三振の世紀

2020年6月9日、ヤンキースの2017年サイン盗み疑惑と、アーロン・ジャッジ、ロブ・マンフレッド、カルロス・ベルトラン。
2018年10月10日、2018年MLBの「チーム三振数」概況 〜 もはや時間の問題の「1600三振」。
2018年10月8日、中小都市の「冷めやすいスープ」と、大都市の「冷めにくいスープ」。MLB集客マーケティングの根本的誤り。
2018年10月4日、2004年以降ではじめて観客動員数が7000万人を割り込んだMLB。観客動員数の動向を如実に反映する「マーカー球団」を発見。
2018年10月3日、野球本来の「マルチタスク」と、マイク・ソーシア。
2018年4月11日、意図的に「ホームランの世紀」をつくりだそうとした2010年代MLB。実際に起きたのは、「三振とホームランの世紀にさからったチーム」によるワールドシリーズ制覇。
2018年4月8日、MLB史上10数人しか達成していない「複数回の1試合5三振 "platinum sombrero" 」を移籍後わずか1週間で達成した精鋭、ジャンカルロ・スタントン。
2017年2月4日、「三振の世紀」到来か。2010年代MLBの意味するもの。
2017年2月1日、41本ホームラン打ったクリス・カーターに再契約オファーがなかったことからわかる、「ホームランバッターは三振が多くて当たり前」という話の真っ赤な嘘。

June 09, 2020

アメリカのスポーツメディア The Athleticが、ヤンキースのサイン盗み疑惑について新しい情報を報道している。



報道によれば、ニューヨークの裁判官 Jed Rakoff がヤンキースに「2017年にロブ・マンフレッドがヤンキース宛てに出した書簡の開示」を要求した。

だが、ヤンキース側は、書簡の完全な開示が「ヤンキースの評判に重大な傷をつける」との理由をつけて、完全な開示を拒絶した。ヤンキースは「個人情報を部分的に秘匿した形に編集した手紙」を裁判所に開示したらしい。


裁判所側の要求に完全には応えなかったということは、逆にいえば、元の「未編集の書簡」には「ヤンキースにとってよほどまずいことが、具体的な固有名詞とともに書かれている」という意味だ。

そして、これも非常に重要なことだが、こうしたヤンキースの不正情報を、ロブ・マンフレッドは「とっくの昔に知っていて」、「ヒューストンが槍玉に挙げられているときにさえ、ヤンキースの件を今の今まで黙ってきた」っていう意味にもなる。

もし、この件が不正として確定すれば、ロブ・マンフレッドの進退が問われるのは確実だ。
「編集された書簡」が公開されるのは、理由はよくわからないが、「6月19日以降」らしい。おそらくヤンキースの弁護士は「6月19日までに公開を阻止する訴訟を起こす」だろうとThe Athleticの記事は予測しているが、もしそういうことになれば、ヤンキース側に「不正行為に身に覚えがある」ことはかえって確定になる。


2017年は、「アーロン・ジャッジが突如としてブレークした年」でもある。

アーロン・ジャッジは、2016年MLBデビュー直後に、84打数42三振もの「異常な数の三振」をしていた超大型扇風機だ。
その人間が、2017年前半に「突如としてバットにボールが当たるようになって」、ジョー・ディマジオが持っていたヤンキースの新人ホームラン記録を塗り替え、さらにはMLBの新人ホームラン記録さえ塗り替えたのである。(現在では2019年ピート・アロンソが記録を更新して、53本がMLB記録)
このときのアーロン・ジャッジのホームラン記録もかなり「異常」だった。なにせ、ほとんどのホームランが「オールスター前」だったからだ。オールスター後の彼は、2016年と同じ、ただの「扇風機」に戻って、「三振のメジャーワースト記録を更新」しているのである。

「2017年の前半だけボールが見えた理由」を、アーロン・ジャッジ自身にぜひ説明してもらいたいものである。


ヒューストン・アストロズにサイン盗みのテクニックを導入したことがバレて、2020年に指揮するはずだったメッツの監督をクビになったのは、プエルトリコ出身のカルロス・ベルトランだが、彼は2014年から2016年までヤンキースに所属していた。

ヤンキース時代のベルトランは、給料にまったく見合わない最悪の数字しか残せていないが、2018年12月にどういうわけか、ヤンキースのGMアドバイザーに就任している。もし、この「わけのわからない特別待遇」が、「サイン盗み導入への報酬」だとしたら、大問題である。

というのも、2017年にMLB機構はボストン・レッドソックスをApple Watchを悪用したサイン盗みで罰しているのだが、ことときボストンは、ヤンキースだって傘下のテレビ局であるYESのカメラを悪用したサイン盗みをやっていると反論しているからである。
だがMLB機構は、この2017年のボストンのヤンキース批判について、「証拠不十分」と判定し、ヤンキースをまったく罰しなかった
電子機器を使用してのサイン盗みは禁止、MLBがレッドソックスに罰金処分 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News


もし仮に、冒頭に挙げた The Athletic が指摘した書簡の存在が、「2017年までのヤンキースのサイン盗みを、MLB機構がとっくの昔から知っていた」ことの証拠で、また、ヒューストンで不正をやったカルロス・ベルトランがヤンキースでも不正に関わったことが明らかになるとしたら、ヤンキース自身の責任が重大なことはもとより、ロブ・マンフレッドは責任をまぬがれないし、ベルトランはMLBから追放になるだろうし、ヤンキースGMのブライアン・キャッシュマンの責任問題が浮上し、アーロン・ジャッジは自分の立場を明確にする必要が出てくるだろう。


いずれにしても、「うんざりした」。
MLBの再開問題もそうだが、ロブ・マンフレッドのMLBには、本当にもう、「うんざり」だ。

damejima at 04:24

October 11, 2018

何度も書いているように、2010年代MLBは「三振の世紀」だ。

参考記事:2017年2月4日、「三振の世紀」到来か。2010年代MLBの意味するもの。 | Damejima's HARDBALL

参考記事:2017年11月14日、ヒューストン・レボリューション2017。 「四球偏重時代」の終焉。 | Damejima's HARDBALL



いまでは信じられないかもしれないが、2000年以前には「1年に1300三振するチーム」など、ひとつもなかった

それが2001年にミルウォーキーが初めて「1399三振」を記録して以来、2000年代に「1300三振」が毎年1〜2チームずつ出現するようになった。
これが2010年代前半になると、全体の1/4〜1/3の球団が「1300三振」するようになり、さらに2016年以降の急増で、2017年には全体の2/3が、2018年にはなんと全体の90%が「1300三振」を超えてしまい、とうとう「1300三振するのが当たり前の時代」が2010年代後半に到来してしまった。


1400三振」が初めて登場するのは2010年アリゾナだが、それでも2010年代前半は1年に1チームか2チームでしかなかった。だが2010年代後半になって激増し、今では全チームの1/3が「1400三振」するようになって、「1400三振」はもはや珍しくない。

さらに「1500三振」は、いくら「三振の世紀」2010年代とはいえ、かつては登場しても年に1チームの「例外」に過ぎなかった。だが2016年以降、複数のチームが「1500三振」するようになり、2018年に史上初めて3チームが「1500三振」を越え、「史上初の1600三振チームが登場するのは時間の問題」となっている。

1500三振以上(計10チーム)

2018年 CHW(1594) SDP(1523) PHI(1520)
2017年 MIL(1571) TBR(1538)
2016年 MIL(1543) SDP(1500)
2015年 CHC(1518)
2014年 なし
2013年 HOU(1535)
2012年 なし
2011年 なし
2010年 ARI(1529)


1400三振以上(計34チーム)
2018年 CHW SDP PHI TEX SFG ARI MIL LAD NYY BAL NYM
2017年 MIL TBR SDP TEX OAK ARI PHI BAL COL CHC
2016年 MIL SDP TBR HOU ARI MIN
2015年 CHC
2014年 CHC HOU MIA
2013年 HOU MIN
2010年 ARI


