beckett 17.3
Cliff Lee  16.9
David Price 16.3
Alexi Ogando 16.0
-----------------
ダグ・フィスター 15.4 (11位)

ストレートのバリューに関してだけ言えば、無能なズレンシックがデトロイトに安売りしてしまったダグ・フィスターのほうが、マイナス数値のヘルナンデスよりずっと数値が高いどころか、なんとMLB全体で11位をキープしている
ダグ・フィスターのストレートのピッチバリューは、4シームの速さでMLBファンを驚かせたマイケル・ピネダの9.9よりも高い。勘違いしている人が多いが、マリナーズの先発投手で規定回数に達している4人の中で、最もバリューが高いストレートを投げていたのは、ピネダでも、ヘルナンデスでもない。ダグ・フィスターだ。
ダグ・フィスターは、今年、チェンジアップとストレートを少し減らして、カーブとスライダーを多投するようにピッチングスタイルを変えているのだが、だからといって、ストレートの価値が下がらなかったのだから、たいしたものだ。
Doug Fister » Statistics » Pitching | FanGraphs Baseball


もったいないことをするものだ。
さすが無能なGM。やることが違う。

シンカーとチェンジアップで逃げ回るだけのピッチャーに、
20ミリオンの価値はない。







damejima at 17:15

July 01, 2011

野球選手の数字、というのは、ちょっとした数字のマジックみたいなところがある。


たとえば、防御率3.00のエリック・ベダードと、防御率3.35のフェリックス・ヘルナンデス。試合を見ないで、「防御率」しか見ないようなおかしな人にしてみると、この2人が似たような投手に見えてしまうだろう。

だが、防御率というのは、9イニングでの自責点数に換算している数字であることに注意しなければならない。
防御率3.00で6回しか投げられない球数の多い今シーズンのベダードの失点は、だいたい「2点」。対して、防御率3.35で毎試合7回程度を投げるフェリックス・ヘルナンデスの失点は、ほぼ「3点」に近くなる。
2011 MLB Baseball Pitching Statistics and League Leaders - Major League Baseball - ESPNa>


打線が貧弱で、1試合あたり3点ちょっとの得点しか期待できないなシアトルの野球においては、先発投手の失点が「6イニング2失点」なのか、それとも「7イニング3失点」なのかで、勝ちゲームなのか負けゲームなのか、終盤のゲーム展開やブルペンの使い方など、ゲームの様相がまったく違ってしまう
「6イニング2失点」なら勝ちゲームのリリーフを注ぎ込んで勝ちを拾いにいくゲームになる可能性があるが、「7イニング3失点」だと、もしかすると同点か負けている可能性がある。
なぜ、試合終盤の野手のエラーが致命傷になってしまうのか。なぜリリーフ投手のわずかな気のゆるみが、これほどダメージが大きいのか。なぜクローザーにかかる負担がこれほど大きく、簡単に負けてしまうのか。
数字を並べてみると、よくわかると思う。

ベダードとヘルナンデスの、どちらが優れたイニングイーターか? といえば、当然、ヘルナンデスがベダードを圧倒するに決まっている。
だが、実際のゲームでは、打線の貧弱すぎるシアトルが得意とする投手戦のクロスゲームに持ち込んでギリギリの勝ちを拾うという目的においては、単にイニングイーターであるというだけでは、試合に勝てないのだ。
本来、ヘルナンデスだけに責任があるのではなく、打線に責任があるのだが、今シーズンのレベルのヘルナンデスに好きなようにピッチングさせているだけでは、チームの勝率は5割を越えることはできない。これも事実だ。


シアトルの勝ち負けを決めているのは、常に「ほんのわずかな差」だ。
「ほんのわずかなこと」が、実はシアトルの先発投手の「評価」や、ブルペンの使い方、代打や代走などゲーム終盤の野手の使い方を「大きく間違えるポイント」になっている。
例えば、ナショナルズとの3連戦などは、監督エリック・ウェッジが「自分たちが、なぜ勝ち、なぜ負けているのかというゲームパターン」を把握しないままゲームを進めているために、スタメン、代打、代走、守備交代など、野手の適切な選択を間違えまくって、スイープされた。

シアトルで大事な「ほんのわずかな差」とは何だろう?
簡単な数字で示しつつ、2011年上半期のシアトル先発投手たちについて通知表をつけてみる。



エリック・ベダード
ERA 3.00
QS率 0.60
Erik Bedard Game By Game Stats and Performance - Seattle Mariners - ESPN
隠れエース。
6月30日時点では、アトランタ戦で怪我をした2人のキャッチャーを補充しなければならず、40人枠を開けるためにDL入りしてしまったが、エリック・ベダードの防御率は、3.00。これはア・リーグ12位で、これはCCサバシアや、CJウィルソンよりいい。素晴らしい数字だ。
15登板で90イニングだから、1試合あたりちょうど6イニング投げている。「6イニング投げて、2失点で降板」というのが、ベダードの標準的な登板だ。

だが、最近の彼はもっと素晴らしい。
5月6月は、10登板して、自責点16。1回の登板あたり、わずか1.60しか失点していない。特に5月の月間ERAは5登板、1.39で、本当に素晴らしい数字を残した。

チームがすべき仕事は、「イニングは食えないが、防御率がいいエリック・ベダード」に、勝ちをつけてやるには、どうしたらいいか、この設問に解決策を見つけてやることだ。相手投手にあわせて野手を組み替えまくっているだけでは無意味だ。
投手ごとこういう課題にひとつひとつ丁寧に解決策を見つけて、チームの「仕入れたモノを、同じ金額で売るような、無意味な自転車操業体質」を直していくことこそが、最近ブログ主が力説している「シアトルの監督、GMの、やるべき工夫であり、仕事」だ。
イニングが食えないが、防御率は素晴らしいベダードに、「4点以上の得点」あるいは、優秀なセットアッパーの援助さえあれば、彼の登板日に勝ちを拾える可能性は常にある。もったいなさすぎる。

シアトルの「1試合あたり3点ちょっと」という貧しい得点力を考えると、ベダードが6イニング2失点で降板した後の「残り3イニング」を、3人、あるいは2人の投手が「1失点以内」で乗り切ればいい。それが実現できたゲームは、シアトルの3得点に対して、対戦相手の得点は2から3で、勝てるか、同点であることになる。
非常にあやうい話だが、シアトルの勝ちパターンは「投手戦のクロスゲーム」なのだから、しかたがない。


フェリックス・ヘルナンデス
ERA 3.35
QS率 0.67
Felix Hernandez Game By Game Stats and Performance - Seattle Mariners - ESPN
今シーズンのヘルナンデスのピッチングは、あきらかにエースのそれではない。今の彼はむしろ「中堅のイニング・イーター」である。去年までの活躍で他チームのスカウティングが進んだことで、手の内を相手バッターにかなり読まれている。
今シーズンは18登板で129イニングを投げている。1登板あたり、7.17イニング。防御率から7イニングあたりの失点を求めると、だいたい2.60という計算になる。
特に、5月6月の12登板は、自責点33。1登板あたり2.75失点で、ほぼ常に「3失点は覚悟しなけばならない」という結果になっている。6月の6登板だけ見ても、自責点は18。やはり「1登板あたり、常に3失点」という結果は、6月になっても変わっていない。

イニングが食えるが、ほぼ3失点するフェリックス・ヘルナンデス」に勝ちをつけてやるには、どうしたらいいか。
シアトルの「1試合あたり3点ちょっと」という貧しい得点力を考えると、ゲーム終盤2イニングを、セットアッパー1人とクローザーが、「必ず無失点」で乗り切らなくてはならない。これは結構きつい。
もちろん、3失点がお約束という今の状態のヘルナンデスを勝たせるには、
打線が毎試合4得点すればいいわけだが、残念なことに、今のシアトルでは、彼に4得点を約束する能力がない。
だから、ヘルナンデスが降板する7回の時点で、もし相手チームにリードを許している状況のゲームでは、試合終盤に1点か2点失うことで、ほぼチームの負けが決定してしまう。
いまヘルナンデスに必要なのは、彼の足りない部分を補ってくれる「冷静な智恵袋」だが、ヘルナンデス自身の自分の能力への過信からチームは「智恵袋の」ロブ・ジョンソンを手放ししてしまっているし、また、ミゲル・オリーボのリード能力はロブ・ジョンソンほどは高くない。オリーボは、「打者を追い込むところまでは構成できるキャッチャー」だが、「うちとるところまで、全てを構成できるキャッチャー」ではない。バッターにファウルで粘られて手詰まりになると、同じような配球に終始する。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年5月13日、「打者を追い込むところまで」で終わりの投球術と、「打者を最終的にうちとる」投球術の落差  (1)打者を追い込んだ後のヘルナンデスの不可思議な「逆追い込まれ現象」

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年5月13日、「打者を追い込むところまで」で終わりの投球術と、「打者を最終的にうちとる」投球術の落差  (2)「ストレートを投げる恐怖感」と「アウトコースの変化球への逃げ」が修正できないヘルナンデスの弱さ。


ここまで書いたことで、シアトルの貧弱な打線を前提に考えると、チームがそれぞれのゲームに勝つ可能性は、「6イニング2失点のベダードは、7イニング3失点のヘルナンデスより勝てない」とは、必ずしも言い切れないことがわかってもらえるはずだ。
この失点の2とか3とかいう細かい話をベースに、残り3人の先発投手を評価してみよう。


マイケル・ピネダ
ERA 2.65
QS率 0.75
Michael Pineda Game By Game Stats and Performance - Seattle Mariners - ESPN
相手チームに手の内を読まれ始めるまではエース格と言えた。
16登板で、102イニング、33失点。1登板あたりでは、6.38イニング、2.06失点だ。「6回か7回を投げて、ほぼ2失点で終えてくれるピネダ」は、だいたい好調時のエリック・ベダードと同じことがいえる。これは、逆にいうと、「最近好調だったエリック・ベダードは、開幕当初のピネダに匹敵する快投ぶりだ」という意味でもある。
6回か7回を投げて、ほぼ2失点で降板するピネダ」を勝たせてやるには、ベダードと同じで、ピネダが2失点で降板した後の「残り3イニング または 2イニング」を、3人、あるいは2人の投手が「無失点」で乗り切ることで、かなりのパーセンテージで勝てるのは間違いない。
だが、たとえ1失点でもすると「延長戦」になってしまう可能性を考えなくてはならないので、リリーフ投手の責任はかなり重く、ブルペン投手の疲労はどうしても深くなる。
開幕当初とは違い、相手チームはピネダの投球パターンを厳しくチェックしてきているわけだが、それに対してピネダは、チェンジアップを持ち球に加えることで「壁」を乗り越えようとしている。
若いが、ピッチングに対する情熱のある投手である。


ジェイソン・バルガス
ERA 3.88
QS率 0.56
Jason Vargas Game By Game Stats and Performance - Seattle Mariners - ESPN
いわば精密機械のような天才肌の投手。
3ヶ月でみると、16登板で、104.1イニング、45失点と冴えない。だが、ようやく相性の悪いジメネスから解放された最近の10登板は、69.2イニング 24失点。1登板あたりでは、6.92イニング、2.40失点と、輝いている。イニング数でみても、ヘルナンデスにも負けていない。かなりしっかりしてきている。

要は、バルガスという投手は、他の投手と基準が違うのだ。数字だけで追いかけてはいけない天才ぶりがいつも垣間見える。
好調時と、打たれるときの差が激しい。調子がいいと、完封ベースで投げることさえできる。これは、彼が気分屋だからではなく、何度も書いているように、球審、キャッチャーとの相性の問題だ。相性が悪いと、3から5イニングで、5点前後失点し、簡単に降板してしまうこともある
要は、バルガスは、ピッチングが「精密すぎる」のだ。

とにかく「精密機械のバルガス」の場合、単に気持ち良く投げさせることだけに気をつかうだけで、びっくりするくらいいいピッチングをしてくれる。むしろ、これほどわかりやすいピッチャーはいないだろう。
彼の実力を低く勘違いしている人が多いが、最低でも「月間5登板で3勝2敗」という計算の成り立つ、シュアな先発投手だと思う。
チームが彼に「月間6登板、4勝2敗」を、1シーズン2度くらい実現させたいと思うのなら、チームがバルガスに、キロスやジメネスのようなおかしなキャッチャーをあてがうのを絶対に止めるべきだ。、


ダグ・フィスター
ERA 3.18
QS率 0.56
Doug Fister Game By Game Stats and Performance - Seattle Mariners - ESPN
成長して、一皮剥けたダグ・フィスター」。
単なる5番手投手だと思っている人もいまだに少なくないが、それはまったくの間違い。どこを見ているのだ、と、言いたい。バルガスと同様に、本当に勘違いした人が多い。
16登板で、110.1イニング、自責点39。1登板あたりでみると、6.88イニング、244失点。
防御率3.18は、ア・リーグ17位。オークランドのトレバー・ケイヒルと肩をならべ、テキサスの期待の若手ザック・ブリットンや、あの「ちっこい球場」で打線の援護をもらいまくって10勝もあげているジョン・レスター、完全男マーク・バーリー、タンパベイの好投手デビッド・プライスより、ぜんぜんいい数字だ。

打線の貧弱なシアトルの先発投手というものは、平均投球イニングと自責点が、「6回2失点」なのか、「7回3失点」なのかで、まったく違ってくる、ということを長々と書いているわけだが、今シーズンのフィスターは「ほぼ毎試合7イニング投げられる、堂々たる若手投手」である。これは言うまでもなく、絶賛に値する。
フィスターの欠点は、WHIP(Walks plus Hits per Inning Pitched)が良くないことでわかるように、ランナーを簡単に出してしまうことであり、この悪いクセはまだまだ直っていないのは確かだが、一方では、彼なりのピッチングスタイルが固まりつつあり、ランナーを出した後に粘り強く投げ、ピンチを切り抜けていける手腕がだんだん身についてきている。

「7回を粘り強く投げられる実力の備わってきた若い投手」に勝ちをつけてやる手段など、グダグダ書く必要などない。チームがもっと細かい野球でもなんでも、やれることをやり、十分な点をとってやるだけのことだ。
そんなことも思い浮かばないような監督やGMなら、さっさとクビにしたほうがマシだ。


1登板あたりの投球イニング数
フェリックス・ヘルナンデス 7.17
(5月6月のバルガス 6.92)
ダグ・フィスター 6.88
バルガス 6.51
ピネダ 6.38
ベダード 6.00

1登板あたりの自責点
ベダード    2.00
ピネダ     2.26
(5月6月のバルガス 2.40)
フィスター   244
ヘルナンデス 2.60
バルガス    2.81

7イニング換算の自責点
ピネダ     2.06
ベダード    2.33
(6月のピネダ 2.38)
(5月6月のバルガス 2.43)
フィスター   248
ヘルナンデス 2.75
バルガス    3.03


最後に挙げたいくつかの数字は、シアトルの先発投手にとって、いかに「率」ではなく、グロスの失点数が少ないままマウンドを降りることが大事か、ということを表現したいために挙げてみた。
けしてヘルナンデスがア・リーグで成績の悪いほうに属する投手だ、などと、わけのわからないことを言うつもりではない。

だが、6回か7回、2失点くらいでマウンドを降りるヘルナンデス以外の4人の投手が、長く投げてはくれるものの、ほぼ毎試合3失点しているヘルナンデスより劣っているとでも勘違いして、「キング」だの、「キングスコート」だのと、もてはやしているような、お粗末でショボい野球意識では、いつまでたっても、「このチームが、貧打なりに勝ち続けていくための方法論」に辿り着けない、ということを言いたいのである。






damejima at 19:10

June 30, 2011

前の原稿でも書いたことだが、シアトルマリナーズの観客席に空席が目立つようになった根本原因は、端的に言うと、球団サイドが「自分たちが目指すべきでない野球スタイルに金を出し続け、そして、目指すべきスタイルを見失い続けてきた」からだ。
若かろうと、年寄りだろうと、自分にどんな服が似合うかすらわからないで、よく生きていけるものだ。
彼らはこれまで何シーズンもの時間と、何十万ミリオンもの大金を無駄にしつつ、毎シーズン敗れ続け、そして本来は根本的なところから手をつけるべきチームの再建や、若手起用を毎年のように先送りしつつ、有望な選手をちょっと起用しては結局は他チームに追いやり、結局、最後はあらゆることを中途半端にしたまま、監督と選手を無駄に入れ替えながら2011年を迎えている。



例えば、「城島問題」もそのひとつだ。
MLBには、あれほど適応能力に欠けた選手の必要性はカケラもなかった。だが、選手間レベルでは必要ないことが速い段階でわかっていたにもかかわらず、チームはずっと起用し続け、最後は高額長期契約までくれてやり、何年もの間の貴重な時間を、無駄なストレスと無駄な敗戦の山とともに無駄にした。

城島、セクソンなどを含む「右のフリースインガーをかき集めた、だらしない野球」もそうだ。
セーフコ・フィールドというスタジアムは、右打者不利の球場である。にもかかわらず、右打者に金を注ぎ込み、そして結局、当時の右打者のほぼ全員が後にチームをクビになった。
そしてここでも、シーズン単位の貴重な時間が無駄になった。

ケン・グリフィー・ジュニアの処遇もそうだ。
彼はたしかにこのチームの偉大なレジェンドのひとりだ。だが、彼を客寄せパンダとして招聘しておいて、十分なリスペクトとともに引退の花道を用意して1シーズンで引導を渡しておけばそれで十分だったものを、欲をかいた人間が判断を誤ったことで、2シーズン目の契約に突入し、最悪の結果を招いた。彼の名誉も、球団の成績にも、同時に傷がついた。
ここでも、何年もの貴重な時間が無駄になった。


果てしない時間が無駄になり続ける中で、
他チームに出て行った選手たちが「野球に適した環境」の中で活躍しだすのを、ファンとメディアは常に指をくわえて見てきた。


そう。
大事なことは単純だ。
野球に適した環境」で「そのチームに適した野球」をやり、「勝つ」こと、「勝ち続けるために必要な、意味のあるプレーを、観客に見せ付けること」だ。

けしてやってはいけないことは、
野球に適さない環境で、シアトルに向いていない野球をやり、負け続ける姿、あるいは、勝ちにつながるのかどうかどころか、何の意味があってそうするのかすらわからないプレーや選手起用を、説明もないまま、観客に晒し続けること」だ。


フェリックス・ヘルナンデス、という若いピッチャーが、ア・リーグを代表する右投手になるといわれながら、何年もの時間が無駄になった。
なぜなら、若くて血の気の多いヘルナンデスに、まったく合わない城島という言い出したらテコでも引かない異文化の馬鹿キャッチャーを無理にあてがおうとし続けたのだから、彼の成長がうまく進むわけがないし、本来出るべきだった好成績は何シーズンも遅れることになった。
ここでも、何シーズンかの貴重な時間が無駄になった。


そして、いま、スタジアムをどうにかして少しは満員にしたいと焦るシアトルの球団サイドは、キングスコートとかいって、ビール片手に大騒ぎしたい若者を集めるための集客作戦を実行し、さかんにフェリックス・ヘルナンデスの奪三振を煽りはじめている。


ヘルナンデスという南米の投手は、
なぜサイ・ヤング賞投手にステップアップできたのか。

血気にはやり、激しい性格のヘルナンデスに、まったくフラットで、抑揚がまるで無く、ガリ勉型で研究心だけはあるロブ・ジョンソンのような、「まったく正反対のタイプの性格のキャッチャー」をあてがうことで、凸凹の非常に激しいバッテリーを組む実験に成功したからだ。
ロブ・ジョンソンは、ヘルナンデスに欠けていた落ち着き、配球パターンのバリエーション、相手打者のパターン研究など、さまざまな面で補う役割を担ったのだが、ヘルナンデス自身は、おそらく、その意味の重さを今でも過小評価していると思う。


やたらと血の気は多かったが、他人の力を借りる形で落ち着きや投球術を手に入れ、周囲のチカラで一流にのし上がったヘルナンデスを、こんどは「黄色いカードを持たせた、野球をあまりよくわかってない若者たち」に奪三振を煽らせて、いったいこのチームは何がしたいのか。
ヘルナンデスがいまさらストレートだけでバカスカ三振を獲りながらゲームを押し切れるピッチャーだとでもいうのか。

これが果たして「野球に適した環境」なのか。
ヘルナンデス自身のこれからのために必要な環境なのか。

そんなこともわからないで、よく経営がやれる。よく記事を書ける。


言われないと、気づかないのか。






damejima at 17:09

June 29, 2011

2011カレッジ・ワールドシリーズ(CWS)は、サウスカロライナがフロリダに連勝して、2010年の初優勝に続く連覇を達成した。サウスカロライナはこれでCWSにおける勝利数を合計で28まで伸ばし、CWS勝利数でも26勝で並んでいたフロリダを抜き去って、歴代単独10位。
Florida vs South Carolina - Baseball Division I - June 28, 2011 - NCAA.com

University of South Carolina repeats as College World Series champion | MLB.com: News

決勝で先発したのは、仕事を辞めて応援にかけつけた父親のエピソードで一躍有名になった、あのMichael Rothである。
なんというか、やはり何かを持っている投手だ。チャンピオンシップ・シリーズでも、ノーアウトのランナーを背負う場面でも冷静に三振がとれている。プロでも何か粘り強い仕事をしそうな気がする。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年6月24日、体調の悪いダニー・ハルツェンを3イニングしか使えなかったヴァージニアが敗れ、CWS決勝カードはフロリダ対サウスカロライナに。ちょっとユニークなピッチング・スタイルのMichael Rothと、彼の父親との絆。

サウスカロライナを連覇に導いたヘッドコーチRay Tannerは、ジャスティン・スモークの父、故キース・スモークに息子スの背番号の入ったチーム・ジャージーを贈った、あのレイ・タナーである。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年4月25日、「2月のサウスカロライナ、父と息子のキャッチボール」。February in South Carolina, a father and his son played catch.






damejima at 21:48

June 26, 2011

2011カレッジ・ワールドシリーズ(CWS)は、Bracket 2の決勝、ヴァージニア対サウスカロライナ戦が行われ、サウスカロライナが延長13回裏に相手のエラーでサヨナラ勝ち。サウスカロライナはこれでCWSにおける勝利数を26とし、歴代ベスト10位になった。

2011カレッジ・ワールドシリーズ ロゴ
27日から行われるチャンピオンシップ・シリーズは、フロリダ対サウスカロライナ
決勝に進むのは、フロリダが7回目、サウスカロライナ11回目。フロリダが優勝すれば初優勝、サウスカロライナが優勝すれば2回目の優勝で、去年に続く2連覇。
College World Series - Wikipedia, the free encyclopedia


ヴァージニア先発のダニー・ハルツェンは、打者10人から8三振を奪うという快投ぶり。だが3イニング終えた時点で降板。見ていて最初は突然の降板にびっくりしたが、どうやら今日もともと体調が悪く、コーチのブライアン・オコーナーは「ものすごく明るい将来を控えた若者だし、リスクを犯すわけにいかない」と、最初から短いイニングの登板と決めていたらしい。
降板後のハルツェン自身はあきらかに投げられないことにずっとイライラしていたが、ありがたいコーチである。
Virginia coach Brian O'Connor said. "But my plan coming into the game was for him to have a short stint. He was feeling under the weather today, and he was gutting it out as much as he could. He was in pretty miserable shape after the first inning. And this kid's got a very, very bright future. And I was not going to put that at risk of him feeling under the weather on four days' rest and putting his career in jeopardy."
South Carolina won a 13 inning game to advance to the College World Series Final against the University of Florida | MLB.com: News
under the weather:「体調が悪い」


もしハルツェンの体調が万全だったら明らかに結果は違うものになっていたことだろうが、これもスポーツの勝負のアヤ。
それに、ハルツェン降板後のヴァージニアには勝機が何度となくあった。延長で3度も満塁のチャンスを作りながら、2回もタブルプレーで残塁の山を築いた。敗戦はヴァージニアの自滅である。

それにしても両チーム、攻撃も粗いが、守備のエラーが多すぎる。正直、見ているのがつらいほどの低レベルで、途中で観戦を止めてしまった(苦笑)両チームともドラフトで指名されているプロ予備軍を多数抱えているのだから、もうちょっとしっかりプレーしてもらいたい。


そういう、ちょっと残念な凡戦の中で、見ていて妙に興味ひかれたのは、サウスカロライナの先発のMichael Rothのピッチングのユニークさ。
今年のドラフトでクリーブランドから31順目(全体938位)で指名された左腕なのだが、スリークオーターで投げたり、サイドスローで投げたり、ノラリクラリした変則的スタイルが、かえって妙にそそられる。どこにでも転がっているノーコンの剛球投手よりぜんぜん面白い。クリーブランドはいい買い物をしたと思う。
31st Round of the 2011 MLB June Amateur Draft - Baseball-Reference.com


Michael Rothには、このカレッジ・ワールドシリーズでちょっとしたエピソードが生まれた。

Michael Rothはサウスカロライナ大学の地元出身の選手で、彼の父親DavidはサウスカロライナのGreenville Countyで某外国メーカー(日本車ではない)の自動車ディーラーで働いている。
去年サウスカロライナ大学は悲願のカレッジ・ワールドシリーズ初優勝を飾った記念すべきシーズンだったわけで、Michael Rothは37回1/3を投げて自責点0.97と、初優勝に大きく貢献した立役者のひとりになったのだが、このとき、Michael Rothの父は、会社を休んで応援に行くことができなかった。
Player Bio: Michael Roth - SOUTH CAROLINA GAMECOCKS

今回のサウスカロライナの2年連続のカレッジワールドシリーズ進出で、父Davidは、こんどこそは息子の晴れ姿を見ようと、大西洋岸のサウスカロライナから中部のネブラスカ州オマハまで応援にかけつけているのだが、実は、今回の応援実現のために、勤めていた自動車ディーラーを辞めているのである。

この話題は、最初にMichael Rothが
"My dad had to quit his job to make it out to Omaha."
と、「息子の応援をしようとした父が、会社に失業させられた」というニュアンスでツイートしたことなどもあって、全米レベルのニュースになり、勤務先の自動車ディーラーには400本を越えるファンから抗議電話が殺到したらしい。