1300三振以上(計103チーム)
2018年 CHW SDP PHI TEX SFG ARI MIL LAD NYY BAL NYM COL CHC CHW NYY LAD STL MIN CIN TOR MIA OAK STL CIN DET MIN KCR LAA
2017年 MIL TBR SDP TEX OAK ARI PHI BAL COL CHC CHW NYY LAD STL MIN CIN TOR WSN DET
2016年 MIL SDP TBR HOU ARI MIN PHI COL BAL LAD ATL
2015年 CHC HOU WSN SEA BAL SDP PIT ARI TBR
2014年 CHC HOU MIA ATL CHW BOS MIN PHI WSH
2013年 HOU MIN ATL NYM SEA PIT SDP BOS
2012年 OAK HOU PIT WSH TBR BAL
2011年 WSN SDP PIT
2010年 ARI FLA
2008年 FLA
2007年 FLA TBR
2005年 CIN
2004年 CIN MIL
2003年 CIN
2001年 MIL



たぶん、世の中には三振なんかいくらしても得点できればいいのさ、などと、いまだにタカをくくっている人が数多くいると思う。

だが、2018年MLBで「最も三振数が少なかったチーム」は、最も少ない順に、CLE、HOUで、BOSが5位であることくらい覚えておいて損はない。

ちなみに今年のチーム打率は、良かった順に、BOS、CLE、CHC、TBR、ATL、COL、HOUである。この中に「ポストシーズンに行けたチーム」「勝率の高いチーム」「チーム力が回復したチーム」が何チームあるか。2010年代の中期以降に打率のいいチームが活躍する例は、カンザスシティやヒューストンのワールドシリーズ制覇など、枚挙にいとまがない。
フライボール革命などといった嘘くさい話など、どうでもいい。「打率重視」こそ真のトレンドである。



2017年の記事で、ボストンが地区優勝監督ジョン・ファレルをクビにしたことについて、こんなことを書いた。

ボストンが、地区優勝し、なおかつ2018年まで契約が残っていた監督ジョン・ファレルをあえてクビにし、ワールドシリーズを勝ったヒューストンのベンチコーチ、アレックス・コーラを監督に迎えた。
もちろん、チーム独自の個性にこだわりたがる目立ちたがりのボストンがヒューストンとまったく同じ戦術をとるとは思えないが、少なくとも、これまでボストンが長年やり続けてきた「過度なまでの待球」をバッターに強いる「出塁率重視の戦術」がピリオドを迎えたことだけは間違いないだろう。でなければ、ここまで書いてきたことでわかるように、四球を重視しない2017ヒューストンのベンチコーチを、地区優勝監督をクビにしてまでして、わざわざ監督に迎える必要がない。

2018年にボストンの打撃スタイルがどう変わるかを見ることで、2017年のヒューストン・レボリューションがどういうものだったか、逆算的に眺めることになるかもしれない。

2017年11月14日、ヒューストン・レボリューション2017。 「四球偏重時代」の終焉。 | Damejima's HARDBALL



かつてのボストンは、待球が大好きで四球数の多い、出塁率超重視のチームだったが、チーム三振数は、2013年、2014年と「1300」を越え、三振数トップから数えたほうが早い「三振の多いチーム」でもあった。四球数の多さは、けして三振数激減を意味しないのである。

だが、今年のボストンの打撃スタイルは、ホームラン数こそ全体9位だが、ダスティン・ペドロイア不在にもかかわらず、打点、得点でMLBトップ、打率でもMLBトップ。そして三振数1253は全体5位の「少なさ」と、中身が濃い。

ボストンが、思い切りのいい監督交代で、チーム内のケミストリーとオフェンスの質を劇的に変え、「より多くのヒット、より多くのタイムリーを打っていくことで、着実に打点を稼ぐヒューストン流に転向した」ことは明らかだ。


いま思うに、ジム・リーランド時代のデトロイトがシャーザー、バーランダー、ポーセロと、3人ものサイ・ヤング級投手を揃え、ミゲル・カブレラやビクター・マルチネスなど強打者をそろえても、ワールドシリーズを勝てなかったのは、たとえ個人それぞれに類まれな才能があっても、「チームの強さ」がそれを支えなければ、ワールドシリーズを勝てないという、単純な理屈だった。

そのことは、2018年ボストンの「変わり身の成功」が証明している。




damejima at 11:13

October 08, 2018

2000年以降のMLBとDETの観客動員数の相関
赤:MLB 青:DET

2000年以降のMLBで「観客動員数が激減したシーズン」が、2002、2009、2018年と、3シーズンあり、そのいずれのシーズンにおいてもデトロイトの観客動員が激減していること、デトロイトの観客動員数そのものがMLB全体の観客動員の動向と連動する傾向にあることを示した。
2018年10月4日、2004年以降ではじめて観客動員数が7000万人を割り込んだMLB。観客動員数の動向を如実に反映する「マーカー球団」を発見。 | Damejima's HARDBALL


近年の「激減局面」において、「デトロイトの観客動員数が、MLBの観客動員数と連動している」ことは、理由はまだ判然としないものの、ほぼ疑いない。


では、「急増局面」では、どうだろう。

2000年以降、観客動員数が前年に比べて急増したシーズンは、なんといっても「2004年〜2007年」が筆頭で、あとは2012年に小さく上昇した程度だ。以下に2004年〜2007年に「年間40万人以上、観客動員数が増加した球団」とその年の地区順位を列挙してみる。

2004
PHI(2位) SDP(3位) HOU(2位 NLCS進出) DET(4位) FLA(3位 前年WS制覇) TEX(3位)

2005
WSN(5位) NYM(3位) STL(優勝 NLCS進出) CHW(優勝 WS制覇)

2006
CHW(3位 前年WS制覇) DET(2位、WS進出) NYM(優勝 NLCS進出)

2007
MIL(2位) NYM(2位) DET(2位) PHI(優勝 NLDS進出)

かなりの数の地区順位「2位」があるのが、ちょっと面白い。スポーツファンが優勝に興奮するのは当然の話だが、ある意味「ドラマチックな2位」にこそ「人を興奮させる要素がぎっしり詰まっている」のかもしれない(笑)


「急増」リストに複数回出現するチームは4つ(DET、NYM、CHW、PHI)あるが、3回以上出現するチームは、DETNYMの、2つだけしかない。
結局、「激減」「急増」の両面みて、そのほとんどに登場するチームは、30球団のうち「デトロイト・タイガースだけに限定される」。
デトロイト・タイガースが、MLBの観客動員の増減に非常に「鋭敏に」連動する球団、「マーカー」であることは、もはや疑いようがない。



さて、2000年以降の観客数の激減と急増、両局面を見たことで、もうひとつわかることがある。

デトロイトのような「激減と急増を繰り返す球団」はむしろ「例外」で、ほとんどのケースでは、「激減をたびたび経験した球団」と、「急増をたびたび経験した球団」とが異なっていることだ。

減少 PIT、CLE、TEX、MIA(FLA)、BAL
増加 NYM、CHW、PHI


「観客動員が急激に増減する要因」は、大小いろいろ考えられる。
ネガティブ面では、チーム低迷、人気選手の移籍や引退、ファイヤーセールなど。ポジティブ面では、前年のワールドシリーズ制覇で翌年への期待が高まったことや、地区での好成績、ポストシーズン進出などが考えられる。


では、「チーム成績がすべて」なのか。

たぶん、そうではない。
もしそうなら、大半のチームがデトロイトと同じように「チーム低迷時の激減」と「好調時の急増」を繰り返していなくては、辻褄があわない。チーム好調時の観客急増はよくある話だが、低迷時の観客激減をすべてのチームが経験するわけではないのだ。


リスト全体を何度となく眺めていて、単なる直感ではあるが、こんなふうに思えた。

メインの仮説

MLB球団の観客動員の「特性」は、実はチームごとに異なっており
以下の4種類くらいに大別される

熱しやすく、冷めやすい 例 DET
熱しにくく、冷めやすい 例 PIT CLE TEX MIA BAL
----------------------------------
熱しやすく、冷めにくい 例 NYM CHW PHI
良くも悪くも大きな変化はしない 大都市の人気球団