Roth didn't expect focus on dad: Pitcher's father quit job to watch son pitch in Omaha | The Post and Courier, Charleston SC - News, Sports, Entertainment

David Roth, Father Of South Carolina Pitcher Michael Roth, Quits Job To See Son Pitch

After Roth’s father quits job to go to CWS, employer takes the heat

もうここまで世間が盛り上がると、会社側もメディアにステートメントを出さないわけにはいかないわけで、こんなニュアンスのコメントを出した。
「Davidは従業員としてよくやってくれていた。今回辞めることになったのは、あくまで彼の個人的な事情と意思だ。会社側としては残念に思っているし、サウスカロライナのカレッジ・ワールドシリーズも応援している。頑張ってほしい。」
資料:会社のステートメントへのリンクを含む記事
Car Dealership Issues Statement on Michael Roth's Dad, David | wltx.com
まぁ、想定内というか、なんとも味気ないコメントだこと(笑)まぁ、こんなものだろう。ちなみに、Yahooの写真でみるDavid父ちゃんは、怒ったらマジに怖そうな、まさに「星一徹」風味のゴツ過ぎる親父さんである(笑)


Michael Rothの父親の雇用問題がどう決着するか、とか、息子のために仕事を辞めてしまうことの事の良し悪しは、まぁ野球とは関係ないことだし、価値観の違いによって判断の分かれることだ。
それはそれとして、Michael Rothの父親のエピソードと、今年4月にジャスティン・スモークの父親キース氏が病気で亡くなられたときの話とあわせると、アメリカ南部の「家族を大切にする気風」がよくわかる。
スモークの父、故キース・スモーク氏も、息子に、野球と同じ重さをもって厳格な礼節を叩き込むタイプの父親だったらしいが、また同時に、息子の活躍を誰よりも喜び、誇りに思う典型的なアメリカ南部の良き父親でもあった。、
見た目の風貌が非常に怖いMichael Rothの父親Davidだが(笑)、たぶん息子の活躍を目を細めて見るときの表情は、故キース・スモーク氏と同じように優しげなのだろう。
結局はこうした息子想いの南部の父親たちが立派な野球選手を育てて全米のMLBチームに送り出しているのだ。家族を思う気風の行き過ぎについて、外部から批判することに歴史的な意義がなかったわけではないが、息子の一生に一度あるかないかの大舞台の応援くらい許してやれないのは、器量が狭いと言われてもしかたがない。


何度も書いてきていることだが、
やはりアメリカにおけるベースボールは、父がグラブを持たせた息子を連れてスタジアムに行くといったファミリー・アフェアーなのであり、ベースボールは、ケン・バーンズが描くように、アメリカの家族を繋ぐ文化的な「ベース」である。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年4月25日、「2月のサウスカロライナ、父と息子のキャッチボール」。February in South Carolina, a father and his son played catch.






damejima at 05:49

June 18, 2011

ダスティン・アックリーがメジャーデビューしたフィリー相手の初戦。観客34,345人。わが天才イチローが3安打を固め打ちして、新人君に勝利を贈った。粋なことをするもんだ。いやー、素晴らしいバッティング。ピネダも練習しているチェンジアップをついに実戦投入して、対戦相手にスカウティングされはじめている自分のピッチングを立て直しにかかって7勝目。(3回表二死ランナー無しの場面でジミー・ロリンズに投げた2球目、6回表ジミーロリンズへの3球目など)

Gameday:Philadelphia Phillies at Seattle Mariners - June 17, 2011 | MLB.com Classic
判定マップ:Brooks Baseball · Home of the PitchFX Tool - Strikezone Map Tool 2011年6月17日フィラデルフィア第1戦
(今日の判定は、左バッターのインコースが狭すぎで、アウトコースが超広い。つまり、左バッターだけゾーン全体が三塁側に大きくズレてる。球審Doug Eddings

2011年6月17日 球審Doug Eddingsの判定マップ


アックリーはメジャー初ヒットのバッティング面より、8回表の5-4-3のダブルプレーがよかったな。カルロス・ルイーズのハードスライディングを綺麗に避けながらのストロングスロー。なかなかだった。長年セカンドベースマンを誰にするかで悩まされてきたシアトルだけど、悩み事が、これでひとつ減った。
なんせ、ノースカロライナ大学出身のダスティン・アックリーと、サウスカロライナ大学出身のジャスティン・スモークの、「Carolina Double カロライナ・ダブル」(©damejima)だからね。なんとも、びゅーてほー。アトランティック・コーストの野球ファンも喜んだんちゃないのかな。(ちなみに、サウスカロライナにはCarolina Double Marathonっていうハードな耐久マラソンレースが実際あるらしい 笑)

ダスティン・アックリーの「カロライナ・ダブル」について、ブレンダン・ライアン
"That's not an easy play," Ryan said. "It just shows more poise and his calm. That calm is something that can't really be taught, so I think we're all pretty impressed."
「いンやぁ、アレ、簡単なプレーじゃなかったわねぇ。なんつぅの、あの子、落ち着きあるんだがね。ああいう「落ち着き」ってぇのは、教えようとして教えられるもんじゃないンよね。うん。オジちゃん、感心ちまちた。だから、このあとエビフリャー食べるがね。アンタも来る?エドガー・マルチネス通りでクルマ止めて待っとるがね。」
Dustin Ackley begins highly anticipated Mariners career in style | Mariners.com: News

ついでだから、復調したイチローのバッティングについて、エリック・ウェッジ
Mariners manager Eric Wedge said after the game. "But you see that bat head staying in the zone a lot longer. The plane of his bat is where it needs to be. Like I've said before, he's a tough hitter to critique because it's a very, very unique approach.
「バットヘッドが、ベスポジにピタっ。スイングの軌道面も、理想的なとこにピタっ。前もいうたんやけどさ、イチローいうたら、どうにもコメントしにくいバッターやねんな。そらそうよ。バッティングに対するアプローチがあまりにも超絶ユニークすぎやわ。あんなん、他におらん。それにしても、このイカ焼きうまいわ。阪神百貨店で買うたんやで。さすがイチローの国の食いもんやで。」
Mariners Blog | Mariners put a complete team effort into this one on offense, defense and the mound | Seattle Times Newspaper


ひさしぶりにラウル・イバニェスの姿も確かめられて、それも大満足。シアトルはレフト、空けて待ってますよ? イバちゃん(笑)ペゲーロより、イバちゃんがいい(笑)

イチロー RF
ライアン SS
グティエレス CF アダム・ジョーンズ CF
イバニェス LF
スモーク 1B
アックリー 2B
オリーボ C
ケネディ DH
募集中 3B

サード? ライアン・ジマーマンがいいな(笑)






damejima at 14:08

June 01, 2011

勝ったぁああああっっっ!
ジャスティン・スモークの決勝逆転3ラン!!!
ひゃっほぉぅぅぅううううううう!!!!!

2011年5月31日 8回裏 スモーク逆転3ラン
Baseball Video Highlights & Clips | BAL@SEA: Smoak's three-run shot puts Seattle up late - Video | Mariners.com: Multimedia

"Smoke On The Water" Live in Tokyo


Baltimore Orioles at Seattle Mariners - May 31, 2011 | MLB.com Classic

今日の勝利を呼び寄せたのは、言うまでもなく「不振のショーン・フィギンズを2番からはずしたこと」だ。今日の劇的な勝利で、2番からフィギンズをはずすという方向性は当分の間、堅持されるだろう。
エリック・ウェッジ、グッジョブ。

Ichiro RF
Ryan SS
Smoak 1B
Cust DH
Gutierrez CF
Kennedy 2B
Olivo C
Rodriguez 3B
Peguero LF

Bedard P

そう。
フィギンズが2番にいない。
いないどころか、スタメンにも入っていない。

かわりに2番に入ったのは、ブレンダン・ライアン
ボルチモアの先発ジェレミー・ガスリーの出来が素晴らしく良く、シアトルは5安打しか打てなかったが、そのうちの2本を打ってくれた。


8回裏は、イチローの1、2塁間を抜けそうなヒット性の当たりを好捕したボルチモアのファースト、ルーク・スコットが、イチローの俊足に焦って一塁へ悪送球したことから始まった。(記録はエラー)

ここで、この日初めて2番に入ったブレンダン・ライアンがヒットでつなぎ、
そして、ジャスティン・スモークの見事な3ランショット。
こんな劇場的展開でスタジアムが沸かないわけがない。その後リーグがセーブを記録して、リーグトップの15セーブ

こういう日にスタジアムにいられた観客は幸せだ。

すもぉぅぅーーーく・オン・ザ・ぅおーーーたーーーーーー
a fire in the sky. Yeah!
セーフコは ぴっきぴきにロックしてるぜぇえええ。


それにしても、
昨日、ショーン・フィギンズを放出すべきって記事を書いて、その中で、ローリング・ストーンズって単語を使った、そのとたんに、フィギンズがスタメンはずれて、しかも、スモーク・オン・ザ・ウォーター
この曲、スイスのジュネーブで実際にあった火事を元ネタにしてて、歌詞の中にローリング・ストーンズが出てくるんだよね(笑)
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年5月30日、言語学的意味論から考える「しぼむ風船」ショーン・フィギンズ。






damejima at 13:37

May 31, 2011

ここに四角い箱がある。と、する。

箱

箱の中に、空気の十分たくさん入った、2つの風船を詰めると、風船は押し合って一定の形に収まる。(画像では便宜上めんどくさいので2つの風船を同じような形に描いているが、同じ形になるとは限らない)

箱に詰められた2つの風船

次に、2つの風船の入った箱の中に、もうひとつ、の風船を加え、詰める風船の数を3つに増やしてみる。
3つの風船同士は押し合って一定の形に収まるが、最初に詰めた、2つの風船の形は、さっきとは異なる形になる。
この「同じ風船でも、他の風船との兼ね合いで、形が変わる」ところが面白い。

箱に詰められた3つの風船

このたとえ話は、もともとフランス系の言語学者丸山圭三郎さんという人が言語という軟体動物の「意味」の不思議な変容ぶりについて話したことをもとにしているのだが、野球というゲームにも、なかなか面白い示唆を含んでいると思う。


四角い箱が、野球チームのスタメン枠
風船が、選手。風船の「色」が、その選手単体の個性。風船の「形」や「大きさ」が、役割や期待度だ、とする。

四角い箱に「どういう色の風船を詰めるか」によって、そのチームの「全体的なカラー」は決まってくる。
たとえばホームランバッターを赤い風船だとして、箱に赤い風船だけを9個詰めこむようなことをすると、その箱は赤い風船だけが入った真っ赤な箱になる。また、俊足のアベレージバッターが青い風船だとして、箱に青い風船だけを9個詰め込むと、その箱は真っ青な箱になる。


だが、たいていは、ひとつの色だけではなくて、さまざまなカラーの風船を、適度なバラつきをもつように混ぜ合わせて、箱の中身、そのチームのスタメンを決める。つまり、野球チームには(そして、バンドや企業でも)さまざまな役割をもった人間のバリエーションが不可欠だということだ。

このことは、実例を考えればわかりやすい。ホームランの打てるバッターの並んだヤンキースを考えればわかる。
とても大量のホームランなど打ちそうもなかったカーティス・グランダーソンが突然ホームランバッターに変身したのは、彼にもともとボールを飛ばす才能があった、ということもあるだろうが、意味論的にいうと、「自分の周りに真っ赤な風船(=ホームランバッター)ばかりがいる状態に置かれた青い風船は、やがて時間がたつと影響されて、色が赤くなる」という部分も見逃せないとも思う。
それはオカルトではなく、意味論の世界だ。



もう一度、風船の話に戻る。


本当に重要なのは、ここだ。箱に詰め込まれる風船の立場からみると、箱に新しく風船が詰め込まれるたび、風船の「形」が変わってくること。
それぞれの風船の色(=個性)は同じでも、風船の「形」(役割やパフォーマンス)は変わる。

たとえば、シアトル・マリナーズ。
箱(=チーム)に、非常に強い個性をもつ典型的リードオフマンのイチローという巨大な青い風船(=選手)がいるところに、後から、同じ青い色の風船ショーン・フィギンズが詰め込まれた。
この場合、イチローという風船、フィギンズという風船に、どういう事態が起こると予測されるだろう?


ちょっとわかりにくくなった。
ちょっと、たとえ話で考えてみる。

ある野球チームが、シーズン30本のホームランを打てるスラッガーを9人揃えたとすると、そのチームは、シーズンに「30×9=270本」の大量のホームランを打てる、あるいは、バッター同士がお互いの相乗効果で、270本どころか、300本以上のホームランを打てるようになるものだろうか?

野球というスポーツのこれまでの歴史は、上のクエスチョンの答えが明らかに「 NO 」であることを教えてくれている。むしろ、そのチームのホームラン数は、「270本以下」になってしまい、コストパフォーマンスが悪い結果になることがほとんどだろう。

つまり、いいたいことはこうだ。
「同じ色の風船がひとつの箱に詰め込まれた場合、それぞれの能力が多少そがれて、完全には能力が発揮されなくなることがほとんどだ」ということ。言い方を変えると、同じ色の風船を詰め込みすぎると、その色の風船はほぼ必ず「脆弱」になる。


なぜそうなるのか。
正直、理由はよくはわからない。生物の集団にはとかく謎は多いものだ。
風船同士の干渉によるのか。同じ色の風船同士は、押し合いへし合いすることで、目に見えないストレスがかかって、お互いのパフォーマンスが下がるものなのか。
この謎はなかなか興味深い。

だが、バンド。企業。動物の種の進化。インターネット。組織と名のつくものほとんど全てに、この原則はあてはまるように思う。
たとえばローリング・ストーンズに、キース・リチャーズと同じ弾き方をするギタリストは2人いらない。ほとんどの場合、企業に社長は2人必要ない。むしろ社長が2人もいたら、やりにくくてしょうがない。
南米チリの鉱山に閉じ込められた数十人の人々だって、もしも指導者が何人もいたら、全員が死んでいたかもしれない。

中心というものを必要としないクラウド・コンピューティングや、ストライカーを必要としないノートップのサッカーなど、新しい思考方法に基づくオーガニゼーションもあるにはあるが、そういうものが人間というやっかいな動物が常に縛られている意味論や組織論を、まったく超越し、解決しているかというと、そんなことはまるでない。
人間という生物の組織は、やはりシンプルな意味論を超えていけないようにできているのである。


野球の守備は9人で同時に行う。だから「守備はチームプレイ」だが、攻撃であるバッティングは、打席に2人の選手が一緒に入ることはない以上、「打撃は守備よりはずっとパーソナルなもの。個人的な行為」と、思われがちな部分があるが、実際には意味論的にも、そんなことは全くない。
長くなるので端折るが、打順の違う打者同士は、たとえお互いの打順が、1番と6番とか、大きく離れている場合でも、相互にまったく無関係なわけではなくて、むしろ、密接に関係しながら存在している。意味論的には、そうだ。一匹のサルが芋を洗って食べるようになると、遠く離れた場所のサルが芋を洗って食べるようになったりもする。

野球チームという箱に詰まった9つの風船は、お互いに非常に強く意味論的に影響しあいながら、ひとつの組織体を構成している。
「誰かが膨らめば、誰かが縮む。」
そんなことがありうる。


わざと結論を先延ばしにしてみたが(笑)
言いたいことはこうだ。

イチローとフィギンズを2人並べたからといって、2人あわせて400本ものヒットが打てるようになるわけではない。スポーツの技術論、組織論ではなく、人間のかかえる意味論から、そう思う。
この2人の選手は、色は同じでも、才能やチームへの影響力の強さに大きな差がある。片方の風船は常に劣勢に立たされ、押され、しぼんでいく。それが、「人間のつくる組織というもののもつ独特の意味論の世界」なのだ。


だから、ズレンシックは、フィギンズの今後のことも考えて、彼をシアトルから放出し、彼が「ひとり」でのびのびできるチームでプレーできるようにしてやるべきだ。






damejima at 19:34

May 24, 2011

拍手拍手拍手

打点を挙げた、ジメネスの代打アダム・ケネディイチローペゲーロ、スモークの代走ルイス・ロドリゲス、終盤を締めたクリス・レイライトリーグオリーボ、みんなグッジョブ!!
勝ったケロ(笑) 6連勝!!!
ひゃっほぉうううう!!!!!

シアトルの5連勝以上のストリーク
2004 1回
2005 なし
2006 3回(最大6連勝)
2007 3回(最大8連勝)
2008 なし
2009 1回
2010 1回
2011 2回(最大6連勝)

Seattle Mariners at Minnesota Twins - May 23, 2011 | MLB.com Classic


諦めないってことは、美しいってこと。
(以下、働いた人のみ。仕事しなかった選手はカット 笑)

8回表 SEA 4−7 MIN
ブレンダン・ライアン シングル 1死1塁
ジャック・ウィルソン エラー出塁 1死1、3塁
代打アダム・ケネディ タイムリー 1死1、3塁
イチロー ジョー・ネイサンのインコース一杯に決まるスライダーでバットを折られながらも、きっちりセカンドベース付近に落とし、サードランナーを帰した。イチローさすがの一振りでシアトルが最少得点差に詰め寄る。打点1 2死1塁 

8回裏 SEA 6−7 MIN
投手 クリス・レイ
このイニングから、ダメ捕手ジメネスに代打ケネディが出た関係で、キャッチャーがオリーボに交代したことで、目に見えてピッチャーが安定した。このキャッチャー交代は、このクロスゲームに勝てた大きな要因のひとつ。
クリス・レイは、最初の2人をあっさり三振に切ったことで安定できた。2死後、この日絶好調のスパンにだけはヒットを許したが、これはかなり低い明らかなボール球を打たれただけのもので、こればっかりはバッターが上手すぎた。


9回表 SEA 6−7 MIN
ジャスティン・スモーク シングル 無死1塁
ジャック・カストは三振に倒れるが、その間にスモークの代走ソーンダースが2塁盗塁成功。結果的に送りバントの形に。
カルロス・ペゲーロ 同点タイムリー 2死1塁
ペゲーロの同点タイムリーは、初球のストライクとコールされてもおかしくないボールを見送って、2球目のど真ん中のストレートを打ったもの。低めの大好きなバッターだけに、よく初球のローボールに手を出さなかったものだ。
追記:ソーンダースの盗塁成功は「イチローとベンチで相手投手マット・キャップスのクセについて話し合ったこと」から
この日は控えだったソーンダース。ベンチで出番を待つ間に、イチローと、ミネソタのクローザー、マット・キャップスの投球フォームの癖についてしっかり話し合った。そのため、ソーンダースは代走で出場することになったらどうすべきかをよく心得て、起用を待っていた。という趣旨の話題を含む記事。
Mariners Blog | M's manager Eric Wedge nearly emptied his bench tonight, then watched as moves came up aces | Seattle Times Newspaper
Saunders was probably the difference-maker tonight. He'd looked on from the dugout in the eighth after Ichiro had made it to first base and noticed that closer Matt Capps was using a high leg kick rather than a slide-step in his delivery to the plate.
When the inning was over, Saunders and Ichiro talked it over and agreed there had been no slide-step.
So, when Saunders was asked to pinch-run, he knew what he had to do.

9回裏 SEA 7−7 MIN
投手 ジャーメイ・ライト
疲労がかなりたまってきているせいで、ライトは簡単に2アウトをとった後、四球、ワイルドピッチと、不安定な面も見せたが、既に2本のホームランを浴びているジム・トーミを敬遠したことで、なんとか切り抜けた。このイニングにあわててリーグを投入せず、延長をみすえたエリック・ウェッジもグッジョブ。


10回表 SEA 7−7 MIN
ジャック・ウィルソン シングル 無死1塁
ミゲル・オリーボ 送りバントを2度失敗した後、シングル 無死1、2塁
イチロー 高めのバントしにくい球を、あっさり送りバント成功 1死2、3塁
フィギンズ 敬遠 1死満塁
9回に代走の出たスモークに代わる1塁手ルイス・ロドリゲス 勝ち越し犠牲フライ 打点1
オリーボが2度も失敗した送りバントを、イチローがあっさりと成功させたことで、ダグアウトは大盛り上がり。
ルイス・ロドリゲスは、ペゲーロもそうだが、どういうわけか、こういう決定的な場面に打席が回ってくる運勢をもっている。低めにボールになる球が3球目と5球目にあったが、その2球を振らずに我慢できたことが、犠牲フライにつながった。

10回裏 SEA 8−7 MIN
投手 ブランドン・リーグ
リーグは、ようやく腕が振れてきた。そのことで、やっとアウトコースへのコントロールと球威が戻ってきている。
最後の打者スパンの当たりは、強いショートゴロで、ヒットでもおかしくなかったが、これをブレンダン・ライアンが好ポジショニングで、ショート正面のなんでもないゴロに変え、無事にゲームセット。記録には現れないが、ライアンのビッグなファイン・プレー








damejima at 13:15

May 22, 2011

エリック・ベダードがたった92球でサンディエゴから9三振を奪い、もう誰にも文句は言わせないとばかりに8回無失点の快投で2勝目。やはり調子が戻れば彼本来のカーブを主体にしたピッチングは本当に素晴らしいものがある。
これでチームは3連勝。ピネダ、ヘルナンデス以外の先発での3連勝には本当に高い価値がある。
Seattle Mariners at San Diego Padres - May 20, 2011 | MLB.com Classic

このゲームの2回表、ベダードはフルカウントからショート脇にシングルヒットを打った。このヒット、なんでもインターリーグだけしか打席に立たないシアトルの投手としては、2009年以来、2年ぶりのヒットらしい。


ちょっと調べてみると、案の定、2009年にヒットを打ったのは、Long Beach Stateでの大学時代に投手兼DHだった経歴をもつ、バッティングのいい投手ジェイソン・バルガスだった。
June 14, 2009 Seattle Mariners at Colorado Rockies Box Score and Play by Play - Baseball-Reference.com

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年5月17日、The News TribuneのRyanDivishによると、大学時代のジェイソン・バルガスはDH兼ピッチャーで、相当バッティングがうまかったらしい。


この頃に書いたブログ記事をみてみると、バルガスがこの時期、いかに苦境にあったかがわかる。
当時のバルガスは、自分のピッチングスタイルをまるで理解しないダメ捕手城島にかわって、こんどは城島のコピーロボットとでもいうべき、キロスをキャッチャーとしてあてがわれていた。
キロスもまた、城島と同じように、バルガスのピッチングスタイルをまったく理解しないまま漫然とゲームをして、6月14日のコロラド戦も1-7と大敗した。
そのためバルガスは試合後に、「キロスのサインどおりに投げてしまったことを後悔している」と、見た目には自分を責める形で、実際にはキロスのリードを批判する発言をしたのだが、当時、監督経験の無い新人監督のワカマツはバルガスの置かれた苦境をまるで理解しなかった。

当時、自分の自由にならない状況でばかりピッチングさせられていたバルガスにしてみれば、インターリーグで、大学時代に非常に得意としていたバッティングの技術を披露することは、せめてものストレス解消だったのかもしれない。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年6月14日、城島・セクソンがゴーストとして復活したシアトルは、コロラドでスイープされた。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年6月14日、新加入投手バルガスは、「城島コピー捕手」キロスが出したサイン通り投げ、打たれまくったことを心から後悔した。(1)

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年6月14日、新加入投手バルガスは、「城島コピー捕手」キロスが出したサイン通り投げ、打たれまくったことを心から後悔した。(2)








damejima at 08:37

May 15, 2011

この記事は、下のリンクの続きだ。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年5月13日、「打者を追い込むところまで」で終わりの投球術と、「打者を最終的にうちとる」投球術の落差  (1)打者を追い込んだ後のヘルナンデスの不可思議な「逆追い込まれ現象」



ちょうど一ヶ月前。
カムデンヤーズへの遠征で、フェリックス・ヘルナンデスは、典型的な早打ちボルチモア打線につかまり、早いカウントのストレートを狙い打たれる形で、被安打7、四球3、自責点4。5回でマウンドを降りた。
ゲーム序盤の3失点くらいなら、ほとんどの場合、そのまま7回120球くらいまで平気で投げるヘルナンデスが「5回で降板させられた」のだから、いかに5月12日のカムデンヤーズでのピッチング内容が悪かったかがわかる。
Seattle Mariners at Baltimore Orioles - May 11, 2011 | MLB.com Classic

あのとき、こんなことを書いた。
ヘルナンデスには「投球術」が欠けている。
だからもう、ヘルナンデスのことを、「キング」と呼ぶのは、やめることにした。


あれから一ヶ月たって、6月18日。
ホームのフィリーズ戦で、ジミー・ロリンズシェイン・ビクトリーノに好きなように打たれまくるヘルナンデスを見ながら、5月のときの「感想」は、変わるどころか、より確信に近いものに変わった。
キングス・コート」とかいうチケット販売戦略は、まぁ、観客動員のためのギミックだから、それはそれでいい。好きなようにビール飲んで、仮装大会やって、お祭り騒ぎは好きに楽しめばいい。だが、ブログ主は、ヘルナンデスのことを「キング」と呼ぶつもりはない。


5月頃、日本のファンはヘルナンデスについて、「いつも5月がよくないから、しかたがない」だの、わかったようで実は何の根拠もないことをしきりに言っていたものだ。月別データを見ると、そういうテキトーすぎる意見が「二重の意味で」現実をわかっていない意見であることがわかる。

今年のヘルナンデスは、月別データだけでいうと、「いつも5月がよくないから、しかたがない」どころか、これでも5月が一番「マシ」なのだ。
   被打率 防御率
4月 .240   3.32
5月 .202   3.07
6月 .263   3.77

まぁ、こんなデータを見ると「5月は例年悪いわけだけど、今年に限っては、実は良かったんだな・・・。ヘルナンデス、さすが」(笑)などと、自分が二重に馬鹿なことを言っていることさえ気づかないで、早とちりしたことを言うアホウが必ず出てくるだろう。数字だけ見て、実際のゲームはほとんど見ずにモノを言っていても、恥をかかずに済むと思っているのだろうか。

ヘルナンデスの5月の全登板を見た人なら、データ上の良し悪しはともかく、「2011年5月のヘルナンデス」がかなりグダグダなピッチングぶりだったことをよく知っている。だからこそ、5月にボルチモアでメッタ打ちにあったのである。

そして「6月のヘルナンデス」は、5月の「数字では絶対にわからないグダグダ」が表面化してきて、被打率.263などという、とんでもないことになってきている。



Fangraphには、カウント別に、投手がどんな球種を投げたかが、おおまかにわかるデータが用意されている。
これと、Baseball Referenceのカウント別被打率とあわせて、今年のヘルナンデスが「どういうカウントで、どういう風に打者を攻め、そして打たれているか」、ちょっと簡単にシミュレーションしてみよう。
Felix Hernandez ≫ Splits ≫ 2011 ≫ Pitching | FanGraphs Baseball
Felix Hernandez 2011 Pitching Splits - Baseball-Reference.com
注意してほしいのは、Fangraphの球種分類が「おおまか」であること。たとえば、最近のヘルナンデスは「シンカー」を多投するが、この「シンカー」という球種はFangraphの分類項目に無い。たぶん、どれか違う変化球のパーセンテージに含められて計算されてしまっている。だから以下の話で、変化球についてあまり厳密に書くことは、そもそもできない)



Baseball Referenceによれば、今年のヘルナンデスがもっとも打たれたカウントが、First Pitch、初球だ。まず、ここが問題の出発点である。
相当打たれている。被打率は.381。被長打率.540、被IOPS.930。数字の上だけでみても、かなり酷い。

他にも、ヘルナンデスが被打率3割以上打たれているカウントは、初球、1-0、2-0、0-1、1-1と、合計5つもある。要は「3球目までに打たれると、かなりの確率でヒットを打たれてしまっている」ということになる。

Fangraphで、「被打率3割以上の5つのカウント」で投げた球種を調べてみると、面白いことがわかる。

ヘルナンデスが打たれているカウントで投げている球種をみてみる。
初球 速球(確率71%)被打率.381
1-0 速球(70%)被打率.308
2-0 速球(94%)被打率.385
0-1 速球(33%)、カーブ(31%)被打率.324
1-1 速球(38%)、カーブ(25%)、チェンジアップ(24%)被打率.361
Felix Hernandez 2011 Pitching Splits - Baseball-Reference.com


もうおわかりだろう。簡単だ。
早いカウントではストレートを打たれ、遅いカウントになると、変化球を打たれる
これらの単純なデータ群からでさえ、ヘルナンデスが投球の3球以内で打たれるパターンが、簡単に分類できることがわかる。

もうちょっと詳しく書いてみる。

A)初球が打たれるケース(1通り)
A−1 初球のストレートを狙い打たれ、長打される

B)2球目が打たれるケース(2通り)
B−1 初球のストレートがボール判定。2球目にストレートを連投してストライクをとりにいって打たれる
B−2 初球のストレートがストライク判定。2球目にストレートか、カーブを投げ、打たれる

C)3球目が打たれるケース
C−1 初球、2球目でストレートを投げて、どちらもボール判定。3球目もストレートで、そこで打たれる
C−2 初球のストレートでストライク、2球目がストレートかカーブで、ボール。1-1となって、次の球(ストレート、カーブ、チェンジアップのどれか)を打たれる。
C−3 初球のストレートがボール、2球目もストレートで押して、こんどはストライク。1-1となって、次の球(たぶんアウトコースの変化球、それもシンカーかチェンジアップと推測)を打たれる。


同じことを、こんどは「バッター目線」から整理してみよう。
打者はどのカウントで、どの球種を打てばいいか?

初球の狙いかた
1)何も考えず、初球ストレートを思い切り強振。長打狙い。
2球目の狙いかた
2)初球ストレートがボール判定だった場合、2球目も高確率でストレートが来るので、ここは必ずヒッティングすべき。
3)初球、2球目が、続けてストレートのボール判定のカウント2-0。次は間違いなくストレート。狙い打ちしていい。(もし四球が必要な場面で、コントロールが荒れているケースなら、振らなくてもいい)
4)初球ストレートを強振して、空振りか、ファウルだったカウント0-1の場合。2球目がストレートである確率はかなり下がり、球種がバラつくため、ここは様子見。
5)初球ストレートがきわどいので見逃したカウント0-1の場合、もしその球がストライクだったら、2球目は球種が予測しづらい。ちょっと様子見。
3球目の狙いかた
6)初球ボールで、2球目をファウルしたら、3球目は、変化球かストレートか、狙う球種さえしっかり絞りきれれば、甘い球を狙い打てる。
7)初球ストレートがストライク、2球目がボールのカウント1-1なら、3球目は基本的に様子見だが、打ちたいなら、変化球かストレートか絞りきって、甘い球だけを打つ。
8)初球、2球目で、カウント2-0に追い込まれた場合。3球目のアウトコースの変化球は、ほぼ「釣り球」。見逃すべき。4球目も、ほぼ同じ。これでカウントを2-2まで戻せる。

ちょっと読みづらい書き方で申し訳なかったが、上に書いたことをもっと簡単に言うと、どういうことが起こっているのか。

早いカウントで投げたがる「ストレート」、遅いカウントになると投げたがる「変化球」、ヘルナンデスはその両方を打たれているのである。


初期症状で、ストレートへの自信と信頼が失われていき、さらに症状が進んだ後期症状では、せっかく打者を追い込んでも、その後はアウトコースのボールになる釣り球の変化球一辺倒になって、打者にピッチングの組み立て自体を見切られていく。その結果、球数はやたらとかかるようになり、2-2や、フルカウントがやたらと増えていく、というのが結論だ。


実際、今年のヘルナンデスのPitch Type Values(球種ごとの有効度)は、こうなっている。(カッコ内は2010年の数値)
ストレート    -1.8(2010年 25.5)
スライダー系  -0.7(6.1)
カーブ      3.2(2.4)
チェンジアップ 13.9(18.7)

早いカウントのストレートが打たれすぎたことで、配球システムの根本が崩れて、いざとなったらストレートに頼るピッチングが不可能になってきた」のである。
これがヘルナンデスのピッチングの根幹が崩壊してきた去年から既にあった「第一の問題点、初期症状」だ。


そして、ストレートを早いカウントで打たれすぎて、ピッチングの逃げ道がなくなってしまった彼が何に頼ったか。
外のシンカーやチェンジアップである。


最初の2球でなりふいかまわず打者を追い込んで、カウント0-2としたら、後は、外のシンカーやチェンジアップ。
ここからが「第二の問題点、後期症状」だ。
どうにかして打者を追い込んだにしても、あとに残されたのは、チェンジアップやシンカーくらいしかない。そういう球種をアウトコースのボールゾーンに釣り球として投げるのは、「打者への攻め」ではなくて、「単なる消去法」だ。ほかに選択肢がないから、それに決定しているだけである。
(本当はないこともないのだが、たとえキャッチャーがそれを要求しても、ヘルナンデスは首を横に振る。だから、カウントが煮詰まると、非常に高い頻度でバッテリーのサインがあわなくなって、テンポが遅くなる。そうするとビクター・マルチネスのような観察眼のある打者は「ヘルナンデスが首を振ったな。ああ、これは変化球、特にシンカーが来るな」と、わかるようになってくる)

だが、打者も馬鹿ではない。

ストレートを投げることに「ある種の恐怖心」を抱くようになってきているヘルナンデスの「弱腰ぶり」は、打者はもう十分すぎるほどわかっている。
ヘルナンデスのカウント0-2、あるいは、カウント1-2からは、たてつづけに「外の、ボールになる変化球が来ること」はわかっている。ならば、ボールなら黙って見逃せばいいし、ストライクなら、タイミングをあわせて狙い打つだけのことだ。

こうして、カウント2-2やフルカウントが多発するようになっていく。


こういうのを、
日本語では「見切られる」という。
先発投手は見切られたらオシマイだ。






damejima at 18:07

May 14, 2011

カムデンヤーズでのビジターゲームで、ジェイソン・バルガスが、ボルチモア期待の新鋭ザック・ブリットンと投げ合い、2人とも9回無失点でマウンドを降りる手に汗にぎる投手戦を演じた。
Seattle Mariners at Baltimore Orioles - May 12, 2011 | MLB.com Classic
ゲーム自体は、ブランドン・リーグの乱調で12回表の貴重な得点を勝ちに結びつけることができず、サヨナラ負けしたのだ、そんな、リーグのふがいなさが原因とわかっていることは、どうでもいい。
フェリックス・ヘルナンデスではまったく抑えられることができなかったボルチモア打線Seattle Mariners at Baltimore Orioles - May 11, 2011 | MLB.com Classic)を、なぜジェイソン・バルガスはこれほどまでに完璧に抑えられたのか? そのことのほうがはるかに大事だ。

その他、自分の中でいろいろなことについて、答えがハッキリと出たので、その一部をまとめてみた。

ヘルナンデスには「投球術」が欠けているのである。

「フェリックスがいつも5月に調子が出ない」とか、そんなオカルトじみた、どうでもいい理由ではない。もっときちんとした、野球の上での話だ。



ヘルナンデスはこれまで、自分に欠けている「投球術」の部分を、キャッチャー(たとえば、いまやサンディエゴの正捕手の位置にいるロブ・ジョンソン)やベンチによって補完されてきた、そういうタイプの投手だ。
球威は十分だが、投球術に欠ける。だから、ヘルナンデスは、投球術のない今のままでは、絶対にロイ・ハラデイにはなれない。球威だけでは誰もロイ・ハラデイにはなれない。

ロイ・ハラデイは、自分の中に「自立した投球術」を持つ、自立した投手だ。だから、キャッチャーが誰であろうと、打線の調子がどうであろうと、関係ない。自分の内部に存在する「自分自身の手で育てあげた自分だけの投球術」をもとに、ゲームの最後まで責任をもって投げぬく。それを信条としている。100球制限も、ロイ・ハラデイには関係ない。
他方、ヘルナンデスにあるのは、「球威」「スピード」「変化球のキレ」「ボールコントロール」など、ボールに物理的なパワーを与える能力、それと「負けん気」などのメンタリティの強さだが、それら以外に、まだ欠けている投手として必要な能力がある。
それが、日本語でいうところの「投球術」だ。つまり彼は単にボールを上手にあやつって打者を追い込んでいるだけであり、「自分で自分のピッチングスタイルをデザインする能力」には欠けている。
それがボルチモアとの対戦でハッキリわかった。

ヘルナンデスはとりあえず打者を追い込めるところまで行ける。それはひとえに、彼のパワーのおかげだ。だが、打者を自由自在にうちとるためのピッチング・デザインは、彼の内部に十分あるとはいえない。


だからもうブログ主は、ヘルナンデスのことを「キング」と呼ぶのは、やめることにした

頂上をあらわす「キング」という称号で呼んでいい投手は、例えば、ロイ・ハラデイノーラン・ライアンのような「自立した投球術」を備えた大投手であって、投球術に欠けるフェリックス・ヘルナンデスには「キング」の称号はふさわしくない。ちょっと態度が大きいくらいのことで、誰かのことをキングなどと呼ぶ必要など、まったく感じない。


細かい部分に触れよう。
これは、いままで何度も中途半端に書きとめてきたことを一歩先に進めることにもなる。

去年も頻繁に見た光景だが、ヘルナンデスは「打者を追い込んでからの投球」が、まったくもって冴えない。

なぜなら、ヘルナンデスは「打者を追い込む」のは上手いのに、いざ凡退させる段階になって四苦八苦ばかりしていて、スッキリ討ち取ることができないからだ。

具体的に言えば、打者を追い込んだ後、明らかにボールとわかる無駄な投球が多すぎて、2-2、3-2と、カウントを自分からどんどん悪くしていき、せっかく追い込んだ打者を簡単に四球にしていたりする。(こういう投球数が無駄に増えていくピッチングでは、野手の守備時間が異様に長くなり、野手のバッティングにも影響が出て、ラン・サポートも減ることが多い)


ボルチモアとの対戦で、ヘルナンデスはキャッチャー、ミゲル・オリーボとまるで息が合ってなかった。(けして全部の場面がそうだとは言わないが)特に、打者を追い込んだ後のサインが最も意見が合わなかったように見えた。もちろん、オリーボがどういう球を要求し、サインにヘルナンデスが、何度も何度も首を振って、その結果どういう球を選択したかを明確に知ることなどできないが、首をふったシチュエーションと、その後に投げた球などから推測すると、ブログ主は、以下のようにヘルナンデスとオリーボの意見があわない理由を考えた。

特に典型的な右打者のカウント1-2という場面で説明してみよう。


打者を追い込んだこういう場面で、最近ヘルナンデスが、キャッチャーのサインに首を振りまくるケースが、非常に多くみられる。ヘルナンデスが最終的に投げたがる球はどうやら「アウトコースの、大きく鋭く変化して、打者から逃げてボールになる球」のようだ。
この球をヘルナンデスが使いたがる理由についてブログ主は、「自分の球の威力で追い込んだ打者を、最後になにがなんでも、『安全に』空振りさせたい」のだろう、と見ている。

だが、このヘルナンデスが投げたがるアウトコースの球に、どういうものか、打者がまるで反応しない。むしろ簡単に見逃してくる。そして見逃された球がきわどいコースにビシリと決まって、見逃し三振がとれることはほとんどなく、むしろ、アウトコース低めにハッキリはずれるボールになることが多い。

要は、打者側に、「追い込まれてからヘルナンデスが投げてくるアウトコースの変化球は、見た目の変化は素晴らしいが、ボールになる。だから、見逃しても、三振しないですむ」ことがバレはじめているのだろう、と思う。
いくら、いままで誰も見たことがないような素晴らしい変化をするボールでも、大きくはずれてボールになることがあらかじめわかってしまえば、打者は空振りしない。うちとれない。単純な話だ。


だが、それでもヘルナンデスは、アウトコースの変化球によほど急激な変化をつけたがる。よほど打者にバットを振らせたいのだろう、キャッチャーのサインの大半に首を振り、ボールに強すぎるスピンをかけるために、非常に力み(りきみ)かえって投げ続ける。そのため、ボールにあまりにも変化がつきすぎて、1塁側に大きく逃げるワンバウンドになるケースが多々ある。
これが、ヘルナンデス登板時に頻発しているワイルドピッチ(またはパスボール)の元凶になっている。


投手にしてみれば「こんなに、いままで誰も投げてないほど、急激な変化球で打者を誘っているのに」と思っている。なのに、打者がまるで反応しない。すると、投手はかえって「まだ打者をうちとってもいないのに、決め球が無くなってしまった感覚」になったりする。
こういう「カウントの上では、投手側が打者を追い込んだはずが、かえって、投手のほうが、投げる球が無くなった、追い詰められた、という感覚に追い込まれていく」という、おかしな現象を、とりあえず「逆追い込まれ現象」とでも呼んでおくことにする。
(ある意味で、満塁で打席に入った打者が、チャンス!とポジティブな感情を持つのではなく、むしろネガティブにヤバイ!と感じるのにも、ちょっとだけ似ている 笑)


この「逆追い込まれ現象」に陥ったときのヘルナンデスは、たいてい表情は怒ったようなイライラした表情か、無表情だが、人間というものは不思議なもので、顔だけそういう厳しい表情、クールな表情だからといって、行動においても自分の思ったとおりの大胆さ、強気が、表現できるわけでは、まったくない。
むしろ、逆で、顔は冷静で、見た目は強気そうなのに、実は内心とても追い詰められている、そういう人こそ、たくさん見かける。それが人間という動物の普通の光景だ。

いくら本人だけが「絶対に三振をとるぞ!」と決め付けて、「俺は強気な投手だ!!」と鼻息荒く息巻いていたとしても、ボールそのものは打者にたち向かうどころか、むしろ打者から大きく逃げているのでは、なんの意味もない。
ヘルナンデスが強気になるべき相手は、サインを出している味方のキャッチャーではなく、対戦している相手チームの打者なのだ。言うまでもない。キャッチャーのサインをいくら拒否できるようになったとしても、そんなのは「強気」でもなんでもない。ただの「内弁慶の子供」だ。

「逆追い込まれ現象」に陥ったヘルナンデスのアウトコースの「逃げの変化球」はますます打者に見切られていき、投げる球が無くなったヘルナンデスは、フルカウントから、こんどは力まかせに、高速シンカーや、カットボール、4シームなど、ストレート系の球を投げるわけだが、体重のバランスは崩れ、ボールは思いもよらぬ方向に行ってしまい、四球を出し、タイムリーを打たれてしまう。
まるでパソコンで映画のDVDをリプレイするかのように。



そもそも真剣勝負の場において『投手だけが安全でいられる、打者の空振り』など、ないはずだ。
「安全でなさそうなところ」にリスク承知でキレのある球を思い切って投げ込むからこそ、打者のバットは思わず空を切って三振してくれる、あるいは凡退してくれるのであって、絶対に投手側は安心だという「安全なところ」に、いくら鋭すぎる「逃げの変化球」を投げ続けてみたところで、打者は空振りなどしてくれない。

そういう意味では、ヘルナンデスのアウトコースのボールは「打者にたち向かう」どころか、むしろ「打者から大きく逃げている」
投手が「打者から逃げるボールで、三振してくれ」とか、そういうことばかり考えるのは、単に、自分に都合のいいことばかり考えがちな子供、という話になる。


この話の意味は、ボルチモアの素晴らしい新人投手、ザック・ブリットンの大胆すぎる2シームと比べてみても、よくわかるはずだ。

ブリットンは、打者を追い込むだのなんだの、ごちゃごちゃ考えるより先に、2シームを、ほぼ「ストライクゾーンの、信じられないほどド真ん中」に投げこんでくる。もちろん打者は「しめた!!」と思って反射的にフルスイングしてくるわけだが、これが、ボールが動くせいで、まるでマトモにバットに当たらない。必ずといっていいほど、ボテボテの内野ゴロになる。
もちろん、東地区の投手であるブリットンには、東海岸特有のカットボールや2シームといった「動くボール」を多用する投球術が文化的背景にある。若い投手だが、彼なりに計算されたピッチング、といっていいと思う。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:地区ごとの配球文化の差異


このブリットンの2シームのチャレンジぶりに比べれば、いかにヘルナンデスのアウトコースの変化球が、投手側のリスクをあらかじめ回避した「安全な逃げ」でしかないか、わかると思う。
外の変化球が、どれだけ大きく曲がろうと、鋭く落ちようと、そりゃ、ボールになるとわかってしまえば振ってもらえなくなる。



思うに、投手の投球術というのは、2種類あって、けっこう混同されていると思う。

ひとつは、「打者を追い込むところまで」の投球術。
もうひとつは、「打者を最終的にうちとる」ための投球術。

もちろん、ロイ・ハラデイは後者だ。
そして、このあいだ初めて見たザック・ブリットンも、シアトルでいえば最近のジェイソン・バルガスも、後者だと思う。

前者の「打者を追い込むまでの投球術」しかもたない投手は、打者を追い込んだ後にどうするかといえば、自分の持ち球の中で、その日、これはと思えるボールを、えいやっ、とばかりに投げ込んでくるだけだ。
それでも球威があるうちはいい。手の内を相手に研究されないうちは、それでもいい。
だが、そんなのを「投球術」と呼ぶことなどできない。
そういう投手は本来、最後にはキャッチャー(あるいはピッチングコーチでもいい)の持つデザイン力の助けを借りなければならないはずだ。


自分のストレートの威力を過信というか慢心して、キャッチャーのあらゆるサインに首をふり、ストレートだけを投げることにこだわりぬいて、その結果、勝ちゲームを大量破壊しまくったデイビッド・アーズマも、かなりどうかしていると思ったものだが、フェリックス・ヘルナンデスが、第二の「慢心したアーズマ」にならないことを祈る








damejima at 20:44

April 28, 2011

デトロイト第2戦、ビジターで圧勝。
素晴らしいゲームだった。
Seattle Mariners at Detroit Tigers - April 27, 2011 | MLB.com Classic

スモーク 2試合連続ホームラン from バーランダー


2011年4月27日 ジャスティン・スモーク 3ラン

先週、父の葬儀を終えたばかりのジャスティン・スモークがチームに戻ってきて、昨日今日と、いきなり2試合連続ホームラン。試合後のインタビューによるとバーランダーのストレートだけを待っていたらしい。("I was just looking for a fastball to hit." Seattle Mariners at Detroit Tigers - April 27, 2011 | MLB.com SEA Recap
今日のホームランは流し打ちで、あのバーランダーのアウトコースいっぱに決まる97マイルの速球を、この広いコメリカ・パークの左中間の奥にまで放りこんでしまうのだから、凄い。
まさに同じスイッチのスラッガー1塁手マーク・テシェイラばりの3ラン。AVG.302、OBP.408、OPS.979。

デトロイトの先発バーランダーの話
Verlander said. "I was trying to go down and away, and I basically got the pitch six inches higher than I wanted. He went down and got it _ that was a nice swing."
「外角低めを投げようと思ったんだけど、思ったところより6インチも高くいってしまって、つかまってしまった。いいスイングをするバッターだね」
Mariners rout error-prone Tigers 10-1 - Mariners News - MyNorthwest.com


ついでに、これも(笑)アウト判定だったが、明らかにセーフのフィギンズの本塁へのスライディング。

オリーボの幻のタイムリー 2011年4月27日 デトロイト戦


今日の先発ベダードは本当に素晴らしかった。
88球投げて、ストライク60。ストライク率68.1%。球数が少なく、しかも、四球を出さなかった。小気味いいテンポで投げていて、見ていても気持ちよかった。
ストレートのスピードが戻って、しかも、彼本来のボールである得意のカーブがキレキレ。序盤こそボールが高めに上ずって1点を失ったが、ゲーム後半にはストレートでカウントを悪くするとカーブで持ち直すというパターンで、終わってみれば、7回1失点の無四球登板だ。

ベダード、やればやれる。

なんだが、ヘルナンデスウオッシュバーン、そしてベダードの3本柱で面白いように勝ちまくった2009年春を思い出した。


そして打線の集中力も素晴らしかった。
Team RISPが、7-for-15。つまり、得点圏に走者がいるシチュエーションが15回もあって、しかも、そのうち半分の7回タイムリーが飛び出している。
こんなにタイムリーの出まくるシアトルを見るのは本当に楽しい。


スモークが忌引きでいない間に代役をつとめてチームを鼓舞してくれたのはアダム・ケネディの好調な打撃だったが、スモークがチームに戻ってくるにあたって、どうスタメンを構成しなおすか、アダム・ケネディをどう使うかが、このところ日米のファンの間でいろいろと議論されていた。
今日のゲームでは、ジャック・ウィルソンをスタメンに戻さず、好調アダム・ケネディをセカンドベースマンとしてスタメンに残す形をとった。もちろんブログ主は大賛成
今日の打順は、スモークとアダム・ケネディの間に絶不調ジャック・カストを挟んだ打順になっていたが、スモーク、ケネディを続けた打順にすべきだと思う。








damejima at 08:21

April 26, 2011

カレッジ・ベースボールでUSCといえば、1970年代までなら、かつての名門で、カレッジ・ワールドシリーズ最多の通算12回優勝を誇るUniversity of Southern California、南カリフォルニア大学を指しただろう。だが、近年ではサウスカロライナ大学、University of South Carolinaを指す。
現在もコーチを務めるRay Tannerが1997年に就任してからというもの、サウスカロライナ大学野球部 South Carolina Gamecocksは、所属するSEC(Southeastern Conference)のチャンピオンシップの常連となり、2010年にはついにカレッジ・ワールドシリーズを制覇して全米No.1に輝いた。Ray Tannerはいま、カレッジの勝率レコード(634勝282敗)を持っている。

South Carolina Gamecocksのロゴマーク South Carolina Gamecocksの
 ロゴマーク

ボルチモア・オリオールズの名選手ブライアン・ロバーツは、このサウスカロライナ大学Gamecocksの出身で、1999年にボルチモアから1位指名されて入団した。
ノースカロライナ州出身のロバーツは、父マイクがノースカロライナ大学のコーチをしていた縁で、最初はノースカロライナ大学のプレーヤーだったのだが、父親が大学野球部のコーチ職を解かれてしまったことからサウスカロライナ大学に移り、そこで名プレーヤーに育った。ベースボールアメリカの選定するベスト・ディフェンス・プレーヤーに選ばれ、通算打率.353。またSECの盗塁カンファレンス記録を作っている。

サウスカロライナ州サウスカロライナ州はイギリスから最初に独立した13州の一つ。ニックネームはThe Palmetto State(パルメット椰子の州)


下に訳出したのは、ブライアン・ロバーツと同じように、父親から野球の楽しさを教えてもらったジャスティン・スモークのストーリーだ。

以前、素晴らしいドキュメンタリーを制作し続けている映像作家ケン・バーンズの野球ドキュメント作品"Baseball" "The Tenth Inning"を紹介したときに、
「ベースボールの楽しみは、まるで遺伝子が親から子に伝わるように、両親から子供に大切に伝えられてきた『家族の文化』である」と書いたが、ブライアン・ロバーツと父マイクにしても、下で描かれているジャスティン・スモークと父キースにしても、ベースボールを親子の絆にした典型的なアメリカの親子であることに注意して読んでもらえると非常にうれしい。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月10日、"The Tenth Inning"後編の語る「イチロー」。あるいは「アラスカのキング・サーモンはなぜ野球中継を見ないのか?」という考察。


Former Gamecock star Smoak
coping with loss of father

By Philip M. Bowman
Former Gamecock star Smoak coping with loss of father | The Herald - Rock Hill, SC
(訳)
まるで映画「フィールド・オブ・ドリームス」のような話だ。だが映画より素晴らしいといえるのは、これが実際にあった話だからだ。

コロンビア市(=サウスカロライナの州都)、2月なかばの日曜日に、父と息子はそれが最後となるキャッチボールと、ひととおりのバッティング練習をした。野球はジャスティンと父の絆である。癌という病がその絆を断ち切ることはない。