おしなべていえば、中小都市にあるチームのファンは「冷めやすい」。対して、シカゴ、ニューヨーク、ロサンゼルスなど、大都市マーケットのチームはおおむね「冷めにくい」。


もし、この「仮説」が正しいとしたら、
次に、以下のようなことが連想される。

メイン仮説からの敷衍

中小マーケットのチームは「冷めやすい」。したがって、一度観客を手離してしまうと、再び観客を取り戻すのに時間がかかり、容易ではない
対して、大都市マーケットのチームの観客動員は、固定観客が多数いるために、「冷えにくい」。したがって、チーム成績のアップダウンによる集客への影響は常に小さくおさまる。




ここにきてようやく、「2018年の観客動員が7000万人をひさしぶりに割り込んだ理由」に「仮説」を立てられそうだ。

2018年のMLBマーケットが縮小した理由

ただでさえ「冷えやすい」中小マーケットの多くが、チーム低迷と、チームの核の人気選手の大都市チームへの放出などによって、「急激に冷やされた」ことによると、推定される。


2018年の大都市チームの概況

2018年はドジャース、ボストン、ヤンキース、カブスなど、「大都市チーム」が同時にポストシーズン進出し、チーム補強のために過度ともいえる「選手狩り」を行った。(例 マッカチェン、マチャド、スタントン、JDマルチネス、ハップ、ハメルズ、ランス・リン、キンズラーなど多数)

だが、大都市チームの集客力は「常に上限にある」ことを忘れてはいけない。単年のポストシーズン進出や、有名選手の集結程度で、大都市チームの観客動員が激増することはないのである。

2018年の中小マーケットの概況

他方、シーズン100敗チームが続出する中、かなりの数のチームが一斉に低迷を迎えてしまい、中小マーケットは一斉に冷えこんだ。

「中小マーケットの人気選手」はもともと限られた数しかいないわけだが、これが一斉に大都市チームに移動し、中小マーケットはより冷却されることになった。


このブログでは、マイアミGMに就任したデレク・ジーターがチームを無意味に解体したことをたびたび批判してきたわけだが、その判断にはやはり間違っていなかった。マイアミに本当に足りなかったのは、無駄な再建ではなく、「先発投手陣を買い集める資金」だ。


大規模なリビルドやファイヤーセールがファン心理に与える影響が、大都市マーケットと、冷えやすい中小マーケットとで、まるで違うインパクトをもつことを、多くの人が忘れすぎている。

大都市のチームは「リビルド速度」が早い。
それは、豊富な資金力によって、チームに「強い回復力」が備わっているからだ。ファンのマインドも、選手の回転に慣れているから、リビルドの影響は小さい。

だが、資金に限度がある中小マーケットでは、有力選手を簡単には買い戻せない。そのため若手を育てる戦略をとるわけだが、それには一定の時間がかかる。また、地元で育った選手への「愛着」も強い。
中小マーケットでは、大規模なリビルドやファイヤーセールで一度マーケットを「冷却」してしまうと、チーム再建に時間がかかるだけでなく、ファンのマインドを再び温めなおしてボールパークに呼び戻すのにも、かなりの時間がかかるのである。


上に書いたような「規模の違いによるビヘイビアの違い」はなにも今年に限ったことではなく、昔からあったことだが、問題なのは、MLBマーケット全体の拡大のキーポイントが、飽和状態にある大都市マーケットにあるのではなく、むしろ「中小マーケットを過度に冷却しすぎないこと」にあることを忘れて、大都市マーケットにばかり熱中したがる視野の狭い人間たちが今のMLBやマスメディアを主導している点だ。

ロブ・マンフレッドは、大都市に選手が集結して、バットをやたらと振り回して三振とホームランを繰り返すような「雑なマーケティング」を誘導して、中小マーケットを冷やしたことを、心から反省すべきだ。

damejima at 17:02

October 04, 2018

2000年以降のMLB観客動員数


2018シーズンのMLB総観客動員数が、2004年以来はじめて「7000万人」を割り込んだ
だが、このことはシーズン当初から予想されてはいた。というのも、シーズン最初の2ヶ月に天候があまりに悪すぎたことが、年間観客動員数に響くことが当時から懸念されていたからだ。


ただ、2018年5月にUSA Todayに掲載されたAP通信の記事は、観客動員数の減少がなにも天候のせいばかりでなく、「三振の激増も原因なのではないか」と、コミッショナーロブ・マンフレッドに疑念をぶつけている。
Attendance drop, strikeout rise has MLB concerned

マンフレッドは「シーズンは始まったばかり。あわててもしょうがない」と、例によって毒にも薬にもならない返事でお茶を濁したのだが、シーズンが終わってみると、観客動員数はAP通信が懸念したとおり、原因が「三振」かどうかはともかく、2018年は最も観客動員数が劇的に落ち込んだシーズンのひとつになった。


いち早く「MLBの三振激増」に気づいたブログ主の立場からいうと、USA Todayのようなマス・メディアが「三振増加のネガティブな影響」に着目したのはなかなか面白いことではあるのだが、少し仔細に点検してみると、ちょっと「違う話」がみえてくる。

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まず、どのくらい観客数が減ると「大幅な減少」といえるかを決めなくてはならない。


もちろん明確な基準などない。だが、たとえドジャースだろうと、どこだろうと、「20万人くらいの増減」は、どんな人気球団でもあることを考えると「1チームあたり、20万人」の増減では、基準値=マーカーにはならない。

今年は82試合ホームゲームを行った例外的なチームがあったが、通常のMLBのホームゲームは「81試合」なので、「1試合につき5000人観客が減少」すると、「年間約40万人の観客が減少」することになる。
この20年くらいでみると、この「40万人の減少」は、出現しても多くて1年に3チームほどが上限で、まったく出現しないシーズンも、数シーズンある。

だから「1チームあたり40万人」という数字なら、マーカーになりうる。


そこで、2000年以降の「40万人の減少チーム」を調べてみると、2000年以降に、8球団とか9球団がこの「40万人以上の観客減少」を同時に経験したシーズンが3シーズンあることがわかる。
「2002年、2009年、2018年」だ。

いいかえると、2000年以降のMLBで「観客動員数が激減したシーズン」は、実は2018年だけではなく、「3シーズン」あった。

その3シーズンには、ある「共通点」がある。
同じシーズンに8球団から9球団が、同時に大量の観客を失う
という現象だ。

いいかえると、観客激減シーズンの原因は、1チームが一気に500万人もの観客を失うというような1点集中の現象ではなく、多くのチームが「一斉に」観客数を失う横並びの現象だ、ということだ。


こんどは、それら「3シーズン」において、観客数が激減したチーム名を列挙してみる。「不思議な現象」があることがわかる。

1シーズンに40万人以上の観客を減らしたチームのリスト

2002年 MIL PIT CLE TEX FLA COL DET BAL HOU
2009年 NYM DET NYY TOR SDP WSN CLE ARI
2018年 TOR MIA KCR DET BAL PIT TEX

左から「観客減少数」が多い順
太字は上のリストに複数回登場するチーム


「不思議な現象」とは、以下のような話だ。

たった3つしかないリストに、3回デトロイトが登場する。
PIT、CLE、TEX、MIA(=FLA)、BALの5球団が、2度ずつ登場する。



デトロイトの2000年以降の観客動員数を図示してみる。

2000年以降のデトロイト・タイガースの観客動員数


次に、最初に挙げたMLBの図と、デトロイトの図を重ねてみる。

2000年以降のMLBとDETの観客動員数の相関


いやー。
作ってみて、ちょっと鳥肌たった(笑)


もちろん、30球団すべてを図示してみないと最終的に断言はできないが、上で指摘したように「2002、2009、2018シーズンすべてにおける観客数激減が、デトロイトタイガースのみにしか見られない現象」であることから、まず間違いなく、以下のことが言える。