24歳のスモークはかつて、ストラットフォード高校とサウスカロライナ大学で野球のスタープレーヤーだった。現在はシアトル・マリナーズの1塁手で、アリゾナで行われるスプリング・トレーニングに向かう準備をしていたのだが、いまは、彼に野球を教えてくれた人とキャッチボールをして、自分のスイングについて意見をもらうのが優先だった。

昨年5月に肺がんと診断されたキース・スモークは、2月なかばのその日、カロライナ・スタジアムで車椅子に座り、微笑みを浮かべながら、自分の息子にボールを投げた。
家族に付き添われたキースは、サウスカロライナ大学の野球部コーチであるレイ・タナーから、背中にK. Smoakとネームが入り、息子スモークがつけていた背番号12番が入ったジャージーをプレゼントされていた。(ブログ注:スモークの背番号はテキサス時代は大学時代と同じ12。シアトル移籍後は17)
「たぶん僕の人生最良の日だったね。家族と一緒にいられたんだから」と、キースは記者に語った。


キース・スモークは、息子とキャッチボールをして2ヶ月と少し経った火曜に、57歳で亡くなった。(ブログ注:MLB公式では54歳となっている)タナーはいち早くジャスティンに連絡した人のひとりだった。マリナーズは彼を忌引リストにいれた。

タナーは言う。
「僕はジャスティンに、キースを悼む気持ちを伝えると同時に、こう言ったんだ。あのカロライナ・スタジアムで過ごした特別な午後は、息子である君と、君の家族、そしてUSCの野球関係者にとって大切な人の人生への祝福の時だったに違いないってね。家族を慈しむ特別な時間さ。彼の父は、スモークの人生にとって欠かすことのできない存在だった。
彼の両親は、試合だけでなく、練習にも来てくれた。キースは彼の息子とチームをとても大切に考えてくれていたんだ。ジャスティンがドラフトされて遠くに旅立つときも、われわれは、ジャスティンがいなくなるのを寂しく思うのと同じくらい、彼の両親との別れを惜しんだものさ。」

ジョン・ローズはジャスティンがダイアモンド・デビルスでプレーしたときのコーチだ。10代の時期というと、父と息子は、とかく荒れた関係になったりするものだが、ローズがいうには、スモーク家の場合にはそれはなかった。
「彼らの関係はそりゃ親密なものだったよ。10代というと、両親、とくに父親のことを疎ましく思いがちなものだ。だけどジャスティンと彼の父の場合はまったくそんなことはなかった。ジャスティンは厳しくしつけられていたと思う。しょっちゅう言葉をかわしていたしね」

ストラットフォード高校での若いスモークは、1年生のときからそこらじゅうのスカウトマンから注目の的になっていた。ストラットフォードのコーチ、ジョン・シャリューはこの若いプレーヤーがとても分別があり、しかも礼儀正しかったと言っている。
「彼の父が、彼に礼儀正しさを教えたといっていいだろうね。キースはジャスティンに、一緒にプレーするプレーヤーへの敬意を教えつつ、コーチした。それは今のような時代には大切なことだ。」

マリナーズの監督エリック・ウェッジは、チームはスモークがチームに復帰する前に、彼が必要とするだけの時間を十分与えると言っている。葬儀は土曜の11時にAldersgate United Methodist Churchで行われ、Carolina Memorial Parkに埋葬される予定だ。

ブログ注:
下記のリンク記事によれば、ブライアン・ロバーツの父マイクは、スモークがマット・ウィータースなども所属していたダイアモンド・デビルスという野球チームに所属していた当時に、スモークをコーチしたことがあるらしい。
For Smoak, the final step | GoGamecocks



サウスカロライナ大学時代のジャスティン・スモークサウスカロライナ大学時代のジャスティン・スモーク






damejima at 09:31

April 20, 2011

今日のデトロイトとのゲームに、シアトルの若い才能ある一塁手ジャスティン・スモークの姿がないのは、彼のご尊父Keith Smoak氏の容態が悪くなり、病床の父のもとに帰ったからだ。さきほど、ご尊父が逝去なさったことを、ツイッターで知った。享年54歳。
ゲームは13-3で、圧勝。イチローが4安打3得点2盗塁の大活躍で、ある意味の追悼試合を勝利に導いた。また、数日チームを離れることになるジャスティンの代わりに臨時のロスターとして上がってきたカルロス・ペゲーロは、さっそくゲームの決まった試合終盤に退いたイチローにかわってライトを守った。

ジャスティンの父の逝去を悼む人たちのツイート
justin smoak - Google Search

Detroit Tigers at Seattle Mariners - April 19, 2011 | MLB.com Classic

Justin Smoak placed on bereavement list; Carlos Peguero recalled from Triple-A | MLB.com: News

まだ24歳と若いジャスティンが大事な父親を失った深い悲しみを思うと、とても心が痛い。

我々ファンの心は若いジャスティンと共にある。そのことを伝えるとともに、心からご尊父の冥福を祈りたい。

My Thoughts and prayers are with Justin and his family.


追記
さきほどMarinersの公式ツイッターが、今日の快進撃に、Who is with us here at Safeco Field? と、つぶやいた。
もちろん僕らは、今日、誰がセーフコのフィールドで躍動するプレーヤーたちを守ってくれていたのか、みんながわかっている。ありがとう、Keith。これからもチームを見守ってください。




今日のイチローの見事な4安打
http://www.youtube.com/watch?v=pPJgpnf2v6c






damejima at 13:47

April 12, 2011

うっはーーーー!!

勝った!!!!

7点差をひっくりかえしたのは1999年以来らしい。
最高ぉ! ひゃっほぉぉっ!!!

 My Oh My
拍手拍手拍手

1点差の9回裏
マイケル・ソーンダース 二塁打 無死2塁
ブレンダン・ライアン バント 1死3塁
代打アダム・ケネディ ショートゴロ 2死3塁
イチロー 敬遠 2死1,3塁 →盗塁 2死2、3塁
ロドリゲス 逆転サヨナラ2点タイムリー

動画
Featured | TOR@SEA: Rodriguez wins it with a walk-off single - Video | Mariners.com: Multimedia

2011年4月11日ルイス・ロドリゲス サヨナラヒット


逆転サヨナラに沸く観客 2011年4月11日


逆転サヨナラにはしゃぐカップル 2011年4月11日

Gameday
Toronto Blue Jays at Seattle Mariners - April 11, 2011 | MLB.com Gameday

Fangraph
Mariners » Win Probability » Monday, April 11, 2011 | FanGraphs Baseball

ルイス・ロドリゲスの活躍の瞬間
Luis Rodriguez
Luis Rodriguez » Statistics » Batting | FanGraphs Baseball


試合後のインタビュー

ルイス・ロドリゲス
チェンジアップをずっと狙っていた
He said he was looking for changeups and sliders from Shawn Camp, and finally got a changeup he was able to square up.
Mariners Blog | Mariners win!! Mariners win!! | Seattle Times Newspaper

フェリックス・ヘルナンデス
「何を投げても打たれた」
"Every pitch I threw, they were hitting," Hernandez said.
Toronto Blue Jays at Seattle Mariners - April 11, 2011 | MLB.com SEA Recap

相手チームトロントのベンチには、ベンチコーチとしてシアトルの元・監督ドン・ワカマツがいるわけだが、どうやら彼はかなりヘルナンデスのスカウティングを済ませてゲームに臨んでいるようだ。








damejima at 15:02

October 04, 2010

かつて2008年にダメ捕手城島が選ばれた名誉ある(笑)賞のひとつに、ESPNの有名記者Jason Starkが選定するLVP (Least Valuable Player)という賞がある。
日本語でいうなら、彼が選定する「ワーストプレーヤー」だが、毎年、オールスター前までの上半期と、フルシーズンの2つが、野手、投手、監督について発表されている。

2008年の城島はこのLVP(Least Valuable Player)を、上半期とシーズンの両方を同時獲得(笑)していて、まさに誰も文句のつけられない、押しも押されぬピカピカのLVP様だった(笑)(Jason StarkがMLBに携わる記者の中でどれだけ影響力の大きい人物かは、過去記事参照)

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2008年7月12日、城島はESPNのMLB専門記者Jason Starkの選ぶ上半期ワーストプレーヤーに選ばれた。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2008年9月28日、ESPNのJason Starkは城島をア・リーグ年間ワーストプレーヤー、「LVP」に選んだ。



そのJason Stark、今年2010年の上半期LVPに選んだのは、我らが「使えないチビ」こと、ショーン・フィギンズだった。
Please don't go back and read all the stuff we wrote this past winter when the Mariners signed Chone Figgins.
Jason Starkは、前年の冬にフィギンズ移籍について書かれたESPNの記事のフィギンズに対する期待感の全てを取り消して、その上で「チームオフェンスの醜い終焉を招いた」と、かなり口汚い言葉を使って、フィギンズの酷さをこきおろした。もちろん、それが当然の行為、当然の成績である。
ちなみに、彼がア・リーグの投手から上半期のMVPに選んでいるのはクリフ・リーで、これも異存のないところ。上半期、自軍のブルペン投手の酷さに手を焼いたロブ・ジョンソンの苦労も多少報いられることだろう。
MLB: Joey Votto, Cliff Lee and Carlos Zambrano among the midseason award winners - ESPN


さて、10月2日になってJason StarkはさらにシーズンLVPを発表した。

年間LVPに選ばれたのは、なんと個人のプレーヤーではなく、「イチローを除くマリナーズの打者全員」(笑)Jason Starkがこういう選択の仕方をしたのは初めて見た(笑)彼は選択理由のコメントの中でこんな意味のことをガッツリ書いている。

「そりゃ、まぁ、上半期LVPはショーン・フィギンズをワーストプレーヤーに選んだわさ。でも、な。よくよく考えてみるとだな、近代以降のア・リーグのありとあらゆる打線の中で、なんのためらいもなく「最低最悪」と言い切れる2010年マリナーズ打線(イチローを除く)にあってだ。フィギンズだけをLVPに選ぶのは、フェアじゃないわな」
Back at the All-Star break, I handed out the prestigious LVP of the Half-Year non-trophy to Chone Figgins. But upon further reflection, I concluded it just wasn't fair to single out one hitter in what we can now safely proclaim as The Worst American League Lineup of Modern Times.
Honoring 2010's most valuable and least valuable players, Cy Youngs and Yuks, rookies and managers - ESPN

とか、なんとか、言いながら、Jason Starkは、ア・リーグ年間LVPの次点筆頭に、しっかりと「ショーン・フィギンズ」の個人名を記している(笑)(こういう慇懃無礼さは、欧米にはよくある)Starkがフィギンズの年間成績を批判してない、なんてことは、まったくない。(また、フィギンズの次にはミルトン・ブラッドリーの名前もある。)
いうなれば、2008年の城島に続いて、2010年のショーン・フィギンズは、上半期と年間LVPをほぼ受賞したに等しい。まぁ、当然の判断だ。

というか、
(イチローを除いて)近代以降のア・リーグ最悪と言い切れる打線を編成した責任は、それこそ「誰がどうみたって」GMズレンシックにあるのだから、Jason StarkとESPNの指摘する2010年の年間LVP、というか、2010シーズン最悪の非貢献者は、誰がどうみたって「マリナーズの無能GMズレンシック」ということになる。

それはそうだ。
この打線を組んだのは他の誰でもない。当然だ。
近代以降ア・リーグで最も失敗したGMのひとりになれて、おめでとう、ズレンシック。






damejima at 02:15

September 13, 2010

今年初めてタンパベイとの対戦を勝ち越し、さらに記念すべきヤンキースタジアムでの敵地スイープをもうすこしで達成しそうになった絶好調ボルチモアは、デトロイトのコメリカ・パークで、ビジターとして2006年ア・リーグ新人王ジャスティン・バーランダー先発のタイガースと対戦し、デトロイトの敵地スイープにチャレンジ中。

ボルチモアの先発は、ベダードとのトレードでアダム・ジョーンズとか、ジョージ・シェリルと一緒に移籍していったライトハンダー、クリス・ティルマンなんだが、これが、デトロイト打線を7回2アウトまで、たったブランドン・インジの1安打に抑える好投をみせている。三振は4つしかないが、そのうち2つは、あのア・リーグ三冠王候補筆頭のミゲル・カブレラなのだから価値が高い。

四球が多すぎるのはいただけないが、頑張れティルマン。
(四球多発の原因は、今日ウィータースのかわりにマスクをかぶったフォックスが、打者を追い込んでからのシチュエーションで無駄なボール球のサインを出しすぎるせいかもしれない、とみている。フォックスのサインはどうも単調すぎる)

結局、107球投げて、7回無失点のまま、勝ち投手の権利をもって降板。1安打無失点は素晴らしいが、58ストライク、ストライク率54.2%ではあまりにも少ない。次回登板へ課題が残った。
Baltimore Orioles at Detroit Tigers - September 12, 2010 | MLB.com Gameday

クリス・ティルマンの今シーズンのゲームログ
Chris Tillman Game Log | orioles.com: Stats


クリス・ティルマンは、最近好調のブライアン・マットゥースや、ブラッド・バーゲセン(彼も、スプリング・トレーニングの時期に、チームのCM撮影中にウオームアップが足りずに投げて、肩を痛め、開幕に出遅れた)とともに今年ローテ確実なんて言われながら、ソファでうたた寝をしていて首を寝違えたとかいう、つまらない理由で開幕に出遅れていた。
しかし、4月にマイナーでノーヒット・ノーランを達成したりなどして、メジャーでの活躍がチームからもファンからも心待ちにされていた。

いやー。もう、ね。
ボルチモアの若手投手、全開モードになってきた。

やばいね。やばい。ピエは盗塁するわ、フォックスはトリプル打つわ。
これは数年後にボルチモア全盛期、来るかもしれないな。

(と、思ってたら、8回裏にセットアッパーがやらかした。ミゲル・カブレラに3点タイムリー打たれ、インジには2ラン打たれ。気の弱いやつらだ 苦笑。やっぱり敵地スイープ達成寸前の緊張があんのかね? もしくはデーゲームのカード最終戦はキャッチャー変わるから、それがいけないのかもしれない。バック・ショーウォルターを新監督に迎えてから、「投手がやたらと打者に対してビビる『ボルチモア病』」はすっかり影をひそめていたのに、今日のセットアッパーには『ボルチモア病』が再発していた。)






damejima at 03:40

August 28, 2010

もうすぐ8月が終わる。
つまり、8月末のいわゆるウェイバー・トレード期限がやって来る、ということだ。

最近のウェーバートレードのニュース例
マニー・ラミレスのウェーバーに複数球団がクレーム
Multiple Teams Claim Manny Ramirez On Waivers: MLB Rumors - MLBTradeRumors.com
デレク・リーが若手3投手と交換でアトランタに移籍
Braves Have Not Asked Mariners About Figgins: MLB Rumors - MLBTradeRumors.com


チッパー・ジョーンズの怪我による戦線離脱で、急遽代役を探さなくてはならなくなったアトランタ・ブレーブスが選んだのは結局、7月に球団間で合意していたエンゼルスへの移籍を拒否したカブスのデレク・リーだったわけだが、デレク・リーの移籍が決まる前にシアトル地元メディアは「ショーン・フィギンズをアトランタにトレードできる可能性」について、しきりに記事にして、フィギンズ放出を煽りまくっていた。(例:8月12日のこの記事 Should The Mariners Trade Chone Figgins? | U.S.S. Mariner

しかし、だ。

かつて打撃成績がメジャー最低になった(ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2008年7月15日、地元記者ベイカーはメジャー最低打者城島に呆れ果てる。ダメ捕手城島のクビを切るどころか、高額の複数年契約を与えてやった、この弱腰球団は、新米監督の首くらいはなんとか切れても、公衆の面前でダグアウトで監督に反抗するようなフィギンズを放出、なんていうスジの通った行動を貫徹できるわけがない。
SPIなどは歴然とした球団の経営者批判をウェブサイト上に掲載しているが、この球団にやれることは、トカゲの尻尾を切るように出来の悪い新米監督とロブ・ジョンソンに責任を押し付けるくらいのことが関の山だろう。
Mariners' problems lie at the top, not in the manager's office
この記事の翻訳:Go Mariners! シアトル・マリナーズ最新ニュース from SeattlePI.com:マリナーズの問題は、監督ではなくトップだ



40人ロスターの選手は、7月末までのノンウェーバー・トレードでならウェイバーなしでもトレードできるが、それ以降の8月末までにトレードを行う場合は、ウェーバー通過が必要になる。
8月末までのウェーバー・トレードでは、交換相手の選手が40人ロスターに入っている場合、その選手もウェーバー通さないとトレード出来ない。そのため、マイナーリーガーや、PTBNL(後日発表選手)が交換要員に充てられることも多い。また複数球団からクレームがあった場合、順位の低い球団、同じリーグの球団など、交渉の優先順位があらかじめ決められている。また7月末までのトレードにない特徴として、ウェーバー公示した球団は1度だけウェーバー自体を取り消すことができる。


ウェーバー期間に他チームからクレーム(Claim、譲渡申し込み)があった場合、次のような3つの道がある。
1)元の球団がウェーバー自体を取り消す
2)クレームしてきた球団と48時間以内にトレードを成立させる
3)元の球団がクレームしてきた球団にその選手を放棄する。この場合、クレームしてきた球団はその選手の残りの契約金全額を引き継がなくてはならない。

クレームが無く、選手がウェーバーを通過すると、初めてチームは選手を自由にトレードできるようになる。マイナー降格させるなり(ベテラン選手は選手の同意が必要)、保有権を放棄するなり、他チームへトレードするなりの行為ができる。


さて、スポーツイラストレイテッドのジョン・ヘイマンが、ウェーバー・トレード候補に挙がるのではないか、という選手31人を名指しする記事を書いたのは、8月初め。
その記事のトップに挙げられていたのが、ほかでもない「使えないチビ、ショーン・フィギンズ」である。ほかにもシアトルでは、ミルトン・ブラッドリーケイシー・コッチマンの名前も挙げられていた。
Chone Figgins, Barry Zito among those who could still be traded - Jon Heyman - SI.com

1. Chone Figgins, Mariners 2B. He's in the first year of a four-year, $36 million contract, and for whatever reason, Seattle doesn't appear to be the perfect match it seemed to be. He recently had a dispute that became public with manager Don Wakamatsu. Someone may still remember his productivity from his days with the Angels and see him as a potential igniter atop a lineup.

27. Milton Bradley, Mariners OF. With $16 million to go through next year, no chance anyone claims him. But does anyone want him, either?

28. Casey Kotchman, Mariners 1B. Looks like strictly a defender now. No one should claim him with $1.5 million to go.


ジョン・ヘイマンが移籍候補に挙げた31人のうち、実際にトレードされたのは、8月18日にマイナーの投手3人との交換でカブスからアトランタ・ブレーブスに移籍したデレク・リーくらいだが、カブスがデレク・リーを放出したがっていることは、7月にはカブスとエンゼルスの間で合意していたことで周知の話なわけで、デレク・リーのトレードを先読みするくらいのことは別に難しくない。
それだけに、この記事はもともとかなりの部分、記者個人の好みで書かれた割としょうもない記事だったともいえる。

だが、それにしたって、チームの現場責任者である監督に公衆の面前で歯向かうような真似をした選手を、まるで「何もなかった」かのように処分できない弱腰のチームだ、「使えないチビ ショーン・フィギンズ」を8月末までにトレード、なんていう、1本スジの通った骨っぽい芸当が、この「常に腰砕けのシアトル」に実行できるわけがない。

もしこのチームにそんな甲斐性があれば、とっくにもっとマシな球団になっている。






damejima at 03:57

August 18, 2010

「守れるチーム」を作るとか高言していたはずの「守るしか勝つ方法がない」シアトルは、いまや「ア・リーグで最もエラーの多いチームのひとつ」だ。情けない。
2009年にチームUZRがメジャー断トツの1位だったのが、まるで幻だったかのように、シアトルの守備はダメになった。 (たぶん、このチームの関係者は2009年に城島をスタメンマスクから干して先発投手がようやくマトモに機能するようになって勝率が大幅に改善できた理由の根本をわかっていない。わかってないまま、いじくり倒して2010年に失敗した。その最大の失敗がフィギンズ。)

そしてチームの負けパターンは、春と、どこも、何も、変わってない。それはそうだ。原因をきちんと対策できてない。対策できないから、この勝率なのだ。
いくら先発投手と外野守備だけよくても、打てない、守れない内野手と、ブルペン投手がそのままでは、いくらロブ・ジョンソンに理由のない責任をかぶせても勝率は上がってこない。

8月15日クリーブランド戦では、ア・リーグで最も下手なセカンドの「使えないチビ」フィギンズの「いつものエラー」から、満塁ホームランを打たれて、いつものように負けた。
8月16日のボルチモア戦は、クローザーのストレートばかり投げたがるデイビッド・アーズマの「いつものひとり相撲」「いつもの四球連発」から、9回裏に同点に追いつかれ、いつものように延長でブルペン投手でサヨナラ負けした。

負けるなら負けるで、ドラフト1位獲得の権利を獲得できるところまで潔く負ければいいのだが、かつての城島恒例の「秋の帳尻打撃」のように、最下位が確定した夏を過ぎる頃からしか打てない帳尻ダメ選手たちの意味不明の帳尻ヒットのせいで、意味のない勝ち星を中途半端に挙げてくるから、よけいに始末が悪い。

たぶん、このチームに再建は無理だ。
再建ということのMLB的な意味も方法もわかってない。


もちろん、ゴールドグラブ賞の選考がエラー数だけで受賞者を決めるような単純すぎる決め方をしているのを批判して、セイバー派の人たちがFielding Bible賞を創設した話のように、エラー数の多さだけをあげつらって守備批判するのは意味がない。

だが、フィギンズのセカンド守備は、むしろ逆だ。
エラー数だけあげてフィギンズのセカンド守備の下手さ加減を批判するのでは、むしろ批判そのものが甘くなって、フィギンズに有利になるほどだ。
それほどフィギンズのセカンド守備は、エラー数がア・リーグで最も多いばかりか、「エラーと記録されないミス」があまりにも多い。エラー数のような見かけのデータでなく、シアトルの毎日のゲームを見慣れている人たちはわかっていることだ。
正面をついた強い当たりはグラブからこぼす、グラブが触っていても捕れない、他チームの上手いセカンドなら捕れている軽いイレギュラーは捕れない、よしダブルプレーというプレー場面でランナーのスライディングをかわすのが下手で1塁に送球できない、ライト前に上がったポップフライを追いすぎてテキサスヒットにする。などなど。例を挙げればキリがない。

フィギンズの場合、データに現れる守備の下手さ、データに現れない守備の下手さ、その両方があまりに多いから、彼のエラーの多さだけ挙げても、むしろ批判が足りないくらいであって、彼のセカンド守備の下手さぶりはエラー数だけでも十分にわかる、というのが正しいのである。

セカンドに好打者で守備も上手い選手が揃う今の時代のMLBにおいて、「左打席ではマトモに打てず、スイッチヒッターとは名ばかりで、守備においてもア・リーグ最低クラスのセカンド」それがフィギンズだ。来期いくら打撃が上向こうが、セカンド守備は突然改善できたりはしないだろう。


今シーズンのシアトルの最大の失敗は、チーム編成にあるのは誰の目にも明らかだ。守備のチームとして成功したのは、「ようやくネックだった城島を干すことに成功した2009年」であって、2010年ではない。
ロスターの打順と守備位置をどう構成するかはチームマネジメントの最大の仕事だが、「最大のポイントだったフィギンズのセカンドコンバートと打順2番固定が大失敗に終わったこと」が、攻守両面にわたって大打撃になって、想定したチームコンセプトが完全に崩壊しているのは明らかだ。
にもかかわらず、無能なズレンシックは、結局、監督コーチをクビにして、選手を数人いれかえただけで、さらにクリフ・リーのトレードにも大失敗しておいて、攻守のネックの何人かと自分自身については何の責任もとらせていない。

P 8 8位タイ
C 9 4位タイ
1B 3 12位
2B 14 1位タイ
3B 19 2位タイ
SS 19 2位タイ
LF 6 3位タイ
CF 0 13位タイ
RF 3 9位

これは今シーズンのシアトルのポジション別エラー数と、リーグ内でのエラーランキングだ(8月17日までだが、急いで書き写しているので多少数値に間違いがあるかもしれない)フィギンズはア・リーグの二塁手で最もエラーするプレーヤーのひとりだ。

フィギンズは、今シーズン、ア・リーグで最も出場ゲームの多いセカンドプレーヤーだが、守備の良さを表す指標のひとつであるレンジ・ファクター(RF)でみると、RF/9(9イニングあたりのRF)、RF/G(ゲームあたりのRF)でみて、出場100ゲームを超える5人ほどのセカンドプレーヤーの中で最も数値が悪い。また50ゲームを超える選手10数人の中でも、タンパベイの2人を除けば、最も低い。


ちなみにサードのホセ・ロペスについてだが、「ロペスのサード守備は、フィギンズ並みに酷い」と思いこんでいるシアトルファンは多い。

だが、それはおそらく間違いだ。

たとえば同じ三塁手で守備には定評があるエイドリアン・ベルトレと比較してみると、ベルトレのボストンでのエラー数はホセ・ロペスと同じ16で、RFはロペスのほうがいい。マイケル・ヤングや、ミゲル・テハダもエラー数そのものはロペスとかわりない。ロペスの問題は、彼らほど打てないことであって、エラー数ではない。(だからこそ、ロペスの安易なトレードに、ブログ主は賛成していない)
またシアトル在籍時代のベルトレは、当時の打撃の酷さはともかく守備に関してだけは多くのシアトルファンも認めていたわけだが、それでも1シーズン最低14のエラーを記録していて、多い年には18のエラーを記録している。つまり、シアトルだけしか知らないファンが守備の名手と「思い込んでいる」ベルトレは、ミネソタやデトロイトの三塁手のように、シーズンを1ケタのエラー数で終われるような三塁手ではなかった、ということ。
だから2010年のロペスのエラー数16が、これからの50試合足らずで20もエラーするのでもないかぎり、シアトル時代のベルトレと比べて飛びぬけて多すぎるとはいえない。
シアトルファンは、ちょっとロペスの守備のハードルを上げ過ぎている。