デトロイト・タイガースの観客動員数というのは非常に特殊で、MLB全体の観客動員数の動向(特に減少する場合)を最も如実に反映する「鏡」であり、マーカーである。


もちろん、言うまでもないが、デトロイトが代表格であるにしても、2度登場する「PIT、CLE、TEX、MIA、BALの5球団」にも、おそらく「デトロイトに似た傾向」が見られるはずだ。



では、なぜデトロイトを代表格として、「特定の球団グループの観客動員数と、MLB全体の観客動員数とが密接に連動する傾向」がみられるのか。そして、それは「MLB全体の観客動員数の激減を直接左右するような要因」なのか。

そのことは「次の記事」に譲る。


少なくともここで言えることのひとつは、LAD、NYY、BOSなどの「大都市の人気球団の観客動員数の動向」と「MLB全体の観客動員数の増減」とは、あまり連動しない、ということだ。(ただし2009年の激減にはNYYが関係している)
「人気球団は、MLB全体の観客動員数と関係なく、人気が維持できる」という見方も、もちろんできるが、それは見方を変えれば「人気球団の観客動員はすでに天井、上限値であって、もうこれ以上なにをやろうと観客動員の増加が見込めない」という意味でもある。


また、MLB全体の観客動員数を7400万人前後に押し上げたようなパワーは、実は「人気球団以外の球団」をどれだけ底上げできるかに常にかかっている、ということもハッキリした。


この件については記事をあらためてさらに考える。

damejima at 21:04

October 02, 2018

MLBにおけるロスターは25人しかいない。

先発が最低5人、ブルペン7人程度、クローザー1人。野手が8人、場合によってDH。控えが、キャッチャー、内野、外野、ユーティリティと、4人程度。その25人が、「他のスポーツに類を見ない、多くのゲーム数」をこなす。

年間試合数の多さは、高額年俸をはじめとする選手の待遇の良さ、スタッフの充実、立派な専用スタジアムの維持など、スポーツとしての豪華さを維持可能にしている。また、その豪華さは、才能ある選手を世界中からMLBに集約する原動力にもなっている。

いいかえれば、プロのスポーツとしての野球は「限られた人数で多くのゲームを戦うチーム運営技術の優劣を競っている」という見方もできる。



野球に限らず、企業や自治体のような組織においても、「限られた人数、最低限の人数を前提に、組織運営の効率を上げていく」には、「プレーヤーの多くがマルチタスクであること」が非常に重要だ。専門性なんてものに高い給料を払っているばかりでは、その組織のコスト体質はいつまで立っても改善されず、少ない人数で回せるようにはならない。





もし例えば野球チームに「肘の痛くない大谷翔平が5人いる」としたら、どうだろう。
先発5人全員が「マルチタスク」になるわけだから、典型的なチーム構成にあと5人の選手を追加できることになる。別の見方をすれば、ロスターがたったの「20人」で回せる、といってもいい。

逆に、投手12人以外が、すべて「守備のほとんどできないDH」だったらどうか。
高得点が期待できると思うかもしれないが、守備時間が膨大に長くなるから、疲れきって、たぶん攻撃どころではない。
素人以下の守備しかできない集団は、大量失点を繰り返す。難しい内野ゴロは、ほとんどヒット。ダブルプレーなんて完成するわけがない。外野フライのかなりの数が長打やホームランになる。素人キャッチャーはプロの投手の球が捕れないで、変化球の多くを後逸する。盗塁はもちろん、やられ放題。
これではいつまでたってもチェンジにならない。当然ながら、投手は膨大な球数を投げさせられ、投手がすぐに足りなくなる。

これではプロではない。
というか、野球ですらない。


こうした例示でもわかるように、そもそも野球というスポーツは「マルチタスクなプレーヤーのスポーツ」として出発しているのである。


かつてエンゼルス全盛期のマイク・ソーシアは、足の速いスイッチヒッターをズラリと並べる独特の打線で地区優勝をかっさらい続けた。ソーシア流スイッチヒッター打線では、相手投手が左だろうと右だろうと、打線も守備の布陣も組み直す必要がない。

対して、最近あまりに多すぎる「左右病監督」や、オークランドに代表されるプラトーンシステムでは、相手投手によって左打者と右打者を使い分ける。そのためポジションそれぞれに2人ずつ選手を用意し、毎試合のように打線を組み直す。下位打線の選手は、続けて出場できないからどうしてもコンディショニングが難しくなる。

どちらがマルチタスクかは明らかだ。マイク・ソーシアこそ、野球本来の「マルチタスク」のオーソリティだ。


話をもう少し拡張していこう。

「HRばかり狙って、低打率で、守備のできないバッター」は、シングルタスクだ。
そうした選手を何人も打線に並べる打線は、当然三振も多くなるし、タイムリーなど期待できない。また守備のための交代要員も必要になる。

参考記事:2017年2月1日、41本ホームラン打ったクリス・カーターに再契約オファーがなかったことからわかる、「ホームランバッターは三振が多くて当たり前」という話の真っ赤な嘘。 | Damejima's HARDBALL



こういうことを書くと、必ず「2人か3人の打者が連続でヒットを打って得点することより、たった1人で得点できるホームランのほうが、はるかに『マルチタスクだ」などと、わけのわからないことを言い出す人間が必ずいることだろう(笑)

そういう根本的にアタマの悪い人間が出現する原因は簡単だ。ホームランの「出現頻度の少なさ」や「出現確率の低さ」をまるで考慮しないからそうなる。


かつてデタラメ指標のOPSでは、「ホームランでベースが4つ回れるから、その価値はシングルヒットの4倍だ」などと、単細胞きわまりない奇怪な思考方法(笑)から、ホームランに過大な価値を認めていた。(実際には計算式のトリックを加え、4倍以上もの過大評価をしていた)

出現頻度の低さをきちんと考慮すれば、「まぐれ当たり的なホームランしか打てない、スカウティングされやすい、低打率の打撃専門野手」の価値なんてものは、打って走って守れる5ツールの選手の、5分の1どころか、それ以下の価値しかないことは言うまでもないことだが、OPS信仰時代には、そんな簡単なことすら誰もが忘れていた。


OPS全盛時のセイバーメトリクスなんてものは、片方でアウトカウントを増やすのは悪だなどと決めつけつつ、他方で、効率の非常に悪いホームランバッターに異常な過大評価を与え、シングルタスク・プレーヤーのネガティブな面を考慮しないまま、野球を「間違った価値観」で覆い尽くした。

そうしたデタラメ指標の影響は、今でも無くなってなどいない。フライボール革命などと称してホームランを称揚した挙げ句、2010年代のMLBは未曾有の「三振激増時代」に突入したのも、間違ったデータ主義が遠因になっている。



だが、現実の野球は、まったく違う。

例えばクリス・カーターのような「非効率なシングルタスクのバッター」の打撃の中身の無さを見ればわかる。
全打席のほんの数%をホームランする程度の能力しかないにもかかわらず、大半の打席で凡退して数多くのチャンスを潰し、打席の30%以上にもあたる200以上の打席で三振して、アウトカウントを増大させ、ランナーを釘付けにする。
その効率の悪さは、3割打者の多くがマルチタスクであり、打席の30%以上をヒットにしてランナーを進め、打席の35%以上で出塁する一方で、盗塁や犠打、守備などをこなせるのと、まるで対照的だ。


wOBAのような、よりリアルな指標において、ホームラン1本の得点寄与能力がシングルヒット1本のせいぜい2倍ちょっと程度に過ぎないとみなされることでもわかるように、「シングルヒットの得点生産能力」は、ホームランと比べ、けして低くなく、デタラメなOPSが言っていたような「ホームランの4分の1」ではない。
「得点圏にランナーがいて、シングルヒットが出れば得点が生まれる可能性がある場面の数」、「シングルヒットによる打点が実際に発生する可能性」は、ホームランのそれに比べ、はるかに出現頻度が高く、同時に、ずっと高い確率で実現する。



シングルタスクの権化といえば、ホームランにばかり頼ってタイムリーが出ず、いつまでたっても地区優勝に縁がないヤンキースだが(笑)、マイク・ソーシアがエンゼルスで目指した野球が、そうしたヒエラルキー主義のシングルタスク野球ではなく、マルチタスクだったことは明らかだ。(ソーシアがベンチからサインをやたら出しまくるのも、ヒエラルキーそのものではあるが 苦笑)
彼が大谷翔平を気にいっていた理由もたぶん、大谷が投打に才能があるからだけでなく、大谷の二刀流が「ソーシアが大好きなマルチタスクそのもの」だったからに違いない。


いまもMLBには「マルチタスク主義」と「シングルタスク主義」、2つの流れがある。

ワールドシリーズを制覇したときのロイヤルズ、優勝争いの常連になった近年のアストロズなど、成功しているチームがやっているのは野球本来の「マルチタスク」だ。

参考記事:2015年4月14日、昨年のワールドシリーズ進出がフロックでなかったことを証明し、ア・リーグ中地区首位を快走するカンザスシティ・ロイヤルズの「ヒット中心主義」。 | Damejima's HARDBALL

参考記事:2017年11月14日、ヒューストン・レボリューション2017。 「四球偏重時代」の終焉。 | Damejima's HARDBALL

参考記事:2018年4月11日、意図的に「ホームランの世紀」をつくりだそうとした2010年代MLB。実際に起きたのは、「三振とホームランの世紀にさからったチーム」によるワールドシリーズ制覇。 | Damejima's HARDBALL


だが、MLB全体でみると、近年横行しているのは、年間1300三振するチームの激増でもわかるとおり、シングルタスク主義であり、選手単位でみても単純なタスクしか実行できない不器用な選手が激増している。


エンゼルスも、マイク・トラウト、大谷と、才能あるマルチタスクのビッグネームを抱えている一方で、かつてソーシアがエンゼルス全盛期にやったような「攻守走すべてがこなせるスイッチヒッターを、ズラリと打線に並べたマルチタスク打線」なんて徹底した芸当は、「シングルタスクのプレーヤーばかり増えてしまった現状」からいうと、人材不足で実現しにくくなっている。

ソーシアが長いエンゼルスでのキャリアでやろうとしてきた彼独特の野球は、いまや実現不可能になりつつあるかもしれないから、彼がアナハイムを去るのは、いたしかたないかもしれない。



しかしながら「ソーシア流のマルチタスク」を受け入れて、チームを根本から変えるべき「方針の間違っているチーム」、「方針が見えないチーム」は、今のような時代だからこそ、むしろ、たくさんある。

長年にわたって雑な野球ばかりやってきたボルチモア。本来ならマルチタスクをもっと徹底させ継続すべきだったカンザスシティ。ワールドシリーズ優勝が実現しないまま賞味期限切れしたデトロイト。投資金額はデカイが総合力がたいして上がってない成金ドジャース。無能なGMがチームを低迷させたテキサス。いつまでたっても何がやりたいのかわからないサンディエゴ。チーム本来のいやらしい強さがなくなったセントルイス。常勝チームの賞味期限切れが近いナッツ。他にもある。


ソーシアをこのまま引退させるのは、もったいない。

監督でなくても、いまのこの「三振の王国に退化しつつあるシングルタスクのMLB」を質的に改造する大仕事を、どこか他のチームでやってもらいたい。

damejima at 20:11

April 11, 2018

ようやくアタマの中で「2010年代の姿」がクリアになった。
以下の話を、オカルトと思うか、なるほどと思うかは、あなたの知識と経験次第だ(笑)


2014年12月から2015年1月にかけて、
以下の2つの記事群を書いた。
2014年12月21日、「MLBの得点力低下をもたらした四球・長打の過大評価」原論に向けて (1)MLB25年史からわかる「2000年代以降、特に2010年代のホームランの得点効率の質的劣化」 | Damejima's HARDBALL

2015年1月22日、「MLBの得点力低下をもたらした四球・長打の過大評価」原論に向けて (2)原論の骨子と目標、打者の「均質化」、ビヘイビアの変化 | Damejima's HARDBALL
ホームラン数と得点総数の関係 4グループ推移(1990-2014)


2つの記事で確認したことは、
主に以下のようなことだ。
「MLBの得点スタイル」は、それぞれの時代における「ホームラン総数」に影響を受ける。(といっても、それは「ホームランの本数がゲームの性質すべてを決定する」という意味では、まったくない)

MLB全体の各シーズンごとのホームラン総数の「増減傾向」は、少しずつ連続的に変化するのではなく、ある特定シーズンに「突如として、大きく変化」し、変化した後はその「新しい傾向」が続く。

「2010年代のMLB」における「総得点とホームランの関係」は、ステロイド全盛の「1990年代中期」に似ている。

「2010年代のMLB」におけるホームランの価値は、暴落といっていいほどに著しく低下した一方で、ホームランバッターの価格は暴騰した。


読んでもらえばわかるが、2014年冬の段階では、自分の第六感が「何かをとらえた」ことはわかっていたものの、「いったい何をキャッチしたのか」はそれほどハッキリしていなかった。

原因は「事実の不足」である。
例えば、2014年冬の時点では、例えばロイヤルズの快進撃を予想はしていても、翌2015年のワールドシリーズを勝つという事実はまだ確定したわけではないし、まして「2010年代全体のワールドシリーズ」が異様ともいえる結果になることも、まだわかってない。

ただ、いまから読み返してみると、「2014年12月段階」の記事で「2014年のMLBで最もホームラン数の少ないチームは、2014年ワールドシリーズを戦ったロイヤルズである」と、「2010年代を決定づける重要な事実」を指摘している。このことの意味をもっと早く、深く、掘りさげていれば、もっと早く結論が出ていたかもしれない。
参考記事:2015年4月14日、昨年のワールドシリーズ進出がフロックでなかったことを証明し、ア・リーグ中地区首位を快走するカンザスシティ・ロイヤルズの「ヒット中心主義」。 | Damejima's HARDBALL



だが、2010年代終盤になり、ようやく2010年代全体を見渡せる位置に来てみると、「このディケイド特有の異常さ」が見えてきた。例えば、「2010年代の異常な三振数増加」が見えてくることによって、「2010年代という時代全体の異様さ」をひもとく大きなヒントになった。
参考記事:
2017年2月4日、「三振の世紀」到来か。2010年代MLBの意味するもの。 | Damejima's HARDBALL

2017年2月1日、41本ホームラン打ったクリス・カーターに再契約オファーがなかったことからわかる、「ホームランバッターは三振が多くて当たり前」という話の真っ赤な嘘。 | Damejima's HARDBALL
シーズン三振数年代別比較


他にも、「2010年代ワールドシリーズの奇妙な結果」が以下のように集積されたことで、2010年代MLBの「奇妙な姿」はますますハッキリしてきた。
2012年のワールドシリーズ制覇は、リーグ最高ホームラン数245本を記録したヤンキースではなく、30球団最低ホームラン数(103本)のジャイアンツだった。

2014年のア・リーグ優勝をもぎとったのは、30球団最低のホームラン数(95本)のロイヤルズだった。また、ワールドシリーズ制覇も、ホームラン総数わずか132本のジャイアンツだった。

2015年のワールドシリーズ制覇は、ホームラン数30球団中24位(139本)のロイヤルズだが、彼らの打率はMLB3位の.269だった。

2017年ワールドシリーズを勝ったのは、MLB最高のチーム打率、最少のチーム三振数、そしてMLB20位の少ない四球数のアストロズだった。

参考記事:
2017年11月14日、ヒューストン・レボリューション2017。 「四球偏重時代」の終焉。 | Damejima's HARDBALL


いまから思うと、2011年のファン投票でホセ・バティースタが「前年にくらべて異様な数の得票」で選出されたときに気づくべきだったのかもしれないが、まぁ、しかたない。
2011年のオールスターの「投票数」に関しては、今も「明らかに人為的に操作されたものだった」と思っている。
参考記事:
2011年7月3日、「ここまでするか」と感じる、2011年オールスター投票の作為。 | Damejima's HARDBALL