それどころか、100ゲームを越えてサードを守ったア・リーグの今シーズンの三塁手の中で、最もRF関連の数値がいいプレーヤーがホセ・ロペスだったりするのを忘れて彼の守備を批判してもらっては困る。

ベルトレの過去の守備スタッツ
Adrian Beltre Stats, News, Photos - Boston Red Sox - ESPN

規定ゲーム数に達しているア・リーグ三塁手の守備スタッツ

2010 Regular Season MLB Baseball 3B Fielding Statistics - Major League Baseball - ESPN



つい話がフィギンズのセカンド守備の下手さからそれてしまった。守備指標はいろいろあるわけだが、RFでなく(結果はしれているが念のため)UZR(アルティメット・ゾーン・レイディング)でみるとどうだろう。

シアトルのチーム全体の数値はリーグ4位。
勘違いしてはいけないのは、2009年シアトルのチームUZRは85.3で、メジャー断トツの1位であったこと。2010年にチームを意味もなくいじりすぎて、これでもチームのUZRはかなり下がったのである。
「守るしか勝つ方法がない」シアトルのUZRがなんとか4位にもちこたえたのは、たぶん外野守備の良さが大きく効いている。外野手全体のUZRがいいのは言うまでもない(リーグ3位)が、ただ、フランクリン・グティエレスの数値は、2009年の31.0から大きく下がって、2010年は7.5しかない。チーム内UZR1位は今年はイチローの10.0だ。もちろん今年のゴールドグラブも間違いない。
まるで打てず、どうみても来年は必要ないとブログ主が思っているコッチマンだが、見てないが、守備数値だけはたぶんいいはず。ブログ主は別にコッチマンの守備がとりわけいいとは思わない。1、2塁間を抜けていく当たりに弱すぎるし、そもそも守備位置が悪い。ただ無難にこなしてエラーをしてないだけの話。ランガーハンズで十分に代役ができる。
またショートでは、多くの人が守備の名手と「思い込んでいる」ジャック・ウィルソンのUZRは「マイナス」で、-1.4。その一方で多くの人が「エラーばかりしていると思い込んでいる」ジョシュ・ウィルソンは「プラス」で、0.3。(これには日頃からジョシュ・ウィルソンを使い続けるべきと言っていたブログ主は納得)
American League Teams ≫ 2010 ≫ Fielders ≫ Fielding Statistics | FanGraphs Baseball

ところが、セカンドだけを見るとシアトルは大きくマイナスで、LAAについで悪い。RFだけでなく、UZRでみても、フィギンズのセカンド守備がいかにダメかがわかる。LAAの数値が悪いのはケンドリックの-10.8が酷すぎるためだが、もちろんシアトルの数値を大きくマイナスに引き下げているのは、フィギンズの-9.1。(ちなみにサードをやっていたLAA時代のフィギンズのUZRは、たとえば2009年に16.6と、2ケタのプラス)
いかに二塁手フィギンズが「処理できるはずの打球を処理できていないか」わかる。やはりフィギンズは、「目に見えるエラー数だけが多いわけではない」のだ。


フィギンズ -9.1(1047イニング)
トゥイアソソーポ -0.8(8イニング)
ジョシュ・ウィルソン 0.5(13イニング)
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RF(レンジ・ファクター)と同様、サードについてもUZRを参照してみると、ロペスはプラス数値(UZRはプラス数値なら、リーグ平均以上の守備であることを示す)で、リーグ6位。やはり「ロペスのサード守備は、フィギンズのセカンド守備と同じくらい酷い」というのは、単なるいいがかりでしかないことがわかる。
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監督ワカマツがクビになったのは当然のことだが、それにしたって「打撃も守備もダメで打順降格にされそうになって、監督にベンチで歯向かったフィギンズを何も処分しない」のは、MLBの鉄則に反する。
無能な監督がそれをやったから選手を処分しなくていいとか、そういう問題ではない。審判に手を出したプレーヤーが退場になるのと同じで、それは「ケジメ」である。
「スイッチヒッターとは名ばかりで、ア・リーグ最低の守備しかできない」フィギンズを打順降格にするくらいの処分は当たり前の行為であって、むしろ処分方針として甘いくらいだ。

このまま今後も「使えないチビ」フィギンズになんの処分もしないのなら「シアトルはケジメのつけられない、選手に舐められっぱなしの球団」というレッテルは、永遠にはがせないだろう。






damejima at 17:24

July 30, 2010

昨日、あまりにも見苦しいシアトル・マリナーズのマネジメントについて「マリナーズ側にとってはイチローが必要であろうとも、イチローファンにはもはやマリナーズは必要ない」と書いたが、そのとたん、ローランドスミスが15日間のDL入り、なんていうニュースが飛び込んできた。

遅い。
遅すぎる。


シーズンの行方が完全に決してから
ようやくこのダメ投手DL入り?

そんなの、シーズンのもっと早い段階でいつでもできただろうが。
ファンをコケにするにも程がある。

M's recall LHP French, put Rowland-Smith on DL

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年7月28日、マリナーズにとってイチローは必要かもしれないが、イチローファンにとって、もはやマリナーズは必要ない。



ローランドスミスには「マイナー・オプション」がない。

MLBファンがよく使う「オプション」という言葉、正確には「マイナー・オプション」という言葉の意味については、一度、コロメとテシェイラ、2人のセットアッパーをクビにしたときのいくつかの記事で説明したことがある。
要は「オプションがない選手」というのは、マイナーに落とすために一度ウェーバーを通さなくてはならない。つまり、マイナーに落とすにはその選手を失うリスクを冒さなくてはならない、のである。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年5月30日、びっくりするほど「的外れ」な、このチームのマネジメント。よせばいいのに投手を増やすのではなく、キャッチャーを連れてきて、全く同じ「サヨナラホームラン」負け。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月1日、コロメ、テシェイラ、不調だった2人のブルペン投手がDFAになって、さっそく好ゲーム。バルガス好投で4勝目、打線もつながりまくりだが、本当の意味のチーム改善にはまだまだ。


だが、オプションがないからといって、ローランドスミスの見苦し過ぎる登板、つまり、もはや「人に金をとって見せられるレベルにないもの」を、我慢して見続けなければならない義務は、ファンの側にはない。
MLBでは、そういう見苦しい選手を無駄にベンチに置いておかないための便法として「怪我を口実に故障者リスト入りさせる」とかの方法があって、どこのチームでも活用して戦力低下を防いでいることは、子供ですら知っている。


いままでマリナーズは、この1勝10敗のダメ先発投手がいくら無様(ぶざま)で見苦しい負け方をしても、また、いくらチーム勝率を引き下げ続けて早々にシーズンにピリオドを打たせてしまい、ファンの心を凍えるほど冷えきらせようと、何をしようと、ずっとメジャーのベンチに置きっぱなしにして、先発のチャンスを与え続けてきた。

先発能力がゼロどころか、マイナスなことがわかりきっている今のローランドスミスに、貴重なメジャーのロスター枠を占領させ続け、また同時に、チームにもはやプレイオフ進出の見込みがないのに、秘めた才能があるかもしれないマイナーの若者やメジャーの控え選手たちに、その才能を試す場所を与えないでおく理由を、ただ「ローランドスミスにオプションがないから」というのでは、何も説明になっていない。


まともに説明すらできないこと、不合理きわまりないチーム内部の都合、プレーヤーの側の都合、契約の都合、さまざまな「プレーする側の都合」を、ファンの目にさらすばかりか、ファンに「歪んだ見世物」として押し付けるべきではない。
「城島問題」もそうだったが、そういう見苦し過ぎる行為がシアトル・マリナーズにはあまりにも多すぎる。


同じ負けるにしても、まだ開花していない才能を育てる目的で負けるというのなら、未来のためと、我慢も理解もできるかもしれない。
だが、ダメとわかった選手になんの責任もとらせず、無駄にチャンスを与え続け、負け続けるだけなら、その負けは、単なる、無駄で、見苦しい

「吐き気のするような負け」

でしかない。

ファンは、ローランドスミスのような「見るに耐えない投手」「見苦しい選手」が見苦しいゲームをし続けるのを黙って見続けなければならない義務など無い。苦痛を我慢させられ続けるいわれもない。プロスポーツはそういうものじゃない。
またファンは、フィギンズのような期待はずれの打者が、調子を取り戻すためだけの「現状と能力に釣りあわない打順」と「期待はずれの守備と打撃」「結果を出せていないのに笑って安住していられる努力の跡の見えない態度」を、毎日黙って我慢して見続ける義務など、どこにもない。

さらには、未来のための「価値ある負け」ではなく、無駄で見苦しいだけの「吐き気のするような負け」を黙って見続けさせられるいわれなど、どこにもない。



ローランドスミスがDLになってマイナーから上がってくるのは、2009年夏のウオッシュバーンとのトレードでデトロイトからやってきたルーク・フレンチらしい。

好調だったウオッシュバーンをトレードして、獲得したのはこれっぽっちも使えないフレンチ。
いまのメジャーを代表する名投手のひとり、クリフ・リーを、同地区に放出してまでして、獲得したのは、小太り扇風機のスモーク。

馬鹿馬鹿しいにも程がある。


もういちど言おう。

マリナーズにとってイチローは必要かもしれないが、イチローファンにとって、もはやマリナーズは必要ない。

見苦しいにも程がある。






damejima at 09:18

July 11, 2010

野球の得点は「ホームに帰ること」で記録される。
だから野球はホーム帰るためにわざわざホームを離れるという、なんともへんちくりんなスポーツだ。

打席に立つ打者は、自分が果たしてホームに帰れるかどうかはわからない。誰も保証などしてくれない。
運がよければ帰れる。
運が悪ければ永遠に故郷には帰れない。


打席に立つこと自体をやめてしまえば、どうだろう。
ホームを失うことはなくなるのだろうか。
なぜなら一生ホームにいることができるわけだから。

しかしプレーヤーは打席に立つ。
塁に出ることを目指す。
芭蕉が奥の細道への旅立ちにあたって家財を売り払い、家そのものをも引き払って旅立ったように
プレーヤーはプレーヤーでいるために、
もう二度と故郷の土を踏めないかもしれない旅に出る。


旅の果てには約束の地はない。
ほんの一握りのプレーヤーだけが野球殿堂に入り、
チームの永久欠番となったりすることで、永遠に野球の家の住人になれる。
だがほとんどのプレーヤーは永遠の家に入ることなく
フィールドを去る。

だがそれでも。
打席に立って、一度ホームを離れる勇気をもたないプレーヤーに
喝采はない。

ホームに帰りたいなら、、
ホームを離れる勇気をもつことだ。
If you wanna return to the home,
have courage leave home.



マーク・ロウの言葉を聞いて、
やはり野球はフィールド・オブ・ドリームスなんだ、と思った。

旅立つことから
本当のホームへの旅は始まる。


ーーー

草の戸も住替る代ぞひなの家
芭蕉

芭蕉の旅立ち旅立ち(蕪村)






damejima at 22:50
セットアッパーのマーク・ロウはテキサス州ヒューストン生まれだが、クリフ・リーのトレードに巻き込まれる形でトレード要員になったために、奇しくも生まれ故郷テキサスのチームに移籍することになった。
今回のトレードについてロウはこんな風に言い、トレードされても気持ちがシアトルにあること、シアトルが彼の「野球の故郷」であることを話した。


Ex-Mariner Lowe still coming to terms with moving on

"This is the only team I've ever been with. They drafted me and I've been the setup man for them and helped them win a lot of ballgames last year and wish I could have been out there this year. It wasn't part of the plan, physically."
「ここは僕が唯一いたチームなんだ。僕をドラフトしてくれて、僕はここのセットアップマンとして去年はたくさんのゲームを投げてチームを支えた。今年も、もし叶うなら投げたかった。肉体的な問題で、それは無理だったけどね」


Mark Lowe
Lowe is still going through his rehabilitation following back surgery. He just had a post-op appointment and the doctor told him he's ahead of schedule. Though Lowe was unsure if he will be able to pitch this year.

(中略)

Lowe is a Houston native, so he will be hours away instead of thousands of miles away from family now. But that hasn't changed his emotions about leaving.

"It's a place I'm familiar with but this is home for me, my baseball home," Lowe said. "I looked forward to getting out of the desert as quick as possible to get up here every year and get the season started.
「(テキサスは生まれ故郷だから)たしかに慣れ親しんだ土地さ。だけど、ここシアトルが僕にとってのホーム、野球する上でのホームタウンなんだ。シアトルで毎年プレーできるように、できるかぎり早く砂漠(=テキサス)を抜け出せたらと願っているよ」



2009年7月にデトロイトに移籍させられる前のウオッシュバーンも「トレードされたくないんだ。だけど、いま自分のできることといったら頑張ることしかない。このチームでプレーしたいから頑張るんだ」と言っていた。カンザスシティに移籍させられたユニスキー・ベタンコートは、いまだに親友のロペスのネーム入りのバットを使っている。また、今シーズン途中にチームに出戻ってきたラッセル・ブラニヤンも復帰を心から喜んでいたようだし、あちらこちらのチームで問題を起こしてばかりいたブラッドリーもこのチームへ移籍できたことを心から喜んでいるとコメントしている。
マネジメントはいつもいつもどうしようもないチームではあるが、どういうものか、このチームの選手たち同士には愛着のわく人間関係が育つらしい。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年7月23日、ウオッシュバーンは「移籍したくない」といい、「プレーヤーが売り払われないために、頑張るしかない」と語った。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年7月27日、魚釣りの好きな男の父が息子に電話してきて「トレードされたのかい?」と尋ねた。息子は言う。it's not over.「チームはまだ終わってないよ。」そして彼は家族のために魚料理を作った。



もちろん、糖尿病という持病も抱えたマーク・ロウのシアトル復帰への願いがやすやすと叶うのが、野球という厳しいビジネス社会、人生という砂漠ではないとは思う。そんなこと、言われなくともわかっている。

そんなくだらない人生の手垢まみれの教訓よりなにより、トレードが決まってシアトルを離れる間際のマーク・ロウが、つらい気持ちのなかで
「ここが僕の故郷なんだ。戻ってきたい。」
とポジティブに語ってくれたことが、無性に嬉しい。

彼は別に「世間知らずの甘ちゃん」でもなんでもない。もしマーク・ロウが、グリフィーブランドン・モローのように、心のどこかでチームに対するネガティブな感情を持ったなら、こんなコメントは言わない。
むしろマーク・ロウは、「自分は今回のトレードについては、今は受け入れるしかないんだ」とわかっている、わかっているからこそ、「いつか復帰したい」と、素直な感情をポジティブに表現できたのである。
(勘違いしてもらいたくないのは、ブランドン・モローの場合、チームを去るにあたって多少チームに対するうらみつらみをクチにしたのには、そういう悪い扱いを受けてきた彼なりの理由があるのであって、それが悪いことだとはブログ主はまったく思わない)


マーク・ロウはメジャーリーガーとしてシアトルに戻ってくるラック、幸運に恵まれないかもしれない。だが、いま僕は、後ろ髪引かれながらテキサスに去っていく彼の活躍を祈らずにはいられない。

damejima at 00:45

June 26, 2010

まだゲームは終わっていないのだが、
「すぐにいい気になって、要所でストレートを使って打者を切ってとるピッチングに戻りたがる」「脳内剛速球投手」ローランドスミスのワンパターンさには、ほとほとガッカリさせられる。
Seattle Mariners at Milwaukee Brewers - June 25, 2010 | MLB.com Gameday


ローランドスミスについては、4月に「ストレートを投げたくてしかたない病」とネーミングした。
そのときに指摘したかったのは、彼のストレートには打者を抑える球威が全く無いこと、それなのにローランドスミスが「俺はストレートで生きる投手なのだ」といわんばかりに、ストレートを投げたがること、だった。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年4月30日、「ストレートを投げたくてしかたない病」にかかったローランドスミス。

その後もローランドスミスのピッチングをずっと見守ってはきたが、最近多少変化球が増え出して、調子が多少はよくなりかけたのを見て、ブログ主としては、ローランドスミスは「ようやく自分のピッチングスタイルを変えるつもりになったのだ」とばかり思っていた。
つまり、「ようやく自分のストレートに対して見切りをつけたのか?」という意味だ。



そして今日。
ミルウォーキーとのインターリーグ最後のカード初戦だが、スローカーブチェンジアップ(特にスローカーブはよかった)で強打が売り物の打線を翻弄して、ノーヒットのまま4回を迎えた。
明らかに、「ストレート投手としての自分を一度捨ててみる」ことで、(それと、もちろん、バックの守備の良さに助けられて)強打で知られるミルウォーキーの打者を抑え込んでいたのである。


それがどうだ。
ちょっと3イニング打線を抑えただけなのに、どこをどう勘違いするのか知らないが、4回に突然ストレートを投げたがりはじめた。
それでも、2人ランナーを出した後に、今のローランドスミスが唯一頼ることのできる球、つまり、「オフ・スピードの変化球」でルーキーキャッチャーのルクロイを追い込んだ。
なのに、ここでストレートをド真ん中にストンと置きにいった。

同点3ラン。

もともとローランドスミスは気持ちを切り替えるのがヘタだ。3ランで明らかに目が泳いだ。その動揺した精神状態のまま、次の打者ゴメスにも漫然と「気の抜けたストレート(70マイル台のオフ・スピードの球だが、あれで本人はチェンジアップのつもりらしい)」を投げ、3ランを打ったルクロイがまだカーテンコールを受けている最中というのに、逆転のソロホームランを浴びた。


自分のコントロールミスと配球チョイスミスを認める
ローランドスミスの試合後のコメント

"The first time, I was just trying to get it up and in and I left it out over the plate," Rowland-Smith said of the pitch to Lucroy, which came on a 1-2 count. "Gomez I think was sitting [changeup], and I threw a changeup for a strike. That's two pitches that really cost me, obviously."
「最初のは・・、インハイに投げたかっただけなんだけど、外に行っちゃったね・・」と、カウント1-2からルクロイに投げた球についてローランドスミス。「(逆転のソロホームランを打たれた球について)ゴメスはチェンジアップは打ってこないと思ったんだよね・・だからストライクを取りにチェンジアップを投げた・・・・。この2球が明らかに非常に高くついたよ・・。」
Mariners' great start gives way to defeat | Mariners.com: News


まず、ルクロイに投げたストレートだが、過信もいいところだ。ローランドスミスは「脳内コントロールマシン」にでもなったつもりなのだろうか
ローランドスミスは「インハイに投げるつもりだった」と言っているが、そもそもこのゲームの初回、ローランドスミスはミルウォーキー先頭打者のウィークスをストレート2球で0-2と追い込んでおきながら、3球目に「インコースにストレートを投げようとして、膝の横にぶつけるデッドボールを与えて」いる。
4回の場面も全く同じ、打者を追い込んでからのインコース攻めのストレートという配球で、ローランドスミスは1回に既にこのパターンで一度コントロール・ミスしているのである。
先頭打者というランナーがいない場面(1回)打者を追い込んでいるのに、打者のカラダに近いところに投げるというストレスだけで手元が狂うような投手のストレートが、ましてやランナーが2人いるピンチの場面で「インハイ」にビタッと収まるわけがない。
そんな胸のすくようなストレートを投げられるコントロールがあるくらいなら、ローランドスミスがこれほどピッチングで苦労するわけがない。「インハイに投げるつもりだった」とか、真面目な彼には申し訳ないが、アホらしくて笑うしかない。


次に、ゴメスに浴びたソロホームランだが、いったいどういう屁理屈でローランドスミスは「ゴメスはチェンジアップは球を見てくる」と思うのか? それがむしろ不思議だ。
「前の打者に球威のまるで無いストレートを3ランホームランされている投手」が、「次の打者を攻めるのにあたって、またもやストレートを多用して、特に初球にストレート勝負してくる」とは、むしろ誰も思わない。
実際、ローランドスミスは3ランを打たれた直後、次打者ゴメスを迎えた初球に「外にはずれるチェンジアップ」を投げているのである。

2010年6月25日 4回裏2死 ゴメス ホームラン動画リンク
4回裏 ゴメス ソロホームラン
Baseball Video Highlights & Clips | SEA@MIL: Gomez goes yard to put the Brewers on top - Video | brewers.com: Multimedia

そりゃそうだ。
中には、チェンジアップではなく、3ランを打たれた直後ですら知らん顔してストレートをストライクゾーンに投げてこれるような気の強さを持つ投手もいるかもしれないが、そんな打者の裏をかく度胸、コントロールが、ローランドスミスにあるわけはない。

むしろローランドスミスはなぜあのシチュエーションで「打者は、むしろ自分のストレート以外の球種を待っている」くらいに思わないのか? 理解に苦しむ。
ダメ捕手城島がシアトル在籍時代に、よく見た光景を思い出す。外の球ばかり投げさせてホームランを打たれてしまい、直後にインコースに切り替えて再び長打をくらう、ストレートばっかり投げさせてタイムリーを浴びると、直後の初級が変化球でまたもやタイムリーをくらう、四球を出した直後にカウントを取りにいった球をホームラン、とか、そういうたぐいの「打たれて切り替えた直後にまた打たれる」低脳なパターンである。

それに球筋にしても、とても「チェンジアップ」とは呼べないヘロヘロの球だ。ビデオで見てもらえばわかる。
ローランドスミスが「チェンジアップ」と称している「76マイルの、ただノロいだけの棒球」は、ほとんど曲がりもせず、ストライクゾーンのド真ん中に吸い込まれていっている。
それにローランドスミスのチェンジアップは、ストレートを投げるときと投球リズムから腕の振りから何から何まで全く違うから、打者のリズムが狂わされにくいという点にも、そもそも問題があるだろう。


いったい、何を考えているのか。
ローランドスミスは自分がストラスバーグのようなストレートを投げられるとでも思っているのだろうか。

とてもじゃないが、今のローランドスミスの球威の無いストレートでは、ミルウォーキーあたりのブンブン振り回してくる打者を抑えられっこない。ローランドスミスは性格的に非常に動揺しやすく、変化球には多少コントロールがあるが、ストレートにはまったくない。


ローランドスミスには誰かがハッキリ宣告すべきだ。
「君のピッチングは、どこをどこから見たって、打者をのらくらかわしていく変化球投手にしかなれない。君はストレートの切れる剛速球投手でも、なんでもない。余計な見栄など、捨てるべきだ」

一発放り込まれたくらいですぐに気が抜けてしまうような弱い性格で、どうすると、度胸を決めストレート一本に全てを託してストライクを投げ込む投手になれるというのだ?
性格からして、どうみてもストレート勝負に向いていない。






damejima at 11:40

June 20, 2010

前の記事で、トロント移籍後のブランドン・モローの投げるストレートの割合が下がり、かわりにカーブを投げる割合が2倍になった、というような「シアトルから移籍した投手の球種の大きな変化」の話を書いたが、シカゴ・カブスに移籍したカルロス・シルバの球種はなにか変わったのだろうか。ちょっと気になって数字を覗いてみることにした。

カルロス・シルバの球種
(シーズン別 % 数字は左から
ファスト・ボール スライダー カーブ チェンジアップ)

2002 82.9 12.7  0  4.4 フィラデルフィア
2003 81.2 15.4 0.9  2.5 ミネソタ
2004 79.3 3.7  10.3 6.7 ミネソタ
2005 83.9 5.0  6.6  4.5 ミネソタ
2006 73.6 10.2 3.0  13.1 ミネソタ
2007 68.3 8.7  0   23.0 ミネソタ
2008 69.1 9.3  0.3  21.3 シアトル
2009 83.1 5.7  0   11.2 シアトル
2010 55.7 14.5 0   29.8 カブス
Carlos Silva » Statistics » Pitching | FanGraphs Baseball

いやはや、なんだこれは。

記事を書いているブログ主自身ですら、2009年以前と2010年の数字があまりに違いすぎて、目の錯覚ではないかと何度もファングラフのページを見直したくらいだ。
言うまでもない。理由はよくわからないが
2009年以前のシルバと2010年のシルバは別人である。
別の面から言えば「投手は配球しだいで別人にもなれる」という言い方もできる。さらに言うなら「配球の違いは投手のアイデンティティに関わる一大事、生命線である」ともいえる。


2009年のシルバは、たった30イニングしか登板してないとはいえ、なんとストレート率が83.1%の超高率。なんと使う球種の5球に4球以上ストレートを投げる「ストレートの魔人」だったようだ。また、シアトルに移籍してきて153イニング投げた2008年のストレート率だって、シルバ自身の数値としては低いが、他の投手と比べればけして低くはない。むしろ2009年以前のストレート率はどれもこれも異常な高さである。
以前の記事で、シアトルのリリーフ陣が全体として73%もストレートを投げると批判したが、なんのことはない、シルバはそんな数字を遥かに超越していた(苦笑)

ところが、である。
2010年のシルバは、シアトルに来る以前からあれほど投げまくっていたストレートを異常に減らすと同時に、3球に1球チェンジアップを投げるという、ボストンの岡島ばりの「チェンジアップ・マシン」に変身している。
2009年は1勝3敗。防御率8.60。K/BBは0.91。2010年は、いま現在8勝2敗、防御率3.01。そしてK/BBは、なんと前年の0.91から4.07。
4.07? あまりの変身ぶりに本当にびっくりする。おまえは仮面ライダーか。


どうしてまた、こういうことが起きるのだろう。
理解に苦しむ。

彼が最も良いスタッツを残したのは、200イニング以上を投げ、14勝8敗をあげたミネソタ在籍時の2004年あたりだと思うが、シルバがやたらとストレートを投げたがる投手であること自体は、けして「ストレート王国」のシアトルに来たというのが理由ではなく、シルバが昔からそういう投手だったからだ。
だからモローのケースとは違い、シルバについては「ストレート王国」シアトルでストレートをやたらと投げさせられてピッチングスタイルが安定しなかった、壊れた、などと批判をするつもりはない。