2011年7月8日、デレク・ジーターのオールスター欠場という事態を招いた「歪んだファン投票結果」に怒りを覚える。 | Damejima's HARDBALL

2011年7月10日、600万票以上得票したプレーヤーが何人もいるにもかかわらず、20%以上プレミア価格が下がっても、いまだに4000枚以上売れ残っている今回の「恥ずべき」オールスターのチケット。 | Damejima's HARDBALL

2011年7月18日、去年より低かった2011MLBオールスターの視聴率 (2)700万票以上集めた選手すら出現したオールスターの「視聴率が下がる」現象は、どう考えても納得などできない。 | Damejima's HARDBALL



まとめる。

2010年代とは

MLBの「意図」と、
実際に「成功した野球」が「大きく乖離」した
特殊な時代


だったのである。
「2010年代」という時代に、コミッショナーがバド・セリグからロブ・マンフレッドに変わったMLBが意図したのは、かつての「ホームラン依存ベースボール」の「再現」である。
そのモデルはおそらく「1990年代」であり、「イチロー以前の野球」と言い換えてもいい。

だが、「2010年代MLBで実際に成功をおさめた野球」は、「限られた数のチーム」が、「あえて」MLBの意図とは異なる方向に作り上げ、実行した「ホームランにまったく依存しない野球」だった。


今から思うと、やはり2001年イチローのMLB登場は長いMLBの歴史に巨大な楔(くさび)を打ちこんだ「歴史のターニング・ポイント」だった。
参考記事:
2010年9月9日、盗塁とホームランの「相反する歴史」。そしてイチローのメジャーデビューの歴史的意義。 | Damejima's HARDBALL

機構の意図、それは主にヤンキースなど「ホームラン依存野球の再現に積極的なチーム」の意図を政策に反映したものだっただろうが、今から思えば、2011年以降シアトル・マリナーズがイチローを冷遇し、2012年にチームから追い出したプロセスは、マリナーズが「意図」に対して従順な「しもべ」であり、「飼い犬」だったから起きた事件だった。

以下の記事で、2017年に「1300三振以上したチーム」が大量に増加したことを指摘したが、これは「たくさんのチームが、非常に遅れたタイミングで、『ホームランの世紀というトレンド』に追随し、なおかつ、失敗したこと」を意味している。
2017年ワールドシリーズを勝ったのは、そうした「1300三振以上した」どのチームでもなかった。
参考記事:
2017年11月14日、ヒューストン・レボリューション2017。 「四球偏重時代」の終焉。 | Damejima's HARDBALL


イチロー移籍後、ジョー・ジラルディの仕事は「2000年代野球」の象徴だったイチローを飼い殺しにして引退に追い込むことであり、マリナーズの仕事は、イチロー不在となったチームとスタジアムを「ヤンキース風」に改造することだったが、どれもこれも失敗に終わる。
その結果、ジャック・ズレンシック、エリック・ウェッジ、ジョー・ジラルディはチームを去り、マリナーズは(正直、いまでも理由がよくわからないが)再びイチローを呼び戻すことになった。
参考記事:
2013年9月9日、イチローのバッティングを常に「冷やし」続けてきたジョー・ジラルディの不合理な起用ぶりを、この際だから図に起こしてみた。 | Damejima's HARDBALL

2013年9月18日、ニューヨーク・ポストのケン・ダビドフが書いた「2012年冬のヤンキースの失敗」についての浅はかな記事を紹介しつつ、ジラルディの選手起用のまずさがチームバッティングを「冷やした」証拠となるデータを味わう。 | Damejima's HARDBALL

2015年1月29日、2014年版「イチローのバッティングを常に冷やし続けたジョー・ジラルディの不合理な起用ぶり」。 | Damejima's HARDBALL


「2010年代のMLBを1990年代風に回帰させる意図」が失敗に終わったことがハッキリした段階で、ボストン・レッドソックスは監督をアレックス・コーラにすげかえた。
このことの意味は、2017年に「ボストンが長年やり続けてきた『過度なまでの待球をバッターに強いる、出塁率重視戦術』がピリオドを迎えた」と書いたが、この観点には確信がある。ボストンは「変わり身が早い」からこそ、2018年も強いままなのである。
参考記事:
2017年11月14日、ヒューストン・レボリューション2017。 「四球偏重時代」の終焉。 | Damejima's HARDBALL


この記事で書いたことは、2011年あたりからここまで、7、8年もの歳月をかけてこのブログに書いてきたことに、常に一定のストーリーがあった、ということを、自分自身に「確認」するためのメモ書きでもある。信じる信じないは他人の勝手であり、自分が関知するところではない。


ただ、自分に言わせれば、「これだけたくさんの、事実、結果、失敗を目のあたりにしても、まだ『扇風機とフォアボールと三振の野球』が好きならば、どうぞ勝手におやりください」ということである(笑)

damejima at 21:22

April 09, 2018

ジャンカルロ・スタントン

MLBで「1試合に4回三振する」ことを、スラングで "Golden Sombrero" (ゴールデン・ソンブレロ)という。

"Golden Sombrero" のMLB歴代ランキング1位は、「26回」(プラチナも1回記録)のライアン・ハワードがダントツだが、シーズン三振記録でMLB第2位の222三振(2012年)をもつアダム・ダンが「19回」、名誉あるMLBレコード、シーズン223三振(2009年)をもつマーク・レイノルズが「16回」記録していることからわかるとおり、 "Golden Sombrero" は、「アダム・ダン的バッター」、つまり「ホームランばかり狙って強振して三振を繰り返す低打率のホームランバッター」の勲章でもある(笑)
参考記事:2014年10月20日、やがて悲しきアダム・ダン。ポスト・ステロイド時代のホームランバッター評価の鍵は、やはり「打率」。 | Damejima's HARDBALL

「MLB全体でのシーズンGolden Sombrero回数」が最高に達したのは、「2016年の172回」であり、今のMLBがありえないレベルの『三振の世紀』に突入していることがよくわかる。
参考記事:2017年2月4日、「三振の世紀」到来か。2010年代MLBの意味するもの。 | Damejima's HARDBALL

Golden Sombrero
MLB歴代ランキング BEST 5


ライアン・ハワード 26回(他にプラチナ1回)
レジー・ジャクソン 22回(他にプラチナ1回。通算2597三振は歴代第1位)
ジム・トーミ 20回(通算2548三振 歴代第2位)
アダム・ダン 19回(通産2379三振 歴代第3位)
ボー・ジャクソン 19回

Golden sombrero - Wikipedia


これがさらに、「1試合5三振」となると、「ゴールドより上」ということで、 "Platinum Sombrero" (プラチナ・ソンブレロ)というネーミングになる(笑)
オリンピックのマークが「五つのリング」でできていることにひっかけて "Olympic Rings" という言い方もあるらしい。

これまでこの名誉ある "Platinum Sombrero" を「キャリアで3回以上達成した野手」は、100年の長い歴史をもつMLBでも「たった2人」しかいなかった。サミー・ソーサと、1990年代のセントルイスでプレーしたRay Lankfordである。

だが今年、新たにひとりの「精鋭」が加わるかもしれない。
ジャンカルロ・スタントンである。


「複数回」のPlatinum Sombrero達成者
通算3回以上達成」は過去2人のみ

サミー・ソーサ 4回 通算回数のMLB記録
Ray Lankford 3回
1998年に1シーズン3回記録。「1シーズンの記録」としてMLB記録。Ray Lankford Stats | Baseball-Reference.com

2回
ジャンカルロ・スタントン、ジム・トーミ、マーク・テシェイラ、ロン・スヴォボダ、リッチー・セクソン、ジョージ・スコット、アレックス・リオス、ベニー・カウフ、アンドリュー・ジョーンズ、クリス・デイビス、ディック・アレン


「1シーズン2回のPlatinum Sombrero」は他にも達成者が10数人いるが、シーズン始まって「わずか1週間での達成」は他に例がない。スタントン、「期待」を裏切らない男である。


なお、これまでわずか8人しかいない「1試合6三振」を "Titanium Sombrero" (チタニウム・ソンブレロ)、「1試合7三振」を The Diamond Sombrero”(ダイヤモンド・ソンブレロ)、「1試合8三振」を "The Plutonium Sombrero" (プルトニウム・ソンブレロ)と表記しているサイトがあるが、それぞれが本当にそういう名称で呼ばれているかどうか定かでない(笑)
(ただし、メジャーの記録ではないものの、「1試合8三振」という記録自体は実在していて、ロイヤルズ傘下のsingle A, Lexington LegendsのKhalil Leeが2017年に記録している)

データサイトの老舗Baseball ReferenceにもGolden Sombreroという言葉の説明ページが存在していて、1試合6三振のTitanium Sombreroという単語が記載されているところを見ると、「チタニウム・ソンブレロ」まではオーソライズされているのかもしれない。



ジャンカルロ・スタントンがこの2018シーズンに、あと1回「1試合5三振」を記録すると、Ray Lankfordと並んで「1シーズン3回のPlatinum Sombrero」で、MLBタイ記録となる。
また「今シーズン中に、あと2回」記録すると、MLB史上初の「1シーズン4回のPlatinum Sombrero」となり、また「キャリア通算4回」はサミー・ソーサと並んでMLBタイ記録となる。
さらには、「引退までに、あと3回」記録すると、「キャリア通算5回」となって、これはサミー・ソーサすら抜き去り、堂々MLB新記録となる(笑)


今シーズン、ジャンカルロ・スタントンのバットから目が離せない(笑)

damejima at 21:32

February 05, 2017

前の記事で、「ホームランバッターは三振するのが当たり前」という俗説が真っ赤な嘘にすぎないこと、また、「MLBで三振数が急増した」のは2000年代以降、とりわけ「2010年代」の現象である、という主旨の記事を書いた。

以下のグラフは、X軸に選手のシーズン三振数(10三振ごとに区切り)、Y軸に年代別パーセンテージをとり、「1999年まで」、「2000年代」、「2010年代」という3つの年代が、三振数の多い打者に占める割合を調べた。
例えば、X軸の「180」という項目は「シーズン三振数180以上の選手数」を意味しており、そこを縦にみることで「3つの年代」それぞれが占めるパーセンテージ」がわかる。

三振数が多ければ多いほど、2000年代、2010年代の打者の割合が増加していることを、あらためて説明するまでもないだろう。2010年代はまだ終わってもいないにもかかわらず、この有様なのだ。2010年代がまさに「三振の時代」であることがわかると思う。

シーズン三振数年代別比較

個人についてはわかったが、では、
チーム三振数」はどうか。

結論から先にいうと、
チーム三振数も、個人の三振数とまったく同じ現象のもとにある。

例えば、「シーズン総三振数1400を越えたチームは、MLB史上、2010年代にしか存在しない」。この事実からもわかるように、個人のみならず、「2010年代は、チームという視点でみても、三振全盛時代」なのである。

シーズン1500三振以上のチーム(計5チーム)
2016年 MIL 1543(地区順位:4位) SDP 1500(同:最下位)
2015年 CHC 1518(3位)
2013年 HOU 1535(最下位)
2010年 ARI 1529(最下位)

シーズン1400三振以上のチーム(計13チーム)
2016年 MIL(4位) SDP(最下位) TBR(最下位) HOU(3位) ARI(4位) MIN(最下位)
2015年 CHC(3位)
2014年 CHC(最下位) HOU(4位) MIA(4位)
2013年 HOU(最下位) MIN(4位)
2010年 ARI(最下位)

シーズン1300三振以上のチーム(計56チーム)
注:以下の太字地区優勝チーム
2016年 MIL SDP TBR HOU ARI MIN PHI COL BAL LAD ATL
2015年 CHC HOU WSN SEA BAL SDP PIT ARI TBR
2014年 CHC HOU MIA ATL CHW BOS MIN PHI WSH
2013年 HOU MIN ATL NYM SEA PIT SDP BOS
2012年 OAK HOU PIT WSH TBR BAL
2011年 WSN SDP PIT
2010年 ARI FLA
2008年 FLA
2007年 FLA TBR
2005年 CIN
2004年 CIN MIL
2003年 CIN
2001年 MIL

シーズン1200三振以上のチーム(計163チーム)
2010年〜2016年 119チーム(約73.0%)
2000年代 39チーム
〜1999年まで 5チーム


MLBにおいて、「シーズン1200三振以上したチーム」の96%以上、「シーズン1300三振したチーム」のすべては、「2000年代以降」だ。

「シーズン1300三振以上したチーム」は、「2000年より前」にはひとつも存在しないのだが、「2010年代」ともなると、1300三振したチームが年に8チームも登場し、けして珍しいものではなくなってしまっている。

また過去にシーズン1400三振以上のチームで、地区2位以上になったチームは、ひとつもない。その一方で、なんとも奇妙なことに、2010年代にはシーズン1300三振以上していながら地区優勝したチームが、6つもある。


こうした奇妙な事実から、まだ何の根拠もないが、以下の仮説を立ててみた。

チーム三振数1300という数字は、過去においては、そういうチームがまったく存在しないほど「多すぎる三振数」であり、地区優勝などありえない数字だった。
だが、2010年代になると「三振数の基本水準」が上がり過ぎて、誰も彼もが三振ばかりする時代になってしまい、その結果、たとえ「チーム三振数が1300を越えて」も、戦力次第では地区優勝を狙うことができるようになった。

ただし、三振の世紀である可能性がある2010年代以降でも、チーム三振数が1400を越えると、さすがに地区優勝の可能性は一気に低下する。

2010年代以降、チーム三振数の「分水嶺」は、1300後半である。



総三振数が1400を越えるチームが6つも出現した2016年というシーズンは、はたしてMLBにとって「いいシーズン」であったのか。2016年という「奇妙なシーズン」の後、MLBがいったいどんな「転機」を迎えたのか

そうした問いへの「答え」は2017年以降のMLBをみてみるしかないことだが、少なくともブログ主には「2016年がいいシーズンだった」という気は、まったくしないのである。

damejima at 17:10

February 02, 2017

このブログではOPSという指標がデタラメであることを繰り返し指摘してきた。期待値と率を合算する無意味な計算方法といい、四球と長打を過大評価する計算結果といい、こんなデタラメな数字でスポーツを語っていた人間は、救いようのない馬鹿である。
また、こういうデタラメな計算方式の指標の恩恵を最も受けてきたのが、アダム・ダンマーク・レイノルズのような「低打率のホームランバッター」であるという指摘もずっと続けてきた。
カテゴリー:指標のデタラメさ(OPS、SLG、パークファクターなど) 1/17ページ目 │ Damejima's HARDBALL

さらには、「四球や長打の過大評価」が、かえって近年のMLBの得点力低下をもたらしたことについても指摘してきた。
1990年代中期以降ずっと続いてきた「ホームラン偏重によって得点を得るという手法」が衰退しはじめていることの意味や、得点とホームランの相関関係における最大の問題が「ホームランの量的減少」ではなく「ホームランの著しい質的低下」であることを、人は忘れすぎている。(中略)

「ホームランバッターに高いカネさえ払っておけば、多くの得点が得られることが約束された時代」は、10数年前に終わっているわけだが、どういうわけか知らないが、「量的にも質的にも価値が低下している長打能力を過大評価し、それに高いカネを払う、わけのわからない時代」は、今なお続いている。
出典:2014年12月21日、「MLBの得点力低下をもたらした四球・長打の過大評価」原論に向けて (1)MLB25年史からわかる「2000年代以降、特に2010年代のホームランの得点効率の質的劣化」 | Damejima's HARDBALL


こうしたブログ主の立場からすれば、去年41本打ったクリス・カーターが所属球団から再契約のオファーがなかったことなど、別に不思議でもなんでもないが、こんな簡単なことすら理解できない(理解したがらない)人も、きっといまだにいるに違いない(笑)