むしろシルバの場合に問題なのは、2008年に彼がシアトルに移籍して来るまでの間、シルバが投げるストレートが、量も割合も年々減りつつあったことにシアトルが気がつかなかったこと、のように思えてならない。
つまり、言いたいのは、近年のシルバは何かフィジカルな理由で昔のようにストレートをビュンビュンほうれるだけのコンディションではなくなりつつあったのではないかということだ。
まぁ、端的に言えば、「ミネソタ時代にストレートを馬鹿みたいに投げすぎたせいか何かで、シアトルに来たときにはもう、昔のようにストレートばかり投げるのを難しくさせる持病のような故障が、身体のどこかにあったのではないか」という推測だ。


この推測、別にたいして自信があるわけではないが、もし仮定の話とはいえ多少は真実味があるとすると、チーム運営上、問題が3つほどある。(というか、3つもある)

1 故障持ちを、なぜ大金払ってまで獲得してきてしまうのか
2 故障持ちで、年々ストレートの威力が落ちてきている投手なのに、
  なぜストレートばかり投げさせたのか
3 故障持ちの選手であるにしても、より負担のかからない球種を中心にしたピッチングスタイルへの変更などで復活させる工夫やアイデアも実行せず、なぜあっさり放出ばかり繰り返すのか

近年のシアトルはどういうものか知らないが、故障持ちの選手に大金を払って獲得してきてしまい、後でお払い箱にする傾向がある。それはGMが、あの劣悪最低なバベシからズレンシックに変わったからといって、特に改善されたわけではないようだ。
やっかいもののシルバの放出の駒になってくれたミルトン・ブラッドリーはともかく、グリフィー・ジュニアだって、ジャック・ウィルソンだって、マイク・スウィニーだって、シーズン通しては働けない立派なスペランカーではある。

結果論だが、カブスはカルロス・シルバのコンディションにあったピッチングをさせて、有効に使いまわしているが、シアトルはシルバに合わないキャッチャーを押し付け、コンディションに合わないピッチングをさせて、無駄に金を払ったとしか思えない。
どうも最近のブルペン全体のかかっている「ストレート病」といい、シアトルの投手管理能力にはどこかに問題がありそうだ。一度コンディションが落ちてしまうと、なかなかどころか、元に戻せなくなることが多すぎる。


ちなみに、もちろんカルロス・シルバが使う球種に関してだって、シルバと城島の間に確執があったことは、ここでも何度か書いたし、地元メディアでも話題になった。メジャーにしては珍しく監督が両者を監督室に呼び出してわざわざミーティングを行って、2人の間の認識の溝を埋めようとしたくらいだ。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2008年5月24日、城島はシルバについての認識不足を露呈した。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2008年6月10日、シルバは城島の悪影響から脱し本来の調子を取り戻す。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2008年6月28日、クレメント先発のこの日、シルバは7連敗を脱出した。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2008年8月15日、投手破壊の天才城島はついにシルバを強制DLにした。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年4月8日、城島はシルバに4番モーノーの外角低めにシンカーを6連投させ、逆転負けした。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年4月、同じ失敗に懲りずにシルバにアウトコースのシンカー連投を要求する城島の1年前を振り返る。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年4月25日、シルバは2008年6月28日にクレメントを捕手に勝って以来302日ぶりに、ロブ・ジョンソンを捕手に勝利した。






damejima at 06:49

June 14, 2010

偉大なるバカボンの父も言っている。

「 これでいいのだ。 」

Seattle Mariners at San Diego Padres - June 13, 2010 | MLB.com Gameday

"I was fine, I was strong,"
「ピッカピカだったろ?俺って強ええからな、イェイ」

わざと意訳したが(笑)、ゲーム後のインタビューでヘルナンデスはひさしぶりに彼の年齢相応らしい感情の爆発のさせかたをした。これから長いメジャー生活を送るであろう彼の今後のピッチングスタイルを考える上で、たいへん意味のあるインタビューである。読む価値がある。
Mariners win finale behind Felix's gem | Mariners.com: News


結論を先に書いておこう。
6月7日のクリフ・リーが「ストライクの鬼神」であるとすれば、本来のヘルナンデスは、同じ神でも「バランスの鬼神」である。
つまり、こういうことだ。ヘルナンデスは「ストライク・ボールの適度な混ぜ具合」や「球種を適度に混ぜるバランスの良さ」がピッチングの鍵になって、打者をゴロの凡打に打ち取る投手であり、だからこそ「ピッチング全体の適度なストライク率」あるいは「その試合におけるコントロールの出来の良さ・悪さ」が、他の投手よりもずっと大きな意味をもつと考えるのである。
「バランスが命」であるからこそ、キャッチャーとの相性が大事で、ヘルナンデスが本来もっているコントロールの悪さや、ピッチングの単調さを、補う役割がキャッチャーに求められる。
クリフ・リーは6月7日の登板で「78.5%」などという驚異のストライク率を記録して、シアトルの鬼門であるアーリントンでレンジャーズ打線を沈黙させてみせた。(ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月7日、クリフ・リー、貫禄の107球無四球完投で4勝目。フィギンズの打順降格で、次に着手すべきなのは「監督ワカマツの解雇」
あのときのクリフ・リーが「ストライクの鬼」であるとすれば、ヘルナンデスは「バランスの鬼」であり、クリフ・リーとヘルナンデスは求めるべき目標が違うのである。



個性は、それぞれに違う。
違うから面白く美しく、また自分だけの個性という貴重な宝石を誰もが探し求める。みんな同じでは、どこまでも続くどんよりした梅雨空のようになってしまい、つまらないこと、このうえないし、価値もない。
大投手ロイ・ハラデイにはハラデイの投球術があり、「ストライクの達人」クリフ・リーのとは違う。リンスカムにはリンスカムのピッチングフォームがあり、ヒメネスとも、クリス・カーペンターとも違う。

ゲーム後のインタビューで、サンディエゴの監督バド・ブラックが今日のヘルナンデスのピッチングを絶賛しているが、その要因として「ストライク・ボールの配分の良さ」と「カーブの切れ」を挙げている。
true No. 1 pitchers という言葉のtrueという部分に、重みがある。1シーズンだけ良い投手を、バド・ブラック監督だってtrueとは呼びたくないだろう。
"Felix has come into his own as a staff ace," said Padres manager Bud Black. "He's turned into one of the true No. 1 pitchers. His ball-strike ratio was great, and that's the best overhand curve I've seen him throw."

今日のヘルナンデスは128球を投げ、ストライクを85球。全投球のちょうど3分の2がストライクであり、配球セオリーどおりの配合である。
バド・ブラック監督はこの配球全体をコントロールするヘルナンデスの能力の高さを絶賛しているわけだが、もちろん間接的にはヘルナンデスの良き相棒であるロブ・ジョンソンの素晴らしいリードに向けられた賛辞でもある。投球の3分の2ストライクを投げれば誰でもサイ・ヤング候補になれるわけではない。


ヘルナンデスのピッチング内容とストライク率の関係の深さについては、すでに何度も何度もこのブログで指摘してきた。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年10月5日、ヘルナンデスのストライク率と四球数の関係を解き明かす。(ヘルナンデスの2009ストライク率グラフつき)
今年2010年の4月21日にボルチモア戦で投げたときに、対戦相手のDHルーク・スコットもこんなことを言っている。球種をうまく混ぜたことが、あのゲームで9安打打たれながら自責点ゼロに抑えることができた要因になったというのである。
He did a good job of mixing up his pitches, hitting his spots, good sinker, good velocity on his fastball, hard curve, hard slider, good changeup.
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年4月21日、ヘルナンデス8イニングを無四球自責点ゼロの完投2勝目で、17連続QSのクラブレコード達成、シアトル同率首位!ロブ・ジョンソン、4回裏2死満塁の同点タイムリーと好走塁でヘルナンデスを強力バックアップ。


ヘルナンデスの四球が増えはじめるストライク率の臨界値は、この記事(ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年10月5日、ヘルナンデスのストライク率と四球数の関係を解き明かす。(ヘルナンデスの2009ストライク率グラフつき)を書いた時点では、四球数が3を越えるのを「ストライク率60%あたり」と推測した。
ヘルナンデスのストライク率と四球数の関係

そのため、この1年くらいの登板で「ストライク率が60%前後以下になったゲーム」を太字にして表示してみた。

2009年後半ヘルナンデスのストライク率と四球数
8月1日  104球58ストライク 55.8% 四球4
8月7日  113球70ストライク 61.9% 四球6
8月12日 105球67ストライク 63.8% 四球4
8月18日 106球69ストライク 65.1% 四球1
8月23日 101球67ストライク 66.3% 四球ゼロ
8月28日 104球63ストライク 60.6% 四球1
9月2日  114球67ストライク 58.8% 四球3
9月8日  113球69ストライク 61.1% 四球4
9月13日 109球65ストライク 59.6% 四球1
9月18日 104球65ストライク 62.5% 四球1
9月24日 108球77ストライク 71.3% 四球2 11三振
9月29日 120球69ストライク 57.5% 四球4
10月4日 107球72ストライク 67.3% 四球1
2010年前半ヘルナンデスのストライク率と四球数
4月5日  101球58ストライク 57.4% 四球6
4月10日 110球74ストライク 67.2% 四球1
4月16日 105球63ストライク 60.0% 四球2
4月21日 113球82ストライク 72.6% 四球ゼロ
4月26日 114球74ストライク 64.9% 四球3 負
5月1日  96球53ストライク 55.2% 四球4 負
5月7日  84球48ストライク 57.1% 四球4 HR3 負
5月13日 105球66ストライク 62.9% 四球2
5月18日 118球72ストライク 61.0% 四球2
5月23日 110球73ストライク 66.4% 四球1 負
5月29日 111球71ストライク 64.0% 四球3
6月3日  116球79ストライク 68.1% 四球1
6月8日  107球65ストライク 60.7% 四球3 ER7 負
6月13日 128球85ストライク 66.4% 四球1
Felix Hernandez Game Log | Mariners.com: Stats

見てもらうとわかるが、2009年はヘルナンデスがサイ・ヤング賞候補になった素晴らしいシーズンだが、ストライクが60%以下しか入らないゲームなどいくらでもあった。特に8月末から9月前半にかけて、サイ・ヤング賞が目の前にあるのがわかっていた重要ないくつかのゲームで、ストライクをとれないゲームが続き、あの時期は本当に苦しかったものだ。
だがそれでも、結果だけみれば、面白いように勝てたのである。
当時のブログ記事ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:September 2009)を読んでもらえばわかるが、9月24日の24残塁のように、たとえヘルナンデスの調子の良くないゲームでも、ロブ・ジョンソンがバッテリーとしての工夫などをして、投手単独ではなく「バッテリーとして」勝ちを積み重ね続けたことが、ヘルナンデスのサイ・ヤング賞レースを支えたのである。
もしそういう「歴史」がなかったら、いまごろとっくにヘルナンデスはキャッチャーを変えるかなにかしている。

よくロブ・ジョンソンのことを「投手にとりいるのがうまい」とかなんとか無意味な揶揄をするみすぼらしい人間がいるが、自分の無知を自分で晒すような真似をして何が面白いのだろう。今日もロブ・ジョンソンは3本のヒットでヘルナンデスを支えた。


ヘルナンデスのストライク率は2010年に入って突然落ちたわけでは、けしてない。2010シーズンに突然コントロールが甘くなって、そのために今年のヘルナンデスの調子がいまひとつ上がらないわけではないのである。
メジャーのスカウンティング能力は非常に高いから、ヘルナンデス、ロブ・ジョンソンのバッテリーの配球パターンだって分析され対策されているのは明らかだし、また一度指摘したように、2ストライクをとって打者を追い込んでからの変化球のキレがどうも今シーズンはいまひとつよくないとか、微妙な修正すべき点はたくさんある。
今日のようにカーブが切れると、ヘルナンデスのピッチングは非常に組み立てやすいだろうと思う。逆にいうと、あまりシンカーに頼るより、カーブで緩急をつけるヘルナンデスのほうが、ブログ主としては見ていて小気味いいし、安心できる。


そういう細かなことはプレーヤーにまかせておけばいいことであって、どうでもいいが、そんなことより大事なことは、「ヘルナンデスがどういう投手か」ということだ。
彼は、ストライク率が50%台の半ばに落ちるようなコントロールの甘いピッチングでは苦しい登板になるが、だからといって、クリフ・リーのようにストライクをむやみにとれる投手になる必要など、どこにもない。
ヘルナンデスは「バランスの鬼」。そのことがハッキリしたことが、このゲーム最大の収穫だと思う。

自分が誰なのかわからなくなっているローランドスミスにこそ、このゲームの深い意味をしっかりと噛み締めてもらいたいと思う。






damejima at 14:03

June 02, 2010

やればできる。
それがわかって嬉しい限り。

2009シーズンにあれほどキャッチャーとの相性に悩まされて結果を出せなかったジェイソン・バルガスが、新キャッチャーのアルフォンソをパートナーに、ランナーを出しながらも要所を締めるピッチングで、7回104球を投げた。バルガスは4勝目
また一方で、グリフィーをスタメンから完全にはずしたことでようやく活性化してきた打線が繋がって、ア・リーグ中地区首位の好調ミネソタ・ツインズに圧勝できた。
いま絶好調のジャスティン・モウノーにソロホーマーを浴びたが、今の彼は手がつけられないほど当たっている。こればかりはしかたがない。
Minnesota Twins at Seattle Mariners - June 1, 2010 | MLB.com Gameday

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:「城島コピー捕手」キロスと「キロス問題」



5月30日のサヨナラ負けの後の記事
でシアトルの25人枠、いわゆるアクティブ・ロスターの選手構成の酷さ、つまり「ブルペン投手が不足しているのに、使えない野手を無駄にベンチに入れすぎていること」を指摘したが、シアトルはようやくロスターの改善に乗り出した。
翌31日にコロメテシェイラ、2人のブルペン投手をDFAにしたのである。
Mariners Blog | M's DFA Texeira, Colome, recall Garrett Olson, Sean White | Seattle Times Newspaper

Designated For Assignment(DFA)とは、5月30日の記事で説明した40人ロスターの外に出されてしまうことを意味する。日本でいう戦力外通告だが、解雇という意味ではない。

いちど説明したことの繰り返しになってしまうが、開幕時にベンチに入れるのは25人限定のアクティブ・ロスターの選手であり、また9月のセプテンバー・コールアップでベンチに入るには、メジャー契約の40人枠に入っている必要がある。
だから、選手にとってDFAされて40人枠からはずされるということの意味は、ただマイナーに落とされたというだけではなく、「たとえ秋になって出場選手枠が40人に拡大されても、メジャーのゲームには出られない立場に落ちる」というたいへん厳しい意味になる。


ちなみに、このDFAになった2人の投手たちの行き先だが、どうもかなりややこしい手続きを経て決まるらしい。

まず、この2人、そもそも5月30日の記事で説明したマイナー・オプションが切れている。そのため、シアトルは彼ら2人をメジャーから下に落とすためには、ウェーバーを通さなくてはならない。
ちなみにこの2人の投手たちがいくら不調でも、彼らのオプション切れのため、うかつにはマイナーに落とせなかった。このことが、いままでずっとシアトルのベンチ入り投手たちの健全な入れ替えを阻害してきた主原因のひとつでもある。
さらにテシェイラはルール5ドラフトで獲得した選手であるため、マイナーに落とすといっても、さらに手続きがややこしい。

DFA後の手続き
(1)ウェーバーにかけられる
5月30日の記事でも説明したが、オプションの切れた選手を25人枠の外に移動する場合、ウェーバーにかける、つまり、他球団の獲得意思を確かめなければならない。(オプションがある選手ならば、25人枠と40人枠の間を自由に行き来できる)
ここで、もしクレーム(Claim)する(=獲得したいと意思表明する)球団があれば、その球団に行けることになるが、ただ、このケースの場合は、指名球団は25人枠、アクティブ・ロスターに入れる、というのが獲得の前提条件として付帯する。

(2)元の所属チームに返却
レンタル選手のテシェイラは、もしウェーバーでクレームする球団がなかった場合、レンタル元であるヤンキースが自軍に復帰させるどうか決める段階に移行することになる。もしヤンキースが「ウチで使うから、テシェイラを返してくれ」という選択をした場合、2万5000ドルの支払い義務が生じるらしい。

(3)シアトルのマイナーに所属する
ウェーバーでクレームしてくれる球団がなく、しかも、レンタル元も「もうウチでは必要ないよ」と言ってきた場合に、初めてシアトルとの間でマイナー契約を結ぶかどうか、という段階になる。通常DFAでは、メジャー在籍5年以上の選手は、このマイナー契約の申し出を拒否することもできる。拒否した場合は自由契約となる。



今日テシェイラ、コロメにかわってひさびさにメジャーに上がったオルソンのピッチングは、外の低めの球のコントロールがちょっとびっくりするほど良くなっていた。リック・アデア以外に、優秀な投手コーチでもいるのだろうか。


それにしても、今回のブルペン改造は、調子の悪すぎるブルペン投手2人を実質クビにして、マイナーにいる投手を上げてきて、急場をしのいでいるわけだが、これは本来とるべき手法ではない。
なぜなら本来やるべきなのは、25人枠の野手の無駄を無くし、ロスターの投手たちの人数自体を増やすことだ。それによってブルペン投手にかかる負担を軽くしてやることができる。

そうもしないと、メジャーに上げてきたオルソン、ホワイトの2投手も、今は調子がよくても、やがては人手の足りないブルペン投手陣において酷使され、疲労とストレスが重なるるうちに、コロメ、テシェイラのように何度もメッタ打ちにあってしまいかねない。


ちゃんとマトモな人数のブルペン投手が揃っている、という意味で、もっとマトモなブルペン投手管理のできるチームにコロメとテシェイラが行って、活躍する可能性はある。もしそうなったときは、シアトルファンは、自軍のチームマネジメントの失態を苦々しく思い出しながら、拍手するしかないだろう。

MLB.Liberties 出張所:ページ内で良く使う用語 - livedoor Blog(ブログ)
戦力外通告 - Wikipedia
Cot's Baseball Contracts: Transactions Glossary






damejima at 15:40

May 01, 2010

このところローランドスミスの登板ゲームを、ある「仮説」の元に眺めていたのだが、先日の彼のゲームで確信した。

今シーズンのローランドスミスの不調の原因は
「ストレートを投げたくてしょうがない病」
にかかってしまっていることだ、と思う。

最近ネット記事を漁っていないので、彼が今シーズンになってどうしてこれほどストレートを投げることにこだわりだしたのか、理由はわからないの。だが、ローランドスミスがシアトルの先発投手の中で唯一キャッチャーをコロコロ変えることにもみられるように、今、「自分のスタイルにむやみこだわりおたい病」に罹っている感じは強く伝わってくる。

正直、果たして彼がストレートにこだわる必要がある投手なのかどうか、むつかしいところだ。


メジャーのシーズンは長い。投手のストレートのキレがさっぱりなんて時期が来ることは、よくある。もしその程度のことだけが不調の原因なら、配球を変えてみるとか、なにか対処のしようもある。

デビューしたての頃からあれだけ重いストレートを武器にしているヘルナンデスでも、去年の夏場の不調期を、ロブ・ジョンソンとのバッテリーで変化球の量を増やすとか、いろいろな「配球の工夫」でなんとか乗り切っている。
去年の教訓からか、今年のヘルナンデスは、高速シンカー、カーブ、あらゆる変化球を非常にハイレベルのブラッシュアップを行った上で2010シーズンに入っている。このところ勝ちに恵まれないのは単純に打線が湿っているからだということは、シアトルのファンの誰もが理解しているので、ヘルナンデスについては何も心配していない。彼の学習能力は本当に高いし、研究心は誰にも負けていない。


だが、どうもローランドスミスの場合は様子が違う。
球威の無いストレートに異常にこだわっているように見える。

先日のゲームでも、ゲーム中に何度も表示されたように、彼のストレートの最速スピードは91マイルしか出ていない。現状のローランドスミスのストレートで相手チームを牛耳るのは無理だ。
もしローランドスミスが、かつてのシアトルのエース、ジェイミー・モイヤーや、気迫あふれるピッチングでデトロイトをワールドシリーズにまで連れていった2006シーズン終盤のケニー・ロジャースのような投球術に優れたメジャー屈指の技巧派投手なら、91マイルのストレートでも十分勝負できると思う。
だが、今のところローランドスミスはそういうタイプの投手ではない。ある程度ストレートにスピードがないと配球は非常に苦しい。せっかくのいいカーブが生きてこない。


気の優しい男で通っているはずのローランドスミスに、いったい何が起こっているのだろう。ローランドスミスは、「自分はストレートを投げる投手にならなくてはならない」と「ひとりで決めてかかっている」理由は、なんなのだろう?


いま、見た目のメンタル面の強さでシアトルの投手たちを分類すると面白い。「野球を始めて以来、緊張というものをしたことがない」と公言してはばからないクールな新加入のクリフ・リーを筆頭に、さまざまな性格の選手がいる。(というか、もともとシアトルは個性派揃いの球団で、今シーズンはこれでも減ったほうだが 笑)

強気番長
クリフ・リー
ヘルナンデス
弱気
大将格 バルガス

性格の違いはピッチングにも現れるものだが、この中で、じゃあローランドスミスはどこに入るのか、と考えると、これが案外よくわからないことに気づく。
顔立ちの通り、投手としても温厚なのかもしれないし、実は内面に、吼えたときのヘルナンデスのような気性の激しさを秘めているのかもしれないが、よくよく考えると、彼のピッチングにはまだ「彼特有の表情」というものが見えない。

もし彼が今シーズンにストレートを投げることに急にこだわりだしたのが、超個性派のクリフ・リーの加入に刺激されて「自分は誰で、どういう投手なのか」を自問自答しだしたことだとしたら、人間として、そういう時期を持つことは、悪いどころか、大いに悩むといい、とは思う。大いに悩んで成長してもらいたい。

ただ、彼にとってストレートというボールが、彼のアイデンティティの中心に据えることのできるような強さ、激しさ、キレを持っているか、というと、残念ながら、そうは思えない。


自分が、どういう男、どういう投手なのか。自問自答するローランドスミス。
彼が自分の作った迷い道の中で迷子にならないといいが、と思う。






damejima at 07:56

April 22, 2010

ヘルナンデスが2勝目となる8イニング無四球完投。今年テキサスからボルチモアに移籍した好投手ケビン・ミルウッドとの両先発投手完投ゲームに投げ勝った。シアトルの先発が完投するのはこれが今シーズン初。
ヘルナンデスのERAはこれで2.15、ERA1点台の大台もみえてきた。強敵の大投手ロイ・ハラデイがナ・リーグに行ったことだし、去年惜しくもとれなかったサイ・ヤング賞を今年こそとってもらいたいものだ。
これでシアトルは貯金2。開幕好調で先を走っていた首位オークランドがNYYに敗れたため、ついに同率首位となった!
Regular Season Standings | MLB.com: Standings
動画:Baseball Video Highlights & Clips | BAL@SEA: Wilson ropes a bases-clearing double - Video | Mariners.com: Multimedia

初回の1失点はブラッドリーの怪我の関係で臨時にレフトのスタメンに入ったマット・トゥイアソソーポのエラーによるもで、ヘルナンデスに自責点はついていない。
日米の自責点の考え方の違いについては、下記の記事を参照。日本でなら、初回のヘルナンデスには、自責点がついていたことだろう。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年3月30日、スポーツ・イラストレイテッドのJoe Posnanskiが、「非自責点」について語ったのを読んで、「日米の自責点の考え方の差異」についても勉強してみる。

キングの良き相棒ロブ・ジョンソンは、1点を追う4回裏の2アウト満塁のチャンスで同点タイムリーなど2安打。いつもながら、不思議な場面で打つ男である(笑)
それどころか、今日はなんと盗塁までしてみせて(笑)、ヘルナンデスを強力にバックアップした。ジャック・ウィルソンの3点タイムリー・ツーベースの場面で、ロブ・ジョンソンは1塁ランナーだったが、彼が長躯ホームインしたのも、とても意味のある走塁だった。彼は実はなかなか足が速いことがわかった。
動画:4回裏タイムリー Baseball Video Highlights & Clips | BAL@SEA: Johnson's infield single drives in a run - Video | Mariners.com: Multimedia
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:ロブ・ジョンソンの得点力・長打

ヘルナンデスは今日の8回QSで、去年から延々と続けている連続QS記録のほうもさらにひとつ加えて、17に伸ばした。公式サイトによれば、これはクラブレコードだそうだ。もちろんQSのほとんど全てはロブ・ジョンソンとのバッテリーによるもの。まさに鉄壁のバッテリーである。
Baltimore Orioles at Seattle Mariners - April 21, 2010 | MLB.com Gameday
Felix tops O's with 17th straight quality start | Mariners.com: News


今日のヘルナンデスの投球内容は113球投げて、ストライクがなんと82、ボールがたったの31。結果、ストライク率はなんと72.6%にも達した。19勝した昨年2009シーズンの夏でも、こんな高いストライク率で投げきったのはたった1試合しかないし、1ゲームで80もストライクを投げたのは記憶にない

以前に一度指摘したことだが、ヘルナンデスのストライク率は、四球数と非常に強い関連性がある(当たり前だと思うかもしれないが、そうならない投手もいる)。
また、さらに言えば、ヘルナンデスの場合、ストライク率と投球内容には一定の関連性があり、ストライク率が必要以上に高過ぎると、(もちろんヘルナンデスだからゲームにには勝てるのだが)内容面では良くないことがほとんど。
今日のゲームでも、貧打にあえぐ不調のボルチモア打線に9本のヒットを許している。(特にシアトル戦を得意にしているマーケイキス。3安打)
もちろん、そうしたピンチを、2併殺、無四球で切り抜けていくのが、ロブ・ジョンソンの手腕である。2併殺ともに、ボルチモア打線の要の2番ウィギントンというのが大きい。3番マーケイキスに3安打されているだけに、もし2番ウィギントンのところで打線が繋がっていたら、今日の勝利は危なかった。
相手チームのルーク・スコットは今日のヘルナンデスのピッチングをこんな風に言っている。
He did a good job of mixing up his pitches, hitting his spots, good sinker, good velocity on his fastball, hard curve, hard slider, good changeup.
球種をうまく混ぜたことが、9安打を打たれながら自責点ゼロに抑えることのできた要因になった。