そういう頑固で時代遅れな人のために、
ちょっとだけ資料を作っておく(笑)


クリス・カーターの2016年の成績は、160試合に出場(うち1塁手として155試合)、ホームラン41本94打点。長期休養もないし、数字だけ見るとあたかも堂々たるスラッガーのようにみえる。

ところが、だ。

クリス・カーターは他の数字が実に酷い。原因は、三振数206とか、打率.222といった、基本的な打席パフォーマンス全体の「質の悪さ」だ。そのためFangraphではwOBA.346、WAR0.9、しかなく、Baseball ReferenceでもWAR0.9しかない。
Chris Carter » Statistics » Batting | FanGraphs Baseball
Chris Carter Stats | Baseball-Reference.com


とはいえ、WAR0.9とか数字だけいわれても実感がわかない人もいるだろう。もっと具体的で、わかりやすい話をしてみる。

例えばBaseball Referenceで、ホームラン40本、OPS.850以下という検索条件で調べてみると、以下の「13人の選手」が出てくる。
(この「13人」に近年の選手がやたらと多いことを覚えておいてもらいたい。また、あえてここで「OPSというデタラメ指標」を検索条件として使用したのは、「四球と長打を過大評価するデタラメ指標で測定してさえも、救いようがないほど低い評価数値しか出ない」のが「低打率のホームランバッター」だという「事実」を理解してもらうためだ)

マーク・トランボ2016年 47本 .850 SS)
ホセ・カンセコ(1998年 46本 .836 SS)
トニー・アーマス・シニア(1984年 43本 .831 SS)
フアン・ゴンザレス(1992年 43本 .833 SS)
カーティス・グランダーソン(2012年 43本 .811)
ロッキー・コラビート(1959年 42本 .849)
ディック・スチュアート(1963年 42本 .833)
クリス・デイビス2016年 42本 .831)
アダム・ダン(2012年 41本 .800)
トニー・バティスタ(2000年 41本 .827)
クリス・カーター2016年 41本 .821)
アルバート・プーホールズ(2015年 40本 .787)
トッド・フレイザー2016年 40本 .767)
(注:SS=シルバースラッガー賞)


この「MLBはじまって以来の中身のないシーズンを記録したことのあるホームランバッター13人」に、さらに「打率.250以下」というフィルターをかけてみる。すると、以下の近年の選手ばかり、7人に絞られる。

ホセ・カンセコ(1998年 打率.237)
カーティス・グランダーソン(2012年 打率.232)
クリス・デイビス2016年 打率.247)
アダム・ダン(2012年 打率.204)
クリス・カーター2016年 打率.222)
アルバート・プーホールズ(2015年 .244)
トッド・フレイザー2016年 .225)

2016年の選手が3人もいる。どう表現すると、この「2016年のホームランバッターたちの酷さ」が表現できるだろう。

100年をこえるMLB史で、「シーズン40本以上のホームランを打ったバッター」なんてものは、「のべ300人」ほどしかいない。
その、100年間に出現した「たった300人」のうちの、「ワースト10」のほとんど全員(もちろんマーク・トランボも例外ではない)が、「2012年以降の数シーズン」、「特に2016年に集中」して出現しているわけである。
2016年に40本以上打ったバッターで、「中身がともなったスラッガー」なんてものは、守備もうまく、ルーキー三塁手としてゴールドグラブを受賞し、今年はフィールディング・バイブルまで受賞したコロラドのノーラン・アレナドしかいないのである。これは、いったいどうしたことか。

そもそも「ホームラン40本以上、シーズン200三振」なんておかしな記録は、100年以上のMLB史において、クリス・カーター以外に、クリス・デービス、マーク・レイノルズ、アダム・ダンと、「たったの4人」しかやっていない。どいつもこいつも近年の選手ばかりだ。
例えば、馬鹿ばかりがマネージメントしていた2000年代後期のシアトル・マリナーズが4番をまかせた、あの三振王リッチー・セクソン、毎日毎日三振ばかりしてファンを激怒させ続けた、あの「リッチー・セクソン」ですら、シーズン最多三振は「167」なのだ。
クリス・カーターの200を越える三振数が、いかに天井を突き抜けた数字か、わかりそうなものだ。

いわば2016年クリス・カーターは、「MLB史に残るほど酷い内容のホームランバッター」だったのであって、こんなのに再契約の高額オファーを出す球団があるとしたら、出すほうがどうかしてる。


ちなみに、こういう話をすると必ず「ホームランをたくさん打つバッターは三振が多いのなんて当たり前だ」などと、知ったかぶりにお説教したがるアホな年寄りが出現するものだ。
昔の野球マンガか、スポーツ新聞の記事か、どこでそういう間違った思い込みを吹き込まれるのか知らないが、それはハッキリいって、他人に野球についてしゃべるのを止めたほうがいいレベルの「低俗で子供じみた間違い」だ。

いい機会だから、きちんと認識をあらためたらどうか。
「ホームランバッターがやたらと三振ばかりする」のは、
昔からあったことではない。
むしろ、「つい最近に限った傾向」だ。


例えば、「シーズン200三振」という恥ずべきシーズン記録だが、過去に記録したのは、わずか「延べ9人」で、2000年代のマーク・レイノルズの2回を除き、200三振のすべては「2010年以降」に記録されているのである。(以下、「9例」とは「延べ9人」を意味する)

これを「シーズン180三振以上」とすると、どうか。過去51例が記録されているが、「2000年代以前の100年間」には、わずか6例しか記録がない一方で、残り45例すべてが「2000年代以降」であり、ことに「2010年代」が29例(約56.9%)と、半数以上が2010年代の記録で占められている。
シーズン160三振以上」と範囲を広げても事態はさほど変わらない。過去157例のうち、「2000年代以前の100年間」はわずか35例にとどまる一方、「2000年代以降」が48例、「2010年代」にいたっては74例(約47.1%)と、またもや2010年代が約半数を占めるのである。

さらに捜索の範囲を広げ、「ホームラン数30本以上で、三振180以上」としてみると、100年以上のMLB史で該当記録はたった「33例」しかいない。
そして、その「ホームラン数30本以上で、三振180以上を喫した33例」は、そのほとんどが「2000年代以降の選手」によるものだ。ジム・トーミ、ライアン・ハワード、ジャック・カスト、マーク・レイノルズ、アダム・ダン、ペドロ・アルバレス、マーク・トランボ、マイク・ナポリ、マイク・トラウト、クリス・カーター、クリス・デービス。これは、どうかしてる。

逆に、「ホームランを30本以上うちながら、三振数を150以下に抑えた」という記録は、過去に「300例」ほどある。これは、たった30例ほどしかない「30本、180三振以上」の約10倍にあたる。「ホームランバッターが三振ばかりすることが、けして当たり前だったわけではないこと」は、ほぼ動かしようのない事実だ。


最後にしつこく、もう一度まとめる

「ホームランバッターが三振が多いのは当たり前」というのは、真っ赤な嘘である。

●MLBで「三振ばかりするホームランバッター」が大量生産されだしたのは、「2000年代以降」のことであって、とりわけ「2010年代」に大量に生産されだした。彼らは、本物のスラッガーではなく、いわゆる「大型扇風機」にすぎない。


ちなみに大型扇風機が三振しやすい理由は、とっくの昔に書いた。
かつてカーティス・グランダーソンはヤンキース所属時代の終盤に「インコースのストレートを強振してホームランを打つこと」ばかり狙って打席に入っていた。
そんな「ホームランだけを狙って、特定のコースだけ、特定の球種だけを狙う、単調なバッティング」なんてものが、このスカウティング全盛の時代、長く通用するわけはない。
2012年11月2日、2012オクトーバー・ブック 「スカウティング格差」が決め手だった2012ポストシーズン。グランダーソンをホームランバッターに押し上げた「極端なストレート狙い」が通用しなくなった理由。 | Damejima's HARDBALL

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