2009年ヘルナンデスのストライク率と四球数

8月1日  104球58ストライク 55.8% 四球4
8月7日  113球70ストライク 61.9% 四球6
8月12日 105球67ストライク 63.8% 四球4
8月18日 106球69ストライク 65.1% 四球1
8月23日 101球67ストライク 66.3% 四球0
8月28日 104球63ストライク 60.6% 四球1
9月2日  114球67ストライク 58.8% 四球3
9月8日  113球69ストライク 61.1% 四球4
9月13日 109球65ストライク 59.6% 四球1
9月18日 104球65ストライク 62.5% 四球1
9月24日 108球77ストライク 71.3% 四球2 11三振
9月29日 120球69ストライク 57.5% 四球4
10月4日 107球72ストライク 67.3% 四球1
今日のゲーム
2010年4月21日 113球82ストライク 72.6% 四球ゼロ

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年10月5日、ヘルナンデスのストライク率と四球数の関係を解き明かす。(ヘルナンデスの2009ストライク率グラフつき)

今日のゲームはヘルナンデスの無四球完投勝利だが、ストライク率が70%を越えるような高い率になると、将来の大投手ヘルナンデスの場合にかぎっては、四球数は自然と1ゲームに1以下になる。
だから他のどこにでもいるような平凡な投手と違い、「無四球でゲームを終わること」それ自体は、ヘルナンデスの場合に限ってはそれほどたいしたことではない。むしろ、あまりにもストライクをとることに熱中しすぎて、投げ急いで打たれることのほうが怖い。

ヘルナンデスのストライク率と四球数の関係

もともと膝の故障を抱えているミルトン・ブラッドリーは今日はお休みで、マット・トゥイアソソーポにチャンスが巡ってきた。
初回に失点につながる残念なエラーをしてしまったが、これくらいのことはブラッドリーだって、バーンズだってやっている。好調の打撃面ではヒットを打てたのだし、問題ない。
なにより、4回裏のセンター方向のロブ・ジョンソンのゴロでセカンドに劇走してセーフにしたのは、ほかならぬトゥイアソソーポで、この走塁がゲームのターニングポイントだったと、ゲーム後にジャック・ウィルソンも語っている。なんとか今回のチャンスを生かして、スタメンに食い込んでもらいたいものだ。
バーンズのようなネタ選手を見るのは、もうセクソンで飽き飽きだ。どうでもいい。

監督ワカマツはもっと使える選手にチャンスを与えるべきだ。いくら選手が怪我をした臨時の処置とはいえ、バーンズがセンターなど、とんでもない。レフトでも代打でも、必要ない。






damejima at 15:29

April 17, 2010

4月5日のドジャース戦で2010シーズンが始まったピッツバーグのロニー・セデーニョのバッティングが、北の町の桜のように、ゆっくりと、ひっそりとその花を開きつつある。
開幕から8試合で、31打数10安打、打率.323、4打点
9番バッターとしたら、8ゲームで4打点は素晴らしい結果といえる。今年はまだホームランはないが、2塁打は既に4本打っている。
Ronny Cedeno Stats, Bio, Photos, Highlights | pirates.com: Team

4月7日のドジャース第2戦で彼は、延長10回裏にサヨナラヒットを打って、強豪LADをまさかの開幕2連敗に沈めるヒーローになった。
サヨナラ打の後なのだから、チームメイトがセデーニョに走り寄ってきて頭をポコポコひっぱたいて手荒く祝福するのはよくある光景なわけだが、そうされた後のセデーニョがけして笑顔ひとつ浮かべることもなく、むしろ、「むすっ」とした表情なのがかえって表情をあまり変えないセデーニョらしい(笑)
Baseball Video Highlights & Clips | LAD@PIT: Cedeno wins it with a walk-off single - Video | MLB.com: Multimedia

ベネズエラのプレーヤーというと、シアトルの現役にもフランクリン・グティエレスホセ・ロペスフェリックス・ヘルナンデスといるが、そういえばグティエレスもロペスも「あまり笑わない男」というイメージがある。
ポーカーフェイスがベネズエラの国民性なのかどうかは、いつもなんだか意味不明に愛想のいいカルロス・シルバさんか、ベンチでチームメイトと殴りあったことのあるカルロス・ザンブラーノさん、2人の元シアトルの投手にでも聞いてみてください(笑)


なにか、シアトルのGMズレンシックというと、トレードの天才ででもあるかのように考える人も多いわけだが、何度も言っているように、ブログ主は彼がマネージャーとして天才だなんて思ったことはない。ウオッシュバーンのシーズン中のトレードは大失敗だし、セデーニョの放出も失敗だと何度も発言してきている。
セデーニョ、クレメントなどと交換に獲得したジャック・ウィルソンは、サラリーの高さを考えると、別に彼でなければならない理由はないと思う。ショートストップとしてあまりにも打力が無さすぎる。
監督ワカマツにしても、もっとマット・トゥイアソソーポなどに定常的に出場できるチャンスを与えるべきだ。セデーニョがシアトル時代に芽が出にくかったのも、放出先のボルチモアでセンターとして成功を収めたアダム・ジョーンズにしても、シアトルというチームは若手に与える出場機会があまりにも不安定すぎる。あれでは経験が蓄積されていかない。
このままだとトゥイアソソーポも、ルーク・フレンチのようなわけのわからない投手と交換に放出してしまって、アダム・ジョーンズのように「他チームの有望レギュラー」になってしまいかねない。






damejima at 02:25

April 06, 2010

とうとうシアトルの開幕戦がやってきた。5年契約を結んだばかりのフェリックス・ヘルナンデスが先発。先発キャッチャーは良き相棒のロブ・ジョンソン
Seattle Mariners at Oakland Athletics - April 5, 2010 | MLB.com Gameday

立ち上がりのヘルナンデス、ロブ・ジョンソンのバッテリーはとにかくストレートをほうらなかった。シンカー、シンカー、また、シンカー。高速シンカーだらけ。そしてチェンジアップとカーブ。まるで王健民ばりのピッチングである(笑)

結果からいうと、ヘルナンデスはストレートを温存した。いざというときにならないと投げないし、投げるときには目の覚めるようなストレートをほおって三振を奪う。
ヘルナンデスに7分目のチカラで投げる貫禄が出てきた。素晴らしい。

またロブ・ジョンソンは今日のゲームで4つのダブルプレーをオークランドに食らわせた。去年同様、要所でダブルプレーに仕留めるロブ・ジョンソン流は健在である。(ロブ・ジョンソンが開幕試合でホームランを打ったのは出来すぎだが(笑)四球2つを選んだことがたいへん素晴らしい)
まだゲームは終わってないが
そして開幕戦勝利! 今年も彼らは頼りになりそうだ。


盗塁の多さ、四球の多さ。出塁率の高さ。そして打線の繋がり。2010年シアトルは、何もかもが変わろうとしている。


いくつか配球を紹介しておこう。
最初はハーフハイトのボールを多用したブログ主好みのパターン。

2010年4月5日ヘルナンデスのキレ味冴える配球ハーフハイトの配球パターン(3回裏・デイビス)

初球、2球目とインコースを変化球で突いて意識させておいて、3球目にいきなり、ほとんどここまで投げてこなかったストレートをアウトハイにズバン!と投げ、打者デイビスにファウルさせた。
この3球目を振らせたことで、4球目のアウトコース一杯に決まるカーブはまったく打者が手が出なかった。素晴らしい三振。



2つ目は、去年さんざん紹介してきた「アウトハイ・インロー」の典型的パターンだ。
日本では決め球はアウトローと決めてかかりやすいためか、「インハイ・アウトロー」パターンが多用される。インハイに変化球を投げておいて、決め球はアウトローにストレートを投げたがる。日本のプロ野球の中継でも見ながら一度メジャーの「アウトハイ・インロー」パターンと比べてみてほしい。
だが、メジャーでは(もちろん投手全員ではないが)、インロー(またはインコースのハーフハイト)にストレートを見せておいて、勝負球としてアウトハイに変化球を投げたりもする。まったく逆パターンである。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(2)「外角低め」「ストレート」という迷信 実例:「アウトハイ・インロー」の対角を使うメジャーのバッテリー

また、アウトのハーフハイトに変化球を何度も見せておいて、最後にインハイのストレートで勝負するパターンなども、配球教科書の最初のパートにのっていたりする。アウトローで決めることに固執しない様々な配球パターンが、若い頃から教え込まれているわけである。

4TH SEQUENCE
Away, away and in

1. Fastball lower outer half
2. Repeat fastball lower outer half
3. Curveball away
4. Fastball up and in

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(1)「外角低め」「ストレート」という迷信


ロブ・ジョンソンの多用するMLBで典型的な「アウトハイ・インロー」パターンは、コースの内外(うちそと)、高低を投げ分けるだけでなくて、早いストレート系のボールの後に緩い変化球(または逆)を投げることが多く、球種も変えてくる。つまり、球種の変化、ボールの軌道の変化に加えて、速度の変化、つまり緩急も加わる。
見た目にはただ内外に投げ分けているだけのように単純に見えるが、ヘルナンデスとロブ・ジョンソンのバッテリーでは、要所で多用され、非常に高い効果を挙げている。

2010年4月5日 開幕戦アウトハイ・インローの典型的パターン典型的な「アウトハイ・インロー」のパターン(5回裏・チャベス セカンドゴロ)

初球、アウトハイのカーブ。
2球目、インローに速度のあるシンカーで討ち取った。
ボールの内外のコース、高さ、、球種、ボールの軌道、速度、たった2球だが、あらゆる面で打者の目先を変え、けして打者にバットにまともに当てさせない。
2球目が、1球目と同じ速度のカーブではいけない。球種とスピードに変化がつかないからだ。だから2球目は、2シーム、速度のあるカットボール、速度のある高速シンカーなどでなければならない。







damejima at 13:51
2010シーズンがとうとう開幕を迎えたが、ジェフ・クレメントが移籍先のパイレーツで一塁手として先発出場した。
心からおめでとう、クレメント。これからの長いシーズンが君にとって満足のいく素晴らしいシーズンでありますように。
Los Angeles Dodgers at Pittsburgh Pirates - April 5, 2010 | MLB.com Gameday


今年のピッツバーグ・パイレーツは、なんだか面白い。いろいろなところから素質を秘めたプレーヤーを、移籍市場のマネーゲームとはまた別のルートで着々と集め、開幕を迎えた。開幕戦ではいきなり強豪ドジャースをバッティングで打ち負かしてしまうのだから、今年はちょっと違う。
1番に、あの大怪我のあとタンパベイから移籍した岩村
3番ライトは、ミネソタからやってきた2009年にわずか82ゲームで21本もホームランを打った強打の若手ギャレット・ジョーンズ
そしてショートはシアトルが放り出したロニー・セデーニョ、そしてとうとうメジャーのレギュラーポジションを掴んだジェフ・クレメントが一塁手。

特に注目なのはドジャース戦でもう2本のホームランを打ったギャレット・ジョーンズ。昨シーズン途中にテキサスからロサンゼルスに移籍したLAD先発のヴィンセント・パディーヤをさっそくぶちのめした(笑)パディーヤはテキサス在籍時にシアトルと対戦した、イチローファンにはお馴染みの投手。防御率こそよくないが、イニングを食える好投手だと思うし、悪くない。そのパディーヤをいきなりぶちのめしまくるギャレット・ジョーンズ、最高である(笑)
2010オールスターゲームはエンゼルスのホーム、アナハイムだが、そこでギャレット・ジョーンズの姿を見ることができそうな気がする。ぜひホームランダービーに(テキサスのジョシュ・ハミルトンのオールスターデビューのように)、もうひとりナ・リーグの若手で活躍を期待しているナショナルズのライアン・ジマーマンとともにリーグ代表として出場し、バットを思う存分ぶん回してもらいたいと思う。

去年さんざん言ったことだが、ロニー・セデーニョのバットにはけっこう期待できると思う。レギュラーで使ってやれば結果を出すはず。2009年のようなキレギレの起用では、誰だって結果など出せない。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:移籍後のロニー・セデーニョ


さて近年シアトルから移籍していったプレーヤーたちの開幕にも多少触れておこう。

ボルチモアを経てドジャースに移籍したジョージ・シェリルの開幕戦は、ちょっと散々だった。5番手として登板して、ピッツバーグの4番でキャッチャーのドゥーミットにホームランを打たれるなどして、3失点。チームの負けを決定づけてしまった。
そしてシェリルの後に投げたLADの6番手が、どういうわけか、あの「ウィーバー兄」こと、ジェフ・ウィーバー(笑)敗戦処理投手として開幕を迎えた。まだ野球をやっていたのか、という感じ。しぶとい男だ(笑)

ラウル・イバニェスは、フィリーズ移籍2シーズン目を6番レフトで迎えた。
Philadelphia Phillies at Washington Nationals - April 5, 2010 | MLB.com Gameday
フィリーズの開幕投手は、シアトルに来たクリフ・リーとの三角トレードで今年からフィリーズの大投手ロイ・ハラデイ
何度も語ってきたことだが、「少ない球数で長いイニングを投げ切る技術」にかけて、メジャーの現役投手で、ロイ・ハラデイを超える投手など存在しない。投球術においては、現役最高。芸術といえる領域に入っている。このゲームでも、88球で7イニングを投げている。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』 序論:2009年9月30日、大投手ハラデイの「配球芸術」

その大投手ハラデイが早くもフィリーズに1勝目をもたらす一方、対戦相手ナショナルズの3番手として登板したのが、ミゲル・バティスタ(笑)。わずか1回2/3の間に、3安打4四球で、5失点。まさに期待を裏切らない男である(苦笑)野球の神様が愛しているのはやはり大投手ロイ・ハラデイであって、詩人ミゲル・バティスタではない。
ナショナルズには、かねてから期待しているライアン・ジマーマンがいて、さらに今シーズンからは一度記事を書いたことのあるアダム・ケネディがオークランドから移籍して、楽しみにしているので、バティスタには、どうか大人しくマイナーにでも行っておとなしくしているか、引退するかしてもらいたいものだ。

最後にカンザスシティに放り出されたユニスキー・ベタンコートは7番ショートで先発。なんと、デトロイトの好投手ジャスティン・バーランダー相手にフルカウントまで粘って、9球目をセンターへ放り込む2ランホームラン。天才なのか凡人なのか、いつまでたってもよくわからないままの男である(笑)
Detroit Tigers at Kansas City Royals - April 5, 2010 | MLB.com Gameday






damejima at 09:34

December 15, 2009

Rob Neyer: Selecting the top 100 players of the decade - ESPN

順位を全部挙げて転載してしまっては、選んだ本人に失礼というより、リンクページを見る楽しみがなくなってしまうだろうから、あえて挙げない(笑)クリフ・リーも、グレインキーも、リンスカムも、クリス・カーペンターも入ってないんだが、この記者、大丈夫だろか?(笑)

ちなみに、イチローは・・・・・。(笑)

75位に、Jarrod Washburn、ウオッシュバーンが入っているのが、なんだかうれしい限り。






damejima at 15:11

December 09, 2009

ショーン・フィギンズの加入で沸き返るシアトルファンだが、誰しも気になる来シーズンの打順、あと守備位置について、フィギンズ自身のインタビューで、彼自身の口から「2番、セカンド」という言葉が出たらしい。
フィギンズのサードがないってことは、ベルトレ、ロペス、ビル・ホール、ハナハンなどの、内野手たちの処遇がいったいどうなるのか。フィギンズはこれでぐっすり眠れるだろうが、これでしばらくシアトルファンはゆっくり眠れない(笑)

詳しくは下記のリンクへ。

Mariners Blog | Chone Figgins ready to bat second and play second if he has to | Seattle Times Newspaper

Figgins: 'I'd be honored hitting behind Ichiro'


それにしても、フィギンズ、血液検査の結果が出て正式にマリナーズの一員になる前の晩、気になって眠れなかったらしい。かわいいやつ(笑)
"It was pretty nervewracking last night to try to sleep and have to get on a plane the next day and not be able to get on the phone with anybody to get the results,'' Figgins said.

フィギンズはイチローの後の2番という仕事について、a little more patient at the plateと、patient(忍耐)という言葉を使って説明している。城島、セクソン、ベタンコートはじめ、何も考えずにバットを振っているかつてのダメダメ扇風機ばかりだったバベシ時代の打者たちと違って、よく野球全体が見えている。
さすが、知将ソーシアに鍛えられたクレバーな選手だけはある。






damejima at 19:43

December 05, 2009

Figgins, Mariners close to deal | MLB.com: News

LAAのショーン・フィギンズとシアトルが契約間近らしい。
(彼の名前表記だが、Chone Figgins Stats, Bio, Photos, Highlights | Mariners.com: Teamに、pronounced 'Shawn'と明記されている。「チョーン」・フィギンズではない)
天才イチロー快足フィギンズの1、2番・・・。誰だってワクワクしないわけにはいかない。城島がいなくなって、ようやくシアトルも厄払いしたなと、本当に思える補強がやっときた感じ。シアトルがやっと「正常化」していく。
これもコネ捕手が日本に逃げ帰ってくれて、無駄なカネを本当に意味のあることに使えるようになったきたおかげ。補強だけでなく、来シーズンは、投手陣全体にも「シアトル正常化効果」は、「ERA向上」みたいな形で恩恵がもたらされることだろう。

もともと「打てない、守れない、走れないコネ捕手城島は日本に帰れ派」なだけでなく、
「打てない、サラリー高すぎのショート、ジャック・ウィルソン要らない派」
「打てないのにレギュラーユーティリティ、ビル・ホール要らない派」
「守れない、たいして打てない、グリフィー要らない派」

これらを全部兼ねている(笑)自分としては、打てて、守れて(ショートも、サードも守れる)、走れるショーン・フィギンズあたり獲れるのなら、なぜ最初にそっちから手をつけないのだ、と、ちょっとイライラはするが、うれしいニュースだ。
フィギンズはなんせ、走れて、サード、ショート、セカンドはじめ、内外野、あちこち守れる。おまけにシアトルに欠けていたスイッチヒッターでもある。シアトルが欲しかったプレー要素を、ひとりでいくつも兼ね備えているわけだ。
ショーン・フィギンズ - Wikipedia

サラリーは4年3600万ドルくらいだそうだが、こういう欲しい要素をあわせもったプレーヤーにカネをかけるのは、非常に納得がいく。フィギンズの契約を3年あたりで計算すると、3年2700万ドルくらいなのだろうが、あのコネ捕手がコネで獲得したのが3年2400万ドルの契約だから、いかに異常だったかがわかる。

守備だけしかできないプレーヤーに500万ドルとか、セカンドに送球するくらいしか能の無い捕手に800万ドルとか、フル出場できないDHしかできない元スターに200万ドル、300万ドルとか、ほんとうに意味がない。






damejima at 07:57

November 19, 2009

ヘルナンデスが故国ヴェネズエラでルイス・アパリシオ賞という賞の6人目の受賞者となった。過去の受賞者は以下の通り。この賞、よく知らないのだが、錚々たるプレーヤーたちが受賞している。
サンタナがサイ・ヤング賞を獲得した年に2度受賞していることからして、今回のヘルナンデスが「サイ・ヤング賞」クラスの扱いを故国で受けたことになる。

2004年 ホアン・サンタナ(サイ・ヤング賞)
2005年 ミゲル・カブレラ
2006年 ホアン・サンタナ(サイ・ヤング賞)
2007年 マグリオ・オルドニエス(首位打者)
2008年 フランシスコ・ロドリゲス(最多セーブ)
2009年 フェリックス・ヘルナンデス(最多勝、最高勝率)
Luis Aparicio Award - Wikipedia, the free encyclopedia

ルイス・アパリシオは、南米最初の殿堂入りプレーヤーで、ヴェネズエラの英雄的プレーヤー。元ホワイトソックスのショート・ストップで、背番号11は永久欠番。
1959年にデビューして新人王と盗塁王になり、この年から9年続けて盗塁王。オールスター10回選出。ゴールドグラブ9回。
Luis Aparicio - Wikipedia, the free encyclopedia
ルイス・アパリシオ - Wikipedia

Baseball Referenceによれば、歴代のプレーヤーのうち、最もルイス "Little Louie" アパリシオに似ているプレーヤーは、かつて89年から93年にシアトルに在籍したオマー "Little O" ビスケール
Luis Aparicio Statistics and History - Baseball-Reference.com

ビスケールは、ルイス・アパリシオの9回をしのぐ11回のゴールドグラバー。メジャー全体でもオジー・スミスの13回に次ぐ回数を誇る。通算守備率は歴代1位(1000試合以上)の.984、通算併殺数(ショート)でも歴代1位の1698(2008年終了時点。更新中)だそうだ。
打撃面でも、打率でアパリシオが通産打率.262なのに対して、ビスケールが.273と、やや上回っている。ビスケールは2009年6月25日に2678本目の安打を放ち、アパリシオのもっていたヴェネズエラ人最多安打記録の2677本を更新した。
このことからも、アパリシオとビスケールの比較において、こと打撃面だけに関していえば、ビスケールのほうがほんの少し上回っていることがわかる。
オマー・ビスケル - Wikipedia

走れて守備のいいアパリシオ、鉄壁の守備に加えてバッティングでやや上回るビスケール、どちらがヴェネズエラ最高のショートか。
スタッツだけでは非常に迷う部分があるわけだが、野茂さんが、両リーグでノーヒッターになったという記録以上に、日本人のMLB進出のパイオニアとしての尊敬を集め続けているように、ビスケールのヒット数がアパリシオを越えた今でも、やはり、南米プレーヤーとして最初のホール・オブ・フェイマーとなったアパリシオの功績に大しては大きな敬意が払われるだろう。

イチローは2009シーズン終了時でいうと、9回連続オールスター、9年連続ゴールドグラブ、9年連続200本安打で、通産打率.333なのだが、こうして数字をみてみると、ものすごく打てるアパリシオ(新人王、盗塁王9回、GG9回、オールスター10回 通産打率.262)、ものすごく打てるビスケール(GG11回、オールスター3回 通産打率.273)のようなものだ。あらためて、「凄い」、と、思う。

2010シーズンにイチローが10年連続ゴールドグラブとなれば、殿堂入りプレーヤーのルイス・アパリシオの9回を抜き、10年連続オールスター選出となれば、ルイス・アパリシオと肩を並べる。
しかし、それも通過点に過ぎない。めざすは13年連続ゴールドグラブのオジー・スミスだし、バッティングではこの2人をイチローがはるかに上回っている。
Ichiro Suzuki Statistics and History - Baseball-Reference.com






damejima at 21:14

November 18, 2009

2009ア・リーグのサイ・ヤング賞投手は、カンザスシティ・ロイヤルズのザック・グレインキーに決まった。

2009 ア・リーグ サイ・ヤング賞 投票結果
Greinke gets one more win: AL Cy Young | MLB.com: News

ちなみに、シアトルでは唯一、あのランディ・ジョンソンがサイ・ヤング賞を1995年にとっている。1995年は、前年のメジャーのストライキの影響で観客が激減した年だが、ランディ・ジョンソンのサイ・ヤングの快投は観客をスタジアムに呼び戻す原動力になった。翌年の96年にシアトルは創設以来はじめて1ゲームあたりの観客動員数が3万人を越えている。
もし今回フェリックス・ヘルナンデスがサイ・ヤング賞をとれば、2人目になって、その部分だけはランディに肩を並べることができたわけだったが、とても残念だ。だが、素晴らしいピッチングをしたグレインキーには心からおめでとうといいたい。

創立時以来のマリナーズ観客動員数推移グラフ

創立時以来のマリナーズ
観客動員数推移グラフ
(クリックすると拡大)

グレインキーはまさに、今年のMLBの賞レースを席捲した「1983年生まれ」。レギュラーシーズンの試合をあまり見てはいないのだが、特に前半戦の防御率1点を切る時期の好投ぶりには、鬼気迫るものがあったようだ。
サイ・ヤング賞の投票に関しては、シアトル・タイムズ紙のベイカーが、「記者はまず防御率、ERAを見る」と言っていたように、結果もERAの差が大きく影響したようだ。
たしかにグレインキーは16勝しかしてないかもしれないが、例えばグレインキーのラン・サポート(RS)が3.92しかないのに対し、貧打のシアトルとはいえ、ヘルナンデスのRSが4.37あることから、グレインキーの勝ち数が少ないのは、ひとえに「チームが弱いため、しかたない」という判断が体勢を占めた感じだ。
2009年11月12日、2009年の攻守あらゆるポジションと賞を席捲し、これからのメジャーを担う「1983年世代」。

2009年10月27日、Kansas City Starは、ヘルナンデスとグレインキーのシーズンスタッツを補正した上で比較して、「勝負は五分五分」と語った。


過去にカンザスシティでサイ・ヤング賞になったのは、グレインキーが初めてではなく、Bret Saberhagenが2度(1985年、1989)、David Coneが1度(1994年)の、合計3回とっており、グレインキーで4回目となる。
歴代サイ・ヤング賞投手
MLB Awards | MLB.com: History

1985年のワールド・シリーズでは、カンザスシティ・ロイヤルズと、セントルイス・カージナルス、同じミズーリ州の2チームの対戦になり、2つの街がInterstate 70というハイウェイで結ばれていたことから、I-70 Seriesと呼ばれ、たいへんに盛り上がったようだ。
このシリーズではカンザスシティが勝ったが、MVPになった21歳の若きヒーロー、Bret Saberhagenは、この年、20勝6敗、防御率2.87でサイ・ヤング賞に輝き、さらにワールドシリーズMVP、リングを同時に得ている。
Interstate 70 - Wikipedia, the free encyclopedia

このグレインキーの球を受けたカンザスシティのキャッチャーは、城島がシアトルに来る前年までシアトルでキャッチャーをしていたミゲル・オリーボ。ヘルナンデスの球を受けたロブ・ジョンソンにとっては、シアトルの先輩キャッチャーのひとり、ということになる。
オリーボについてグレインキーは、
"Olivo did a fantastic job with me all year, we had a good bond together." と話して、その仕事ぶりを賞賛したが、オリーボのほうは、FAで他のチームに行くことになっていて、
"I loved him and we had a great relationship, but that's baseball."「彼のことは好きだし、素晴らしい関係が築けたと思ってるよ。(でも、僕は移籍するんだ)それがベースボールってもんさ」と、なんともそっけないコメントを残した。


ヘルナンデスは、終わってみれば、19勝5敗で、最多勝タイ。初タイトルを手にした。ほかにも被打率、被OPS、QS数などで、ア・リーグNo.1に輝いた。6月には月間最優秀投手を初受賞、7月にはオールスターに初選出。ERA2.49、奪三振217。238.2ものイニングを投げ、打たれたホームランはわずか15本。
ロブ・ジョンソンとのバッテリーで本当に素晴らしいシーズンを過ごした。

ヘルナンデスのシーズン別成績
Felix Hernandez Stats, News, Photos - Seattle Mariners - ESPN
このブログで「ヘルナンデス」をテーマに書かれた記事
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:カテゴリー:「キング・フェリックス」ヘルナンデス

MLBのシアトル公式サイトでは、ヘルナンデス、ロブ・ジョンソンのバッテリーを「ウイニング・コンビネーション(勝てるコンビ)」と称え、このバッテリーが15勝2敗、ERA1.98の記録を作ったことを褒めたたえた。
Wakamatsu also made catcher Rob Johnson Hernandez's regular batterymate.
It was a winning combination as Hernandez posted a 15-2 record and 1.98 ERA the remainder of the season and was selected to the AL All-Star team for the first time.
Felix finishes second in pursuit of Cy | Mariners.com: News

オリーボと対照的に、ロブ・ジョンソンは今年のヘルナンデスのピッチングの素晴らしさについて、またしても熱弁をふるって、その球を受けられる栄誉を熱をこめて語った。けっこう饒舌な男である(笑)
"He doesn't throw one pitch straight -- ever," Johnson said. "He has one curveball that goes sideways and one that goes straight down. He has a slider that backs up, breaks down and goes sideways. His changeup sinks and cuts. His four-seamer cuts and sometimes goes up, and his two-seamer sinks and you just never know how much.
"I honestly can say I have caught a potential Hall of Fame pitcher and a future Cy Young Award winner."


なお、公式サイトが「このバッテリーが2敗した」と表現しているのについては、キャッチャーがゲーム終盤に城島に変わり、「サヨナラ負け」したゲームが含まれている。もちろん、このブログでは、その1敗を、ヘルナンデス、ロブ・ジョンソンバッテリーの負けにはカウントするような、馬鹿なことはしない。
2009年9月8日、それまで安定していたローテを壊滅させてまで出場機会増を強行したコネ捕手、再びヘルナンデス登板ゲームに触手。結果、「延長10回裏サヨナラ負け」で、サイ・ヤング賞レースに、ヘルナンデスにとりつきたくてしかたがない厄病神の暗雲が再来。

この疫病神捕手は、トレードされたウオッシュバーンがセーフコに戻ってきたゲームにも先発して、「サヨナラ負け」している。大事なゲーム、要所のゲーム、記念すべきゲーム。そのどれにも勝ちを残せない、哀れな選手である。
2009年8月20日、シアトル公式サイトのジム・ストリートはロブ・ジョンソンとウオッシュバーンの「フィールドでの再会」をユーモラスに記事にした。 →だが無粋なチームの監督さんがスタメンマスクに選んだのは、なぜか「城島」 →最悪の「サヨナラ負け」(失笑)

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年5月19日、コネ捕手またもや14安打5盗塁され敗戦。5月3勝9敗。ヘルナンデスを自責点6でERA4点台に沈没させ、月間20敗に突き進んだ。(ヘルナンデスの「2点の差」計算つき)


一方、ヘルナンデス、ロブ・ジョンソンのバッテリーには、メモリアルなゲームが数多くあった。
LAAとの対戦で0-3で負けていて、9回にロペスの劇的な同点3ランが出て、逆転勝ちしたゲーム。グティエレスの逆転3ランで勝ったゲーム。
そして、イチローの9年連続200本安打達成ゲームに、ヤンキースのリベラからサヨナラ2ランを打った、あの素晴らしいゲームも、ヘルナンデス登板ゲームだ。

そのどれもが素晴らしい今シーズンのヘルナンデス、ロブ・ジョンソンのバッテリーの充実ぶりを祝福している。

2009年5月30日、劇的な同点ホームランから逆転勝ちで3連勝、ヘルナンデスはQS。
5月30日のヘルナンデス(動画・MLB公式)
Baseball Video Highlights & Clips | SEA@LAA: Hernandez allows just one unearned run - Video | MLB.com: Multimedia

2009年7月3日、ヘルナンデス、6月のア・リーグPitcher of Monthを受賞。6月に彼の球を受けたバーク&ロブ・ジョンソンにとっても名誉の受賞となる。

7月9日、城島の呪縛から解き放たれオールスター出場直前のヘルナンデスは8回QS、5連勝で9勝目。グティエレスの逆転3ランで獣のごとく吼えた。(「二度のテストに失敗した城島」長文)

2009年9月13日、ダブルヘッダー第二試合、祝・イチロー9年連続200安打達成! ヘルナンデスとロブ・ジョンソンのバッテリー快勝! 7回を4安打1四球でテキサスを零封して15勝目。

2009年10月4日、ロブ・ジョンソン、高めの球を効果的に使った好リードや8回の刺殺などでヘルナンデスに5連勝となる19勝目、ついにア・リーグ最多勝投手達成!!
10月4日のヘルナンデス(動画・MLB公式)
Baseball Video Highlights & Clips | TEX@SEA: Hernandez wins his 19th of the year - Video | MLB.com: Multimedia

2009年10月6日、フェリックス・ヘルナンデス、今シーズン2度目のア・リーグ月間最優秀投手受賞! ロブ・ジョンソンにとっても3度目の栄誉となる担当投手の栄冠獲得で、キャッチャーとして最高の栄光あるシーズンだったことを完全に証明してみせた。

メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(8)「配球しないで給料をもらえる捕手」を縁切りしたヘルナンデス


投手だけに与えられるのがサイ・ヤング賞だが、もしメジャーに投手と捕手のバッテリーに与えられる賞があるとすれば、上のオリーボとロブ・ジョンソンのコメントを読めばわかるとおり、間違いなくその賞は、今年フェリックス・ヘルナンデスとロブ・ジョンソンのバッテリーに与えられるべきである。






damejima at 17:31

November 03, 2009

シアトルの公式サイトのライターJim Streetによる電話インタビュー(きっとウオッシュバーンは、カルフォルニアで手術した膝のリハリビでもしているか、故郷のウィスコンシンで両親と一緒にいるか、フロリダあたりの暖かい土地で膝をいたわりながらのんびり釣りでもしているか、どれかだろう)によると、近々FAになる予定のウオッシュバーンは、「シアトルが移籍希望先リストのトップ」と明確に語っていて、どうやら古巣シアトルへの帰還に強い希望を持ってくれているらしい。

インタビューでウオッシュバーンは「あと4年もプレーしようとは思わない」と、意味深な発言もしている。これは言外に、次の所属球団が彼の最後のキャリアになる可能性が高いことや、シアトルとの間で3年とか4年とかいう長期の複数年契約がなくとも契約してもいいよ、というような意味のことを暗に示したかったのではないか、と思う。


Washburn, eligible for free agency for the second time in his career, isn't sure where he will pitch next season, but said, "Seattle definitely is toward the top of my list.
キャリア2度目となるFA資格を得るウォッシュバーンは、来シーズンどこで投げるか不明だが、彼自身は「シアトルは確実に僕の移籍リストのトップにある」と語った。(後略)

A healthy Washburn ready for 2010 | Mariners.com: News

記事によれば、ルール上、ワールドシリーズの最終戦が終わってから15日間はデトロイト・タイガースがウオッシュバーンとの優先交渉権を持っているが、デトロイトは契約延長交渉を行わないだろうということなので、ウオッシュバーンはFAになる模様だ。
「城島問題」という、これまでチーム内を歪ませてきた問題が解決した以上、ウオッシュバーンはぜひシアトルに戻って、ロブ・ジョンソンとのバッテリーを復活してもらいたいものだ。
シアトルであれ、どこであれ、ウオッシュバーンとの契約する上での問題のひとつは彼の膝のケガの具合だが、これについて彼自身は何も問題ないし、スプリング・トレーニングには間に合う、というようなことを、このインタビューで言っている。



上の記事を書いたJim Streetは、シアトル公式サイトのライターだが、もともとロブ・ジョンソンとウオッシュバーンの交流を暖かい目線で書いてきた人物のひとり。(「暖かい」というのも、ウオッシュバーンの放出を必死に煽りたてた現地メディアもあったため)
ウオッシュバーンが7月末に突如デトロイトに移籍させられてしまったあと、8月になってデトロイトとシアトルというカードがやってきたわけだが、このときもJim Streetは、「ドルフィン」を投げてもらいたいと語るロブ・ジョンソンと、ウオッシュバーンのユーモラスな対決を期待するハートウォーミングな記事を書いてみせた。
実際には、監督ワカマツが城島を起用して、旧バッテリー対決は実現しなかったわけだが、2人の「再会」が実現しなかったことをいぶかしがる記事すら自分個人のブログに掲載したほど。
今回の記事タイトルも、
A healthy Washburn ready for 2010
Free-agent lefty would welcome return to Mariners
(ウオッシュバーン、2010年に向け体調万全、準備上々)
 FA左腕復帰を歓迎するマリナーズ)

と、あたかも、もうウオッシュバーンのシアトル復帰がほぼ決まっているかのような盛り上げっぷりだ(笑)

ロブ・ジョンソンとウオッシュバーンが共同作業で開発した
「ドルフィン」という球種についてのブログ記事

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:『ドルフィン』 by ウオッシュバーン&ロブ・ジョンソン

Jim Streetの書いた記事についてのブログコンテンツ
2009年8月20日、シアトル公式サイトのジム・ストリートはロブ・ジョンソンとウオッシュバーンの「フィールドでの再会」をユーモラスに記事にした。

2009年8月20日、シアトル公式サイトのジム・ストリートはロブ・ジョンソンとウオッシュバーンの「フィールドでの再会」をユーモラスに記事にした。 →だが無粋なチームの監督さんがスタメンマスクに選んだのは、なぜか「城島」 →最悪の「サヨナラ負け」(失笑)

ウオッシュバーン移籍に関する他のメディアの記事
Mack Avenue Tigers - Detroit Tigers blog - Jarrod Washburn wouldn't mind returning to Seattle






damejima at 15:00

October 31, 2009

Woodsという、カナダのアウトドア用品メーカーがある。(宣伝ではない)
木をそのままデザインした、素朴だが品のいいデザインのロゴマークが昔から好きで、独特の発色のいいウェアや、カモフラージュ柄のバックなどを愛用してきた。Woodsは、カナダのオンタリオ州オタワで1885年創業で、アムンゼンの南極探検に資金や道具の提供するなど、極地を旅する冒険家のサポートもして、100数十年の歴史と信用を築いてきた。

このメーカーのジャケットに、自分は見たことがないが、襟にコヨーテの皮があしらわれたものがあるらしい。

コヨーテは、日本では動物園にしかいない生き物で、なじみがない。北アメリカに生息するイヌ科の動物で、イヌに似ているオオカミの近親。「歌う犬」を意味するアステカの言葉からその名がついた。「歌う」とは「遠吠えする」という意味。遠吠えは、釣りでいう朝夕の「マズメどき」に行われ、一頭が吠えはじめるとやがて他のコヨーテも加わるという。


カナダの国立公園で19歳のカナダ・オンタリオ州出身のシンガーソングライター、テイラー・ミッチェルが、ひとりで散策中、2頭のコヨーテに襲われて亡くなった。悲鳴を聞きつけた通りすがりの人の通報で、彼女はすぐ病院に運び込まれたが、10月28日朝3時30分に亡くなった。森林警備隊は2匹のコヨーテのうち1匹を撃ち殺したが、もう1匹は見つかっていない。
コヨーテは、冬場には弱ったシカを襲うが、人間を襲うことは非常に珍しいらしい。ただ、警察は襲撃したコヨーテが「非常に攻撃的だった」と話す。
19歳の彼女はちょうど10月23日から11月7日にかけてツアー中だったようで、彼女のサイトに掲げられたツアー・スケジュールが非常に哀しみを誘う。ツアー中で忙しい彼女がなぜ散策に出かけたのか記事には書かれていないが、おそらくツアーで疲れた自分を自然の中でリフレッシュしたかったのだろう。
彼女のサイトにはいま世界中からアクセスがあり、北米だけでなく世界中から追悼の言葉が書き込まれ続けている。
Coyotes kill female hiker in Nova Scotia - Canada - Canoe.ca

テイラー・ミッチェルのサイト
Taylor Mitchell :: So sad...

母エミリー・ミッチェルからの言葉
Taylor Mitchell :: From Taylor's Mom

Tragic, fatal coyote attack the exception, not the rule | Editorial | Comment | London Free Press


娘を失ったテイラーさんの母エミリーは、哀しみを堪えつつ、娘を襲ったコヨーテの駆除に反対してこう語っている。

“When the decision had been made to kill the pack of coyotes, I clearly heard Taylor’s voice say, ‘Please don’t, this is their space,”’ Mitchell said.“She wouldn’t have wanted their demise, especially as a result of her own.” She described her daughter as “a seasoned naturalist” who was experienced at wilderness camping.(中略)“She loved the woods and had a deep affinity for their beauty and serenity,” Mitchell said.
「コヨーテの群れを殺す決定がなされたと聞いて私は、『そんなことしないで。ここは彼らの場所よ』と娘が言うのがはっきりと聞こえました。」とミッチェルの母は言う。「もし彼女が生きていたら、自らの死の結果としてコヨーテが駆除されることなど望まないでしょう。」
彼女は娘を、荒野でのキャンプで経験を積んだ「熟練したナチュラリスト」と表現した。「彼女は森を愛していて、森の美しさ、平穏さに、深い親近感を持っていました。」
Coyote victim's mom thanks fans - Canada - Canoe.ca

母エミリーさんはWe take a calculated risk when spending time in nature's fold.(自然の深い懐で過ごすときはリスクをきちんと計算するものだ)とも言っている。彼女の言う「娘の荒野でのキャンプ経験」とは、おそらくコヨーテや熊も出る可能性のある場所でのキャンプ経験、という意味だろうし、日本で考えるよりもずっと高いリスクとキャンパーのスキルが想定されている。
日本ではキャンプというと、ほとんどの人は昆虫しかいない人里のキャンプ場でのバーベキュー程度をイメージする。日本でも、テントの真横に鹿が何頭もやってくるようなキャンプサイトもあることは、彼らは知らないし、夜通し火を焚いていなければ危険な荒野で野営する人々の存在もほとんど知られていない。日本ではコヨーテのいる荒野でのキャンプなど想像できない。
リスクがあるから近寄らないのでは、奥深い自然は体験できない。波は危険だが、乗ることができないのではサーファーになれない。北米で想定する自然は、日本で想定する穏やかな自然とは違い、よりワイルドなものになる。

日本とアメリカの野球の違いは、日本の守られてはいるが自然さのかけらも無いキャンプと、コヨーテの森でキャンプしてワイルドライフの一端を体験する北米キャンプの違いのような部分もある。
コネ契約で不自然にロスターの座を守られたMLBキャリアなど、星も見えない都会のマンションの屋上でやっている安っぽいバーベキューのようなもので、北米のウィルダネスどころか、日本レベルのキャンプ体験にすらなっていない。まして、メジャーのワイルドなベースボール環境で本物の体験をしたといえるわけがない。
リスクをおかす覚悟とそれを計算できる勇気やスキルがなければ、熟練したキャンパーですら命を落とすこともあるコヨーテの森にそもそも来るべきではない。



カナダといえば、シアトルの投手エリック・ベダードをすぐに思い出す。このコヨーテの事件を聞いたときもすぐに思い出した。エリックも、コヨーテの森で亡くなったテイラー・ミッチェルも、五大湖のほとりのオンタリオ州出身である。
釣りを趣味にしていることもよく知られているエリックだが、カナダ出身なだけに、オンタリオで創設されたアウトドアメーカーのWoodsを知らないわけがなく、アウトドアに出かけるときのために、おそらくウェアのひとつやふたつ、Woods製品を持って出かけているに違いない。

エリックは、釣りという共通の趣味があることもあって、同じ投手のウオッシュバーンと仲がよかったわけだが、エリックの出身地オンタリオはカナダ側で五大湖に接し、またウオッシュバーンの出身地ウィスコンシン州はアメリカ側で五大湖に接しているいくつかの州のひとつであり、2人は生まれた場所も近い。2人が仲がいいのについては、共通の趣味だけでなく、きっと生まれ育った環境が似ているせいもあるのだろう。

2人はよく連れ立って釣りに行っていたが、釣りに詳しい人はわかると思うが、北米の釣りのスタイルは、日本での伝統的なエサ釣りとはまったくスタイルが違う。
ウオッシュバーンは狩りも趣味にしているようだが、大掛かりな釣りの場合、釣りというより、むしろハンティングに近い。ターポンなどの大型魚をターゲットにするなら、ガイドを雇い、エンジンつきのボートをチャーターして、あちらのポイント、こちらのポイントと大移動しながら、大魚を狩りしていくことになる。
エリックとウオッシュバーンの2人も、オフに五大湖のどこかでボートを出して釣りを楽しみ、夜は冷えたビールでもしこたま飲んでジョークでも言い合ったに違いない。

そもそもオンタリオと、ウィスコンシンには風土的な共通点がいくつかある。五大湖に接し、コヨーテが住む自然があり、北米のネイティブ・アメリカンであるインディアンたちの「保留地」がある。
コヨーテは、インディアンにとってはただの動物ではなく、象徴的な動物のひとつであり、知性、賢さ、ずる賢さ、ペテンなど、さまざまな象徴的な意味がある。Coyote Tracks(コヨーテの足跡)はインディアン的なデザインモチーフのひとつでもある。


これら北米の土地が、はたしてテイラー・ミッチェルのいう「コヨーテの場所」なのか、インディアンと呼ばれ、いまはカジノで稼いでいる人々の土地なのかは、ブログごときが短文で軽々しく言及していい話題ではない。善悪だけで測ることのできることなど、たかがしれている。
人間はコヨーテの皮を剥いでジャケットの襟にしているが、このリアル・ファーを衣料にすることに対しても、日本でもいろいろと議論したがる人たちがいる。だが、少なくとも、人間は太古の昔から獣の皮を衣料にしてきたのは間違いない。
コヨーテは、普段は人間を襲うことはないようだ。ヒトを見れば逃げ、その性格は英語でも「shy シャイ」と表現されている。ブログ主はロードランナーを追いかけまわすコヨーテのルーニー・チューンを見て育ったが、そういえばあのコヨーテもそこそこシャイな性格だった。
だがシャイな彼らでも、森で人間に前触れなくばったり出くわせば、びっくりして襲うこともある。熊などと同じである。オンタリオでも、ウィスコンシンでも、コヨーテと人間との共存問題をめぐる議論を扱ったウェブサイトがある。

ワールドシリーズの映像をみていればわかるように、10月ともなれば北米の夜はとても冷える。ワールドシリーズが終われば、冬はもうすぐそこまで忍び寄って来ているわけで、コヨーテはワールドシリーズになど、かまってはいられない。北海道よりも厳しい冬の支度をせねばならないのである。
だからこそ冬の到来を前にした野生動物は気が立っている。


コヨーテのいる自然を愛し歌を歌う人が、歌う犬、コヨーテに襲われた。
あるハワイの海を愛するサーファーの少女は、サメに腕を食いちぎられ片腕になったが、サーフィンを引退したりはしなかった。19歳で人生を閉じたテイラー・ミッチェルも、もし今回のケガで命を落とさなかったなら、ケガが癒えた後、ふたたびコヨーテのいる森に散策に行ったことだろう。

少なくともいえるのは、
テイラー・ミッチェルも、彼女の母も、そしてベダードやウオッシュバーンも、
「自分たちの暮らしのすぐそばに森があり、そこにはコヨーテが住んでいる」と意識しながら、生まれ、育ち、歌を歌い、釣りをし、暮らしてきた、ということだ。

コヨーテの森は、アメリカ文化の精神的な源泉のひとつである。インディアン・カルチャーだけでなく、アメリカのカントリーミュージック、釣りや狩猟といったレジャー、フットボールなどの激しいアメリカンスポーツなど、さまざまな文化のバックグラウンドやシンボルになっている。

damejima at 07:48

October 07, 2009

前の記事(2009年10月5日、ヘルナンデスのストライク率と四球数の関係を解き明かす。)で、近似曲線を使ってヘルナンデスのストライク率と四球数の関係を考えてみた。
かつてはストレートばかり投げたがったり、三振をやたらと取りたがったりしたヘルナンデスだが、ロブ・ジョンソンという最高のパートナーをみつけた今シーズンは、ひとことでいって「動じないピッチング」ができるようになったことが、データからもわかった。

どうなんだろう、
他の投手でも同じようなことは言えるのか?
四球数が変化をおこすストライク率の臨界数値は変わらないものなのか。

ちょっとイタズラ心が沸いて、今シーズン絶好調だったヘルナンデスとロブ・ジョンソンのバッテリーの抜群の安定感を、たいへん松坂君には恐縮だが、四球で崩れることが多いといわれ続けているボストンの松坂を引き合いにして、比較してみることにした。
下記のグラフで、黒い近似直線がヘルナンデス赤い近似曲線が松坂、である。(「近似曲線」とは何か、については、前の記事を参照)

ヘルナンデスと松坂 「ストライク率・四球数」近似曲線の違いクリックすると拡大します
©2009 damejima


なぜ、ヘルナンデスが直線で、松坂が曲線なのか。

見てもらうとわかるとおり、投手によって特性はまったく違っていた。
まず、ヘルナンデスだが、彼の近似曲線を「直線」で表現してあるのには、ハッキリした理由がある。ヘルナンデスの近似曲線が、2次式でも4次式でもたいした変化がなく、ほぼ直線になってしまうのである。
これは、彼のストライク率と四球数の関係が非常に単純で強靭な関係にあることを推測させる。単純に言えば、「ストライクが増えれば、非常に単純に正比例して四球が減る(逆に言えば、ボールが増えれば単純に四球が増える)」という関係にある、ということだ。
だから四球の計算式も、こんな簡単な計算式でほぼあてはまってしまう。
(四球数) = -0.2332 ×(ストライク率) + 17.024
calculating formula made by damejima
©2009 damejima


それに対し、ボストンの松坂の場合は、コトはまったく簡単ではない。
Daisuke Matsuzaka 2009 Pitching Gamelogs - Baseball-Reference.com
近似曲線の形は、設定する関数の次元を上げていくほど、複雑な形状に変わっていく。だいたい5次式くらいの表現が、穏当な意味で実態にあてはまる感じがしたが、その計算式は、エクセルのいうところによれば、こんな複雑な式になるらしい。
とても複雑すぎて表示が手に負えないから画像にしておく。
松坂用の計算式
calculating formula made by damejima
©2009 damejima


ともかく松坂の場合、ヘルナンデスとの比較でいえることは、
(1)ストライク率が65%を越えると四球が急減
(2)逆に、65%を切ると、四球が急速に増える


なぜ松坂にこういう「ストライク率によって、ピッチングの状態が急激に変わる手のひら返し的な現象」が起きるのかは、正直、理由はよくわからない。
おそらく世間で言う「よい松坂」とは(1)の状態を指し、「悪い松坂」は(2)の状態を指しているのだろう。いずれにしても好不調の波が非常に激しく出るタイプなのは間違いない。

ただ、問題はこのデータから見えないところにある。
松坂のストライク率が65%を越えると急激に四球を出さなくなるといっても、そういう「やたらとストライクをとったゲーム」で果たして松坂の自責点が少なくなっているとはいえないからである。
例1)6月7日 テキサス戦 ストライク率69.6%
   5回2/3 自責点5 被安打10 四球なし
例2)6月13日 フィリーズ戦 ストライク率67.0%
   4回 自責点4 被安打7 被ホームラン2 四球1
Daisuke Matsuzaka Stats, News, Photos - Boston Red Sox - ESPN

これだけストライクが増えると急激に四球が急に少なくなる投手の場合、四球をほとんど出さない快投をみせたという可能性より、むしろ、例えばカウントを悪くしてから四球を出すのでなく、ストライクをとりにいってホームランをガツンと打たれている可能性も考えなければならない。
実際、松坂にはそういうゲーム例は多く、簡単なデータからではわからない、なんともいいようのないピッチングの解析しにくさ、複雑さがある。


この点、今シーズンのヘルナンデスの場合は、松坂のような複雑な事態はまったくない。ストライクが増えれば自然と三振が増え、相手打線は沈黙する。ただそれだけ。シンプルな話だ。
好不調の波がほとんどなく、悪いときでも勝てる。
このことが、今年のア・リーグ最多勝につながった。あきらかにこれは「ロブ・ジョンソン効果」である。



ちょっと抽象的になってしまった。具体例を一つだけ示しておこう。
四球数がちょうど3になるストライク率は、縦軸の3の部分を横に見ていけばいいのだが、ヘルナンデスがほぼ60%くらいなのに対し、松坂は62%から63%くらいになる。
つまり、松坂はストライク率がほんのちょっと悪くなるだけで、四球が増え、ピッチングが乱れてくる。
一方、ヘルナンデスは、松坂より低いストライク率のゲームでも、四球を出さない。それだけ、ヘルナンデスのほうが粘れて、ドッシリ構えたピッチングができているはず、ということになる。これが「ロブ・ジョンソン効果」だ。



今年のヘルナンデスは6月のア・リーグ月間最優秀投手初受賞にはじまり、オールスター初選出、ア・リーグ最多勝投手が決定、これに、まだ確定してはいないが、9月の最優秀投手とサイ・ヤング賞が加われば、もう何も言うことはない素晴らしいシーズンになる。
Players of the Month | MLB.com: News

こうした安定感のあるシーズンになった理由は、この近似曲線が示すとおり、調子の良いときも悪いときも大きな波を起こさず、淡々とシーズンを送ってきたことが最も寄与していると思う。

damejima at 04:08

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